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エピローグ
わたしと一緒に暮らしましょう
しおりを挟む「ふう……」
今日も今日とて長く続いた会話にひとつ区切りをつけ、ふと縁側の方へ顔を向けると外はとっぷりと日が暮れ、薄暗闇に包まれ始めていました。
そろそろ雨戸を閉める時間です。
さっき夕食をご馳走になったばかりだというのに、いつの間にかだなんて思うなんて不思議な感じです。
ゆかりさんと一緒に居る時は、時間の感覚が遅かったり早かったり。
良く分かりません。
それだけ楽しかったということであり、今日のその時間はもうすぐ終わりを告げます。
わたしの口から告げなければいけません。
「…………」
ゆかりさんの方へ視線を戻すと、彼女は早々とお布団を敷いて、そこに寝転がってパタパタと先の方が透けている足を上下させながら、のんびり絵を描いています。
今日はパソコンではなくスケッチの気分なのでしょう。
軽やかにペンを走らせて、白紙に線を描いていきます。
今日のお題は何でしょうか。
その完成を見られないことがとても残念でした。
「ゆかりさん」
呼び掛けに、ゆかりさんはくるりと顔だけ振り向いて首を傾げます。
すぐにわたしの表情から話の内容を読み取ったのでしょう。
ゆかりさんの微笑みが少し曇ります。
そんな彼女にこの言葉を伝えることはとても嫌なことで、やりたくないことでした。
すっかり慣れたと思っていたけれど、やっぱりダメでした。
「わたし、そろそろ帰らないと」
なんとかつっかからずにそう言うと、ゆかりさんは身を起こし、手元のスケッチブックの新しいページを開いて、そこにさらさらと文字を書きます。
〝うん。今日もありがとう、みぃちゃん。とっても楽しかったわ。長く一緒に居られる休日って素敵ね〟
その後に続くひと言に、文字を追っていたわたしの視線が釘付けになりました。
〝だから、あなたが帰ってしまうととても寂しいわ〟
寂しい。
ゆかりさんが伝えてきたその言葉に、ショックと驚きで息が止まりそうでした。
なのに心臓だけは変に高鳴って、視界がぐらぐらとします。
「…………」
黙り込んでしまったわたしに、ゆかりさんが不思議そうな視線を送ってきます。
わたしは、訊ねずにはいられませんでした。
「……ゆかりさんも、寂しいの?」
〝なあに?〟
ゆかりさんはちょんちょんと自分の耳に触れます。
わたしの声が小さくて聞き取れなかったようです。
わたしはすうっと息を吸い、
「わたしが帰ると、ひとりでいると、ゆかりさんも寂しいと感じるの?」
ゆかりさんはこくこくと二回頷いて、肯定を強調します。
つまり、彼女が伝えたい言葉は、
〝とても寂しい〟
心配そうな顔のゆかりさんに、わたしは無理やり笑顔を作って見せます。
「そう……。ゆかりさんもそうなんだ……。わたしも同じ……」
笑顔を作ったつもりでしたが、声が震えていました。
自分でもわかるくらいですから、相当です。
ゆかりさんは、そうではないと思い込んでいました。
ひとりでいることが寂しくないと。
病気から解放されたこの状況を、手に入れた自由を楽しんでいると。
でもそれは違っていて。
それだけじゃなくて。
わたしと同じように寂しいと思っていて……。
ゆかりさんは困惑の色を強くして、わたしの顔を覗き込んで、それから何事かスケッチブックに文字を書こうとして、
「ねえ、ゆかりさん。それなら」
わたしはペンを持つゆかりさんの手を掴んで持ち上げ、両手で包みます。
ひんやりとした感触が広がる中、顔を上げたゆかりさんと目が合って、息がかかるほど近くに彼女を感じて。
わたしはもう言葉を止められませんでした。
心臓の高鳴りに合わせて大きく吸った息を、
「わたしと一緒に暮らしましょう」
言葉と一緒に吐き出しました。
不思議と落ち着いた、平素と変わらないわたしの声でした。
こんなにも緊張しているのに、震えてもいなくて変に大声になっていないとは驚きです。
そんなおかしな冷静さがわたしに今し方の発言を反芻させて、途端に火が出そうなくらいに頬を真っ赤に染め上げました。
心臓が胸を突き破って飛び出しそうなくらい暴れています。
今すぐこの場から逃げ出したくて堪りません。
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