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3話 ゆかりさんとわたしと、校舎裏にて
試してみてもいい?
しおりを挟む「そうねえ。やっぱり告白の方がいいかな」
ゆかりさんが、
〝どうして?〟
と、かすかに首を傾げているので先を続けます。
「ほら、告白なら勢い任せでもできるでしょう? ラブレターだと書いてから書いたものを読み返したりするわけじゃない? それってとっても恥ずかしいかなって」
ゆかりさんはそこで言葉を書き加えます。
〝みぃちゃんからのラブレター、楽しみに待っているわ〟
「……本当に書くの?」
素朴な瞳で、じいっと見つめられます。
上目遣いです。期待している時の瞳です。
長く見つめ続けられると大きな瞳からは感情が徐々に薄らいでいくようで、空虚な瞳で見つめられているようで……。
何だかとても怖いです。期待というより脅していません?
「分かったよ、もう……。ちゃんと書く。ラブレター書くから。友達としてね」
友達として書くラブレター。
もはや何を言っているのか自分でもわかりませんでした。深く考えないことにします。
恥かしさゆえ、殊更友達の部分を強調しているわたしに、ゆかりさんは、
〝人間の感情において、友情が愛情よりも劣っているなんて思わないわ〟
などと追い打ちをかけてくるので、思わず頬が赤らんでしまって、
「もう、ゆかりさん……」
恨めしい目つきで見つめると、ゆかりさんはふふふ、と喉に力が入らないように薄く微笑みます。
……まあ、ゆかりさんが嬉しそうにしてくれているので、何でも良いです。
「ゆかりさんは? やっぱり手紙でもらう方が好きなの?」
ゆかりさんはスケッチブックに答えを書きます。
〝みぃちゃんから貰えるものなら、言葉でも手紙でも、何でも嬉しい〟
「そういうことじゃないんだけど」
〝強いて言うなら手紙ね。あとで何度でも読み返せるでしょう?〟
「ああ、なるほど。そうね。そういう考えもあるのね」
わたしは素直に納得して頷きますが、ゆかりさんは少し思案顔でした。
改めてわたしに伝えてみて、自分でもいまいち良く分かっていない様子。
きっとそういう経験がないからでしょう。
頭の良いゆかりさんでも分からないことがあると分かって、わたしとしては新鮮な気持ちです。
などとのんびり構えていると、ゆかりさんは続けてこんなことを書きました。
〝試してみてもいい?〟
「試すって、告白? え、声を出すの?」
無理しちゃダメだよ、と続けようとしたわたしの頭を両手で引き寄せてひんやりとして柔らかな胸に抱くと、ゆかりさんはわたしの耳元で小さく、本当に小さく、愛の言葉を囁きました。
「大好き」
瞬間。
背筋に何かが突き刺さり、甘い痺れが全身へ広がっていくのが分かりました。
一瞬で身体を弛緩させたそれは、頬を火が出るほど真っ赤に染め、心臓を爆発させる勢いで加速させ、わたしから言葉を奪っていきました。
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