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七不思議 参
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残業が長引いてしまった。提出物の採点に集中してしまい、時間を全く気にしていなかった。時間はとっくに九時を過ぎていた。家に着くころには十時を過ぎてしまうだろう。明日も仕事なのに。
念願の教師になれたはいいものの、やはり理想と現実のギャップに挟まれて心身ともに疲労が溜まっていく一方なのを身にしみて感じていた。辞めたい、とは思わないが、でもこのままだと自分はどうなってしまうのか、という不安に押しつぶされそうになっていた。
疲れていると嫌な事ばかり考えてしまう。残業もそこそこに切り上げて今日は帰ろう。熱い風呂に浸かって、身体を労うことにしよう。
私は物理教師で、地学準備室が私の職員室代わりの教室になっている。地学準備室は特殊教室棟三階の端っこにあり、その対極側に音楽室がある。音楽室というと、私が小さい頃は、ベートーヴェンの肖像画の目が光るなんて噂があったりしたっけ。なんて懐かしい思い出に浸っていたその時。
ポローン、と何かが鳴った気がした。時刻が九時を過ぎている。最終下校時刻などとっくに過ぎている。生徒の誰かが残っているとは考えにくい。
ポローン。また鳴る。
「誰か残っているのかしら」
考えにくい事ではあるが、無いわけではない。たまに野球部やサッカー部といった運動部が無断で遅くまで残って自主練をしているのが見つかって帰される、なんて話はたまに聞く。吹奏楽部もそういった文科系の部活動の中では体育会系よりの思考に近い。誰かが残って自主練しているのかもしれない。
そう考えて音楽室の方へ歩いていく。バレない様に電気を付けずに自主練なんてとんでもない生徒がいたものだ。それに時間も時間だ。早く家に帰さなくては親御さんも心配することだろう。
しかしこういう事でさえ教師の責任になったりするので最近の教師は本当に肩身が狭い。夜出歩くのは親の躾の範囲ではないかと思うのだが。なんて愚痴を頭の中で溢していると、ふと、あることに気が付いた。
(電気も付けずに、楽譜が見えるの…?)
今日は、満月はおろか半分も月は出ていない。光源などどこにもない。スマートフォンのライトや懐中電灯で照らすといった手段もなくはないが、いかんせん、効率が悪すぎる。
しかも音楽室に近づくにつれ、何の楽器の音だったのかが分かる。
(ピアノだ…)
音楽に関しては最近のジェイポップぐらいしか聞かないので、ピアノの演奏を聞いたぐらいでは何の曲を弾いているかは分からない。だが間違いなくこれはピアノの音だ。余計に楽譜が見えないのではないか。
ガラリと扉をゆっくりと開く。はっきりと音楽が聞こえる。やはり鳴っているのはピアノの演奏だ。最初に目に飛び込むのは、普段は生徒が座る机と椅子が向かい形で並べられている。そして入って左手に普段教員が使う教壇とピアノが置いている。おそるおそるピアノの方を見てみると、誰もいなかった。しかし普段は蓋がされている鍵盤が何故か開いている。
(なんで…?)
今も鳴っている。綺麗な演奏が続いている。ポロンポロンと。
(だって…誰もいな…い…)
誰もいないのに鳴り響くピアノの音。演奏は山場に差し掛かっているのだろうか、段々と演奏が激しくなっていく。
(な…ん…で?)
思考が完全にフリーズしてしまい、何もまとまらない。足が震えて全く動けない。歯がガタガタと軋む。
そんなのお構いなしにピアノはそれでもなり続ける。鍵盤は未だに激しく叩かれる。正体なき何かに。
そしていよいよ終盤になったのだろう、一番強い力で鍵盤が叩かれた。
それと同時に私の意識が飛んだようで、次に私が目を覚ますのは、吹奏楽部の朝練で来たのだろうか、一人の女生徒に起こされた時だった。
七不思議 参 独りでに鳴るピアノ 終
念願の教師になれたはいいものの、やはり理想と現実のギャップに挟まれて心身ともに疲労が溜まっていく一方なのを身にしみて感じていた。辞めたい、とは思わないが、でもこのままだと自分はどうなってしまうのか、という不安に押しつぶされそうになっていた。
疲れていると嫌な事ばかり考えてしまう。残業もそこそこに切り上げて今日は帰ろう。熱い風呂に浸かって、身体を労うことにしよう。
私は物理教師で、地学準備室が私の職員室代わりの教室になっている。地学準備室は特殊教室棟三階の端っこにあり、その対極側に音楽室がある。音楽室というと、私が小さい頃は、ベートーヴェンの肖像画の目が光るなんて噂があったりしたっけ。なんて懐かしい思い出に浸っていたその時。
ポローン、と何かが鳴った気がした。時刻が九時を過ぎている。最終下校時刻などとっくに過ぎている。生徒の誰かが残っているとは考えにくい。
ポローン。また鳴る。
「誰か残っているのかしら」
考えにくい事ではあるが、無いわけではない。たまに野球部やサッカー部といった運動部が無断で遅くまで残って自主練をしているのが見つかって帰される、なんて話はたまに聞く。吹奏楽部もそういった文科系の部活動の中では体育会系よりの思考に近い。誰かが残って自主練しているのかもしれない。
そう考えて音楽室の方へ歩いていく。バレない様に電気を付けずに自主練なんてとんでもない生徒がいたものだ。それに時間も時間だ。早く家に帰さなくては親御さんも心配することだろう。
しかしこういう事でさえ教師の責任になったりするので最近の教師は本当に肩身が狭い。夜出歩くのは親の躾の範囲ではないかと思うのだが。なんて愚痴を頭の中で溢していると、ふと、あることに気が付いた。
(電気も付けずに、楽譜が見えるの…?)
今日は、満月はおろか半分も月は出ていない。光源などどこにもない。スマートフォンのライトや懐中電灯で照らすといった手段もなくはないが、いかんせん、効率が悪すぎる。
しかも音楽室に近づくにつれ、何の楽器の音だったのかが分かる。
(ピアノだ…)
音楽に関しては最近のジェイポップぐらいしか聞かないので、ピアノの演奏を聞いたぐらいでは何の曲を弾いているかは分からない。だが間違いなくこれはピアノの音だ。余計に楽譜が見えないのではないか。
ガラリと扉をゆっくりと開く。はっきりと音楽が聞こえる。やはり鳴っているのはピアノの演奏だ。最初に目に飛び込むのは、普段は生徒が座る机と椅子が向かい形で並べられている。そして入って左手に普段教員が使う教壇とピアノが置いている。おそるおそるピアノの方を見てみると、誰もいなかった。しかし普段は蓋がされている鍵盤が何故か開いている。
(なんで…?)
今も鳴っている。綺麗な演奏が続いている。ポロンポロンと。
(だって…誰もいな…い…)
誰もいないのに鳴り響くピアノの音。演奏は山場に差し掛かっているのだろうか、段々と演奏が激しくなっていく。
(な…ん…で?)
思考が完全にフリーズしてしまい、何もまとまらない。足が震えて全く動けない。歯がガタガタと軋む。
そんなのお構いなしにピアノはそれでもなり続ける。鍵盤は未だに激しく叩かれる。正体なき何かに。
そしていよいよ終盤になったのだろう、一番強い力で鍵盤が叩かれた。
それと同時に私の意識が飛んだようで、次に私が目を覚ますのは、吹奏楽部の朝練で来たのだろうか、一人の女生徒に起こされた時だった。
七不思議 参 独りでに鳴るピアノ 終
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