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2話 ゆかりさんとわたしと、洋館にて
ないしょ
しおりを挟むこれはもはやわたしも気に病んでいる場合ではないかもしれません。
いえ、たとえ本気になったとして、ゆかりさんに勝てるわけないのですけれど。
やきもきしている間に、ゆかりさんは話を進めてしまいます。
〝二つ目の質問ね〟
「ええっ。ちょっと待ってよっ」
焦りつつも続きの文面に目を通します。
〝狙撃されたのは二人、ミカと双子の母親。どちらがより先に撃たれたのかわかる?〟
「ええと、ええと……」
すっかり置いてきぼりにされつつも、どうにかその場面のページを開いて読み返してみます。
「はっきりとは書かれていないみたいだけど……」
ゆかりさんはスケッチブックをくるり。
〝みぃちゃんはどう思う?〟
「え、わたしなんかの―――じゃなくて、えっとぉ!」
意見でいいの? と続けようとして、ゆかりさんがすうっと目を細めて顔を近づけて来たので、慌てて言葉を引っ込めます。
どうしましょう、ゆかりさんが怖いです……。
「わ、わたしは、えっと、たぶん……ミカが先で、双子のお母さんがその後……かなあ? だってほら、ミカが撃たれそうになってから悲鳴が上がるまで、少し間があったみたいだし」
ゆかりさんは静かに頷きます。
いつの間にかいつもの調子に戻っていてひと安心……できません。このままでは罰ゲームが待っています。
変にドキドキしていると、ゆかりさんが三つ目の質問をスケッチブックに書き始めました。
書き終わって、こちらに向けられた紙面を覗きます。
〝行方不明の双子は携帯電話とか持っているのかしら〟
「う、うん。二人ともまだ小学生だけど持たせていたみたい」
これは覚えていたので、確認することなく返せました。
若干ビクリとしてしまったのは、まさに双子の母親の携帯電話の着信履歴に、狙撃の直前双子の片割れからの連絡が入っていたという描写があったからです。
物語終盤前、探偵役であるサヤカとユウトが事件を調べる場面で描かれているのですが、そこの話を出す前にゆかりさんは予想したということでしょうか……。
思わず、訊ねてみたくなります。
「ねえ、ゆかりさん。今どのくらい分かっているの?」
ゆかりさんは考えをまとめていた風でしたが、わたしの問いかけに気づいて視線をこちらへ向けます。
んー、と顎に手を当てて少し上を向き、またわたしをちらっと見て悪戯っぽく微笑みます。
「な、なあに?」
身構えるわたし。
ゆかりさんはスケッチブックにたった四文字だけ書きます。
〝ないしょ〟
一緒にひと指し指を口の前に添えるジェスチャーをするものですから、
「…………」
わたしは反応することができませんでした。
呆気にとられたのか、それとも見惚れていたのか。
頬が熱くなったのは、たぶん気のせいでしょう。
ゆかりさんの顔が見られず少し目線を下げていると、その視線の先でスケッチブックに文字が書き加えられました。
〝それじゃあ話の続きをお願い、みぃちゃん〟
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