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初級ダンジョン 探索編
治癒魔法レベルアップ!
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ぼくの『異世界レシピ』スキルが謎のレベルアップを遂げてから約三ヶ月後、ようやくオスカーさんが例のぶ厚い本「人体組織図」を読破しました。
うわー、すごい。
ぼく、尊敬します!
その間にも初級ダンジョンに行きましたし、中級ダンジョンにもちょっとだけ行きましたよ。
ぼくの実力不足もさることながら、オスカーさんの深刻な寝不足による体調不良で五階のボス部屋まででしたけど。
なので、ダンジョン挑戦は十日に一度にして、他の日は皆さんギルド支部に依頼された町のお手伝いやギルド支部の雑用などで小金とポイントを稼いでいました。
ぼくはその間、新しいハズレドロップを使った料理三昧……だったらよかったんですけどねぇ。
「ほら、クルト。さぼらない」
「さぼってませんよー」
ハルトムートさん監視の元、能力の確認をするため地下の魔法訓練場に入り浸っています。
水魔法の初級に加え、火・風・土魔法の初級も使えました。
特殊な魔法、空間魔法や闇魔法、光魔法などは使えないみたいですが、治癒魔法はちょっとだけできました。
「……切り傷擦り傷を治すぐらいですけど」
でも、役には立っています。
ぼくの手伝いでビアンカさんやミアさんが野菜の皮むきとかしてくれるとき、二人はなぜかナイフで指をよく切るので治癒魔法で治してあげるのです!
まあ、二人とも毎日のようにナイフで指を切るのはどうかなぁ? と思います。
ハルトムートさんの仮説『器用貧乏』スキルは魔法が使える説が正しかったのでしょう。
「ちゃんとした魔法使いに習えば他の属性の魔法も使えるかもな。ただし初級レベルまでだが……」
そうですね……空間魔法の初級レベルってどの程度なんでしょうか?
オスカーさんから借りっ放しの収納袋を作ったりできるんでしょうか?
「無理だろ。せいぜい容量が少し増えるだけだ。時間を遅延させるのはレベル違いだ」
うぐっ、わかってますから、そんなマジメな顔で言わないでください。
「とりあえず、スキルの確認は終わったな。あとはそのときに確認しよう」
「そのとき? どんなときですか?」
ぼくが小首を傾げて尋ねると、ハルトムートさんはニヤリと人の悪い顔で笑った。
「そりゃ。命の危険が迫ったときだろ。空が飛べるとか、海に潜れるとか」
「無理です。死んじゃいます」
『器用貧乏』スキルですよ? 飛空スキルも潜水スキルも初級レベルだったら命の危険は回避できませんよっ。
「ちぇっ、つまらん。じゃ、この後はいつもの通りか?」
「はい。せっかく薬草園の薬草があるので、調剤してみます」
そう、この頃のぼくの楽しみは新しい料理にチャレンジの他に調剤でポーションを作ること。
オスカーさんが「人体組織図」にかかりっきりの今は、みんなの健康をぼくが守ります!
調剤の初級レベルで作れるポーションなので、食べすぎ飲みすぎ用胃薬とか、熱さましぐらいですけどね。
でも胃薬はビアンカさんとハルトムートさんが喜んで飲んでいます。
いやいや、食事もお酒もほどぼとにしてください。
ある日の夜。
晩ご飯も食べ終えたぼくたちは、ギルドスペースにあるサロンに集合していました。
ちなみに初級ダンジョン最下層で出たハズレドロップの穀物は、まだ精米作業から戻ってきていません。
和のおじさんがじりじりとしているけど、ハルトムートさんの足の怪我が治ったら、お祝い料理としてみんなで食べましょう。
さて、昨日、今日とぐっすり眠ったオスカーさんは、久しぶりに見るスッキリとしたお顔です。
まだ目の下にうっすらと隈がありますが。
「ハルトムート。始めようか」
「おうっ。しかし、オスカー。完全に俺のこと実験台に思ってないか?」
「えっ! そ、そんなことはないぞ?」
「……いや、ニヤニヤ笑いやめろ」
ハルトムートさんはうんざりした顔で、怪我をした右足をドンッとテーブルの上に乗せた。
「ちょっと、父ちゃん。お行儀が悪いわ」
その足をペシンとミアさんが怖い顔で叩く。
「いや、このままで。裾を捲っていくぞ」
クルクルと部屋着のズボンの裾を捲っていくと、膝の上から太腿の中ほどまで続く傷跡が見えてきた。
ハルトムートさんは柔らかい素材のゆったりとしたズボンを穿いてました。
「……ひどいわね」
ビアンカさんが痛ましそうに眼を細める。
「別に痛みはないし、動きに問題があるわけじゃねぇ。……本当に微かな違和感なんだ」
ハルトムートさんは傷跡を優しく撫で上げた。
オスカーさんはハルトムートさんの足の横に、開いた状態の「人体組織図」を置く。
「この本の知識は驚くばかりだった。ただ……魔力に関する組織の説明がない。たぶん……『異世界レシピ』のとおり、この本は異世界の人体に関する本なのだろう」
「おいおい。この本で得た知識で大丈夫なのか?」
ハルトムートさんがちょっと慌てて本とオスカーさんの顔を交互に見る。
うん? つまりこの本に書かれているのは『異世界レシピ』の世界の人の体で、そこの世界の人は魔力に関する組織がない……つまり?
「え? 異世界人って、魔法が使えないんですか?」
嘘でしょ?
ビアンカさんやディータさんもびっくりした顔をしている。
「たぶん、な。だが、その他の体の組織は同じだと思う、たぶん」
「たぶんじゃ困るんだがなぁ……」
文句を言いつつも覚悟を決めて、ポスンと上半身をソファーの背もたれに埋めるハルトムートさん。
「任せてくれ。よし、やるぞ」
ぐいっと腕まくりをしたオスカーさんを息が止まるほど緊張して見守る。
オスカーさんは、そっと両手を患部に当てて低く静かな声で詠唱していく。
「【エクストラヒール】」
ぽわっ、ぽわわっとハルトムートさんの足が優しい光に包まれていった。
◇◆◇◆
初級ダンジョン 探索編はここまで。
新章開始まで、しばらく更新をお休みさせていただきます。
また再開しましたら、よろしくお願いいたします。
うわー、すごい。
ぼく、尊敬します!
その間にも初級ダンジョンに行きましたし、中級ダンジョンにもちょっとだけ行きましたよ。
ぼくの実力不足もさることながら、オスカーさんの深刻な寝不足による体調不良で五階のボス部屋まででしたけど。
なので、ダンジョン挑戦は十日に一度にして、他の日は皆さんギルド支部に依頼された町のお手伝いやギルド支部の雑用などで小金とポイントを稼いでいました。
ぼくはその間、新しいハズレドロップを使った料理三昧……だったらよかったんですけどねぇ。
「ほら、クルト。さぼらない」
「さぼってませんよー」
ハルトムートさん監視の元、能力の確認をするため地下の魔法訓練場に入り浸っています。
水魔法の初級に加え、火・風・土魔法の初級も使えました。
特殊な魔法、空間魔法や闇魔法、光魔法などは使えないみたいですが、治癒魔法はちょっとだけできました。
「……切り傷擦り傷を治すぐらいですけど」
でも、役には立っています。
ぼくの手伝いでビアンカさんやミアさんが野菜の皮むきとかしてくれるとき、二人はなぜかナイフで指をよく切るので治癒魔法で治してあげるのです!
まあ、二人とも毎日のようにナイフで指を切るのはどうかなぁ? と思います。
ハルトムートさんの仮説『器用貧乏』スキルは魔法が使える説が正しかったのでしょう。
「ちゃんとした魔法使いに習えば他の属性の魔法も使えるかもな。ただし初級レベルまでだが……」
そうですね……空間魔法の初級レベルってどの程度なんでしょうか?
オスカーさんから借りっ放しの収納袋を作ったりできるんでしょうか?
「無理だろ。せいぜい容量が少し増えるだけだ。時間を遅延させるのはレベル違いだ」
うぐっ、わかってますから、そんなマジメな顔で言わないでください。
「とりあえず、スキルの確認は終わったな。あとはそのときに確認しよう」
「そのとき? どんなときですか?」
ぼくが小首を傾げて尋ねると、ハルトムートさんはニヤリと人の悪い顔で笑った。
「そりゃ。命の危険が迫ったときだろ。空が飛べるとか、海に潜れるとか」
「無理です。死んじゃいます」
『器用貧乏』スキルですよ? 飛空スキルも潜水スキルも初級レベルだったら命の危険は回避できませんよっ。
「ちぇっ、つまらん。じゃ、この後はいつもの通りか?」
「はい。せっかく薬草園の薬草があるので、調剤してみます」
そう、この頃のぼくの楽しみは新しい料理にチャレンジの他に調剤でポーションを作ること。
オスカーさんが「人体組織図」にかかりっきりの今は、みんなの健康をぼくが守ります!
調剤の初級レベルで作れるポーションなので、食べすぎ飲みすぎ用胃薬とか、熱さましぐらいですけどね。
でも胃薬はビアンカさんとハルトムートさんが喜んで飲んでいます。
いやいや、食事もお酒もほどぼとにしてください。
ある日の夜。
晩ご飯も食べ終えたぼくたちは、ギルドスペースにあるサロンに集合していました。
ちなみに初級ダンジョン最下層で出たハズレドロップの穀物は、まだ精米作業から戻ってきていません。
和のおじさんがじりじりとしているけど、ハルトムートさんの足の怪我が治ったら、お祝い料理としてみんなで食べましょう。
さて、昨日、今日とぐっすり眠ったオスカーさんは、久しぶりに見るスッキリとしたお顔です。
まだ目の下にうっすらと隈がありますが。
「ハルトムート。始めようか」
「おうっ。しかし、オスカー。完全に俺のこと実験台に思ってないか?」
「えっ! そ、そんなことはないぞ?」
「……いや、ニヤニヤ笑いやめろ」
ハルトムートさんはうんざりした顔で、怪我をした右足をドンッとテーブルの上に乗せた。
「ちょっと、父ちゃん。お行儀が悪いわ」
その足をペシンとミアさんが怖い顔で叩く。
「いや、このままで。裾を捲っていくぞ」
クルクルと部屋着のズボンの裾を捲っていくと、膝の上から太腿の中ほどまで続く傷跡が見えてきた。
ハルトムートさんは柔らかい素材のゆったりとしたズボンを穿いてました。
「……ひどいわね」
ビアンカさんが痛ましそうに眼を細める。
「別に痛みはないし、動きに問題があるわけじゃねぇ。……本当に微かな違和感なんだ」
ハルトムートさんは傷跡を優しく撫で上げた。
オスカーさんはハルトムートさんの足の横に、開いた状態の「人体組織図」を置く。
「この本の知識は驚くばかりだった。ただ……魔力に関する組織の説明がない。たぶん……『異世界レシピ』のとおり、この本は異世界の人体に関する本なのだろう」
「おいおい。この本で得た知識で大丈夫なのか?」
ハルトムートさんがちょっと慌てて本とオスカーさんの顔を交互に見る。
うん? つまりこの本に書かれているのは『異世界レシピ』の世界の人の体で、そこの世界の人は魔力に関する組織がない……つまり?
「え? 異世界人って、魔法が使えないんですか?」
嘘でしょ?
ビアンカさんやディータさんもびっくりした顔をしている。
「たぶん、な。だが、その他の体の組織は同じだと思う、たぶん」
「たぶんじゃ困るんだがなぁ……」
文句を言いつつも覚悟を決めて、ポスンと上半身をソファーの背もたれに埋めるハルトムートさん。
「任せてくれ。よし、やるぞ」
ぐいっと腕まくりをしたオスカーさんを息が止まるほど緊張して見守る。
オスカーさんは、そっと両手を患部に当てて低く静かな声で詠唱していく。
「【エクストラヒール】」
ぽわっ、ぽわわっとハルトムートさんの足が優しい光に包まれていった。
◇◆◇◆
初級ダンジョン 探索編はここまで。
新章開始まで、しばらく更新をお休みさせていただきます。
また再開しましたら、よろしくお願いいたします。
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