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第5部 厳しさにこめられた優しい想い
2-4ありがとうを伝えるのって意外と照れくさいよね
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夜、私は屋根裏部屋で、いそいそと明日の準備をしていた。壁に掛かっているハンガーの、制服の襟を整えたり、ポケットに、ハンカチを入れたりする。ちゃんと、ランドリーに行って、洗濯もしてきたし。しわ一つなく完璧だ。
ちなみに、服のしわって、冷却する時にできるんだって。だから、ランドリーの乾燥機で、瞬間乾燥すれば、アイロンなしでも、ビシッと仕上がるんだよね。
あと、銭湯に行って、身も心も、綺麗に洗浄して来た。もちろん、コンディションもバッチリだ。念のため、指でさしながら、全てチェックしなおす。
「制服よし、持ち物よし、洗顔で使うタオルよし、明日の朝ごはんよし。うん、完璧だね!」
何か、学生時代の、新学期の前日の気分だ。もっとも、宿題が終わっていなくて、慌てふためいてた気もするけど……。
先ほどまで、勉強をしていたけど、何かソワソワして、集中できなかった。なので、今日は早めに切り上げ、明日の準備をすることにした。
なぜなら『営業停止処分』は、今日で終了で、いよいよ明日から、仕事に復帰するからだ。
やっぱり、仕事ができるって、最高に嬉しい。シルフィードの仕事が大好きだし、何より、私は〈ホワイト・ウイング〉が、物凄く大好きだ。私にとっては『第二の実家』みたいなものだからね。
あと、忘れてはならないのが、リリーシャさんの存在だった。私の憧れで、目指すべき目標。それに、全シルフィードの中で、最も尊敬していて、超超大好きな人だ。
だから、久しぶりに会えるのが、滅茶苦茶、嬉しい。その反面、ちょっと不安でもあった。営業停止処分を伝えられてから、二週間。一度も、会っていないからだ。
もちろん、会いに行こうと、何度も考えた。でも、自分の問題を解決しないで会いに行っても、意味がないと思ったのだ。逆に、心配を掛けちゃうだけだからね。なので、ずっと我慢していた。
まだ、怒っていないだろうか? 謝ったら、ちゃんと許してくれるだろうか? 以前と同じように、優しく接してくれるだろうか――?
私は部屋の中を、ウロウロ歩き回りながら、色んなことを考えていた。もう、落ち込んだりとかは全然なく、気持ちもスッキリしている。しかし、リリーシャさんのことになると、つい考え込んでしまう。
その時、マギコンから着信音が鳴った。送信者名を確認すると、ユメちゃんからだ。私は、急いで『EL』を開く。
『風ちゃん、こんばんは。元気してる?』
『こんばんは、ユメちゃん。超元気だよ!』
先日までは、割と落ち込んでたけど、今は元気120%だった。
『元気そうで、よかった。講習は、もう終わったの?』
『うん、先日、講習が終わって。ライセンスも、バッチリ復活したよ』
『おー、超おめでとう!』
『超ありがとー!』
えへへっ、何か嬉しい。そういえば、失効が取り消されたあと、何度もライセンスを眺めて、ニヤニヤしてたんだよね。何か、無性に嬉しくて。
『仕事は、もう復帰したの?』
『今日で「営業停止処分」が終わりだから、明日から出勤だよ』
『じゃあ、明日からまた、空を飛び回れるんだね』
『んー、だと、いいんだけどねぇ』
単に、営業停止処分が終わっただけで、まだ、リリーシャさんに、直接、謝ったわけではない。それに、今後どのように仕事ができるかは、全てリリーシャさんの判断しだいだ。
あれだけの、大事故をやっちゃったんだから。しばらくの間、内勤に回されても、しょうがないよね。まぁ、内勤でも、仕事ができるなら、大歓迎だけど。
『何か、問題でもあるの?』
『んー、まだ、ちゃんと謝ってないし。今まで通り、仕事をさせて貰えるか、分からないんだよね』
『でも、リリーシャさんって、凄く優しい人なんでしょ?』
『うん、超優しい人だよ。でも、退院後に会社に行った時、凄く怒ってたから……』
今でも、あの冷たい態度が忘れられない。いつも、笑顔で優しいだけに、あれは物凄く心に突き刺さった。
リリーシャさんだって、人間だもん。当然、怒る時は、怒るよね。それだけ、私がしでかしたことが、酷かったからだ。
『でも、ちゃんと謝れば、許してくれると思うよ』
『そうかも、しれないけど。問題は、謝り方なんだよね。今回は、金銭的にも、精神的にも、滅茶苦茶、迷惑をかけてしまったから』
『金銭って、病院の費用とか?』
『それも有るけど、激突して壊しちゃった、アパートの屋根の修理費とか、講習の費用とか。全部、合わせると、数十万ベルになるんだよね』
とても、私の払える金額じゃなかった。今のお給料だと、1年働いても、全然、足りない金額なんだよね――。
『事故って、結構、お金が掛かるんだね』
『だね。エア・ドルフィンも壊しちゃったから、その費用も……。いつか、返すつもりだけど。いつ返せるかも、全く分からないし』
もう、こうなったら、親に頭を下げて、お金を借りるしかないのだろうか――?
『それは、災難だったね。でも、お金の件は、出さないほうがいいと思うよ』
『えっ、なんで……?』
『全部、リリーシャさんが、立て替えてくれたんでしょ?』
『うん。入院費だけじゃなくて、講習費用なんかも、全部、手続きしてくれてた』
私が知らないうちに、何から何まで、手を回してくれていたようだ。迷惑を掛けただけでも、申し訳ないのに。本当に、頭が上がらない。
『それって、風ちゃんの経済状況を、知ってるからでしょ?』
『まぁ、そうだよね』
『だったら、お金の話を出すのは、違うんじゃないかな?』
『うーむ、そう言われてみれば、確かに――』
私がお金がないのも、ギリギリの生活をしているのも、知ってるってことだよね? となると、すぐに返せないのも、最初から分かっている訳で。なら、どうすれば、いいんだろう……?
『それに、謝って欲しいわけじゃ、ないと思うな』
『ん、どういうこと?』
『風ちゃんが、逆の立場だったらどう? 謝られて、嬉しい?』
『いや、全然、嬉しくないと思う』
謝られるのって、何か、逆に気を使うというか。相手が無事なら、それでいいと思う。リリーシャさんも、そうなのかな?
『じゃあ「ありがとう」って、言われるのは?』
『それは、素直に嬉しいと思う』
『もう、答え出てるね。みんな、同じだよ』
『あぁー、そういうこと――』
そうか、お礼……。私、まだリリーシャさんに、今回のこと、何もお礼を言ってないよね。謝ることばかり考えて、そっちを全然、考えていなかった。
『もちろん、けじめとして、お詫びは必要だと思うけど。まずは「ありがとう」からじゃない? そっちの方が、お互い気持ちがいいし』
『そうだね、そうしてみるよ』
明日、リリーシャさんに会ったら、第一声に、なんて謝ろうかと思ってたけど。まずは「ありがとうございました」から伝えよう。何か、モヤモヤしてた気分が、一気にスッキリした。
『ありがとう、ユメちゃん。何か、上手く行きそうな気がしてきた』
『うん、大丈夫だよ。絶対に、上手くいくから。だって、風ちゃんだもん』
どういう理論かは、分からないけど。応援してくれてる気持ちは、ヒシヒシ伝わって来る。
『でも、ユメちゃん凄いね。何で、そんなことまで知ってるの? 優秀だから、人に謝ったりとか、する機会ないでしょ?』
『えー、私なんて、全然、優秀じゃないよ。むしろ、その逆。色々と、どんくさいから、ミスも多いし。結構、怒られてるよ』
『へぇー、何か意外だね』
ユメちゃんは、何でも知ってるから、物凄い優等生なのかと思ってた。
『ただね、小説では、割りとよく有るシーンだから、その受け売りだよ。「ゴメンじゃなくて、ありがとうでしょ」みたいな感じの』
『へぇー、そうなんだ』
『私の場合、ほとんどが、小説から得た知識ばかりだからね。実際には、あまり、役に立たないけど思うけど』
『そんなことない。いつも、凄く役に立ってるよ。今回も、超助かったもん。ありがとうね、ユメちゃん』
何だかんだで、いつもユメちゃんのアドバイスに、救われていた。例え、それが受け売りだったとしても、全部、ユメちゃんのお蔭だと思ってる。
『何か、面と向かってお礼を言われると、照れるね、嬉しいけど。でも、この調子なら、ちゃんと、リリーシャさんにも、お礼を言えそうだね』
『うん、バッチリ言えそう。本当にありがとう、ユメちゃん』
『だからー、照れるってば』
『あははっ』
『ごめんなさい』って、案外、気楽に言えるけど。『ありがとう』って、意外と照れくさくて、言えないよね。心の中では、よく言ってるけど。面と向かって言うのはね。特に、親しい人ほど、照れくさくて言い辛い。
でも、いくら心の中で感謝しても、言わなきゃ、伝わらないからね。思いっ切り、心を込めてお礼を言おう。
今回の分は、もちろん。今までの感謝の気持ちも、全てを込めて……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『ワクワクとドキドキが入り混じる二週間ぶりの出勤』
これからが俺らの時代 そう思たらワクワクしてる自分もおるんや
ちなみに、服のしわって、冷却する時にできるんだって。だから、ランドリーの乾燥機で、瞬間乾燥すれば、アイロンなしでも、ビシッと仕上がるんだよね。
あと、銭湯に行って、身も心も、綺麗に洗浄して来た。もちろん、コンディションもバッチリだ。念のため、指でさしながら、全てチェックしなおす。
「制服よし、持ち物よし、洗顔で使うタオルよし、明日の朝ごはんよし。うん、完璧だね!」
何か、学生時代の、新学期の前日の気分だ。もっとも、宿題が終わっていなくて、慌てふためいてた気もするけど……。
先ほどまで、勉強をしていたけど、何かソワソワして、集中できなかった。なので、今日は早めに切り上げ、明日の準備をすることにした。
なぜなら『営業停止処分』は、今日で終了で、いよいよ明日から、仕事に復帰するからだ。
やっぱり、仕事ができるって、最高に嬉しい。シルフィードの仕事が大好きだし、何より、私は〈ホワイト・ウイング〉が、物凄く大好きだ。私にとっては『第二の実家』みたいなものだからね。
あと、忘れてはならないのが、リリーシャさんの存在だった。私の憧れで、目指すべき目標。それに、全シルフィードの中で、最も尊敬していて、超超大好きな人だ。
だから、久しぶりに会えるのが、滅茶苦茶、嬉しい。その反面、ちょっと不安でもあった。営業停止処分を伝えられてから、二週間。一度も、会っていないからだ。
もちろん、会いに行こうと、何度も考えた。でも、自分の問題を解決しないで会いに行っても、意味がないと思ったのだ。逆に、心配を掛けちゃうだけだからね。なので、ずっと我慢していた。
まだ、怒っていないだろうか? 謝ったら、ちゃんと許してくれるだろうか? 以前と同じように、優しく接してくれるだろうか――?
私は部屋の中を、ウロウロ歩き回りながら、色んなことを考えていた。もう、落ち込んだりとかは全然なく、気持ちもスッキリしている。しかし、リリーシャさんのことになると、つい考え込んでしまう。
その時、マギコンから着信音が鳴った。送信者名を確認すると、ユメちゃんからだ。私は、急いで『EL』を開く。
『風ちゃん、こんばんは。元気してる?』
『こんばんは、ユメちゃん。超元気だよ!』
先日までは、割と落ち込んでたけど、今は元気120%だった。
『元気そうで、よかった。講習は、もう終わったの?』
『うん、先日、講習が終わって。ライセンスも、バッチリ復活したよ』
『おー、超おめでとう!』
『超ありがとー!』
えへへっ、何か嬉しい。そういえば、失効が取り消されたあと、何度もライセンスを眺めて、ニヤニヤしてたんだよね。何か、無性に嬉しくて。
『仕事は、もう復帰したの?』
『今日で「営業停止処分」が終わりだから、明日から出勤だよ』
『じゃあ、明日からまた、空を飛び回れるんだね』
『んー、だと、いいんだけどねぇ』
単に、営業停止処分が終わっただけで、まだ、リリーシャさんに、直接、謝ったわけではない。それに、今後どのように仕事ができるかは、全てリリーシャさんの判断しだいだ。
あれだけの、大事故をやっちゃったんだから。しばらくの間、内勤に回されても、しょうがないよね。まぁ、内勤でも、仕事ができるなら、大歓迎だけど。
『何か、問題でもあるの?』
『んー、まだ、ちゃんと謝ってないし。今まで通り、仕事をさせて貰えるか、分からないんだよね』
『でも、リリーシャさんって、凄く優しい人なんでしょ?』
『うん、超優しい人だよ。でも、退院後に会社に行った時、凄く怒ってたから……』
今でも、あの冷たい態度が忘れられない。いつも、笑顔で優しいだけに、あれは物凄く心に突き刺さった。
リリーシャさんだって、人間だもん。当然、怒る時は、怒るよね。それだけ、私がしでかしたことが、酷かったからだ。
『でも、ちゃんと謝れば、許してくれると思うよ』
『そうかも、しれないけど。問題は、謝り方なんだよね。今回は、金銭的にも、精神的にも、滅茶苦茶、迷惑をかけてしまったから』
『金銭って、病院の費用とか?』
『それも有るけど、激突して壊しちゃった、アパートの屋根の修理費とか、講習の費用とか。全部、合わせると、数十万ベルになるんだよね』
とても、私の払える金額じゃなかった。今のお給料だと、1年働いても、全然、足りない金額なんだよね――。
『事故って、結構、お金が掛かるんだね』
『だね。エア・ドルフィンも壊しちゃったから、その費用も……。いつか、返すつもりだけど。いつ返せるかも、全く分からないし』
もう、こうなったら、親に頭を下げて、お金を借りるしかないのだろうか――?
『それは、災難だったね。でも、お金の件は、出さないほうがいいと思うよ』
『えっ、なんで……?』
『全部、リリーシャさんが、立て替えてくれたんでしょ?』
『うん。入院費だけじゃなくて、講習費用なんかも、全部、手続きしてくれてた』
私が知らないうちに、何から何まで、手を回してくれていたようだ。迷惑を掛けただけでも、申し訳ないのに。本当に、頭が上がらない。
『それって、風ちゃんの経済状況を、知ってるからでしょ?』
『まぁ、そうだよね』
『だったら、お金の話を出すのは、違うんじゃないかな?』
『うーむ、そう言われてみれば、確かに――』
私がお金がないのも、ギリギリの生活をしているのも、知ってるってことだよね? となると、すぐに返せないのも、最初から分かっている訳で。なら、どうすれば、いいんだろう……?
『それに、謝って欲しいわけじゃ、ないと思うな』
『ん、どういうこと?』
『風ちゃんが、逆の立場だったらどう? 謝られて、嬉しい?』
『いや、全然、嬉しくないと思う』
謝られるのって、何か、逆に気を使うというか。相手が無事なら、それでいいと思う。リリーシャさんも、そうなのかな?
『じゃあ「ありがとう」って、言われるのは?』
『それは、素直に嬉しいと思う』
『もう、答え出てるね。みんな、同じだよ』
『あぁー、そういうこと――』
そうか、お礼……。私、まだリリーシャさんに、今回のこと、何もお礼を言ってないよね。謝ることばかり考えて、そっちを全然、考えていなかった。
『もちろん、けじめとして、お詫びは必要だと思うけど。まずは「ありがとう」からじゃない? そっちの方が、お互い気持ちがいいし』
『そうだね、そうしてみるよ』
明日、リリーシャさんに会ったら、第一声に、なんて謝ろうかと思ってたけど。まずは「ありがとうございました」から伝えよう。何か、モヤモヤしてた気分が、一気にスッキリした。
『ありがとう、ユメちゃん。何か、上手く行きそうな気がしてきた』
『うん、大丈夫だよ。絶対に、上手くいくから。だって、風ちゃんだもん』
どういう理論かは、分からないけど。応援してくれてる気持ちは、ヒシヒシ伝わって来る。
『でも、ユメちゃん凄いね。何で、そんなことまで知ってるの? 優秀だから、人に謝ったりとか、する機会ないでしょ?』
『えー、私なんて、全然、優秀じゃないよ。むしろ、その逆。色々と、どんくさいから、ミスも多いし。結構、怒られてるよ』
『へぇー、何か意外だね』
ユメちゃんは、何でも知ってるから、物凄い優等生なのかと思ってた。
『ただね、小説では、割りとよく有るシーンだから、その受け売りだよ。「ゴメンじゃなくて、ありがとうでしょ」みたいな感じの』
『へぇー、そうなんだ』
『私の場合、ほとんどが、小説から得た知識ばかりだからね。実際には、あまり、役に立たないけど思うけど』
『そんなことない。いつも、凄く役に立ってるよ。今回も、超助かったもん。ありがとうね、ユメちゃん』
何だかんだで、いつもユメちゃんのアドバイスに、救われていた。例え、それが受け売りだったとしても、全部、ユメちゃんのお蔭だと思ってる。
『何か、面と向かってお礼を言われると、照れるね、嬉しいけど。でも、この調子なら、ちゃんと、リリーシャさんにも、お礼を言えそうだね』
『うん、バッチリ言えそう。本当にありがとう、ユメちゃん』
『だからー、照れるってば』
『あははっ』
『ごめんなさい』って、案外、気楽に言えるけど。『ありがとう』って、意外と照れくさくて、言えないよね。心の中では、よく言ってるけど。面と向かって言うのはね。特に、親しい人ほど、照れくさくて言い辛い。
でも、いくら心の中で感謝しても、言わなきゃ、伝わらないからね。思いっ切り、心を込めてお礼を言おう。
今回の分は、もちろん。今までの感謝の気持ちも、全てを込めて……。
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(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
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