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国を出ましょう

出国しました

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リシュリュー辺境伯家の方々が屋敷の前に並んで、私たちの見送りをしてくれます。
久々に馬車を馬に繋いで、身軽な衣服に着替えて、私たちも準備万端だ!
有難くもタルニスの国境までの1日半の旅路に、護衛として騎士たちも数名貸し出してくれた。

リシュリュー辺境伯が代表して、アルベールと握手を交わす。
レジス様はリオネルを抱き上げて、「ちゃんとみんなを守ってやれよ!」と豪快に笑った。

「では、お世話になりました」

リュシアンがもう1頭の馬に跨り、セヴランが馭者席に座る。
ルネとリオネルが馬車に乗り込み、アルベールが私に手を差し出すが・・・。

私はこのまま、トゥーロン王国を去っていいのだろうか?
ここに、これから巨悪に立ち向かおうとする人たちがいる。
私は、オルタンス様の教えのお陰で、ちゃんと話せるようになった。
ダンスレッスンや歩き方などの淑女教育で体力が付き、ようやく痩せ細った体に肉が付いた。
みんなも、鍛えてもらった、知識も増えた。

このままでいいのかな?
リシュリュー辺境伯たち亜人解放派の旗頭だった第1王子は、もういない。
私なら・・・、私ならその代わりができる・・・。
ぼふん。
頭に手が乗せられる。

「いいから、行きなさい。私たちにはまだ希望があるわ。貴方は新しい場所へ大好きな人たちと行くのよ」

「オルタンス・・・様」

「幸せになりなさい。そのために、貴方こどもたちは生まれてくるのだから」

「・・・はい!」

グイッと服の袖で目を擦り滲んだ涙を拭きとり、ペコリと頭を深く下げて、走って馬車に向かいそのままの勢いで乗り込む。
アルベールが優雅に礼をしたあと、続けて馬車に乗ってくる。

ガタン。

緩やかに馬車が動きだした。
私はルネとリオネルと一緒に、窓からリシュリュー辺境伯たちへ手を振るのだった。
いつまでも、いつまでも・・・。






ジラール公爵領の後継は傍系までがしゃしゃり出てきて、揉めに揉め、内戦の様相を呈していた。
危険があるということで、俺たちはピエーニュの森へ戻り、ジラール公爵領に入ることを諦める。
これからは、リシュリュー辺境伯から飛竜部隊が迎えにきてくれるというので、目立たないように森に隠れながら待っている。

「しかし、思った通りの奴らが裏切りましたな」

「しょうがない、国王と誼を結び甘い汁を吸おうと考えた奴らだ。旨味がなければ裏切るだろう」

ユーグが痛ましそうな顔で俺を見るが、俺は然程ショックは受けていない。
むしろ、俺という旗頭がいなくなったのに、亜人解放に積極的に支援してくれる貴族がいたことに驚きだ。
多分に、リシュリュー辺境伯の影響だろう。

「リシュリュー辺境伯領に入れば、とりあえずひと息つけますね。これからまた体勢を立て直し、あの者たちを王座から引きずり降ろさないと!」

ユーグは鼻息荒く、そう語るが状況は芳しくない。
正直、ここまでユベールが権力を握ってしまったら、後ろ盾のザンマルタン家だけでなく、ミュールズ国の繋がりも断たないと難しい。
俺が王座に付けば、ミュールズ国との関係を変えることもできたが・・・。

「ヴィー様。難しいことはおひとりで考えるものではないですよ。今は無事にリシュリュー辺境伯領に入ることだけをお考えください」

「ああ・・・」

俺に付いてきた、熊獣人のジャコブは体の大きい頑強なイメージとは裏腹に、繊細な気遣いのできる男だった。
他にも、獣人と冒険者たちが付いて来てくれている。
護衛としては少ないが、実力は充分だろう。

「ヴィー様。あちらに飛竜が・・・」

羽ばたきは聞こえないが、晴れ渡った空に黒い影が隊列を組んでこちらに向かってきているのが見えた。

「よし!行こう」

馬にヒラリと跨って、迎えに向かって走り出す。





タルニスの国境門で、リシュリュー辺境伯に用意してもらった国境通行証を提示する。
怪訝そうな顔をされたが、リシュリュー辺境伯の騎士がテキパキと処理を進めてくれて、思ったより手続きに時間はかからなかった。
正直・・・え?いいの?と思った。

「では、我々はこれで」

チャッ、と剣を胸に当て礼をして、馬に乗って去っていく騎士たち。
なんか、まともにお礼を言う間もなかったわ・・・。

国境門の兵に国境通行証を返してもらって、人数分のプレートをもらう。
話を聞くと、タルニスでの身分証代わりらしい。
しかも、タルニス以外の連合国でも身分証として取り扱ってもらえるらしい。

「・・・船にも乗れるかしら?」

乗船券の購入が可能だそうだ・・・。
素晴らしい。

「なんだかんだあったけど、リシュリュー辺境伯の方たちには感謝だね。こうして身分証も手に入れることができて、思ったよりスムーズに入国できた」

「ああ。たぶん普通の国境通行証じゃここまでしてもらえないな。リシュリュー辺境伯からの手回しがあったんだろう」

門を越えるときは馬車の中でなく、歩きたいという私の我儘を聞いてもらい、みんなで馬車を降りた。
リュシアンも馬から降りて、手綱を引く。

一歩一歩、確かめるように歩く。
門を越えたとき、思わず振り返ってトゥーロン王国を見た。
あんなに出たかったのに・・・なんとなく寂しい気持ちになった。
足を止めた私の背中を、そっとアルベールが押す。

「さあ、行きましょう」

「うん!」

まだまだ先は長いよ、シルヴィー。
タルニスを縦断して船に乗ってアンティーブ国へ行って。
アンティーブ国に行ったら、冒険者登録してお金を稼いで、安住の地を探さないといけないし。

さあ、頑張ろう!
私の家族のためにも!

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