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第壱蟲 『抑蟲』

執事応答

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「『蟲姫』様。」

 おおよそ二週間振りの訪問者を地上へと送り届けた『生慈』は、己が主である彼女に声をかける。

「なぁに『生慈』?」

 彼女は上機嫌な様子でそう応じ、彼の用意した紅茶を口にする。

「此度の御客様についてなのですが……。」

「あぁミゾレちゃんのこと?」

「……はい。」

「いやぁ、久々の可愛いお客さんだったわ……『噂』というのも捨てた物じゃないわねぇ。」

「左様で御座いますか。」

「えぇ、何だったら二度目の来訪も快く受けてあげたいわ。」

「それは『規則』に反する故に、貴方様に従える身としては御止めする他ありませんが……。」

「冗談よ、冗談。」

「そうですか。」

「ところでアナタ、そのミゾレちゃんについて何か質問があるんじゃなくて?」

「……はい、一点。」

「ふぅん、なぁに?」

「『代償』など、『蟲姫』様の予定には無かったのではないか……と疑問に思いまして。」

「あぁ、そのこと?」

「はい、左様で御座います。」

「そうねぇ……私は何も見返りが欲しくてニンゲンに『蟲』を渡している訳では無いしねぇ。」

「はい、心得ております。」

「今回のも別に『抑蟲』を貸す為の対価として『あんなこと』した訳ではないのよ?」

「……では何故、彼女に接吻をなされたのですか?」

「可愛らしい女の子が目の前で震えてる様って、何だかゾクゾクしちゃうわよねぇ。」

「それは……つまり……。」

「『生慈』……アナタは知らないかも知れないけど、私って可愛いモノには目が無いのよ?」

「……。」

「……いやぁ、怖いわねえ『噂』というものは。」

「左様に御座いますか。」

「ふふふ。」
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