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運命の鐘を鳴らしましょう

王城に呼ばれました

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馬車の中での休憩を終えて、みんなで宿屋の部屋に戻る。
面倒だから、夕食は宿屋の食堂に頼むことにした。
さて、夕食まで何をしていようか?やっぱりここはアンティーブ国を出国する準備だうろか?

「おーい!お嬢、アルベールとカミーユが帰ってきたぞー」

ドンドンと戸を叩きながら大声で呼びかけるリュシアン。
私は戸を開けずに、こそこそと小声で「クリストフさんと一緒?」と尋ねる。

「いや、ふたりだけだ」

ふうーっ、と息を吐いて戸を開けると、リビングにぐったりと疲れた体をソファに預けているアルベールとカミーユさんが居た。

「お疲れ様?夕飯は宿屋に頼んだわ」

「ええ・・・いいですよ」

アルベールの疲れた顔なんて、めったに見れないわね。
セヴランが甲斐甲斐しくふたりへお茶を淹れてるわ。

「ところで、騒ぎはどうなった?」

リュシアンがカミーユさんの隣にドカッと座った。
ルネはお気に入りのメイド服でセヴランの手伝いをしているし、リオネルは・・・。
ああ・・・カミーユさんに捕まって、抱っこされてぐりぐりと撫でられまくっているわ。
死んだような目をしているリオネルに、ひとつ頷いてみせる。
諦めなさい、疲れているお兄様のために我慢するのです。

「ビーストについてすぐに検分され、結果は王宮へと報告されました。カミーユの署名入りですから対応は早いでしょうね」

「・・・間違いなく、ここ最近アンティーブ国に出没しているビーストと同一の出所だと思うよ。共通点も多いけど、魔獣との縫合に使われた糸や魔法陣が同一だと判明した」

・・・そりゃ、ビーストなんて生物兵器をあっちこっちで研究開発されていたら、困るでしょうよ。
今回のビーストも、ほぼ間違いなくミュールズ国で作られたビーストだと思うけど。

「ビーストについては箝口令が敷かれたままになるそうです。それも、カミーユが・・・」

「ああ・・・僕がね、うっかりミュールズ国から流れ着いたのかな?って口を滑らしてしまったのさ」

あははは、じゃないでしょ!

「・・・でも、今日のビーストはミュールズ国から誰かに連れて来られたのでは?流石に王都にフラフラと入り込めないでしょ?」

「川ですよ。貴族街と王宮を分ける川は人工的に水を引き込んだものですが、貴族街と市民街の間にある川は元々流れていた川を利用しているのです。そして上流は別の国のある山に繋がっているんですが、途中ミュールズ国にも流れているんです」

川からビーストが登場したっていうの?
え?あんなに入国審査を厳しくしていたのに、川から簡単に国に入れるって・・・そんなのアリ?

「いやいや。ちゃんと審査はしていますが・・・貨物船の中に紛れていたら分からないかもしれません。途中、ビーストのみ小舟に移して流してしまえば・・・」

なんつーものを、密輸入してんのよ。
いらんわ、ビーストなんて!

「アンティーブ国の上層部には、ミュールズ国へ疑問を持った者もいるかもしれませんね。それと・・・」

アルベールは、何か言いにくそうにチラチラと私の顔を見ている。
何よ?

「ああ・・・そのう・・・。明日の午後なんですが・・・、招待されました」

「誰に?どこへ?」

アルベールは懐から真っ白な封筒を取り出すと、中に入った便箋をピラリとテーブルの上に載せる。

「アンティーブ国王陛下に、王城へ。私たちへの登城命令です」

え?ええーっ!










王都ギルドの一室へ先ほどまで暴れていたビーストの亡骸を運び込み、カミーユは他のギルド職員にあれこれと指示を出しながら、白衣を着てビーストの体をあちこちと触っている。

王都ギルドの中は、大騒ぎになっている。
王城からビースト研究に関係のある部署から人がわらわらと訪れているし、ビースト討伐の役にまったく立たなかった冒険者たちは、別室でギルマスたちとの面談中。
当然、王都ギルド内の業務は一時凍結状態で、事情を知らない善人な冒険者たちや依頼人は戸惑い顔だ。

そんな中、私の肩を掴んで離さないクリストフは、ひととおり王都ギルドが通常業務に戻りつつあるのを確認したあと、私を上階にある一室に連れ込んだ。

「まあ、座れ」

私は、何かの用途に使われているだろう高級な調度品に囲まれた部屋に置かれた、革張りのソファに大人しく座る。

「飲むか?」

「まだ、日が高いですよ」

そんなことは気にせずに、貴方はいつもグビグビ飲んでますけどね。
酒瓶とグラスをふたつ、ドカッとソファに座ると手酌で酒を注ぎ、一気に飲み干す。
そしてまた手酌で注ぎ、グラスの半分ほどを一気に飲む。

「ふうぅぅぅっ。あー、信じられん!なんだあのビーストは!魔法を駆使するビーストなんて、文献に載ってねぇぞ!」

私は自分の魔法鞄から、ヴィーが用意してくれていたお茶とお菓子を出して、優雅に口にする。

この男が私に話したいのは、ビーストのことではない・・・そんなことはすぐにわかる。
私がビーストの話に乗ってこないのがわかると、クリストフは子供のように口を歪めて「けっ」と吐き捨てる。

「私も疲れた。早く宿に戻りたい。話はなんだ?」

その内容によっては、宿屋に戻ってすぐにアンティーブ国を出て行かなければならない。
血の繋がりが無いことを知っても、あの子はヴィクトル殿下に対して親愛の情を持っている。
素直に出国に頷いてくれればいいが・・・。

「あいつは・・・誰だ?」

「あいつって誰だ?」

シラッと聞いてみると、クリストフはガンッとグラスをテーブルに叩きつけた。

「あいつだ!俺たちと同じ獅子族の、俺の知らないあいつだ!ベルナールって奴だ!」

「・・・。ベルナール殿はトゥーロン王国のリシュリュー辺境伯の縁者だ。確か現辺境伯の兄の子供らしい」

「トゥーロン王国・・・だと?」

一瞬にしてクリストフの顔から表情が抜け落ちる。

「私はお前の縁者に消息が分からない者がいるとは聞いていなかった。それにベルナール殿と知り合ったとき、彼は獣人であることを隠していたので、獅子族であることを知らなかった」

嘘ではない。
つい最近、彼が獅子族であることを知ったが、正直、クリストフに確認しようとは、ちっとも思い浮かばなかった。
単に、興味が無かったのだ。

「ちょっと、待て!ということは・・・アルベール、今までお前、トゥーロン王国に居たのか?」

ほら、こういう面倒な話になるので、こいつには黙っていたかったのだ。
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