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第5部 厳しさにこめられた優しい想い
5-3生まれて初めて来る超巨大スパで大はしゃぎ
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私は〈新南区〉に来ていた。今日は、ナギサちゃん、フィニーちゃん、キラリスちゃんも一緒だった。こないだ『メイドカフェ』で働いた時、お給料と一緒に〈アクア・リゾート〉系列の施設の、優待券をもらったんだよね。
その施設というのが、今来ている〈アクア・パラダイス〉だ。ここは、いわゆる『スパ』で、温泉・サウナ・マッサージ・ネイルサロン・アロマ・MVルーム・お食事処など、様々なレジャー設備が揃っている。
この町には、いくつかのスパがあるけど〈アクア・パラダイス〉は、その中でも最大規模なんだって。しかも、地下1000メートル以上からくみ上げている、天然温泉を使っている。
私『スパ』って、聞いたことはあったけど、来るのって、初めてなんだよね。だから、超楽しみ。しかも、メイドカフェの店長さんからもらったは『VIP優待券』で、入館料・水着レンタル・マッサージ・食事など、全サービスが『無料』になるのだ。
これって、本来は、株主の人だけに送られる、特別な優待券らしい。でも、凄く頑張ったお礼、ということで、譲ってくれたのだ。特に、ナギサちゃんは、物凄く気に入られてたからね。
私たちは、とても大きな駐車場に、エア・ドルフィンを停めると、建物に向かって行った。でも、建物の前に来て、唖然として固まる。想像していたよりも、はるかにスケールが大きかったからだ。
「うわっ、デカッ!! スパって、こんなに大きなものなの?!」
「クフフフッ。ここは〈グリュンノア〉最大のスパだからな。しかも、世界的にも『五本の指に入る』と言われている。超大型かつ、最新設備が整っているのだ」
キラリスちゃんは、ふんぞり返りながら説明する。
「地下一階から、七階まであるのは、確かに大きいわね。でも、一日じゃ、とても回り切れないわよ」
「食堂! 食堂に行く!!」
ナギサちゃんは、パンレットを、真剣な表情で見ながら。フィニーちゃんは、早くも、食べる気満々に答える。
「来て早々に、食堂に行ってどうするのよ? 今日の目的は、温泉でしょ?」
「違う。温泉は、おいしいもの食べるところ」
「そんな訳ないでしょ! 食べ物なら、普段から、散々食べてるじゃない」
「温泉で食べるものは、別。食べる場所で、味がちがう」
早速、二人のお約束の言い合いが始まる。まぁ、どうしても、こうなっちゃうよね。完全に、目的が違うから。
ナギサちゃんは、事前に施設を下調べし、回る順番などを考えて来たようだ。それに、スパに来るのも、観光案内の勉強のためらしい。フィニーちゃんは、いつも通り、美味しい物を食べるのが目的だ。
「この二人って、いっつも、こんな感じか?」
「まぁねぇー。普通に、楽しめばいいと思うんだけど……」
「別に、ずっと一緒に行動しなくても、いいんだから。さっさと、行こうぜ」
「そだね。ほら、二人とも行くよー。早くしないと、置いてっちゃうからねー」
私とキラリスちゃんが、建物の入口に向かうと、二人とも言い合いを中断して、あとから静かについて来るのだった――。
******
私たちは、受付に行って手続きを済ませると、水着をレンタルして、ロッカールームに向かった。ロッカーに荷物を置いて、着替えを済ませると『クリンリネス・ゾーン』に向かう。
クリンリネス・ゾーンは、長さ十メートルほどの通路になっており、歩いている間に、体に青い光が当たる。これは『治療魔法』を応用したものらしく、体中の除菌をする効果があるんだって。
出口の所で、サンダルをはくと、別の部屋に出る。ここは、水着の上から羽織る、ガウンを貸してくれるところだ。色んな種類があり、ワンピースタイプのものもある。私は適当に、目に付いた、トロピカル柄のを羽織った。
全員、準備ができると、部屋を出る。すると、大きな通路には、女性たちが、色とりどりのガウンを羽織って、楽しそうに話しながら歩いていた。温泉って、年配の人が多いイメージだったけど、若い人たちが多かった。
なお、このフロアは、女性しかいない。三階と四階は『女性専用フロア』になっているので、女性だけで、気兼ねなく楽しむことができるのだ。エステ・マッサージ・ネイルサロンなど、入浴以外にも、沢山の施設がそろっている。
普段は、全く関わりのない施設ばかりなので、私はキョロキョロと、物珍し気に辺りを見回していた。見るもの全てが新鮮だ。
ちなみに、地下はプールエリア。一階と二階は、男性専用エリア。五階と六階は、共用エリア。七階は、レストランエリアになっている。建物全体も大きいけど、ワンフロアも、滅茶苦茶でっかい。
「これだけ大きいと、どこに行けばいいか、迷っちゃうよね?」
「大丈夫よ。しっかり、下調べはして来ているから」
キョロキョロしている、私たちとは対照的に、ナギサちゃんは、先頭をさっさと歩いて行く。流石は、ナギサちゃん。館内構造まで、ちゃんと把握していて、全く抜かりがない。
最初に向かったのは『ビーチリゾート・ルーム』だ。名前の通り、まるで、海岸にでも、来ているような感じだった。部屋の中に、ヤシの木とか南国植物が沢山あって、南国風の、わらぶき屋根の小屋まである。
さらに、大きなプールのような温泉の横には、リクライニング・チェアーや、ビーチ・パラソルが、たくさん設置してあった。
「おぉー、いい感じじゃないか!」
「だねー、本物の海みたい!」
キラリスちゃんが、駆けだして行くと、私もそれに続いて走りだす。
「ちょっと、あなたたち、走ったら危ないでしょ! って、フィニーツァ、来て早々、休んでどうするのよ?」
早速、ナギサちゃんの指導が入る。
私たち二人は、ガウンを脱ぎ捨てると、早くも温泉に飛び込んだ。フィニーちゃんは、即行でパラソルに向かい、リクライニング・チェアーに、ごろんと寝転がった。相変わらず、みんな自由すぎる。
「ここ、あまり温度が高くないね?」
「深さもあるから、温水プールみたいなもんだろ?」
「そっかー。じゃあ、泳いじゃっても、大丈夫かな?」
「いいんじゃないか? 見た目も、プールっぽいし」
私は早速、スイーッと平泳ぎを始める。いやー、プールとか久しぶりだから、超たのしー!
「ここは、冷泉で、プールじゃないわよ! プールは地下にあるから、泳ぎたければ、そっちに行きない」
ナギサちゃんは、ガウンを脱いで綺麗にたたむと、近くにあったテーブルに置いた。そのまま、静かに中に入って来る。
「えー、他に人いないんだから、いいじゃんか?」
「うんうん。他の人に、迷惑かけてないし」
リクライニング・チェアーで、くつろいでいる人はいたけど、お湯につかっているのは、私たちだけだった。平日の午前中なので、あまり混んではいないようだ。
「それでも、常識やルールというものが、あるでしょ?」
「遊びに来てまで、硬いこと言うなよ。ツンツンは、メイドカフェだけにしとけ」
「って、誰がツンツンよ!」
どうやら、本人はツンツンしている、自覚がないらしい。まぁ、悪気は、一切ないんだろうけど。ナギサちゃん、真面目だからねぇ。間違ったことには、とことん突っ込まないと、いられない性格なのだ。
「じゃあ、ここは水中ウォーキングで、我慢しておこうか」
「えー、それじゃあ、つまんないじゃんか」
「よし、向こうの端まで、どっちが速く歩けるか、競争だよ!」
「って、こら待て! 急に始めるなんて、ズルイぞ」
結局、キラリスちゃんと、水中ウォーキングで、何往復もした。滅茶苦茶、大きくて、二十五メートル以上はあると思う。深さも結構あるから、完全に、温水プールと同じだよね。
しばらく、歩きまわってから、私たちは温泉から上がって、ビーチ・パラソルのある場所に向かった。フィニーちゃんは、気持ちよさそうに寝ている。
置いてあったバスタオルで、体をふいていると、あることに気が付いた。前々から、ある程度、気付いてはいたけど。こうして改めて見ると、やっぱり凄いと思う。
「ナギサちゃん、滅茶苦茶、スタイルいいねぇ。腰は細いし、出るところは出てるし。しかも、肌が白くて、超キレイ!」
ナギサちゃんは、普通のビキニを着ているので、ボティーラインが、くっきりと見えていた。傷やシミ一つない、真っ白で透き通るような肌。細くくびれた腰に、長くて細い脚。
普段は、制服でよく分からなかったけど、胸も結構大きい。均整の取れた体は、まるで、プロのモデルさんみたいだ。
「って、ちょっと……何をじろじろ見てるのよ?」
「いいじゃない。見て減るもんじゃないし。それに、超キレイだもん」
私は試しに、ナギサちゃんの脇腹を、ツンッと触ってみる。
「ひゃっ!」
ナギサちゃんは、カワイイ声と共に、サッと飛びのいた。
「何やってんのよ、風歌!!」
そのあと、滅茶苦茶、怖い顔で睨みつけて来る。
「あ、ゴメン。そんなに驚くとは、思わなかったから――」
いや、あまりに引き締まった、美しい腰だったから、つい。にしても、あんな反応をするとは、思わなかった。
「おいおい、ウエストなら、私も負けてないぞ」
キラリスちゃんは、私の前に立つと、グッとお腹に力を入れる。
「うわぁー、スゴッ! おなかの筋肉、六つに割れてるじゃん」
「だろう。あんな、白いだけの、プヨプヨの腹とは、違うのだ」
確かに、見事な筋肉だ。そうとう鍛えてないと、こうはならない。格闘技やってるって、本当だったんだね。
「って、誰がプヨプヨのお腹よ!」
「どれ、ちょっと確かめてやる」
キラリスちゃんが手を伸ばすと、ナギサちゃんは、サーッと距離をとって、ガウンを羽織る。何か、凄く警戒されちゃったみたい……。
その後も、ナギサちゃんの案内で、各種温泉・サウナ・岩盤浴などを、順番に回って行く。何か、一ヶ所回る度に、体が軽く、ツヤツヤになっていく気がする。これが、温泉効果なのだろうか?
しばらく回ったところで、私たちは七階に向かった。フィニーちゃんが、お約束の『お腹空いた』と、言い出したからだ。
フローターで七階向かうと、そこには、たくさんの飲食店があり、まるで、デパートのレストラン街みたいな感じだった。
私たちは、その中にある、ブッフェレストラン〈プレジャー・パレス〉に向かう。優待券では、このレストランの『食べ放題』が、無料になっているからだ。
目的のレストランに入ると、店内は想像以上に大きかった。肉や魚野菜、ご飯もの、パスタ、デザートなども含めて、あらゆる料理が置いてあった。お昼時のせいか、たくさんの人で賑わっている。
へぇー、平日でも、結構人が来てるんだねぇー。それにしても、どの料理も、すっごく美味しそう!
ちなみに、施設の入口付近に、七階への『直通フローター』が設置されており、食事だけの利用も可能だ。なので、お昼時になると、ランチ目当ての、一般のお客さんたちも来るんだって。
私は、次々と料理を盛り付け、お皿が一杯になると、テーブルに向かう。デザートも含めると、普段、食べている昼食の、四倍ぐらいの量はありそうだ。
隣に座ったキラリスちゃんも、相当な量を盛っている。でも、パンやライス、デザートはなく、全部、肉と魚ばかりだ。やっぱり、栄養に気を付けているんだろうか?
一番、最初に、テーブルに着いていたナギサちゃんは、いつもと、全く変わらないメニューだった。アイスティーにサラダ、サンドイッチ。こんな所に来てまで、あくまでヘルシーを貫いている。
そして、最後にやってきたのが、フィニーちゃん。ある程度、予想はしていたけど、とんでもない量を盛り付けていた。どのお皿も、あふれそうなほど、極限まで盛ってある。しかも、料理がいろいろ混ざっていて、何が何だかよく分からない。
「何か、フィニーちゃんのを見ていると、私たちの、並盛りに見えるよね――」
「お前、相変わらず、気合が入ってんな……」
私もキラリスちゃんも、唖然とする。見慣れた光景とはいえ、やはり目の当たりにすると、驚かずにはいられない。私も、そうとう盛ったつもりだけど、フィニーちゃんのは、スケールが違いすぎる。
「何で、一番ゴロゴロしてた人間が、そんなに食べるのよ?」
「温泉は、カロリー消費はげしい」
「そんな訳ないでしょ!」
「体あったまると、カロリーいっぱい消費する」
お約束の、二人の言い合いが始まった。
でも、フィニーちゃんは、温泉もサウナも、ちょっと入っただけで、すぐに出ちゃってたんだよね。でもって、ずっと休憩室でゴロゴロしてた。あまり、お風呂は好きじゃないみたい。
「フィニーちゃん、お風呂、嫌いなの?」
「普通。熱いのが、苦手なだけ」
「何でだよ? 熱いのが、いいんじゃんか?」
「熱いのなんて、つらいだけ」
まぁ、たまに熱いお風呂が、苦手な人いるよね。中学時代の友達にも、そんな子がいたもん。熱いの嫌いだから、一年中、シャワーを浴びてるって、言ってたっけ。
その後、モリモリ食べながら、私は何度か、デザートと飲み物を、おかわりに行く。フィニーちゃんは、再び同じ量の特盛を持ってくる。なぜか、キラリスちゃんは、それに対抗心を燃やし、おかわりを山盛り持って来た。
ナギサちゃんは、いつも通り、静かに上品に、食事をしている。おかわりもせず、一回目に持って来た少量で、食事は終了だ。本当に少食だよね。だから、あんなにスタイルが、いいのかも。
しばらくすると、ナギサちゃん以外は、お腹をさすりながら、椅子に寄り掛かっていた。私も、さすがに食べ過ぎたかも――。デザートは、めったに食べられないから、滅茶苦茶、食べまくったので。
「ふぅー、もう食べられない……」
「うっ――私も、もう無理だ」
「私は、まだまだ、いける」
フィニーちゃんだけ、まだ目が元気だ。
「お前、流石に、もうやめとけ……」
「そうだよ。夕飯に楽しみを、取っといたほうがいいよ――」
「わかった。夕飯、いっぱい食べる」
これだけ食べても、まだ、夕飯も食べる気満々の様子だ。流石は、フィニーちゃん。胃袋が、底なし過ぎる……。
「それにしても、凄いね。こんな立派な施設で、食事まで無料にして貰えるなんて」
「クフフフッ。〈アクア・リゾート〉の力を思い知ったか? 我に感謝するがよい」
キラリスちゃんは、左手を顔にあて、自信ありげに答える。
「何で、あなたが、偉そうにしてるのよ。全部、店長さんのお蔭でしょ? お給料を、ポケットマネーで払ってくれた上に、株主優待券まで、譲ってくれたのだから」
「店長が、全部えらい」
ナギサちゃんの意見に、珍しくフィニーちゃんも賛同する。
「って、何だよー! 元々私が、声を掛けたんだぞー」
「あははっ、分かってる、分かってる。感謝してるよ、キラリンちゃん」
「キ・ラ・リ・スなっ!」
お腹いっぱいになった私たちは、このあとも、色んな温泉に入ったり、マッサージやアロマテラピーなどを、たくさん体験した。
リラクゼーション・ルームで、アロマをたいたら、私、フィニーちゃん、キラリスちゃんが爆睡して、ナギサちゃんに、叩き起こされたのは、また別の話――。
未体験のことばかりで、まるで、夢のような一日だった。普通にお金を払ったら、一万ベル以上かかったと思う。きっかけを作ってくれた、キラリスちゃんには、大感謝だ。
あと、今度、店長さんにも、お礼を言いに行かないとね……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『車いすの少女が持つささやかだけどとても素敵な夢』
「夢」って書いて何て読む?「ロマン」だよ
その施設というのが、今来ている〈アクア・パラダイス〉だ。ここは、いわゆる『スパ』で、温泉・サウナ・マッサージ・ネイルサロン・アロマ・MVルーム・お食事処など、様々なレジャー設備が揃っている。
この町には、いくつかのスパがあるけど〈アクア・パラダイス〉は、その中でも最大規模なんだって。しかも、地下1000メートル以上からくみ上げている、天然温泉を使っている。
私『スパ』って、聞いたことはあったけど、来るのって、初めてなんだよね。だから、超楽しみ。しかも、メイドカフェの店長さんからもらったは『VIP優待券』で、入館料・水着レンタル・マッサージ・食事など、全サービスが『無料』になるのだ。
これって、本来は、株主の人だけに送られる、特別な優待券らしい。でも、凄く頑張ったお礼、ということで、譲ってくれたのだ。特に、ナギサちゃんは、物凄く気に入られてたからね。
私たちは、とても大きな駐車場に、エア・ドルフィンを停めると、建物に向かって行った。でも、建物の前に来て、唖然として固まる。想像していたよりも、はるかにスケールが大きかったからだ。
「うわっ、デカッ!! スパって、こんなに大きなものなの?!」
「クフフフッ。ここは〈グリュンノア〉最大のスパだからな。しかも、世界的にも『五本の指に入る』と言われている。超大型かつ、最新設備が整っているのだ」
キラリスちゃんは、ふんぞり返りながら説明する。
「地下一階から、七階まであるのは、確かに大きいわね。でも、一日じゃ、とても回り切れないわよ」
「食堂! 食堂に行く!!」
ナギサちゃんは、パンレットを、真剣な表情で見ながら。フィニーちゃんは、早くも、食べる気満々に答える。
「来て早々に、食堂に行ってどうするのよ? 今日の目的は、温泉でしょ?」
「違う。温泉は、おいしいもの食べるところ」
「そんな訳ないでしょ! 食べ物なら、普段から、散々食べてるじゃない」
「温泉で食べるものは、別。食べる場所で、味がちがう」
早速、二人のお約束の言い合いが始まる。まぁ、どうしても、こうなっちゃうよね。完全に、目的が違うから。
ナギサちゃんは、事前に施設を下調べし、回る順番などを考えて来たようだ。それに、スパに来るのも、観光案内の勉強のためらしい。フィニーちゃんは、いつも通り、美味しい物を食べるのが目的だ。
「この二人って、いっつも、こんな感じか?」
「まぁねぇー。普通に、楽しめばいいと思うんだけど……」
「別に、ずっと一緒に行動しなくても、いいんだから。さっさと、行こうぜ」
「そだね。ほら、二人とも行くよー。早くしないと、置いてっちゃうからねー」
私とキラリスちゃんが、建物の入口に向かうと、二人とも言い合いを中断して、あとから静かについて来るのだった――。
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私たちは、受付に行って手続きを済ませると、水着をレンタルして、ロッカールームに向かった。ロッカーに荷物を置いて、着替えを済ませると『クリンリネス・ゾーン』に向かう。
クリンリネス・ゾーンは、長さ十メートルほどの通路になっており、歩いている間に、体に青い光が当たる。これは『治療魔法』を応用したものらしく、体中の除菌をする効果があるんだって。
出口の所で、サンダルをはくと、別の部屋に出る。ここは、水着の上から羽織る、ガウンを貸してくれるところだ。色んな種類があり、ワンピースタイプのものもある。私は適当に、目に付いた、トロピカル柄のを羽織った。
全員、準備ができると、部屋を出る。すると、大きな通路には、女性たちが、色とりどりのガウンを羽織って、楽しそうに話しながら歩いていた。温泉って、年配の人が多いイメージだったけど、若い人たちが多かった。
なお、このフロアは、女性しかいない。三階と四階は『女性専用フロア』になっているので、女性だけで、気兼ねなく楽しむことができるのだ。エステ・マッサージ・ネイルサロンなど、入浴以外にも、沢山の施設がそろっている。
普段は、全く関わりのない施設ばかりなので、私はキョロキョロと、物珍し気に辺りを見回していた。見るもの全てが新鮮だ。
ちなみに、地下はプールエリア。一階と二階は、男性専用エリア。五階と六階は、共用エリア。七階は、レストランエリアになっている。建物全体も大きいけど、ワンフロアも、滅茶苦茶でっかい。
「これだけ大きいと、どこに行けばいいか、迷っちゃうよね?」
「大丈夫よ。しっかり、下調べはして来ているから」
キョロキョロしている、私たちとは対照的に、ナギサちゃんは、先頭をさっさと歩いて行く。流石は、ナギサちゃん。館内構造まで、ちゃんと把握していて、全く抜かりがない。
最初に向かったのは『ビーチリゾート・ルーム』だ。名前の通り、まるで、海岸にでも、来ているような感じだった。部屋の中に、ヤシの木とか南国植物が沢山あって、南国風の、わらぶき屋根の小屋まである。
さらに、大きなプールのような温泉の横には、リクライニング・チェアーや、ビーチ・パラソルが、たくさん設置してあった。
「おぉー、いい感じじゃないか!」
「だねー、本物の海みたい!」
キラリスちゃんが、駆けだして行くと、私もそれに続いて走りだす。
「ちょっと、あなたたち、走ったら危ないでしょ! って、フィニーツァ、来て早々、休んでどうするのよ?」
早速、ナギサちゃんの指導が入る。
私たち二人は、ガウンを脱ぎ捨てると、早くも温泉に飛び込んだ。フィニーちゃんは、即行でパラソルに向かい、リクライニング・チェアーに、ごろんと寝転がった。相変わらず、みんな自由すぎる。
「ここ、あまり温度が高くないね?」
「深さもあるから、温水プールみたいなもんだろ?」
「そっかー。じゃあ、泳いじゃっても、大丈夫かな?」
「いいんじゃないか? 見た目も、プールっぽいし」
私は早速、スイーッと平泳ぎを始める。いやー、プールとか久しぶりだから、超たのしー!
「ここは、冷泉で、プールじゃないわよ! プールは地下にあるから、泳ぎたければ、そっちに行きない」
ナギサちゃんは、ガウンを脱いで綺麗にたたむと、近くにあったテーブルに置いた。そのまま、静かに中に入って来る。
「えー、他に人いないんだから、いいじゃんか?」
「うんうん。他の人に、迷惑かけてないし」
リクライニング・チェアーで、くつろいでいる人はいたけど、お湯につかっているのは、私たちだけだった。平日の午前中なので、あまり混んではいないようだ。
「それでも、常識やルールというものが、あるでしょ?」
「遊びに来てまで、硬いこと言うなよ。ツンツンは、メイドカフェだけにしとけ」
「って、誰がツンツンよ!」
どうやら、本人はツンツンしている、自覚がないらしい。まぁ、悪気は、一切ないんだろうけど。ナギサちゃん、真面目だからねぇ。間違ったことには、とことん突っ込まないと、いられない性格なのだ。
「じゃあ、ここは水中ウォーキングで、我慢しておこうか」
「えー、それじゃあ、つまんないじゃんか」
「よし、向こうの端まで、どっちが速く歩けるか、競争だよ!」
「って、こら待て! 急に始めるなんて、ズルイぞ」
結局、キラリスちゃんと、水中ウォーキングで、何往復もした。滅茶苦茶、大きくて、二十五メートル以上はあると思う。深さも結構あるから、完全に、温水プールと同じだよね。
しばらく、歩きまわってから、私たちは温泉から上がって、ビーチ・パラソルのある場所に向かった。フィニーちゃんは、気持ちよさそうに寝ている。
置いてあったバスタオルで、体をふいていると、あることに気が付いた。前々から、ある程度、気付いてはいたけど。こうして改めて見ると、やっぱり凄いと思う。
「ナギサちゃん、滅茶苦茶、スタイルいいねぇ。腰は細いし、出るところは出てるし。しかも、肌が白くて、超キレイ!」
ナギサちゃんは、普通のビキニを着ているので、ボティーラインが、くっきりと見えていた。傷やシミ一つない、真っ白で透き通るような肌。細くくびれた腰に、長くて細い脚。
普段は、制服でよく分からなかったけど、胸も結構大きい。均整の取れた体は、まるで、プロのモデルさんみたいだ。
「って、ちょっと……何をじろじろ見てるのよ?」
「いいじゃない。見て減るもんじゃないし。それに、超キレイだもん」
私は試しに、ナギサちゃんの脇腹を、ツンッと触ってみる。
「ひゃっ!」
ナギサちゃんは、カワイイ声と共に、サッと飛びのいた。
「何やってんのよ、風歌!!」
そのあと、滅茶苦茶、怖い顔で睨みつけて来る。
「あ、ゴメン。そんなに驚くとは、思わなかったから――」
いや、あまりに引き締まった、美しい腰だったから、つい。にしても、あんな反応をするとは、思わなかった。
「おいおい、ウエストなら、私も負けてないぞ」
キラリスちゃんは、私の前に立つと、グッとお腹に力を入れる。
「うわぁー、スゴッ! おなかの筋肉、六つに割れてるじゃん」
「だろう。あんな、白いだけの、プヨプヨの腹とは、違うのだ」
確かに、見事な筋肉だ。そうとう鍛えてないと、こうはならない。格闘技やってるって、本当だったんだね。
「って、誰がプヨプヨのお腹よ!」
「どれ、ちょっと確かめてやる」
キラリスちゃんが手を伸ばすと、ナギサちゃんは、サーッと距離をとって、ガウンを羽織る。何か、凄く警戒されちゃったみたい……。
その後も、ナギサちゃんの案内で、各種温泉・サウナ・岩盤浴などを、順番に回って行く。何か、一ヶ所回る度に、体が軽く、ツヤツヤになっていく気がする。これが、温泉効果なのだろうか?
しばらく回ったところで、私たちは七階に向かった。フィニーちゃんが、お約束の『お腹空いた』と、言い出したからだ。
フローターで七階向かうと、そこには、たくさんの飲食店があり、まるで、デパートのレストラン街みたいな感じだった。
私たちは、その中にある、ブッフェレストラン〈プレジャー・パレス〉に向かう。優待券では、このレストランの『食べ放題』が、無料になっているからだ。
目的のレストランに入ると、店内は想像以上に大きかった。肉や魚野菜、ご飯もの、パスタ、デザートなども含めて、あらゆる料理が置いてあった。お昼時のせいか、たくさんの人で賑わっている。
へぇー、平日でも、結構人が来てるんだねぇー。それにしても、どの料理も、すっごく美味しそう!
ちなみに、施設の入口付近に、七階への『直通フローター』が設置されており、食事だけの利用も可能だ。なので、お昼時になると、ランチ目当ての、一般のお客さんたちも来るんだって。
私は、次々と料理を盛り付け、お皿が一杯になると、テーブルに向かう。デザートも含めると、普段、食べている昼食の、四倍ぐらいの量はありそうだ。
隣に座ったキラリスちゃんも、相当な量を盛っている。でも、パンやライス、デザートはなく、全部、肉と魚ばかりだ。やっぱり、栄養に気を付けているんだろうか?
一番、最初に、テーブルに着いていたナギサちゃんは、いつもと、全く変わらないメニューだった。アイスティーにサラダ、サンドイッチ。こんな所に来てまで、あくまでヘルシーを貫いている。
そして、最後にやってきたのが、フィニーちゃん。ある程度、予想はしていたけど、とんでもない量を盛り付けていた。どのお皿も、あふれそうなほど、極限まで盛ってある。しかも、料理がいろいろ混ざっていて、何が何だかよく分からない。
「何か、フィニーちゃんのを見ていると、私たちの、並盛りに見えるよね――」
「お前、相変わらず、気合が入ってんな……」
私もキラリスちゃんも、唖然とする。見慣れた光景とはいえ、やはり目の当たりにすると、驚かずにはいられない。私も、そうとう盛ったつもりだけど、フィニーちゃんのは、スケールが違いすぎる。
「何で、一番ゴロゴロしてた人間が、そんなに食べるのよ?」
「温泉は、カロリー消費はげしい」
「そんな訳ないでしょ!」
「体あったまると、カロリーいっぱい消費する」
お約束の、二人の言い合いが始まった。
でも、フィニーちゃんは、温泉もサウナも、ちょっと入っただけで、すぐに出ちゃってたんだよね。でもって、ずっと休憩室でゴロゴロしてた。あまり、お風呂は好きじゃないみたい。
「フィニーちゃん、お風呂、嫌いなの?」
「普通。熱いのが、苦手なだけ」
「何でだよ? 熱いのが、いいんじゃんか?」
「熱いのなんて、つらいだけ」
まぁ、たまに熱いお風呂が、苦手な人いるよね。中学時代の友達にも、そんな子がいたもん。熱いの嫌いだから、一年中、シャワーを浴びてるって、言ってたっけ。
その後、モリモリ食べながら、私は何度か、デザートと飲み物を、おかわりに行く。フィニーちゃんは、再び同じ量の特盛を持ってくる。なぜか、キラリスちゃんは、それに対抗心を燃やし、おかわりを山盛り持って来た。
ナギサちゃんは、いつも通り、静かに上品に、食事をしている。おかわりもせず、一回目に持って来た少量で、食事は終了だ。本当に少食だよね。だから、あんなにスタイルが、いいのかも。
しばらくすると、ナギサちゃん以外は、お腹をさすりながら、椅子に寄り掛かっていた。私も、さすがに食べ過ぎたかも――。デザートは、めったに食べられないから、滅茶苦茶、食べまくったので。
「ふぅー、もう食べられない……」
「うっ――私も、もう無理だ」
「私は、まだまだ、いける」
フィニーちゃんだけ、まだ目が元気だ。
「お前、流石に、もうやめとけ……」
「そうだよ。夕飯に楽しみを、取っといたほうがいいよ――」
「わかった。夕飯、いっぱい食べる」
これだけ食べても、まだ、夕飯も食べる気満々の様子だ。流石は、フィニーちゃん。胃袋が、底なし過ぎる……。
「それにしても、凄いね。こんな立派な施設で、食事まで無料にして貰えるなんて」
「クフフフッ。〈アクア・リゾート〉の力を思い知ったか? 我に感謝するがよい」
キラリスちゃんは、左手を顔にあて、自信ありげに答える。
「何で、あなたが、偉そうにしてるのよ。全部、店長さんのお蔭でしょ? お給料を、ポケットマネーで払ってくれた上に、株主優待券まで、譲ってくれたのだから」
「店長が、全部えらい」
ナギサちゃんの意見に、珍しくフィニーちゃんも賛同する。
「って、何だよー! 元々私が、声を掛けたんだぞー」
「あははっ、分かってる、分かってる。感謝してるよ、キラリンちゃん」
「キ・ラ・リ・スなっ!」
お腹いっぱいになった私たちは、このあとも、色んな温泉に入ったり、マッサージやアロマテラピーなどを、たくさん体験した。
リラクゼーション・ルームで、アロマをたいたら、私、フィニーちゃん、キラリスちゃんが爆睡して、ナギサちゃんに、叩き起こされたのは、また別の話――。
未体験のことばかりで、まるで、夢のような一日だった。普通にお金を払ったら、一万ベル以上かかったと思う。きっかけを作ってくれた、キラリスちゃんには、大感謝だ。
あと、今度、店長さんにも、お礼を言いに行かないとね……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『車いすの少女が持つささやかだけどとても素敵な夢』
「夢」って書いて何て読む?「ロマン」だよ
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冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合
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北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。
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でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。
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笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
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秋月レンジ。高校2年生。
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『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~
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味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!?
魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで!
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酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
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酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
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家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
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都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
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おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
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パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
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弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
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