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国を出ましょう

そこそこバレました

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誰も何も喋らない・・・無言の間・・・しーん・・・。

この部屋に来る前に見た、屋敷の外の訓練場にいた獣人の騎士たち。
奴隷契約が結ばれていて、いわゆる露払いの役目を負う捨て石扱いかと思っていた私。
そりゃ、王宮の亜人奴隷みたいに解放できたら解放したいなぁて、考えてたよ?
その場合は契約主が自ら契約を破棄して解放するか、契約主が死んで契約が無効となるかのどちらかだけど・・・。
そもそも奴隷契約を結んでいないなら・・・あの獣人たちは自分の意志でリシュリュー辺境伯の騎士、兵士だとでもいうの?
亜人差別が激しいトゥーロン王国の貴族に忠誠を誓うって有り得るの?

私はこんがらがった思考に頭をうんうん抱えながら、リュシアンを見る。
リュシアンは、さっきからずっとリシュリュー辺境伯に視線を留めていた。

リシュリュー辺境伯の体が、たんだんと小刻みに揺れ始める。
ヤバイ!怒った?気分を害した?
内心ビビッてビクビクしていると、巌のような大きな体を後ろに反らし、リシュリュー辺境伯は・・・爆笑した。

「ぶわはははっ!気づいたか?あいつらのことに?」

あーはははっと、大きな口でなおも笑い続ける。

「・・・目を見れば奴隷かどうかは・・・わかる」

リュシアンは、まだ厳しい顔つきのままだ。

「ふーっ。そうだ。獣人たちとは奴隷契約を結んではおらん。あいつらは人族と変わらず我が領の自慢の騎士じゃ」

「騎士の恰好はしていたが・・・兵士扱いだろう?」

「いんや。ちゃんと騎士の誓は済んでいる。最近ではこんな便利な物も手に入ったしな」
リシュリュー辺境伯はそう言うと、ジャラララとテーブルの上に、見慣れた魔道具に見えないアクセサリーを広げる。

「んっ!」

あ、また反応しちゃった・・・!
身内から冷たく厳しい視線を集中砲火で浴びて、体を小さく縮こませた。

「ほうっ。そっちの嬢ちゃんはコレが何か知っているみたいだな」

辺境伯は興味深そうに私に顔を寄せてくる。
や、やめてーっ!知っているつーか、作ったつーか・・・て、【命の水】と同じパータンになっている・・・。

「これは、獣人を人族の姿に変えることができる魔道具です。反対の作用をする魔道具もあるそうですが」

レイモン氏がご丁寧に説明してくれるが・・・、だから知っているし、持っているし・・・。

「獣人たちを表立って連れ歩くと不興を買うこともありましたが、コレのおかげで大変スムーズに仕事を進めることができます」

満足そうに笑むレイモン氏に、カロリーヌ姫もコクコクと頷いて同意を示す。
そして、私とリオネル以外が、身に付けているアクセサリー型の魔道具をそっと隠す。
同じ物を身に付けていたら、「獣人でーす」ってバラすのと変わらないもんね。

「別にあんたたちが獣人と奴隷契約を結んでいようが、結んでなかろうが、興味はないが・・・、こちらのことにあまり首を突っ込むなってことだ」

ドカッとリュシアンがソファに深く座り直し、背もたれに体を預ける。

「そうきましたか・・・」

取引をするわけね?
獣人を自由にしていることを黙っているから、このまま私たちをタルニスに行かせろっと・・・。

「そういうわけにはいかん!お前さんたちには、まだ用がある」

バーンっとリシュリュー辺境伯が言い放ったけど、用ってなによ?

「何か理由があってトゥーロン王国を出国しようとしているのは分かりました。でも・・・少し計画が甘くないですか?情報もなくカルージュからタルニスへ行こうとしたり、利益もなしに人助けをしたり?」

「・・・・・・」

それについては、何も言えませんな。
そもそも、城出をするのにもう少し準備ができるはずだったのだから。
第1王子の誕生パーティーに招待されてから予定が狂いまくり、結局、勢いだけで出国を目指すことになってしまった。
うーん、それでも最善だったと思ったけど・・・、やっぱり甘かったか・・・。

まあ、カロリーヌ姫を助けたことと、レイモン氏の奥様を助けたことが悪手だったのかもしれないが・・・後悔はしていないっ!
ふんっと鼻息を荒くすると、アルベールとリュシアンに頭を撫でられた。

「・・・ふふふ。主はやっぱり、貴方でしたか?小さなレディ?」

レイモン氏の眼差しがビシビシ痛い!
でも、目は反らさない。

ここまできたら、何かなんでもトゥーロン王国から出てやるのよっ!





「とにかく、貴方がたのトゥーロン王国出国に協力します」

「にゃぜ?」

「言ったでしょう?娘と妻の命を助けられた。そして・・・この魔道具は・・・私たちリシュリュー辺境伯家をも助けた。だから・・・報いたい」

「魔道具のことは・・・」

「ミゲルの店。そしてギルマスのロドルフから魔道具の入手についての情報は得ています。詳しいことは流石に漏洩を恐れて無理でしたが、最近知り合ったある商会の孫娘のことは書かれていました」

・・・あ、そこからバレてた。
ふむ、私の嘘設定はバレてるけど、私以外は亜人だっていう情報はどうだろうか?
アルベールを横目で見ると、微かに首を振る。
黙っていよう、そうしよう。

「あと、貴方がたは情報に疎すぎます。ここでしばらく出国経路の確認とタルニスの情報。あとはトゥーロン王国の情報を勉強なさい。必要な物も再度精査して揃えましょう」

なんだか、レイモン氏が腹黒兄さんから世話焼き母さんになりつつある。

「あと、少し鍛えた方がいいな!お前とお前はそこそこやるが、そこの子供と猫もどきはちょい鍛えが足りん」

アルベールとリュシアンは及第点らしいが、ルネとリオネルはまだまだらしい。
え?猫もどきのリオネルも鍛えるの?だって子虎の状態だよ?

「そして、お前さんは・・・もう少し鍛えんと、死ぬぞ?」

リシュリュー辺境伯にビシッと指を突き付けられたセヴランは、「ひぃーっ」と悲鳴を上げてズリズリとソファの上を後退る。

「嬢ちゃんは・・・潜在能力は末恐ろしいぐらいだが・・・覚悟がないなぁ。攻撃できないタイプだな」

私は大きく頷き、

「補助専門でよろちく!」

笑顔で言い切った。

こんなところで地獄の特訓なんてしたくないのである。


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