私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一

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第6部 飛び立つ勇気

3-3ついに来た……私の運命が決まる昇級試験の当日

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 二月一日の朝。私は自然に目が覚め、アラームが鳴る前に、サッと止めた。時間は、五時ニ十分。目が覚めた、というより、ほとんど眠れなかった。やるだけのことは、全てやったけど、頭の中に、大量の知識が渦巻いていたからだ。

 ここ最近は、ずっと勉強漬けだったし。特に『マナ工学』で使う数式は、常に頭の片隅にあった。掃除する時も、運転中も、いつも数式を考えていた。

 ユメちゃんの、アドバイスとスケジュール通りに、無理なく、進めたつもりだけど。四六時中、頭はフル回転状態だった。お蔭で、夢の中でまで、勉強していたし。ここ数日は、眠りが浅く、体も精神的にも、かなり疲労がたまっていた。

 まぁ、今日の試験が終われば、いったんは、解放される訳だし。これで、また、ゆっくり熟睡できるはず。だから、今日は、精一杯、頑張らないとね。

 今日の昇級試験は、九時からスタートだ。一教科、五十分で、午前に三教科。一時間の、お昼休憩を挟んで、午後は二教科。午後三時に、終了予定だ。

 今日の『学科試験』に合格した人は、翌日の『実技試験』を受けることになる。実技は、おまけのようなもので、まず落ちることはない。なので、学科試験さえ受かれば、まず大丈夫だ。

 ちなみに、今日は『シルフィード協会に直行でいい』と、リリーシャさんに言われていた。でも、軽く勉強してから行こうと思って、いつもと同じ時間に起きたのだ。いくら、効率よく勉強したとはいえ、まだまだ、不安な部分も多いので。
  
 私は、起きるために、上半身を動かす。だが、なぜか、体が持ち上がらなかった。いつもよりも、体が重い気がする。

「あ、あれっ? 何か、力が入らない気が……。まだ、目が覚めてないのかな?」
 いつもなら、床に転がり落ちて、強引に目を覚ますので、刺激が足りないのかもしれない。

 私は、両手をついて、ゆっくり起き上がる。だが、体を起こした瞬間、視界が左右にぐらぐら揺れ、頭に激しい痛みが走った。

「――痛っ」
 頭のてっぺん辺りが、ズキズキしている。立ち上がると、体がフラフラして安定しない。
 
 この感じって、まさか……?

 私は、おぼつかない足取りで、机に向かい、置いてあったマギコンを起動した。左手で頭を押さえながら、右手で操作して『メディカル・チェック』を立ち上げる。これは、体温や血圧を計測するための、ヘルスケア・アプリだ。

 開いた空中モニターに、手のひらを当てると、数秒で結果が表示された。だが、計測結果を見て、私は固まった。

「ちょっ――なんで……?!」
 嫌な予感が、見事に的中してしまったからだ。

『血圧  :やや高め
 心拍数 :正常
 体温  :異常 38.0℃
 総合値 :C- 風邪もしくは別の病気の可能性あり』

 目の前の空中モニターには、かなり酷い診断結果が表示されていた。信じたくはないけど、このアプリは、かなり精度が高い。普段は、全て正常で『A+』なので、高確率で風邪だと思う――。

「ぐっ……。よりによって、こんな大事な時に。しかも、熱まであるなんて――」

 診断結果を見た瞬間、まるで、この世の終わりのように、激しい絶望感に襲われた。もう、五年以上、風邪一つ引いてなかったのに。自分の運の悪さを、今日ばかりは、呪わずにはいられなかった。

「あぁ、どうしよう……」
 私は、両手で顔を覆ったまま、痛みとクラクラしてあまり動かない頭で、必死に思考する。

 一瞬、休むことも考えたが、それだけは、絶対にできない。かと言って、薬もないし。とりあえずは、勉強を――。いや、とても、そんな状況じゃない。試験直前まで寝て、様子を見たほうがいいかも……。

 私は、八時に目覚ましをセットすると、再び、ベッドにもぐりこんだ。だが、頭痛と目まい。さらには、強烈に不安な気持ちで、寝るに寝れなった。しかも、だんだん寒気が増してきた。

 結局、全く眠れないまま、時間だけが過ぎて行く――。

 八時に目覚ましが鳴ると、私はアラームを止め、ゆっくり起き上がった。やっぱり、体がグラグラと揺れている。先ほどまで、体が寒かったのに、今度は熱くなってきた。念のため、もう一度『メディカル・チェック』をしてみる。

「……そんな。さっきよりも、悪くなってる――」
 体温は38.2度。先ほどよりも、さらに上がっていた。

 それでも私は、フラフラする体で、何とか制服に着替える。机の上には、昨日、買ってきた朝食用のパンが置いてあった。でも、頭がズキズキして気持ち悪く、とても食べられる状態ではない。

 私は、マギコンをポケットに入れると、ゆっくり、はしごを降りて行った。いつもなら、軽やかな足取りなのに、体が重くて、足が思うように動かない。一歩進むごとに、頭のてっぺんがズキズキする。それでも、無理やり進み続けた。

 今は、深く考えちゃダメだ。とにかく〈シルフィード協会〉に行かなければ。試験会場に着きさえすれば、なんとかなるはず。

 私は、手すりにつかまりながら、アパートの長い階段を、必死に降りて行くのだった……。


 ******


 私は、やっとの思いで〈シルフィード協会〉の試験会場にやってきた。指定の教室に着くと、一番、後ろの席に座った。いつもなら、前のほうに座るけど、今日は、あまり目立ちたくなかったからだ。

 部屋は、暖房が入っているはずなのに、体が芯から冷え切っていた。寒さで、時々身震いする。もう一度『メディカル・チェック』しようとしたが、思いとどまった。見たからと言って、治るどころか、余計に、気分が落ち込むだけだからだ。

 やがて、試験開始の時間になり、私は、空中モニターを見ながら、コンソールを使って、回答していった。幸い、一教科目は、最も得意な『基礎知識』からだ。『マナ工学』が、午後からなのが、唯一の救いと言える。

 午前中の試験の三教科が終わると、私は机の上に突っ伏す。何とか、解答欄は全て埋めた。でも、頭痛と目まいのため、思考がスムーズに動かず、正解かどうかは、全く分からない。とにかく、埋めるだけで精一杯だった。

 相変わらず、気分は最悪で、意識を保つだけで、やっとの状態だ。午前中は、何とかやり過ごしたが、本番は午後だった。一番、苦手かつ、計算が必要な『マナ工学』が残っている。今の頭の状況では、とても計算は出来そうにない。

 私が、机の上で伸びていると、
「あの、大丈夫ですか――?」
 誰かに声を掛けられた。

 ゆっくり視線を動かすと、すぐ隣には、心配そうな表情で、こちらを見つめている子が立っている。

「何か、朝から顔色が、悪かったようですから。ちょっと、心配で」
 そうえいば、彼女は、隣の席に座っていた子だ。

 私は、ふらつきながら顔を上げると、
「ちょっと、熱があるみたいで。頭痛と目まいが、ひどくて……」
 目の前の彼女に、力なく答えた。

 いつもなら、元気に笑顔で答えるところだが、今は、声を出すだけでも辛い。

「えっ!? お薬は、飲みましたか?」
「いえ。薬は用意してなかったので――」
「そんな……。ちょっと、失礼します」

 彼女は、私のおでこに、そっと手を触れた。

「これ、かなり熱があるんじゃないですか? すぐに、医務室に行ったほうがいいですよ。私、付き添いますから」
 彼女は、驚いた表情を浮かべている。

「いえ――。私、何が何でも、試験を受けないといけないので」
「でも、とても、試験を受けられるような状態では」
「大丈夫です。あと二時間、頑張りますので……」
 
 何があっても、試験を辞退する訳には、行かなかった。これまでの努力を、無駄にしたくはない。それに、沢山の協力してくれた人たちを、裏切れないからだ。

「分かりました――。少しだけ、待っていてください」
 そう言うと、彼女は、部屋を小走りで出て行った。
 
 しばらくすると、彼女は、手に水のペットボトルを持ち、戻って来た。ペットボトルを私の机に置くと、カバンから何かを取り出す。

「これ、眠くならない風邪薬です。水で飲んでください。あと、薬を飲んだあとは、これをどうぞ」
 渡されたのは、風邪薬と飴だった。

「……ありがとうございます」 
 私は、受け取った錠剤の薬を、何とか水で流し込む。そのあと、飴を口にいれた。レモン味で、口の中がスッキリする。

「あと、冷却シールも、貼っておきますね」 

 彼女がカバンから取り出したのは、透明なシートだった。私のおでこに、ピタッと貼り付ける。貼った瞬間、おでこが、ひんやりとしてきた。冷たくて、とても気持ちがいい。

「ありがとうございます。いつも、薬とか、持ち歩いているんですか?」 
「弟と妹がいますから。あと、小さい子と、接する機会が多いので」

 彼女は、笑顔で静かに答える。

 なるほど、どうりで手際がいいわけだ。彼女のお蔭で、ほんの少しだけど、楽になった。それにしても、本当に、誰かに助けられてばっかりだ。『独り立ちする』と決意した直後に、こんなことになるなんて。本当に、情けない――。

 でも、とにかく今は、目の前の試験に集中しよう。試験に受からなければ、何一つ始まらない。スタート地点にすら、立てないのだから……。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

次回――
『死力を尽くして真っ白に燃え尽きた先にあるものは……』

 それを傲慢と呪うのならば いざ、死力を尽くして来るがいい
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