Boundary Balance ー世界を量る少女は教室ではよくしゃべるー

おぼろ藍

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文化祭準備

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教室は、いつもよりざわついていた。
騒がしい、というより、期待が音を持ったような空気だった。

黒板には大きく、

――文化祭 出し物案

と書かれている。

「はいはい、席ついてー」

クラス委員の声は、注意というより合図に近い。
誰も本気で叱られるとは思っていない。
文化祭前の教室とは、そういうものだ。

「今年はクラス出し物、やります!」
「模擬店か、展示か、体験型!」

声が重なり、言葉が跳ねる。

「模擬店!」
「去年もそれだったじゃん」
「体験型って、なに?」

私は自分の席で頬杖をつき、その無秩序を眺めていた。
嫌いではない。
制御されていない熱は、むしろ安心する。

「咲夜は?」

隣から、佐紀が肘で軽くつついてくる。

「え?」
「なにがいいと思う?」

一瞬、考える。
そして、答えた。

「体験型、かな」

「意外」
「そう?」

「咲夜って、展示とか好きそうなのに」

「選ぶのが好きなだけ」
私は小さく笑った。
「来た人が、何かを選ぶやつ」

「なにそれ」
「占い?」
「心理テスト?」

「そこまで重くないよ」
手を振る。
「進み方で、結果が変わるくらいの」

そのときだった。

「それ、面白いと思う」

後方から、声が落ちてきた。

振り返ると、窓際の席。
月代が、ほんの少しだけ手を挙げていた。

「条件分岐にすれば、紙でも作れる」
「複雑にしなければ、回転も落ちない」

教室が、一瞬だけ静まる。

「……すご」
誰かが、思わず漏らした声。

月代は目立つタイプじゃない。
けれど話すとき、言葉に無駄がない。
その感じが、私は少しだけ好きだった。

「じゃあ、そのへん詳しい人いると助かる!」
委員が言う。
「月代、企画一緒にやらない?」

「いいよ」

あっさりした返事。

なぜか私は、視線を逸らした。
胸の奥が、わずかにざわつく。

投票の結果、出し物は体験型に決まった。
佐紀が、耳元で囁く。

「咲夜の案じゃん」
「違うって」

「でもさ」
「月代、フォローしてたよね」

「……気のせい」

そう言いながら、黒板を見る。
決定事項が、淡々と書き足されていく。

放課後のチャイム。
机が鳴り、椅子が引かれる。

「文化祭、楽しみだね」
佐紀が伸びをする。

「うん」
私は笑った。
「ちゃんと高校生してる感じ」

教室を出る前、ふと振り返る。
月代はまだ席にいて、ノートに何かを書いていた。

分岐線。
矢印。
簡素な図。

覗き込むと、彼が顔を上げる。

「見る?」
「あ……うん」

肩が、わずかに近い。
香りも、体温も、現実的だった。

「ここで分かれて」
「こっち行くと、結果が変わる」

「へぇ……」

意味もなく、頷く。

――この人は、
ただのクラスメイト。
ただの、少し気になる男子。

それでいい。
今は。

「じゃあ、また明日」

そう言って、月代は教室を出ていった。

机の上に残されたノート。
選択肢が、整然と並んでいる。

私はそれを見つめ、静かに息を吐いた。

選ぶこと。
進むこと。
まだ、重さを持たない選択。

この時間が、
続けばいいと――
ほんの一瞬、思ってしまった。
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