ゆかりさんとわたし

謎の人

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3話 ゆかりさんとわたしと、校舎裏にて

校舎裏の男子生徒

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 その日、帰宅しようとしていたわたしを衝撃的な出来事が襲いました。
 それは校舎裏でのこと。放課後になっても真っ直ぐゆかりさんのお家へ向かわず、高校の敷地内を徘徊していた時のことです。

 この日わずかな時間とはいえ、ゆかりさんとのお話のタネを探そうと校内を一周だけ歩き回っていくことにしました。気分的なものなのであって、特別な意味などありはしません。
 グラウンドに集まりつつある運動部の人たちを遠巻きに眺め、準備体操の掛け声が聞こえる体育館脇を通り過ぎ、その裏側へ回り込んで幅の狭い校舎裏へと進みます。

 人の気配はあるのに人の姿はまったくありません。
 特に変わったこともなく、そのまま校内を囲う壁と校舎の建物の狭い間を抜けて校門へ向かおうと思って顔を上げると、目の前に人が立っていました。

 体格の良い男子生徒でした。上級生でしょうか。頭を丸めていることから運動部である可能性が高いです。
 部活動が始まるこの時間に、こんなところで何をしているのでしょうか。
 まあ、それはわたしもですが。

 下手に関わり合いになってもよろしくないのであまり見ないようにしつつ、近くを通り過ぎようとしました。
 その人はわたしにじろじろと無遠慮に見つめ、


「おい」


 呼び止めました。
 近くには誰も居ません。勘違いの余地がありません。わたしは顔をそちらに向けます。


「はい?」


 その男子生徒さんは何故か怒っているように見えました。いいえ、どこか嬉しそうにも見えます。
 何を言っているんでしょうか、わたしは……。
 ええと、何というか、こう、……待ち合わせに遅れた友人にひとつ文句でも言いたそうな、軽いノリの雰囲気があります。
 わたしは女なので、この場合は遅れてきた恋人に対する、でしょうか。

 とにかくその男子生徒は、突然のことで考えがまとまらないわたしに右手を突きつけてきました。
 その手には可愛らしい便箋が握られています。


「この手紙を書いたのは君だな、待っていたぞ」
「……はい?」


 何を言っているんでしょうか、この人は。


「違うのか?」


わたしの驚いた顔を見て、その男子生徒さんは顔をしかめます。


「違います」
「じゃあ、こんなところで何をしている?」
「散策を」
「は? ……変わった奴だな」
「こんなところに居るのはお互い様だと思いますが……」
「む」


 男子生徒さんはひとつ呻くと、それもそうかと納得してくれました。
 それから奇行の理由を話してくれます。


「俺は人を待っているんだ」
「ラブレターのお相手ですか?」


 何気なく訊ねると、男子生徒さんは驚愕を露わにして迫ってきます。


「何故それを! 君は何か知っているのか? この手紙を書いた人の知り合いか?」


 わたしは若干身を引きつつ答えます。


「いいえ。違います」
「じゃあ何故、内容を知っているんだ!」
「先程見せて来たじゃないですか」


 手紙の内容は要するに校舎裏への呼び出しで、伝えたい想いがあるから聞いて欲しいとのこと。
 可愛いけれど読みにくい丸文字で、同じような言葉が便箋の上から下までぎっしり書かれていました。
 男子生徒さんは手の中の手紙を見返します。


「あの一瞬で読んだのか? すごいな……」


 知らない人から驚きとともに称賛されてしまいました。
 わたしとしては特別どうということでもなく。ゆかりさんとのやり取りの中で慣れているのでしょう。
 とりあえず、ここは無難にひと言、


「どうも……」


 と返すに留まります。


「しかし、この長さをなあ……」


 男子生徒さんは呟きながらラブレターを読み返し始めてしまいました。
 頃合いを見計らって、わたしはその場を立ち去ろうとします。


「では、わたしはこれで」
「ん? ああ、勘違いしてすまない。実はもう呼び出されるのは三回目なんで、少しいらついていたんだ」
「え、三回も?」


 もう背中を向けていたのに、つい振り返って訊ねてしまいました。


「ん? ああ。先週の月曜と金曜。そして今日だ。まったく何のつもりなんだか……」
「それでも律儀に待っているんですね。楽しみなんですか?」


 少し興味を惹かれて、ちょっと不躾なことを口にしてしまいます。男子生徒さんは特に意に返さず。


「まあ、最初の内はそうだったさ。今は文句のひとつでも言ってやりたいものだけどね。俺は野球部の主将なんだ。そう何回も部活をサボるわけにはいかない」
「そうですか……」


 主将なら一回だけでもさぼってはいけないような……。
 そんな風に思いましたが、口には出しませんでした。

 彼とはそのまま別れました。校門付近で一度振り向いて、校舎の裏で人を待つ主将さんを遠巻きに眺め、思います。
 それほどまでに楽しみなものなんでしょうか、ラブレターというのは……。
 
 
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