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国を出ましょう

ミュールズ国行きの船に乗りました

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タルニス国の旅もおおよそ1ヶ月経ち、とうとう船に乗って私たちは海へ出る。
昨日のうちに人数分の乗船券を私とアルベールで購入済だし、船に乗せることのできない馬は騎獣屋に売ってしまった。

朝早く宿を出て、屋台で朝ご飯を買い、船着き場の休憩場で手早く済ませる。

あー、とうとうここまで来ることができたか・・・。
ふーっと感慨に浸っていると、思い出されるタルニスの旅・・・。
ずっと危惧していた身分証の問題がクリアになったので、それなりにスムーズな旅になるかもと期待した。
アルベールもみんなも、本来の姿に戻っての旅だったし・・・。
リオネルだけは、白猫に擬態したままだったけど。
黄虎の方が体毛の色を変えるだけだから、体の負担が少ないと思ったんだけど、リオネルは白猫の擬態を選んだ。
よく分からない拘りだけど、白虎が黄虎のフリをするより、種族の違う擬態をする方がプライドが許せるらしい。
何それ?よくわかんない。
リオネルが白虎族と分かると、ややこしいことに巻き込まれる可能性があるから、リオネルだけはずっと擬態させないとね・・・、可哀想だけど。
当のリオネルは、あんまり気にしてないみたいだけど・・・。

え?問題はそれだけかって?
・・・いいえ。
タルニスでは普通の旅人のように過ごすつもりだったのよ?
でもさぁ、みんな初日に宿に泊まって、不満爆発よ・・・。
そこそこいい値段のする宿を取ったのに、お風呂が狭い、トイレが落ち着かない、個室じゃない、リラックスできない・・・とかとか。
あの快適馬車生活が思ったより私たちの生活レベルを上げていたらしく、宿では満足できない体になっていました。
いやーん。
なので、特に買い物とかの用事がなければ、村も町も素通りして、野営が基本の旅だよ。
たまにタルニス滞在経験のあるアルベールの情報で、美味しいレストランのある町や武具が置いてある店とかに立ち寄って、たまには観光もしたいと眺めのいい湖で1泊したりした。
アルベールはエルフ族らしく綺麗な細工物に目を輝かせ、元商人のセヴランは布地や刺繍に算盤を頭の中で叩いていた。
腕が鈍らないように、ほどほどに魔獣討伐もして、私も調味料や食材探しに市場巡りもしたわ!
みんなでワイワイ、キャッキャッ、大騒ぎしながらの大移動よ。

だいぶ気も弛んでいたと思うけど、決してトゥーロン王国の話はしなかった。
それだけは、何も言わなくてもみんなの共通認識だったの。
そして、とうとう今から海に出る。




「朝にタルニスに出て、アンティーブ国へ着くのは翌朝か・・・。思ったより早いな」

「造船技術はドワーフの方が凄いですけど、操船技術というか、風魔法で進めるのでエルフ族の船の方が早いんですよね」

魔法を操るのはエルフ族が一番だ。
魔力の量は魔族の方があるらしいが、コントロールはエルフ族が優れている。

私はサンドイッチをもきゅもきゅ食べながら、黙ってみんなの話を聞いていた。
アルベールも静かに紅茶を飲んでいる。

「リュシアンは、アンティーブ国の港町アラスへ行ったことはあるんですか?」

「ああ。大きな街だからな。貿易港でもあるし栄えているぞ。人もおおらかで気が良い奴が多い。定住場所として候補にしてもいいと思うぞ」

「そんなに?」

口のまわりにクリームをいっぱい付けて、ルネが無邪気に問う。

「ああ。でも、お嬢はアンティーブ国の王都に行ってみたいらしいし、あちこち行ってから決めような」

「「うん」」

ルネとリオネルが可愛く頷く。

「ヴィーさんは、王都に興味があるんですか?」

「そうね・・・。アンティーブ国が本当に定住するに値するのか、その判断は王が治める王都を見て決めたいの」

セヴランが納得したように微笑んだ。

ちなみに、トゥーロン王国を出国して完全に主従関係が解消されたと思った私は、みんなに「様」付けで呼ぶのを止めてもらった。
ただ、リュシアンは「お嬢」呼びのまま変わらず、セヴランは「さん」付けで、「ヴィー」と呼ぶのはアルベールとリオネルだけだ。
まあ、リオネルはアルベールたち年長組みも呼び捨てだったけど。

「ヴィー様?」

「ん?そろそろ行こうか?」

ルネは相変わらず「様」付けだ。
せっかくメイドとして修業したので、それを活かしたい・・・らしい。

食べた朝食のゴミを捨て、荷物を持つと休憩室を出て船に向かう。
ここで、私とアルベールが先導して歩く。

タルニスの港には、貨物船も大きな漁船も停泊している。
客船もいろいろあり、アンティーブ国行きよりミュールズ国行きに乗船する人が多い。
でも客船の規模は、ミュールズ国行きは小回りがきくように小型だ。

ミュールズ国が海に面している土地は狭く、2本の川に挟まれている。
そのため、ミュールズ国の海側に港が無く、船は連合国とミュールズ国の間を流れるタリエ川を北上した街へ入港する。
タリエ川はミュールズ国とアンティーブ国の間を流れるオーヌ川よりも細く、船は必然的に小型になる。
アンティーブ国行きよりミュールズ国行きは、日に数度船が出る。

「おいっ!アルベール!どこまで行くんだ?アンティーブ国行きはこっちだろ?」

リュシアンの焦った声が聞こえてきて、我慢できずに私はくすくす笑い出した。
アルベールはしれっと涼しい顔で、

「いいえ。こちらで。私たちはミュールズ国行きの船に乗ります」

「「「「えーっ!!」」」」

そう、私たちはミュールズ国行きの船に乗って、海に出るのだ!

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