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冒険しましょう
ゴブリンジェネラルを倒しました
しおりを挟む大好きだった両親が事故であっけなく死んでしまって、馴れない孤児院生活で笑い方を忘れた頃、大恩ある会頭様に拾っていただいて商売の勉強を始めて、頑張ってお店を幾つも成功させたのに、罠に嵌って奴隷に身を堕として悪評高い国に売られて・・・と波乱万丈な私の半生。
多少のことでは驚かない!
そう、思っていた時期もありました・・・。
甘かったです。
「ヴィーさん・・・」
ゴブリンの巣の洞窟から無事、ルネと助け出した赤子と脱出した私が見たのは、水の魔法と木の魔法を駆使してゴブリンを殲滅している私の主で家族で、まだ少女の高笑いしている姿だった・・・。
なんでそんなことになっているんですかっ!
洞窟からわらわら這い出てくるゴブリンをちゃんと仕留めていたのに、セヴランから怒られた。
なんでもうら若き女性がゴブリンを倒しながら、ひゃーはははと高笑いしてはいけないらしい。
そんな笑い方してないよ?
え?笑い方の問題じゃないの?
ちっ。
「それより、助けられたのはその子だけ?」
「・・・ええ」
うわーっ、そんな暗い顔しないでよ、セヴラン。
私はそぉーっとセヴランの顔を視なかったことにして、ルネに抱っこされている赤ちゃんを覗く。
「なんで布をちゅぱちゅぱしてんの?」
「ミルクがないので、ポーションをタオルに含ませたのを吸わせています」
あー、ゴブリンの巣で赤ちゃんの面倒なんて見れないもんね。
さすがの私も「無限収納」の中に赤ちゃん用のミルクなんて入ってないし・・・、てかこの子は生後どれぐらいなの?
「一応、身元が分かる物は回収しておきました。他にも犠牲になった方たちの遺品も回収してきました」
うー、また暗い話になってしまった。
セヴランの話では、かなりの人数の女性が洞窟の中で息絶えていたらしい。
・・・可哀想に。
私の気持ちに反応したのか、ゴブリンを地面に叩きつける音が激しくなった気がするわ。
「弔いも考えなきゃね」
とりあえず、外に出てきてお陀仏になったゴブリンは予め掘っておいた穴にまとめているけど、うーん・・・犠牲者をゴブリンと同じようにするのはちと気が咎める。
「洞窟の中のゴブリンを綺麗にしようか・・・」
ゴブリンの死体を洞窟に放っておくのもアンテッド化の危険があるのでお勧めしないと、冒険者ギルドの見届け人に釘を刺されていることだし。
「あ、ふたりは赤ちゃん連れて馬車の中で休んでなよ。今、外に馬車出すから」
私は「無限収納」から馬車の荷台をにゅっと出す。
その中でお茶とお菓子でも食べて、ゆっくり休んでちょーだい!
「ルネは赤ちゃんの世話できる?沐浴とオムツ替えとか?」
「大丈夫です!孤児院でよく赤ちゃんの面倒みてました!」
にーっこり笑顔で応えるルネから母性が溢れている・・・。
「その前にふたりとも凄い格好だから、クリーン!」
私が呪文を唱えるとセヴランとルネとおまけに赤ちゃんもキラキラとしたエフェクトに包まれて、ゴブリンの体液やら土埃で汚れていた体がすっきり綺麗になる。
クンクンとふたりとも自分の腕や服の匂いを嗅いで、ほーっと深く息を吐いた。
「助かりました。かなり・・・苦しかったので」
ですよねー!
獣人は大概、鼻が利くものね。
「じゃあ、私はそろそろゴブリンを掃除するわ」
「「?」」
洞窟から出てくるゴブリンの数もかなり減ってきたので、そろそろアルベールとリュシアンでゴブリンの親玉を倒してくるだろう。
私は両手を地面につけて、土の中に魔力を広くやや深く流していく。
創りたい物のイメージをしっかりと固めて、魔力を練り上げて・・・。
『ゴーレムよ来たれ!ゴブリンたちを集め葬り、犠牲になった乙女たちを清めよ。我の命に従え!』
ぐぐーっと眉間にシワを刻んで力み、一気に力を解放させる。
地面の表面にピシッバシッと亀裂が入り、ムクムクと土塊が盛り上がって、私の膝ぐらいの高さで人の形に変貌していく。
一体、二体・・・と増えていき、全部で十体、頭でっかちでちんまい土人形ができました。
「ふうーっ」
初めてゴーレムを作ったわ。
後ろでセヴランとルネが呆気にとられている気配がするけど、今は振り向いちゃダメよヴィー!
生まれたてのゴーレムたちも自分たちの手や足の動きを確認するように、わきわきと動いている。
「コホン!さて、君たちは洞窟の中に散らばっているゴブリンの死体を外に運んで、あの穴の中に入れてちょーだい。これ魔法鞄ね」
私は収納力がそこそこの魔法鞄を、一体のゴーレムに渡す。
そして、ゴブリンを叩きつけて討伐していた魔法の木を一本呼び寄せて、ゴーレムと一緒に洞窟の中へ入ってもらうよう頼んだ。
なんかちんまく可愛く作り過ぎてゴーレムの強さにイマイチ不安が募るので、ボディーガード代わりに魔法の木を連れて行ってもらおう。
「そして、中に犠牲になった女性たちの遺体があるから、体を綺麗にしてこう手を組んで安らかに眠れるように整えてきて」
私は遊び心で作った魔石をひとつ渡す。
この魔石には「クリーン」と「浄化」の効力が詰め込まれている。
コクリと頷いて魔石を受け取ったゴーレムは、他のゴーレムを集合させて円陣を組むと、ごにょごにょと相談をしたあと、私に一礼して洞窟の中へと一列に並んで入って行った。
「・・・あんな機能付けてないんだけどな?」
なんか・・・創造主の思惑を外れた物が出来てしまったかもしれない。
「ま、いっか」
私は、ゴブリンの死体で溢れ始めた墓穴を広げるべく、洞窟に背を向けて歩きだした。
「つまり、貴方が氷魔法であのデカブツの体を凍らしてください」
「で?」
「ほどよく凍ったら急所を私の弓で射て、四肢はリオネルの鋭い爪で粉砕してもらいます」
「えげつないな・・・」
確かに凍らせた物を砕けば元には戻らない・・・つまり死だ。
強力な攻撃をすると洞窟内が崩れて生き埋めになる可能性がある以上、その作戦がいいんだろうな・・・。
「ちっ。俺はあんまり魔法攻撃が得意じゃねぇんだ。術を発動させるまでに時間がかかるぞ」
「ええ。時間稼ぎなら、任してくださいなっ」
アルベールは、リオネルの脇を持って俺の目の前に差し出す。
やめてやれっ、びろーんって体が伸びているぞ。
じゃあ、さっさっと終わらせるか。
俺はアルベールがデカブツ呼ばわりしたゴブリンジェネラルの前に進み出て、両手を翳す。
ゆっくりと目を瞑り、呼吸を意識する。
「ガルルッ」
リオネルが俺の背後から奴に飛びかかる。
アルベールはさらに後ろから風魔法で、奴の気を反らしている。
魔力を溜めて、練り上げて・・・。
「・・・アイスウォール!・・・アイスランス!」
デカブツの周りを氷の壁で囲み、その中を氷の槍で埋め尽くす。
氷の槍を生み出すときに、デカブツを囲むようにさらに意識をし、氷の壁も何層にも作り出す。
「・・・っぐぅ」
魔力量に問題はないが、魔力操作で脳が焼ききれそうだ。
「リュシアン!もういいですよ」
「ガルッ」
機嫌の良さそうなリオネルの声に、瞑っていた目を開くと、デカブツの額と胸に一直線に飛んでいく矢と、縦横無尽に飛び掛かり氷ごとデカブツの四肢を切り刻むリオネルの雄姿が見えた。
ゴブリンジェネラルは呻き声も上げられずに、氷の礫と共にキラキラと輝きながら砕けて倒れていく。
「・・・ふぅーっ」
これで、ゴブリンの巣の掃討作戦は終了だ・・・。
応援ありがとうございます!
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