ゆかりさんとわたし

謎の人

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3話 ゆかりさんとわたしと、校舎裏にて

ラブレターをもらったら

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「―――ということがあったんだけどね」


 ゆかりさんのお家にて。
 夕食をご馳走になりながら、わたしは酒の肴ならぬご飯の肴としてゆかりさんに今日あった出来事を話しています。
 学校に通えないゆかりさんですが、高校での話題を比較的楽しんで聞いてくれています。良かった。

 今日のメニューは、卵をふんだんに使ったオムライス。
 外の卵はふんわりで、中のチキンライスはパラパラで、ケチャップと合わせて食べれば口の中に特有の酸味と一緒にチキンライスの味が広がって、とっても美味しい!
 わたしが作ると中も外もべちゃっとなってしまうので、ゆかりさんの料理の腕がすごいことを実感します。
 今度教えてもらいましょう。


「やっぱり楽しみに待っているように見えたんだー、その主将さん」


 スプーンですくって頬張って、よく味わってから飲み込み、それからわたしは何気なく言います。
 ゆかりさんは相槌をいれつつ、スケッチブックに言葉を書きます。
 食事をしながらの会話は珍しいことです。普段はお行儀悪いからやりません。
 ですが、まあ二人きりですし、少しくらいいいかな?


〝ラブレターだからね。特別よ〟
「ふうん、特別ねえ……」


 わたしはぼんやりと呟きを返して、それから、


「でも、今時珍しいよね、手紙でなんて。今だと普通はメールとか、携帯電話の機能を使って簡単に済ませてしまうものだけど」


 ゆかりさんは幽霊ですが、普通の人と変わらないように生活を営もうとするため、食事もきとんと摂ります。
 合わせのお味噌汁を一口飲んで、お椀を置いて、スケッチブックにさらさらと。


〝いいじゃない。手書きの手紙の方がロマンがあるわ。今時だからこそラブレターなのよ。素敵〟


 心なしか、ゆかりさんはうきうきしているような気がします。
 こういうロマンチックな話に弱いのです。それもあって話してみました。
 すっかり乗り気になってくれて話している方としては嬉しい限りです。


「まあ、でも。そのせいですれ違いばかりらしくて三回も呼び出されているらしけどね。今日は上手く出会えたのかな」


 霊体であっても、パソコンや携帯といった高度な電子機器を自在に使いこなすゆかりさんです。
 古き良きロマンを感じていても、その不便さも同時に理解しているのでしょう。


〝まあ、面倒ではあると思うけれど〟


 とスケッチブックに書いています。

 今思うと、律儀に毎回あの場所で待っているあの主将さんも今時けっこう珍しいというかなんというか。
 主将だというからには部活動を相当楽しんでいるはずです。それを休んでまで。


「ううん……。やっぱり良く分からないなあ……。そんなにいいのかな、ラブレターで呼び出し」


 するとゆかりさんが、


〝みぃちゃんはそういうことないの? ラブレターで呼び出し〟


 なんて訊ねて来るものですから、思わず飲んでいる最中のお茶を吹き出してしまいそうになりました。
 むせるわたしの背中をゆかりさんがさすってくれます。


「な、ないよ、そんなことは一度もない……。ラブレター自体今時珍しいのにわたしになんて……。ないない」


 ちらりと顔を覗かせる妄想を、頭をぶんぶん振って吹き飛ばします。
 まったく……。ゆかりさんがいきなり変なことを言うから……。

 この過剰な反応を見て、ゆかりさんがにやりとほくそ笑んだ気がします。
 からかいのネタを与えてしまったかもしれません。
 案の定、楽しそうにスケッチブックにペンを走らせています。


〝もしラブレターを貰ったら、みぃちゃんはどうするかしら?〟


 ああ……、その妄想をさっき振り払ったばかりだというのに……。
 ゆかりさんは、わたしのそういう所を的確に狙い撃ってくるので厄介です。
 まあ、それが楽しくもあるのですけれど。

 こうなっては仕方がないと観念して、わたしは想像の翼を広げます。
 もし、わたしがラブレターを貰ったら……。


「ううん……。放課後……靴箱の中に手紙を見つけて……開いて読んでみて……日時と場所が指定されていて……」


 卓袱台の向こうでゆかりさんが満足そうにうんうんと頷きながら、スケッチブックに文字を書きます。


〝少女漫画みたいな展開ね。良い感じ。そしてその後、みぃちゃんは?〟


 可愛く首を傾げて、ゆかりさんは先を促してきます。


「わたしは……。まずゆかりさんに相談して」
〝うん?〟


 ゆかりさんの傾げる首の角度が深くなりました。


「それからちゃんとお断りの手紙を書いて、その人の靴箱に入れるんじゃないかな」


 ゆかりさんが呆れ交じりに驚いて、スケッチブックの文字を見せてきます。


〝私に相談するまではいいとして、断るところまで想定済みなの?〟
「んん? だって、……ねえ?」


 珍しい反応を見せるゆかりさんに、わたしは曖昧な笑みしか返せません。


「恋愛って、あまり良く分からないから」


 正直なところを答えると、ゆかりさんは苦笑いです。


〝高校生にもなって〟


 とか言われてしまいそうです。
 ゆかりさんはスケッチブックに、


〝みぃちゃんはみぃちゃんねえ〟


 と、書いて見せてきました。
 なんだか、母親が愛娘を見守るような優しい眼差しを向けられています。
 ああ、恥ずかしい……。
 
 
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