29 / 79
1話 ゆかりさんとわたしと、図書室にて
さすが、ゆかりさんです。
しおりを挟むわたしは固まってしまって、頭の中を整理するために全機能を総動員させてしまっていて、ゆかりさんの見事な推理に対して反応を返すことができません。
その間、静かな居間にさらさらとペンを走らせる音だけが聞こえていました。
意識を戻します。
ゆかりさんは最後の謎について、色水の仕掛けとその方法についてスケッチブックで解説していました。
イラストつきでとても分かりやすいです。
まとめると、こう。
司書の先生は、色水を入れた物(ゆかりさんは水風船だと推測しています。お祭りで見かけるあれではなく、市販の風船を使ったお手製のものです。)を図書室に持ち込みました。
本と本の間にそれを挟みます。あらかじめ本棚から何冊か抜いておき、スペースを使って本を斜めらせ、その陰に水風船を置いたのです。
こうすれば、少しの振動で隣の本がバランスを崩して水風船の上に倒れ込み、押し潰して破裂させ、中身を飛び散らせます。
市販の風船なら大量の水が入りますし、空気も一緒に入れてパンパンにしておけばかなり広範囲に水を飛び散らせることができます。
ゆかりさんはそう結論付けました。
あの時聞いた破裂音は、つまりこれだったのです。
「でも、そんなもの本の間に挟んでおいたら、逢引き中とはいえさすがに二人の目に入るんじゃないの?」
わたしの疑問に、
〝じゃあ、こういうのはどうかしら?〟
ゆかりさんはすぐに代案を出してきます。
こちらもイラストつきです。凄いペンの速さでした。
心なしか、ゆかりさんは謎を解くことを楽しんでいるように見えます。
代案によると、風船は本と本の間ではなく本棚の板と本の間に挟まれています。
大判の本を壁に立て掛けておいて、下のあいたスペースに水風船を仕掛けたのです。
これなら大判の本の影に入って正面からでないと見つからない上に、少しの揺れで大判の本のバランスが崩れ、重力に従って水風船の方へ落下し、押し潰して破裂させます。
もしかしたら針か何かを取り付けておいて、より確実に風船が破裂するようにしておいたのかもしれないとのこと。
わたしは「なるほど……」と思わず口に出して感心してしまいます。
〝あとは驚いているあなたたちに気づかれないよう、率先して片付けを始めればいい。色水で汚れた本に割れた風船を挟んでしまえば、一緒に仕掛けの証拠を持ち出して処分できるわ〟
そして、ゆかりさんはくるりとスケッチブックを裏返します。
〝これにて、証明終了〟
それから、〝どう?〟と得意満面な笑みでわたしを見つめてきます。
わたしはもう、拍手するしかありません。
「すごい……。ゆかりさんって、すごい!」
ものすごく幼稚な感想ですが、それしか言えませんでした。
わたしの話からここまで納得のいく推理をしてしまうだなんて……。
ゆかりさんを尊敬する気持ちでいっぱいです。
〝あくまでこれは私なりの推論に過ぎないわ〟
と、ゆかりさんは恥ずかしそうに謙遜しますが、わたしはとてもすっきりしました。
胸のもやもやが消え去っています。
さすが、ゆかりさんです。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~
楠富 つかさ
恋愛
中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。
佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。
「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」
放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。
――けれど、佑奈は思う。
「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」
特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。
放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。
4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる