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冒険しましょう

深夜の密談

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城の奥深くにある王族だけが入れる部屋に、苛立たしい様子の老齢の男と、贅肉の上に華美な服を纏った壮年の男が向かい合わせで酒を酌み交わしていた。

「いったい、どう考えたら王族をパーティーで暗殺なんてするんだ!」

「さあ、あの男は頭が悪いので使い易いが、所詮は小心者ですからね。父上の激で焦ったのでは?」

ふんっと父上と呼ばれた老人は、ぐびっと酒を呷った。

「そもそも、お前の息子にエロイーズが嫁いでくれば問題は無かったのだ!それをあの小娘が王位を継がない男など嫌だと我儘を言いおって!」

老人の手に握られたグラスがピキリと嫌な音を立てる。

「こちらこそ、私の息子にあんな尻軽女を嫁にもらうのは勘弁して欲しかったのですがね。評判のよいリリアーヌが嫁いでくるのも、それはそれで都合が悪かったですが・・・」

父親の手からひょいとグラスを取り上げて、新しく酒を注ぎテーブルの上に戻してやる。
ミュールズ国の前国王と現国王親子の秘するべき会話であった。

「ふむ。リリアーヌは聡明で美しい王女であったが、あのジラール公爵の孫娘でもある。あ奴はトゥーロン王国の王の座を狙う鼠。ザンマルタンが殺さなければ、次期王のヴィクトールを使いトゥーロン王国の中枢を握っていたかもしれん」

「そうですね。ジラール公爵は何かを企んでいたと思いますよ。下手したら我らと手を切るつもりだったのかも」

「であれば、頭は悪いが我らの駒として動くザンマルタンの奴にトゥーロン王国をくれてやるのは、良策と言えるか・・・」

「ザンマルタンも底が浅いが、あれの甥のユージーンも大概ですよね。姪のエロイーズも。操り易いがあまり搾取しすぎるとトゥーロン王国の民も騙されてはくれないでしょう」

愚かな民は生かさず殺さずですよ、と無情なことを平坦な声で発して、こくりと酒を呑む。

「王子と王女はまだひとりずついるだろう?ノアイユ公爵のところの」

「ああ、第3王子のフランソワは殺したそうですよ。ユージーンの馬鹿が王位を確かなものにするために。ノアイユ公爵の娘のアデライド妃と第3王女のジュリエットは、例の亜人奴隷の騒ぎでエルフに襲われて重体です」

老人はその内容に、鼻に皺を寄せて呻いた。

「それでは、ザンマルタンを退けようとしたときに、傀儡の駒がいないではないか・・・。あ奴がそこまで考えて行動したのか?」

「偶然でしょう。それともユージーンの独断か。ジラール公爵はまだしも、中立派のノアイユ公爵の者もかなり殺しましたからね。あの国はまとも政治を行えるのは宰相派ぐらいしかいません」

自分が満足に政務を行えないのに、補佐するべき貴族を殺すとは、愚か過ぎて言葉もでない。
ふたりして頭を押さえ、腹の底から深く息を吐いた。

「・・・スペアはいるのか?」

「王の妹が嫁いだ伯爵家に子供はいますが、先の権力闘争に負けた王族ですから、後見人がいません。我々が出張る訳にもいきませんし」

ミュールズ国がトゥーロン王国という畑で奴隷を育て、あちこちに売り払っているのは極秘中の極秘扱いなのだ。
表向きミュールズ国は、亜人差別が激しいトゥーロン王国へ忠告し諫め、そして孤立しがちなトゥーロン王国に友好の手を差し伸べる、高潔な国として認知されている。

「もともと、エロイーズがお前の次男と大人しく結婚をして、次期王にはフランソワの坊主を据えるつもりだったのだがな・・・」

「エロイーズに振られてあいつは嬉しそうでしたけどね。しかもリリアーヌのことは好きだったみたいで、今もリリアーヌの死を確かめにトゥーロン王国に行きたいと騒いでいます」

「なんと面倒な。適当な女でも当てがっておけ。お前の息子たちは少々育ちが良すぎるぞ?ミュールズ国の闇に触れなさすぎたのでは?」

「父上と私が民の人気がイマイチでしたからね。息子は王妃に似て見目が良かったので、ついつい王子らしく教育してしまいました」

性格の悪さが目付きに出ている陰険な老人の前国王と、贅沢を享受してきた体格の現国王はお互いを見て、面白くなさそうに鼻を鳴らした。

ミュールズ国のトゥーロン王国に対する政策が甘いのでは?とアンティーブ国からの詮索が五月蠅くなってきたのに端を発した、両国の婚姻話は第1王女のエロイーズとミュールズ国の第2王子との間で婚約が結ばれるはずだった。
しかし、エロイーズが結婚後第2王子が臣籍降下すると聞くと、婚約を嫌がったのだ。
自分は王族でいたいという我儘で。

大国ミュールズ国に楯突く形になったトゥーロン王国は、ミュールズ国の怒りを買わないようにと第2王女のリリアーヌを代わりに差し出したのだった。
運のいいことに、見るからに悪女のエロイーズと違って、美しく気高いリリアーヌに第2王子は好感を持ち、文通などして接していくうちに淡い恋心が芽生えていた。

これが、ザンマルタン侯爵の不安を煽ることになる。
ザンマルタン侯爵は自国に亜人差別撤廃や亜人奴隷解放の動きがあることをミュールズ国には報告していなかった。
そして、その運動の中心に政敵であるジラール公爵がいるのでは?という疑問も、相談していなかった。
ザンマルタン侯爵は、このままリリアーヌがミュールズ国に嫁げば、ミュールズ国とトゥーロン王国の黒い繋がりに気づかれてしまうことを恐れた。
ミュールズ国の王子たちも、トゥーロン王国と自国の真の繋がりを教えられていない。
もし・・・、リリアーヌとミュールズ国の王子が亜人差別を撤廃し奴隷解放に賛同したら・・・。
今まで築いてきたトゥーロン王国での自分の地位と、亜人奴隷売買という金脈が絶たれてしまう。
結果、あのパーティーでの惨劇に繋がっていくのだ。

「あ!そういえば、我が国から女をひとりトゥーロン王国へ連れて行ったことがありましたな。その後、子供を産んだとか?」

かなり酒が進んだ赤ら顔で言うと、父親も酒を呑む手を止めて身を乗り出した。

「なに?男か?今はいくつだ?」

「なっ、知りませんよ!そんなことは。確か・・・10年は経っていないかと・・・。第4王子が誕生したと報告は無いから、女だったか、死産したか・・・」

「探せ!その子供がザンマルタンの奴に対する切り札になるかもしれん。このままユージーンを王位に就けるのも不安が残る。なんとしても、その子供を探せ!・・・いいか、連れてくるのだ!」

「・・・ふふふ。わかりました。ザンマルタンには内緒で、人をやりましょう」

くいっとグラスの底に残った酒を呷り、現国王は重い体を動かし立ち上がる。
さて、連れて行った女の容姿はどうだったか・・・なるべくを用意しなければな・・・。
城の奥深く隠された部屋の扉が開き、静かに閉まった。




「くっしゃん!」

ずるるるるっ。
洟を啜る。

「お嬢、風邪か?」

私はこてんと首を傾げてみせる。
いや、体調は別に悪くないし、なんだったら調合したポーションの試し飲みをしているので万全だ。

「髪の毛を切ったから、頭が寒いんでしょう?」

セヴランがなかなか失礼なことを言ってくれたので、脛をコツンと蹴っておいた。

「さあさあ、早く行きますよ。私たちだけでゴブリンの巣を掃討しなければいけないんですから」

アルベールの声に、みんなで「はーい」と返事をして、馬車に乗り込む私たち。

なんだろう?
悪寒が走った気がするのは、これからの魔獣討伐への不安なのか、それとも?
ぶるんと頭を振って、私は気持ちを切り替えるのだった。


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