弱虫くんと騎士(ナイト)さま

皇 晴樹

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番外編

お姫様と王子様

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「クラスごとに並んでください」

お願い…誰もこっちを見ないで。

「ねぇ、あの人…会長じゃない?」

バ、バレた!?
今すぐにでも走り去りたいのに、ドレスだから無理だ……

「そんなわけないでしょ。だって、男女で出場するっていうルールだよ?」
「女装はダメっていうルールはなかった気がする」
「まあ、そうだけどさ。会長が女装なんてするわけ…」

隼人が僕を見つけて、大きく手を振っていた。

や、やばい……

そう思った時には遅かった。


「優那!」

「「え!?」」

その場にいた人たちが一斉に僕を見る。

穴があったら入りたい……

「すごく似合ってるよ、優那」
「バカ!!!」
「…どうして怒ってるんだ?」
「察してよ」

彼の目には僕しか映っていなかった。
いつもだったら嬉しいけど、今はもう少し周りを見て欲しい。

「移動してください」

係の人の声に隼人は立ち上がって「またあとで」と、やさしく微笑んだ。

それは作られたものではなく、僕だけに見せる“トクベツな”ものだった。


「2年1組は準備をお願いします」

僕の番だ……

移動しようと立ち上がったタイミングで「大和田!」と名前を呼ばれた。

「速水さん!?」
「間に合ってよかった…」

肩で息をしながら、あるものを僕に差し出す。

「はい、大事なブーケ。それと、ベールダウン」

速水さんはそっとベールを下ろしてくれた。

「ありがとう」
「本当に綺麗だよ。結婚式、楽しんで」

結婚式って……

「笑顔だけは忘れちゃダメだからね」
「う、うん」
「急いでくださーい」
「大和田。いってらっしゃい」

速水さんに見送られながら、ステージの袖に移動した。

「続いては2年1組です。テーマは結婚式。カッコいい新郎と綺麗な新婦の愛の誓いを、皆さんで祝福しましょう」

アナウンスが終わって曲が流れ始める。

覚悟を決めて一歩踏み出した。


***


ステージでは隼人が待っていた。
彼に近づきステージの中央まで来る。

少し腰を落とすと、隼人はベールの端を持ってゆっくりとあげた。

隼人の顔が見える。
さっきも彼の姿を見たはずなのに、なぜか一段とかっこよくて……

思わず見惚れてしまった。

「優那」

小声で名前を呼ばれて我にかえる。

えっと、確か次は…二人で客席まで歩くんだっけ。

「目、瞑って」
「え?」
「いいから」

理由はわからないけど、言われた通りに目を瞑る。

「……っ!?」

隼人はにっこりと笑って「誓いのキス」と言った。

客席からは悲鳴に近い歓声が聞こえる。
いや、これはただの悲鳴だ。

「ブーケで隠れてたから大丈夫だよ。ほら、掴まって」

完全に隼人のペースに乗せられている。
速水さんは「菊地がリードしてくれるから」なんて言ってたけど、リードしすぎだよ……


***

視界の端に速水さんが入る。
「笑って」と口角を上げる動作をしていた。

彼女に向けて小さく頷き、チラッと隼人を見た。

彼が眩しい。
まるで魔法にかけられたみたい……
騎士というより、王子様だ。

目が合って、彼はニコッと微笑んだ。

ドキッ——

なに、この感情。

顔が熱くなって、頭がぼーっとする。

注意していたのにドレスの裾を踏んでしまい、グラリと視界が揺れて体が倒れていく。

「姫!」

隼人の声が響く。
気づけば僕は彼の腕の中にいた。

「……隼人」
「大丈夫?」
「う、うん」
「掴まってろよ」
「え…?」

隼人は僕を横に抱きかかえ、歩き始めた。
いわゆる“お姫様抱っこ”で。

驚いたけど、ドキドキが止まらなくて……
僕は自分が思っている以上に隼人のことが好きなんだなって。

「好き」

隼人は目を大きく開いて僕を見る。

今日の僕はどこかおかしい……

これも、魔法なの……?

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