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3話 ゆかりさんとわたしと、校舎裏にて
告白と変わらないんじゃないかしら
しおりを挟む「じゃあ、ゆかりさんはどうするの?」
慈しみの視線に耐え切れず、わたしは勢い任せに問い返します。
そうです、むしろ普通とは違う生活を送ってきたゆかりさんの意見こそ、聞いておけば話のタネになるというもの。
ゆかりさんは天井を仰いで少し考えて、さらさらとペンを動かして、スケッチブックを見せてきます。
〝みぃちゃんからラブレター貰ったら、素直に嬉しくて喜ぶと思うわ〟
「ごほっ」
むせました。
ゆかりさんが背中をさすってくれます。
ただ、からかっている風ではなくて本気で心配している様子。まさか本音を書いたのでしょうか?
「ど、どうしてラブレターの相手がわたしなの……?」
ゆかりさんはきょとんとして、当たり前のことしか言っていないような顔をして、こんなことを伝えてきます。
〝他にくれそうな人がいないもの〟
「いるでしょう、たくさんっ。ゆかりさん、すごく美人さんなんだもの。たとえば―――……」
そこで言葉が詰まりました。例えられる人がいませんでした。
生まれた時から入院していて、学校に通っていなくて……。
幽霊となった今、ゆかりさんがひとり暮らしをするこのお家を訪ねて来るのは、たぶんわたしだけ。
他の誰からも認識されないゆかりさんの交友関係は、わたしだけでした。
「…………」
酷いことを言ってしまったかもしれないと暗くなるわたしを、ゆかりさんはあくまでにこやかに見つめてきます。
〝いないでしょ?〟
そう言いたげでした。
「えっと、でも……。普通に学校に行っていればたくさんもらえたと思うし! ラブレター!」
無理やり明るく言ってみますが、
〝通っていないからもらえないわ〟
ばっさり切り捨てられました。
「ごめんなさい……」
わたしはもう謝るしかありません。
そんなわたしに、それでもゆかりさんは優しく微笑みかけてくれるのです。
月明かりのように穏やかな笑みで、全てを包み込むようにわたしを許してくれるのです。
〝みぃちゃんがいてくれるから、私はそれでいいの〟
わたしは伏せていた顔を上げて、確かめるようにゆかりさんの瞳を見つめます。
軽く頷きを返してくれました。
スケッチブックの言葉は続きます。
〝私は、みぃちゃんが側にいてくれることが幸せなの。だからラブレターを貰えれば嬉しいのよ〟
「ゆかりさん……」
照れるというより泣きそうでした。
これまで何年にも渡って病室を訪ねてきたことが、特異な存在となっても変わらず一緒に居続けた日々が、ちゃんとゆかりさんを楽しい気持ちに、幸せな気持ちにできていた……。
そんな風に伝えてくれることが、何よりもわたしの心を救ってくれたように感じました。
ゆかりさんの優しさに報いたい。彼女の願いを叶えてあげたい。
わたしにできることならなんでも……。
「じゃあ、今度書いてくるから。ラブレター」
ゆかりさんを幸せにする。わたしなりの決意を込めて、告げました。
すると、ゆかりさんは、
「……。どうして笑うの、ゆかりさん?」
頬を赤くし、口元を押さえて肩をガタガタと震わせるものですから、わたしには訳が分かりません。
これ以上ないほど、真剣に言ったつもりだったのですけれど……。
ゆかりさんはひとしきり笑うと、笑ってしまったことを謝りました。
〝ごめんなさい。あんまり真剣な顔をして言うものだから、堪え切れなくて〟
「え、何かおかしかったかな……」
ゆかりさんは、さらさらとスケッチブックに続く言葉を書きます。
〝面と面を向かってラブレターを書いてくるなんて言ったら、それはもう告白と変わらないんじゃないかしら〟
「こ、告白っ!? ち、ち、違う違う! そんなつもりで言ったわけじゃ……っ」
〝あら、違うの? 残念。私はみぃちゃんのことがこんなに好きなのに。みぃちゃんは私のことが嫌い?〟
「ううん! 好きっ! じゃなくて、好きだけど、友達としてであってね? 決して告白とかじゃないのよ。聞いてる、ゆかりさん!」
しどろもどろの慌て口調でまくし立てたので、途中から自分でも何を言っているのか分からなくなり……。
ゆかりさんは終始楽しそうに笑って、真っ赤になったわたしをからかっていました。
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