悪役令息に誘拐されるなんて聞いてない!

晴森 音月

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8、従弟の婚約者(笑)と気まずい二人きり@リターン

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 なんだかフワフワとした会話のまま、クロア家を後にする。
帰りの馬車でぼーっと考えていたが、やっぱりハッキリしないのはモヤるので、もう一度団長に聞いてみた。

「ハヴィと婚約って本当ですか?」

オルトの質問に、団長は行きの馬車の中とは違い、ゆっくりと頷くと、少し困ったように話し始めた。

「……ちょっと前に、ハヴィがプレゼントをくれたんだ。」

「プレゼント、ですか?」

そう言えばなんか誰かに何かあげるんだとかで、それで何かを作るとかで、材料の買い物に付き合った気がする。
というか、夜勤明けなのにそのまま拉致られてあんまり覚えていない。
でも確かに『好きな人に渡すんだ』と言っていたような、そんなような。
あまり本気で聞いていなかったので、朧げにしか思い出せない記憶。

うーんと唸るオルトを他所に、団長が恥ずかしそうに続ける。

「そのプレゼントを貰う少し前に、ハヴィが他の団員と話している内容を聞いたのを覚えていたのもあってな。
『好きな人の好きな所はグリーンの瞳に垂れた目だ』って。
……まぁ、その、『その瞳をイメージしたものを好きな人に贈るんだ』と言う言葉が妙に耳に残っていたのもあって、意外にもハヴィもロマンチックなところがあるんだなぁと思っていたんだ。
まぁ、まさか私のことか?なんて少しだけよぎったんだが……年も離れているし、まさかそんな訳がないとその時はその程度だったんだ。」

『流石にもういい歳の大人なので、そんな簡単に勘違いはしないさ』と団長はいう。

まぁそうだろう。
この人は結構慎重派で、作戦を立てて行動できる常識人だと言う認識だった。
ロマンチックで頭が硬いところがあるが、それなりに恋愛関係で場数を踏んできただろう、こんな一方的な勘違いはする方ではないと思っている。
だからこそハヴィと婚約したという話は、確信もないのに言う訳がないとは思っていたのだが……。

確かにハヴィは緑の目の垂れ目が好きなのだ。
そういう話を二人でよくしていたことがある。
緑の垂れ目は団長、あなた一人だけじゃないっす。
そんなこと言えない、喉まで出掛かっているけど。

ぐっと言葉を詰まらすオルトを他所に、団長は恥ずかしそうにポツリポツリと話を続けていく。

「こないだ実は私は29の誕生日を迎えたんだが、その時まさかのハヴィからプレゼントをもらったんだ。
もちろん直接『よかったらもらってください』と、な。
今でも思い出す、水色の箱に入ったグリーンのリボンで巻かれた箱だったよ。」

照れた様に頭をかく団長に、何故だか僕の方が切なくなる。
これはもしや、本当に。ハヴィは本当に団長に惚れた説?
いやいやそんな、まさか。
一人で青くなったり赤くなったりと、忙しいオルトの事は全く見えていない様子な団長は、完璧スルーで話続けた。

「丁寧に箱を開けて中を見ると、グリーンの宝石がついたカフスが入っていた。
私の瞳と同じものだ、と思った。
相手の瞳と同じ色のアクセサリーを送るというのは、オルトだってわかるだろ?」

「……そうですね。」

この国は好きな人に告白する時に、相手の瞳と同じ色のアクセサリーを送る風習がある。
もちろん同性の恋人でも異性の恋人でも、どちらでも適応なのだ。

ちなみに我が国は同性婚も認められており、後継が欲しい場合は親戚から養子をとることも認められているので、同性だからと後継の心配もないのだ。

特に王族は貴族間のつながり重視なところがあり、同性異性にはこだわりがない。
むしろ側室をとってでも男性同士の婚姻を強く望むところも古い考えの貴族には未だ根付いている話である。

もう一つ重きを置いて考えないといけない事なのが、誕生日に相手の瞳と同じ色のアクセサリーを渡すと言う行為についてだ。
この国でそう言う行いはもう、プロポースをした様なもんだって事。

腕組みをして考え込む。
状況証拠は揃っても、やっぱり納得出来ないのはハヴィの『好きな人』の事。
オルトが知っているハヴィの好きな人は団長ではないからだ。
最近なんだか元気がなかったのも事実で、王太子の婚約式の警護の準備などでめちゃくちゃ忙しい毎日だった。
だからこそゆっくり話すことが出来なかったのもあって、ハヴィの心の近況をオルトは知らない。
もしかすると好きな人を諦め、団長を好きになったのかもしれない。
だけどなぁ、だけど……。

「とりまそこまでは理解しました、が……何故そんなすぐに婚約という事に?正直ハヴィとは双子のようになんでも話す仲なので、本当に婚約したなら僕に報告してくれるはずだと思うんですよね……。」

疑ってばかりで申し訳ないとは思いつつ、疑問をぶつけるオルトに団長は口を開く。

「ああ、それは多分だが、君に報告する間も無かったのかもしれない。」

行きと同じ速度で揺れる馬車の中。
腕組みした二人が向かい合って疑問をぶつけ合っている。
オルトの質問攻めに、団長の顔にも疲労が見えてきた。

「え、それはどういう……」

オルトの返事に団長が少しだけ悲しそうな表情を浮かべた。

「婚約を申し込んだのは、王太子の婚約式の警備の前だからだ。私もまさか受け取ってくれるとは思わなかったよ。差し出した指輪に一瞬、困惑の表情を見せたが、最後は笑顔で指輪をはめてくれた。」

『そして嬉しいです、と。』

少し照れたような、寂しそうな笑みを浮かべる団長に、オルトはこれ以上言葉を発せなかった。
だめだどうしても団長が言っている人物がハヴィと重ならない。
本当にそれはハヴィなのだろうか?
ハヴィ頼むよ、何でもいいから早く連絡してこの謎を解いてくれ!

オルト派小さく唸りながら頭を抱えた。

本当にハヴィの左手に団長とお揃いの指輪がついているのか。
果たしてハヴィは婚約を受け入れているのか。

もうホント何が何だか、分かんないんだけど!!
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