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第四十三話 ベルンへその一
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ベルンへの道程を気狂いじみた方法で進む三人の少年少女が居た。
王都からベルバッハ伯爵領の領都ベルンまでは、馬車で片道十日かかる。
夏の日差しの中を、街道を疾駆する三つの影がある。
明らかに異常とも言える速度で走るのは、ホクト、サクヤ、カジムの三人の少年少女。
全身に魔力を纏い身体強化して走り続ける。その速度は、馬の走る速度を遥かに超えていた。
「ここら辺で休憩しようか」
ホクトが声をかけて街道を外れて足を止める。
「はぁ、はぁ、はぁ、ア、アニキと姐さんに着いて行くのは大変だぜ」
カジムがその場で大の字になり寝転んだ。
「でもカジムは体力の向上は必須だろう」
「そうね、新しい大剣は前の物よりだいぶ重くなってるんだから」
ヴァルハイム領での指名依頼をこなした後、王都へ帰り、ガンツの工房で既製品だがアダマンタイト製の大剣を購入していた。
この大剣は、斬れ味もさる事ながら、とにかく頑丈に出来ている。今回のホクト達の狙いが竜種という事で、ガンツは重くても頑丈なアダマンタイト製の大剣を勧めたのだ。
ガンツもホクト達の装備を造るにあたって、竜種の素材は魅力的だった様で、格安でカジムに売ってくれた。
ホクトが仕留めた黒いオーガの素材は、ガンツ曰く大変貴重なモノだったらしい。
皮は当然、革鎧の材料となるが、ガンツが目をつけたのは長く太い二本の角が良い武器に使えると喜んでいた。
ガンツは現在、採掘した鉱石の精錬作業と、ホクトが持ち込んだ黒いオーガの皮の下処理に追われている。
カジムは、以前使っていた大剣よりもかなり重くなった大剣を扱える様に、ホクトから身体能力の底上げのための修行が始められる事になった。
水を飲んで軽食を食べて休憩を取る。
「魔力は使えば使うほど、魔力量の増加と魔力の使用効率の上昇が見込めるから、今は頑張るしかないな」
とは言っても魔力量が種族的に少ない獣人族にはきつい修行には変わりはない。
「カジムは少ない魔力で出来るだけ効率の良い身体強化を目指さないとな。
僕やサクヤの様に、湯水の如く魔力を注ぎ込んだ身体強化は望めないからね」
「その代わり獣人族特有の持って生まれた、高い身体能力があるけどね」
「い、いや、姐さん、ア、アニキと姐さんの身体能力は、エルフのそれじゃないからな」
未だ息が整わないカジムが、ホクトとサクヤのエルフらしからぬ高い身体能力に言及する。
「まぁ僕らの身体能力が高いのは認めるよ」
「それに魔力量も破格なのもね」
常に魔力を酷使して過ごして来たホクトとサクヤは、魔力の回復スピードも速い。カジムにも魔力の回復速度上昇を身に付けさせる為の訓練でもあった。
休憩を終えて、再び走りだす。
そしてベルンへと向かって進む事三日目に、それと遭遇した。
「なぁアニキ、暴れても良いよな」
毎日の鍛錬でストレスが溜まっているのか、カジムが獰猛な顔で笑う。
「確か近くに街も村も無かった筈だし、2~3人残せばいいよ」
時間は少し戻って。
三人が疾走している時に、ホクトの探知にそれは引っかかった。
ベルバッハ伯爵領の領都ベルンへの街道だけあって、商隊などの馬車が行き交っている。
だが、ホクトが察知したのは、数台の馬車とその周りを護る騎馬、そしてそれを囲むように、少なくとも50人の反応があった。
「サクヤ、カジム、どうやら盗賊に襲われているみたいだ」
「本当ね、助けないと危ないわね」
「盗賊か!盗賊なのか!」
三人はさらにスピードを上げる。
そして見えて来たのは、豪華な馬車が盗賊に襲われている場面だった。周りを護るのは護衛の冒険者じゃなく騎士だという事は、馬車に乗るのは貴族だろう。
「なぁアニキ、暴れても良いよな」
毎日の鍛錬でストレスが溜まっているのか、カジムが獰猛な顔で笑う。
「確か近くに街も村も無かった筈だし、2~3人残せばいいよ」
この国の法律では、盗賊は生かして捕縛する必要はない。捕縛すれば犯罪奴隷として売られる事になるが、近くに街が無い場合、護送の手間を省く為に殺害するのが常識だった。
「くっ、寄せ付けるな!」
矢が降り注ぐ中、必死に部下を鼓舞して剣を振るう。
戦況は圧倒的に不利だった。
護衛の騎士は20人、対する盗賊は50人以上。
一人一人の実力なら盗賊達に騎士が負ける事はないが、矢による奇襲を受け、倍以上の人数差、しかも騎士は馬車を護る為に自由に戦えない。
倒れる騎士が増え始め、このままでは、と最悪の事態が頭をよぎった時、盗賊達の中に火の矢と雷の矢が降り注いだ。
「助太刀します!」
その場にそぐわない透き通った声が聞こえた。
次の瞬間、濃い灰色のローブのフードを被った二人と大剣を振り被る獣人族の少年が、馬車を囲む盗賊に襲いかかった。
「な?! オメェら迎え討て!!」
突然、魔法が降り注ぎ盗賊達は大混乱に陥った。
それもそうだろう。豪華な貴族が使う馬車を襲い、もうあと少しと思った時、いきなり降り注ぐ魔法による攻撃。何が起こったか理解するのに時間が掛かった。
「オラッ!」
カジムの大剣が横薙ぎに振るわれ、盗賊を三人まとめて吹き飛ばすと、盗賊達の身体が千切れ跳ぶ。
「チッ、囲め囲めー!!」
盗賊の中をホクトが舞う。
その度に盗賊の首が跳び、上半身と下半身が泣き別れる。
「こ、こいつ女だぞ!」
四本の十字架型の短剣が宙を舞い、盗賊からの矢や魔法を防ぎ、宙に浮いた短剣から魔法が放たれる。サクヤは同時に倒れた騎士へ治癒魔法を使っていく。
「な、何なんだよこいつら!」
何時の間にか一人残った盗賊の頭の前に、剣をダラリと右手で持ったホクトが近付いて来た。
身長は2メートル近い男に比べ、目の前のフードで顔が隠れた存在は30センチ以上小さい。
「ひっ、ち、近寄るな!」
だが恐怖に後ずさるのは盗賊の方だった。
恐慌をきたした盗賊の頭が、斧を振りかぶりホクトへ襲い掛かる。
振り下ろされる斧を難なく躱し、ホクトと盗賊が交差する。
ホクトが剣を一振りして鞘に収める。
チンッ
鞘が鳴ったあとホクトかわ振り返ると、盗賊の身体が血を吹き臓物を撒き散らしながら斜めにズレて落ちた。
王都からベルバッハ伯爵領の領都ベルンまでは、馬車で片道十日かかる。
夏の日差しの中を、街道を疾駆する三つの影がある。
明らかに異常とも言える速度で走るのは、ホクト、サクヤ、カジムの三人の少年少女。
全身に魔力を纏い身体強化して走り続ける。その速度は、馬の走る速度を遥かに超えていた。
「ここら辺で休憩しようか」
ホクトが声をかけて街道を外れて足を止める。
「はぁ、はぁ、はぁ、ア、アニキと姐さんに着いて行くのは大変だぜ」
カジムがその場で大の字になり寝転んだ。
「でもカジムは体力の向上は必須だろう」
「そうね、新しい大剣は前の物よりだいぶ重くなってるんだから」
ヴァルハイム領での指名依頼をこなした後、王都へ帰り、ガンツの工房で既製品だがアダマンタイト製の大剣を購入していた。
この大剣は、斬れ味もさる事ながら、とにかく頑丈に出来ている。今回のホクト達の狙いが竜種という事で、ガンツは重くても頑丈なアダマンタイト製の大剣を勧めたのだ。
ガンツもホクト達の装備を造るにあたって、竜種の素材は魅力的だった様で、格安でカジムに売ってくれた。
ホクトが仕留めた黒いオーガの素材は、ガンツ曰く大変貴重なモノだったらしい。
皮は当然、革鎧の材料となるが、ガンツが目をつけたのは長く太い二本の角が良い武器に使えると喜んでいた。
ガンツは現在、採掘した鉱石の精錬作業と、ホクトが持ち込んだ黒いオーガの皮の下処理に追われている。
カジムは、以前使っていた大剣よりもかなり重くなった大剣を扱える様に、ホクトから身体能力の底上げのための修行が始められる事になった。
水を飲んで軽食を食べて休憩を取る。
「魔力は使えば使うほど、魔力量の増加と魔力の使用効率の上昇が見込めるから、今は頑張るしかないな」
とは言っても魔力量が種族的に少ない獣人族にはきつい修行には変わりはない。
「カジムは少ない魔力で出来るだけ効率の良い身体強化を目指さないとな。
僕やサクヤの様に、湯水の如く魔力を注ぎ込んだ身体強化は望めないからね」
「その代わり獣人族特有の持って生まれた、高い身体能力があるけどね」
「い、いや、姐さん、ア、アニキと姐さんの身体能力は、エルフのそれじゃないからな」
未だ息が整わないカジムが、ホクトとサクヤのエルフらしからぬ高い身体能力に言及する。
「まぁ僕らの身体能力が高いのは認めるよ」
「それに魔力量も破格なのもね」
常に魔力を酷使して過ごして来たホクトとサクヤは、魔力の回復スピードも速い。カジムにも魔力の回復速度上昇を身に付けさせる為の訓練でもあった。
休憩を終えて、再び走りだす。
そしてベルンへと向かって進む事三日目に、それと遭遇した。
「なぁアニキ、暴れても良いよな」
毎日の鍛錬でストレスが溜まっているのか、カジムが獰猛な顔で笑う。
「確か近くに街も村も無かった筈だし、2~3人残せばいいよ」
時間は少し戻って。
三人が疾走している時に、ホクトの探知にそれは引っかかった。
ベルバッハ伯爵領の領都ベルンへの街道だけあって、商隊などの馬車が行き交っている。
だが、ホクトが察知したのは、数台の馬車とその周りを護る騎馬、そしてそれを囲むように、少なくとも50人の反応があった。
「サクヤ、カジム、どうやら盗賊に襲われているみたいだ」
「本当ね、助けないと危ないわね」
「盗賊か!盗賊なのか!」
三人はさらにスピードを上げる。
そして見えて来たのは、豪華な馬車が盗賊に襲われている場面だった。周りを護るのは護衛の冒険者じゃなく騎士だという事は、馬車に乗るのは貴族だろう。
「なぁアニキ、暴れても良いよな」
毎日の鍛錬でストレスが溜まっているのか、カジムが獰猛な顔で笑う。
「確か近くに街も村も無かった筈だし、2~3人残せばいいよ」
この国の法律では、盗賊は生かして捕縛する必要はない。捕縛すれば犯罪奴隷として売られる事になるが、近くに街が無い場合、護送の手間を省く為に殺害するのが常識だった。
「くっ、寄せ付けるな!」
矢が降り注ぐ中、必死に部下を鼓舞して剣を振るう。
戦況は圧倒的に不利だった。
護衛の騎士は20人、対する盗賊は50人以上。
一人一人の実力なら盗賊達に騎士が負ける事はないが、矢による奇襲を受け、倍以上の人数差、しかも騎士は馬車を護る為に自由に戦えない。
倒れる騎士が増え始め、このままでは、と最悪の事態が頭をよぎった時、盗賊達の中に火の矢と雷の矢が降り注いだ。
「助太刀します!」
その場にそぐわない透き通った声が聞こえた。
次の瞬間、濃い灰色のローブのフードを被った二人と大剣を振り被る獣人族の少年が、馬車を囲む盗賊に襲いかかった。
「な?! オメェら迎え討て!!」
突然、魔法が降り注ぎ盗賊達は大混乱に陥った。
それもそうだろう。豪華な貴族が使う馬車を襲い、もうあと少しと思った時、いきなり降り注ぐ魔法による攻撃。何が起こったか理解するのに時間が掛かった。
「オラッ!」
カジムの大剣が横薙ぎに振るわれ、盗賊を三人まとめて吹き飛ばすと、盗賊達の身体が千切れ跳ぶ。
「チッ、囲め囲めー!!」
盗賊の中をホクトが舞う。
その度に盗賊の首が跳び、上半身と下半身が泣き別れる。
「こ、こいつ女だぞ!」
四本の十字架型の短剣が宙を舞い、盗賊からの矢や魔法を防ぎ、宙に浮いた短剣から魔法が放たれる。サクヤは同時に倒れた騎士へ治癒魔法を使っていく。
「な、何なんだよこいつら!」
何時の間にか一人残った盗賊の頭の前に、剣をダラリと右手で持ったホクトが近付いて来た。
身長は2メートル近い男に比べ、目の前のフードで顔が隠れた存在は30センチ以上小さい。
「ひっ、ち、近寄るな!」
だが恐怖に後ずさるのは盗賊の方だった。
恐慌をきたした盗賊の頭が、斧を振りかぶりホクトへ襲い掛かる。
振り下ろされる斧を難なく躱し、ホクトと盗賊が交差する。
ホクトが剣を一振りして鞘に収める。
チンッ
鞘が鳴ったあとホクトかわ振り返ると、盗賊の身体が血を吹き臓物を撒き散らしながら斜めにズレて落ちた。
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