ゆかりさんとわたし

謎の人

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3話 ゆかりさんとわたしと、校舎裏にて

何かがごまかされているんです。

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「峰岸……」


 その姿を認めて、相原さんが眉をひそめて苦言を呈します。


「駄目じゃない、あんた。疑われている張本人がここに来たら……。余計立場悪くなるわよ?」


 峰岸さんはふん、と鼻を鳴らして、半ば諦めたような乾いた笑いを浮かべます。


「これ以上悪くならないさ。生活指導の先生からも呼び出されて説教されているし、カウンセリングも受けさせられた。何かストレスはあるのかなんて聞いてくる……。今のこの状況がストレスそのものだっ!」


 堪らない様子で怒りを口にします。
 よく愚痴を聞いているからでしょうか、相原さんは平然と返します。


「まあ、普通そうなるわよね。部活は?」
「まだ処分されちゃいないが時間の問題さ。このままだと抵抗するだけ疑いが強くなる……。先生は何もやっていないなら証拠を出せの一点張りだ。ちゃんと証人を連れていったのに!」


 矛先がわたしに向けられます。
 わたしは特に何もしていません。何もできていないということでもあります。
 それが彼の怒りに拍車をかけているのでしょう。


「例の手紙も、破いて捨てたものを貼り合わせて持っていったんだ。事情も話した。そうしたら、ふられた腹いせにやったと言われた!」
「そんな……」


 あれがあれば十分証拠になると思っていただけに、わたしもショックでした。
 峰岸さんは真っ直ぐわたしに顔を向けます。


「なあ、さっき言っていたこと詳しく教えてくれないか。俺にはできないって証明できれば、それで疑いが晴れるかも知れないんだっ」


 必死の眼差しで訴えかけられます。
 相原さんもわたしへ問うような視線を投げかけてきます。


「私も聞きたいわ。聞かせてくれない?」


 注目の中、わたしは、


「じゃあ、言うだけなら……」


 軽率な発言を後悔しつつ、観念するしかありませんでした。

 おもむろに上を見上げます。
 隣に居る相原さんと、さらにその隣に来た峰岸さんも視線を上へ。
 三人の視線の先には、割られた窓ガラスがあります。


「こうして見上げてみて思ったんですけれど……。ここから石を投げても窓を割ることはできないんじゃないかと。たとえば、わたしが投げても届きもしません」


 相原さんがそうね、と同意します。


「私もギリギリ……届くか届かないかくらい?」


 峰岸さんは否定します。


「俺なら十分に届く」
「ええ。それで疑いをかけられているんです」
「だろうな」
「ですが届いたとして、果たして割れるでしょうか?」
「何?」


 峰岸さんが眉をひそめて問い返してきます。
 わたしは続けます。


「学校の窓ガラスは強化ガラスが使われていて、衝撃に強くできています。たとえ石を投げつけたとして、そんなにあっさりと割れはしません。野球部のピッチャーとはいえ、ほぼ真上に投げ込んで割ることがきるものでしょうか?」


 すると、相原さんが怪訝そうな顔をします。


「え? そうかしら? サッカー部がボールぶつけて割ったことがあるけれど?」
「それは一階の窓に対して、水平にボールが当たった場合です。三階の窓に石を水平に当てることはできません。どうしても山なりの軌道を描きます。そしてその分、エネルギーは分散してガラスを割るような力が出せなくなる」
「一理あるが……。そんなもの、こうやってある程度距離を置けば……あ」


 窓ガラスを見上げつつ後ろに下がった峰岸さんは、数歩で校内を囲む壁に背中をぶつけてしまいます。
 同時に気づいたようです。


「ここには距離を稼げるだけのスペースがありません」


 そう。
 それは、ここにきて実際にやろうとすれば誰でも気づける簡単なこと。
 それを怠ったのは、峰岸さんが野球部でピッチャーをしているという理由付けがあったから。
 そこに目が眩んで、本当にできるかどうかを見誤っていたのです。

 相原さんがわたしに反論します。


「でも壁の外から、道路に出て石を投げたんじゃない?」


 わたしは峰岸さんに確認のための質問をします。


「峰岸さんはここから立ち去った後、部活に出て顧問の先生に謝り、自主トレーニングをしていったそうですね?」
「ああ、そうだ」


 頷きを貰ったあと、相原さんに答えます。


「じゃあ壁の外に出たとは考えにくいです」
「どうして? もう一度壁を越えて戻ってくればそれでいいじゃない?」
「何のために?」
「え?」
「先生が言うように、むしゃくしゃして腹いせで窓ガラスを割ったとして。なのに、また壁を登って戻ってきたのはどうしてでしょうか? そのまま逃げてしまえばいいのに」


 相原さんは考えをまとめるように視線を泳がせて、納得して頷きます。


「ああ……。それはそうね」
「それに、どうして三階の窓なんでしょうか。目の前に一階の窓があるのに」


 わたしが指さす先にはきれいに並んだ窓ガラスの列があります。


「仮に、もう一度壁を乗り越えたとして。それだと三人の目撃者の証言と食い違ってしまいます」


 峰岸さんが言います。


「あいつらが言っていたやつか。窓ガラスが割れた音を聞いて駆けつけて、割れたガラスと石を見たって」
「そして、割った人物を見ていません」
「ん? 何が言いたい?」

「壁の外から窓ガラスへ石を投げたとして、その後再び壁を登って校庭に入り逃げるまでにどれくらいかかったでしょうか。音を聞いてすぐに駆けつけた三人に、逃げる姿すら見られなかったというのはおかしくありませんか? 三階から下を見下ろせば遠くまで視線が通るのに」


 わたしはもう一度三階の窓ガラスを見つめます。段ボールが張りつけられた箇所を見つめます。


「証言と状況が噛み合っていません。何かがごまかされているんです。重要な何かが……」


 そう呟いて、必死で頭を働かせていたわたしは、


「…………」
「…………」


 二人の先輩が不思議そうな目でこちらを見ていたことなど、言われるまでまったく気づきもしませんでした。
 
 
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