Boundary Balance ー世界を量る少女は教室ではよくしゃべるー

おぼろ藍

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前代 境界の天秤の最後

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 空は、境界に触れていた。
 現実と異界の境が歪み、空間が層のようにずれている。
 塔の上層は半分だけ夜に沈み、残りは昼の光に晒されていた。
 
 中央に立つのは、一人の少女。
 
 白銀のローブ。
 手には、古びた天秤。
 
 ――第七代・境界の天秤。
 
「……まだ間に合う」
 
 背後から声がする。
 
 振り返ると、黒衣の集団。
 その中心に立つのが、当時のノクス指導者だった。
 
「境界を固定すれば、歪みは確かに止まる。
 だが、それは腐敗を閉じ込めることと同じだ」
 
 少女は、何も答えない。
 
 天秤の皿が、かすかに震えていた。
 
「我々は壊す。
 壊して、再編する」
 
「……壊れた人間は」
 
 小さく、少女が言う。
 
「再編の中で、救えるのか」
 
 
 沈黙が落ちる。
 
 風が吹いた。
 空間の裂け目が、さらに広がる。
 
 塔の下では、避難が続いていた。
 しかし境界崩壊は、すでに都市を呑み込み始めている。
 
 
「選べ」
 
 ノクス指導者が言う。
 
「均衡か、変革か」
 
 
 少女は、天秤を見つめる。
 
 皿の片側には、境界の安定を示す光。
 もう片側には、未来を示す未確定の影。
 
 
「……私は」
 
 言葉が、震える。
 
 遠くから、泣き声が聞こえた。
 
 崩れた区域に取り残された子ども達。
 助けを求める声。
 
 少女の視界に、断片がよぎる。
 
 瓦礫の中で手を伸ばす人。
 避難が間に合わなかった家族。
 崩壊に巻き込まれた学生達。
 
 
「均衡を保てば、多くは救われる」
 
 ノクス指導者が静かに告げる。
 
「だが、閉じ込められた歪みは、いずれ別の形で人を殺す」
 
 
 少女は目を閉じた。
 
 深く、長く。
 
 
 そして。
 
 天秤を持ち上げる。
 
 
「私は――」
 
 
 空間が悲鳴を上げた。
 
 境界崩壊が臨界点に達する。
 
 
 少女は、塔の縁へ歩く。
 
 足元には、裂け目。
 
 
「均衡を選ぶ」
 
 
 その瞬間。
 
 天秤の皿が、強く光った。
 
 境界が固定され始める。
 歪んだ空間が、無理やり縫い合わされていく。
 
 
 だが――
 
 縫合の中心にいた区域は、完全に閉ざされた。
 
 そこに残された人々は、外側へ戻れなくなる。
 
 
「やめろ!!」
 
 ノクス側から叫びが上がる。
 
 
 少女は振り返らない。
 
 
「均衡は、救いではない」
 
 
 それが、最後の言葉だった。
 
 
 次の瞬間。
 
 天秤が砕ける。
 
 
 均衡固定の代償として、適合者の存在が消費される。
 
 
 光が塔を包み込む。
 
 境界が完全に閉じる。
 
 
 そして。
 
 
 少女の姿だけが、静かに消えた。
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