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石を見つけましょう

バラバラに過ごしました

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・・・なんでだろう・・・。
私はなんであのとき、リオネルの後を付いて行こうと思ったのだろう・・・。

迷子や仲間とはぐれたときは、予め決めていた集合場所に向かうか、その場に留まって迎えを待つのが鉄則なのに・・・。

私は暗澹たる気持ちで、右手を大きく八の字を描くようにずっと動かしている。
今、私とリオネルは、みんなとはぐれた場所から歩き続け、広い場所に出た途端に魔獣に襲われたところだ。

ところで、何故虫型魔物も魔獣って呼ぶんでしょうね?
魔虫では・・・ダメなんでしょうか?
洞窟型ダンジョンでは、ほぼ虫型魔獣との戦闘は避けられないのですが、女子でもあるルネとヴィーさんはやっぱり虫が苦手っぽかったです。

ルネは顔を顰めていたし、ヴィーさんは分かり易く悲鳴を上げてました。
今のところ、蟻型と蝶型の魔獣としか戦ってませんが、この魔獣はどうでしょうかね?
私はうんざりした気持ちで、目の前にうじゃうじゃといる蜘蛛型魔獣を見やる。
ちなみリオネルは嬉々として、馬車ぐらいの大きさの相手と戦っている。
それがボス若しくは親だと思うのですが、それ以外にも子猫ぐらいの大きさを筆頭にうじゃうじゃと沸いて出て来ますよ、蜘蛛が。
剣で一匹ずつ倒すのでは気が遠くなる作業ですので、武器を鞭に変えてビシバシと叩き倒しています。

はぁーっ、リオネルに大人しく付いて行かなければよかった・・・。
戦い大好きリオネルなのだから、その向かう先には魔獣がいるはずだったんです・・・。
私が対峙している蜘蛛の体はそこまで固くないので一撃で数匹ずつ倒せますが、リオネルの相手は外殻が固く攻めあぐねて・・・、あ、楽しんでいるだけですね。
ちょっと、イラッときました。

「リオネル!遊んでないでこっちも助けてくださいよ!」

私の要請に、チラリと視線を投げるとサッと腕を一振り。
その動きだけで辺りの蜘蛛は吹き飛んでいく。
やればできるじゃないですか!

しかし、その後はボスと戦うのに夢中になって、こっちは無視です。
・・・無事に戻ったら、ヴィーさんに頼んでご飯は肉抜きのおやつ無しですからねーっ!









かなり下まで落ちてきたようだが、上を仰いでみてもゴツゴツした岩盤が広がっているだけで、落ちて来た穴などありもしない。

俺は右腕を見て、深く悔恨のため息をもらす。
その腕に抱えていたお嬢の体は、落下の途中に忽然と姿を消した。
まるで、お嬢だけ転移したかのように。

俺は頭をガシガシと強めに掻いて、気持ちを切り替える。
とりあえず、あいつらと合流して、お嬢を探しに行かないと。

俺は暗い道を勘を頼りに歩きだすが、ほとんど一本道で魔獣も出てきやしない。
なんだ、この場所は?
疑問に思いながら足を進め、行き止まりに当たってしまった。

「ん?扉」

行き止まりだと思った場所に、木造のシンプルな扉があった。
ノブに手をかけ、開いてみると・・・。
ちょっとした小部屋に8個の台が並んでいる。
台の高さは俺の胸ぐらいで、それぞれにひとつずつ、大きめな石が乗っているんだが?

「なんじゃ、こりゃ?」

宝飾屋じゃあるまいし、なんでこんな風に石を、鉱石を飾っているんだ?
一応、俺はトラップを警戒しながら、ひとつひとつを見て回ってみる。

「・・・わからん」

どうやら、お嬢が喜びそうな高値で売買できる鉱石、宝石?も混じっているが、俺としては心惹かれる物ではない。
こっちは紅玉で、あっちには翠玉もあるし、金剛石っぽいものもある。
銀色に輝くのは、もしかしたらミスリルとかオリハルコンみたいな、レアな鉱石かもしれない。
でも、俺は手に取ってみたいとは思えなかった。

「ここには、用はないな・・・」

来た道を戻って他の道へ行かなければ、と踵を返すと、バタンと音を立てて扉が閉まり、すうーっと周りの岩盤に扉は溶け込んで消えてしまう。

「へ?」
信じられない状況に驚いている俺の耳に、ドォン!という音と振動が飛び込んできた。
後ろを振り向くと・・・。

「マジかよ・・・」

いつの日かお嬢が作ったゴーレムとは似ても似つかない、見上げるほどに大きいゴーレムが戦闘態勢で立っていた。
大剣を抜いて構えるが・・・、狭い部屋で対峙するには不都合な相手に眉を上げる。

「くそっ、土のゴーレムならいいんだが・・・」

ゴーレムは動きが鈍い。
俺はダッと走り出し、相手が反応する前に腕に切りかかった。
ガキン!

「・・・ハハハ・・・」
折れた・・・。
大剣が元々ヒビが入っていた所から、ポッキリと・・・。
武器無しでこいつと戦うのかよ!
不利な状況に、タラリと汗が俺のこめかみを伝った。








敷物に座り、のんびりとお茶とお菓子を楽しんでいると、隣から身じろぎするのが察せられた。
どうしたのかと顔を向けると、ルネが居住まいを正して、私に頭を下げる。

「ルネを強くしてください。お願いします!」

「・・・ええ」

強くするのはいいですよ?
でも、貴方の戦い方は私向きではないんですよねぇ。
ルネは体術が得意で、魔法はいまいち。

私みたいなエルフは接近戦よりも、弓や魔法の中長距離戦を得意とします。
戦略みたいなものは教えられますけど、貴方とリオネルはまだ子供ですから、興奮すると戦略なんて二の次でしょう?

ふむ。
私は顎に手を添えて考える。

「どうして、強くなりたいのですか?」

「ヴィー様を守るためです!」

両手をぎゅっと握って力説する黒猫メイド。
私もね、自分の姪を守りたいって言ってくれる子は可愛いと思いますよ?
でもね・・・この子の場合はちょっと問題が・・・。

「ルネ、貴方はまだ守ってもらう側です。ヴィーは私たちが守るから、そんなに気負わなくてもいいのですよ?」

ポンと軽く彼女の肩を叩く。
私の言葉に、下唇を噛んで俯くルネ。

「でも・・・、でも・・・それじゃ、ルネは・・・ルネは・・・。守らなきゃ、守れなきゃ・・・弱いのはダメ・・・」

「別に、誰を守れなくても、弱くても、貴方を責めたり捨てたりしませんよ」

なるべく優しく聞こえるように声音に気を付けていたのに、ルネの体はビクンと大きく跳ねた。
涙をいっぱいに溜めた眼で、私の顔を怖々と見上げる。

「貴方が今まで居た場所は、そういう場所で、奴隷商の馬車の中でもリオネルを守ることで自分を守っていたのかもしれませんが、もういいのです」

フルフルと弱々しく頭を振る。

「ダメ・・・。院長様が言った。役に立てない子はいらないって・・・。ルネは・・・役立たずじゃないもん」

グスグスと鼻を鳴らして泣き出してしまった。
院長様というのは、亜人の子供たちを奴隷商に売っていた孤児院の院長でしょうね。
私はルネの黒髪を優しく梳いてやりながら、言葉を重ねる。

「役に立てなくてもいいんですが、貴方は充分に役に立ってますよ」

「・・・うそ」

小声で、リュシアンやリオネルよりも自分が弱くて、本当は守るべき主人のヴィーよりも弱いことは分かっていると呟く。
セヴランよりは強いから彼を抜かしたのはいいとして、私は両手で彼女の頬を挟み、無理矢理に顔を見合わせる。

「貴方しかできないことがあるんです。それはヴィーのお友達になることです。私たちには話せないことも、貴方には話すでしょう。貴方の存在に安らぎ癒されるでしょう。それでも自分は役立たずと言いますか?」

「友達?ヴィー様と・・・」

きょとんとした顔のルネに向かって、大きく頷いてあげる。
ええ、彼女の側にいて彼女と寄り添えるのはルネだけの役目でしょうから。


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