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序章
器用貧乏
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目を開けてすぐに、灯りが眩しいと思ったのと、ここはどこだろうと思った。
パチパチと瞬きをしたあと、なんだか重い体を緩慢な動きでようやく起こして、キョロキョロと部屋の中を見回す。
そして、何故か後頭部に手を当てて摩ってみた。
ん? なんだろう……後頭部が痛いような気がしたんだけど。
「あら、目が覚めた?」
明るい女性の声に、顔をそちらへと向けると、白い服を着た若い女性がぼくへと走り寄ってきた。
「大丈夫? 気分は悪くない? 治癒士の方が治してくれたから大丈夫だと思うけど」
ペタペタとぼくの体のあちこちを触ったあと、ぼくの目の中を覗いて、口を大きく開けさせて喉を覗き込んだ。
「心配したのよ。ちっとも目を覚まさないから。お腹が減ったでしょ? スープを持ってくるから待っててね」
ぼくが一言も発さないうちに女性は慌てて部屋を出て行ってしまった。
どうやら、ここは治療院の一室で、ぼくは治癒士に治してもらうような怪我か病気をしてここに連れてこられたんだな。
でも……ここはどこなんだろう?
寝台の上でぼんやりとしていたら、さっきの女性がやっぱり白い服を着た壮年の男性と一緒に戻ってきた。
「はい。お水とスープよ。ゆっくり食べてね」
布団の上にトレーが置かれて、その上にはコップ一杯の水と具の無い暖かなスープが入ったお皿とスプーンがある。
「食べながらでいいから話を聞いてくれ」
男性の言葉にぼくはコクリと頷き、スプーンを手に取る。
ぼくのお腹はスープの匂いを嗅いだときから大合唱なんだ。
ぼくはゴブリンというあまり強くないけど数が増えやすくて厄介な魔物に襲われたところを、偶然通りかかったギルドチームの人たちに助けられた。
しかも、そのギルドチームの中に治癒士がいたおかげで、ぼくの怪我はその場で治してもらえたし、治癒魔法代は無料でいいそうだ。
治療院での治療も無料ではないので、これは確かに幸運だった。
でも、治療院に運ばれたぼくは三日も目を覚まさなかったから、そろそろ治療院の職員の中でも不安に思われていたとか。
ぼく、三日も寝ていたのかー、のんびり屋さんなんだなー、ぼくって。
暖かなスープを飲みきって、コップの水もゴクゴクと飲み干す。
ぷはっ。
「さて、君の名前を教えてくれるかな?」
優しく問いかける壮年の男性。
ぼくは、ちょっと眉尻を下げて彼の顔を見上げる。
「ぼく……誰なんでしょう?」
ぼくは、記憶喪失という状態だそうです。
この国のことや生活スタイルや常識はわかるのに、自分自身のことはサッパリ覚えてません。
名前も年齢もどこに住んでいたのか、……家族のことも。
ぼくの言葉に衝撃を受けた男性たちは驚愕の声を上げたあと、バタバタと駆け足で部屋を出て行った。
そして、戻ってきたら、壮年の男性と一緒におじいちゃん先生と眼鏡をかけたキリッとした女性も来た。
ぼくは、おじいちゃん先生が促すままに持ってきた水晶玉にペタリと手を付けた。
これはスキル鑑定の魔道具で、この国の法律で六歳になったら全員スキル鑑定を受けなくちゃいけないんだけど、そのときに使う魔道具なんだ。
そんな知識はあるのに、ぼくには自分がスキル鑑定を受けた記憶はない。
「ふむ。君の年齢は十歳だな。特に素性がわかる記載はないのぅ。しかも……スキルが……」
言い淀むおじいちゃん先生の様子に、ついぼくも水晶玉を覗き込んだ。
スキル鑑定では名前はわからない。
これは、ギルドに入って登録するときに自由に名前を変えることができるから、確定していないモノは鑑定外になるからだと言われている。
なので年齢や種族、称号とスキルがわかる魔道具なんだけど……。
「……器用貧乏」
ぼくの呟きに壮年の男性は痛まし気に眼を伏せ、眼鏡の女性は眉間にシワをキュッと寄せた。
『器用貧乏』スキルは、能力が平均値で使えるようになり、いわゆるお嫁さんが持っていたらそこそこ美味しいご飯とそこそこ綺麗な部屋とそこそこキチンとした生活ができると喜ばれるスキルだ。
でも、何か専門的な職業に就こうと思ったら、あまり役に立たないハズレスキルと馬鹿にされている。
平均的な能力で留まるスキルだから、何か突出した能力が身につくことはない。
このスキルしか持っていないと、その人は周りから「穀潰し」と忌み嫌われる。
ぼくはその微妙なスキルを持っていた。
おじいちゃん先生は教会の神官長様で、一緒にいた眼鏡の女性は教会に併設されている孤児院の院長先生。
ちなみに治療院も教会に併設されている。
「ぼく……どうなっちゃうんだろう」
十歳という年齢は、孤児院に保護されるのにギリギリな年齢なのだ。
孤児院の院長先生が説明してくれたけど、孤児院にいられるのは十二歳までで、十歳になるとみんな仕事に就くための修行を始める。
鍛冶屋や薬師などの専門職に下働きに出たり、冒険者登録をして各ギルドの雑用を行ったり。
ここで重要なのは、スキルだ。
鍛冶スキルがあれば鍛冶屋に、調剤のスキルがあれば薬師に、交渉や目利きのスキルがあれば商人に、と修行先の選定の目安になるのだ。
でも、ぼくのスキルは『器用貧乏』だ。
そりゃ、十二歳になってもちゃんとした仕事が得られないかもしれないぼくを、孤児院で引き取るのに躊躇しちゃうよね。
ぼく、どうしたらいいんだろう……、前途多難だなぁ。
しばらく自分の暗い未来にしょぼんと落ち込んでいたら、ある日一人の男の人がぼくを訪ねてきた。
どうやら、ゴブリンからぼくを助けて治癒してくれた冒険者らしい。
そして、ぼくの事情を知ったその人から信じられない誘いを受けることになった。
「私はこれから自分のギルドを立ち上げるんだが……君さえよければ雑用係として一緒に来ないか?」
このお人好しで奇特な冒険者、オスカーさんとの出会いは間違いなく『運命』だったと、ぼくは思っている。
パチパチと瞬きをしたあと、なんだか重い体を緩慢な動きでようやく起こして、キョロキョロと部屋の中を見回す。
そして、何故か後頭部に手を当てて摩ってみた。
ん? なんだろう……後頭部が痛いような気がしたんだけど。
「あら、目が覚めた?」
明るい女性の声に、顔をそちらへと向けると、白い服を着た若い女性がぼくへと走り寄ってきた。
「大丈夫? 気分は悪くない? 治癒士の方が治してくれたから大丈夫だと思うけど」
ペタペタとぼくの体のあちこちを触ったあと、ぼくの目の中を覗いて、口を大きく開けさせて喉を覗き込んだ。
「心配したのよ。ちっとも目を覚まさないから。お腹が減ったでしょ? スープを持ってくるから待っててね」
ぼくが一言も発さないうちに女性は慌てて部屋を出て行ってしまった。
どうやら、ここは治療院の一室で、ぼくは治癒士に治してもらうような怪我か病気をしてここに連れてこられたんだな。
でも……ここはどこなんだろう?
寝台の上でぼんやりとしていたら、さっきの女性がやっぱり白い服を着た壮年の男性と一緒に戻ってきた。
「はい。お水とスープよ。ゆっくり食べてね」
布団の上にトレーが置かれて、その上にはコップ一杯の水と具の無い暖かなスープが入ったお皿とスプーンがある。
「食べながらでいいから話を聞いてくれ」
男性の言葉にぼくはコクリと頷き、スプーンを手に取る。
ぼくのお腹はスープの匂いを嗅いだときから大合唱なんだ。
ぼくはゴブリンというあまり強くないけど数が増えやすくて厄介な魔物に襲われたところを、偶然通りかかったギルドチームの人たちに助けられた。
しかも、そのギルドチームの中に治癒士がいたおかげで、ぼくの怪我はその場で治してもらえたし、治癒魔法代は無料でいいそうだ。
治療院での治療も無料ではないので、これは確かに幸運だった。
でも、治療院に運ばれたぼくは三日も目を覚まさなかったから、そろそろ治療院の職員の中でも不安に思われていたとか。
ぼく、三日も寝ていたのかー、のんびり屋さんなんだなー、ぼくって。
暖かなスープを飲みきって、コップの水もゴクゴクと飲み干す。
ぷはっ。
「さて、君の名前を教えてくれるかな?」
優しく問いかける壮年の男性。
ぼくは、ちょっと眉尻を下げて彼の顔を見上げる。
「ぼく……誰なんでしょう?」
ぼくは、記憶喪失という状態だそうです。
この国のことや生活スタイルや常識はわかるのに、自分自身のことはサッパリ覚えてません。
名前も年齢もどこに住んでいたのか、……家族のことも。
ぼくの言葉に衝撃を受けた男性たちは驚愕の声を上げたあと、バタバタと駆け足で部屋を出て行った。
そして、戻ってきたら、壮年の男性と一緒におじいちゃん先生と眼鏡をかけたキリッとした女性も来た。
ぼくは、おじいちゃん先生が促すままに持ってきた水晶玉にペタリと手を付けた。
これはスキル鑑定の魔道具で、この国の法律で六歳になったら全員スキル鑑定を受けなくちゃいけないんだけど、そのときに使う魔道具なんだ。
そんな知識はあるのに、ぼくには自分がスキル鑑定を受けた記憶はない。
「ふむ。君の年齢は十歳だな。特に素性がわかる記載はないのぅ。しかも……スキルが……」
言い淀むおじいちゃん先生の様子に、ついぼくも水晶玉を覗き込んだ。
スキル鑑定では名前はわからない。
これは、ギルドに入って登録するときに自由に名前を変えることができるから、確定していないモノは鑑定外になるからだと言われている。
なので年齢や種族、称号とスキルがわかる魔道具なんだけど……。
「……器用貧乏」
ぼくの呟きに壮年の男性は痛まし気に眼を伏せ、眼鏡の女性は眉間にシワをキュッと寄せた。
『器用貧乏』スキルは、能力が平均値で使えるようになり、いわゆるお嫁さんが持っていたらそこそこ美味しいご飯とそこそこ綺麗な部屋とそこそこキチンとした生活ができると喜ばれるスキルだ。
でも、何か専門的な職業に就こうと思ったら、あまり役に立たないハズレスキルと馬鹿にされている。
平均的な能力で留まるスキルだから、何か突出した能力が身につくことはない。
このスキルしか持っていないと、その人は周りから「穀潰し」と忌み嫌われる。
ぼくはその微妙なスキルを持っていた。
おじいちゃん先生は教会の神官長様で、一緒にいた眼鏡の女性は教会に併設されている孤児院の院長先生。
ちなみに治療院も教会に併設されている。
「ぼく……どうなっちゃうんだろう」
十歳という年齢は、孤児院に保護されるのにギリギリな年齢なのだ。
孤児院の院長先生が説明してくれたけど、孤児院にいられるのは十二歳までで、十歳になるとみんな仕事に就くための修行を始める。
鍛冶屋や薬師などの専門職に下働きに出たり、冒険者登録をして各ギルドの雑用を行ったり。
ここで重要なのは、スキルだ。
鍛冶スキルがあれば鍛冶屋に、調剤のスキルがあれば薬師に、交渉や目利きのスキルがあれば商人に、と修行先の選定の目安になるのだ。
でも、ぼくのスキルは『器用貧乏』だ。
そりゃ、十二歳になってもちゃんとした仕事が得られないかもしれないぼくを、孤児院で引き取るのに躊躇しちゃうよね。
ぼく、どうしたらいいんだろう……、前途多難だなぁ。
しばらく自分の暗い未来にしょぼんと落ち込んでいたら、ある日一人の男の人がぼくを訪ねてきた。
どうやら、ゴブリンからぼくを助けて治癒してくれた冒険者らしい。
そして、ぼくの事情を知ったその人から信じられない誘いを受けることになった。
「私はこれから自分のギルドを立ち上げるんだが……君さえよければ雑用係として一緒に来ないか?」
このお人好しで奇特な冒険者、オスカーさんとの出会いは間違いなく『運命』だったと、ぼくは思っている。
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