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観察を選んだ理由
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皿が、割れる音がした。
白い陶器。
床に落ちて、星みたいに散る。
咲夜は、動けなかった。
夕飯の準備中だった。
手が滑っただけ。
それだけ。
「……また?」
母の声が、静かに落ちる。
怒鳴り声じゃない。
それが、余計に怖かった。
「咲夜」
父が、新聞を畳む。
「どうして、ちゃんと持たない」
咲夜は、言葉を探す。
「……ごめんなさい」
「ごめんなさい、じゃない」
母がしゃがみ、破片を拾う。
「あなた、最近ずっとぼーっとしてる」
「してません」
反射的に、出た。
空気が、凍る。
父の視線が、落ちる。
「してるだろう」
「学校でも、先生から連絡があった」
「集中力がないって」
咲夜は、視線を床に落とす。
破片が、光を返す。
(集中してる)
頭の中で、声がする。
(ちゃんと見てる)
(お母さんが、疲れてる日とか)
(お父さんが、新聞を強く折る日とか)
(気圧が変わる日とか)
(全部、分かる)
でも。
口から出るのは。
「……すみません」
「謝るだけなら、誰でもできる」
父が言う。
「どうして改善しようとしない」
咲夜の胸が、ぎゅっと縮む。
(改善って、何)
(何を直せばいいの)
(どこからが間違いなの)
母が、破片をゴミ袋に入れる。
「咲夜」
静かな声。
「あなたは、ちゃんと考えてる?」
「……考えてます」
「なら、どうして失敗するの」
咲夜は、答えられない。
答えがない。
その代わりに。
頭の中で、別の言葉が浮かぶ。
(失敗してない)
(ただ、見てる場所が違うだけ)
(みんなが見てないところを見てるだけ)
(それは悪いこと?)
でも。
言わない。
言えば、多分。
「言い訳するな」
って言われる。
咲夜は、知っている。
だから。
「……次から気をつけます」
そう言う。
父は、小さく息を吐く。
「次から、じゃなくて」
「今から変わりなさい」
母が、袋を結ぶ。
「普通でいいの」
その言葉が、胸に刺さる。
普通。
咲夜は、普通を知らない。
みんなが笑っているとき。
誰が、無理して笑ってるかが分かる。
先生が褒めるとき。
誰に気を遣っているかが分かる。
友達が喧嘩するとき。
どちらが先に傷ついたかが分かる。
それを、全部見てしまう。
全部、量ってしまう。
でも。
それは。
「普通じゃない」
咲夜は、黙って頷く。
その夜。
自分の部屋で。
机に突っ伏しながら。
小さく呟いた。
「……普通って、どっち」
答えは、返ってこない。
カーテンが揺れる
(見るだけにする)
(判断は、しない)
「怒られるから」
それが。
私が選んだ。
最初の“観察”。
太鼓の音が、校庭に響く。
焼きそばの匂い。
綿あめの甘い空気。
色紙が、風に揺れる。
「咲夜ー!」
佐紀が、大きく手を振る。
「どこ行ってたの!?」
私は、一瞬だけ足を止める。
そうだ、佐紀と一緒に回ってたんだ。
「……ちょっと、図書室」
「文化祭で図書室!?」
「静かだから」
「もったいなーい!」
佐紀が笑う。
その笑い方は、いつも通り。
少し大げさで。
少し鈍感で。
すごく、安心する。
咲夜は、頷く。
「ごめん」
「別に怒ってないよー」
佐紀は、腕を引く。
「そろそろシフトの時間だよ!」
「うん」
歩き出す。
人混みの中。
笑い声が重なる。
白い陶器。
床に落ちて、星みたいに散る。
咲夜は、動けなかった。
夕飯の準備中だった。
手が滑っただけ。
それだけ。
「……また?」
母の声が、静かに落ちる。
怒鳴り声じゃない。
それが、余計に怖かった。
「咲夜」
父が、新聞を畳む。
「どうして、ちゃんと持たない」
咲夜は、言葉を探す。
「……ごめんなさい」
「ごめんなさい、じゃない」
母がしゃがみ、破片を拾う。
「あなた、最近ずっとぼーっとしてる」
「してません」
反射的に、出た。
空気が、凍る。
父の視線が、落ちる。
「してるだろう」
「学校でも、先生から連絡があった」
「集中力がないって」
咲夜は、視線を床に落とす。
破片が、光を返す。
(集中してる)
頭の中で、声がする。
(ちゃんと見てる)
(お母さんが、疲れてる日とか)
(お父さんが、新聞を強く折る日とか)
(気圧が変わる日とか)
(全部、分かる)
でも。
口から出るのは。
「……すみません」
「謝るだけなら、誰でもできる」
父が言う。
「どうして改善しようとしない」
咲夜の胸が、ぎゅっと縮む。
(改善って、何)
(何を直せばいいの)
(どこからが間違いなの)
母が、破片をゴミ袋に入れる。
「咲夜」
静かな声。
「あなたは、ちゃんと考えてる?」
「……考えてます」
「なら、どうして失敗するの」
咲夜は、答えられない。
答えがない。
その代わりに。
頭の中で、別の言葉が浮かぶ。
(失敗してない)
(ただ、見てる場所が違うだけ)
(みんなが見てないところを見てるだけ)
(それは悪いこと?)
でも。
言わない。
言えば、多分。
「言い訳するな」
って言われる。
咲夜は、知っている。
だから。
「……次から気をつけます」
そう言う。
父は、小さく息を吐く。
「次から、じゃなくて」
「今から変わりなさい」
母が、袋を結ぶ。
「普通でいいの」
その言葉が、胸に刺さる。
普通。
咲夜は、普通を知らない。
みんなが笑っているとき。
誰が、無理して笑ってるかが分かる。
先生が褒めるとき。
誰に気を遣っているかが分かる。
友達が喧嘩するとき。
どちらが先に傷ついたかが分かる。
それを、全部見てしまう。
全部、量ってしまう。
でも。
それは。
「普通じゃない」
咲夜は、黙って頷く。
その夜。
自分の部屋で。
机に突っ伏しながら。
小さく呟いた。
「……普通って、どっち」
答えは、返ってこない。
カーテンが揺れる
(見るだけにする)
(判断は、しない)
「怒られるから」
それが。
私が選んだ。
最初の“観察”。
太鼓の音が、校庭に響く。
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綿あめの甘い空気。
色紙が、風に揺れる。
「咲夜ー!」
佐紀が、大きく手を振る。
「どこ行ってたの!?」
私は、一瞬だけ足を止める。
そうだ、佐紀と一緒に回ってたんだ。
「……ちょっと、図書室」
「文化祭で図書室!?」
「静かだから」
「もったいなーい!」
佐紀が笑う。
その笑い方は、いつも通り。
少し大げさで。
少し鈍感で。
すごく、安心する。
咲夜は、頷く。
「ごめん」
「別に怒ってないよー」
佐紀は、腕を引く。
「そろそろシフトの時間だよ!」
「うん」
歩き出す。
人混みの中。
笑い声が重なる。
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