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第四十四話 ベルンへその二
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まるで夢でも見ているようだった。
それは突然の事だった。
見通しの悪い曲がり道に差し掛かった時、突然左右から矢の雨が降り注いだのだ。
盗賊の襲撃だ。
こんな場所でと歯噛みする。何故ならこの場所は何処の街へも距離がある。助けを求める事は難しい。
我等護衛の騎士二十名はすぐさま盾を掲げ馬車を護る。
時間が経つにつれ、護衛の騎士が倒れていく。
個の力では負けはしないが、倍以上の人数差がある私達はジリ貧に陥りつつあった。
もうこれまでかと思ったその時、盗賊に魔法を降り注いだ。
「助太刀します!」
その場にそぐわない少年の声が響く。
次の瞬間、濃い灰色のローブのフードを被った二人と大剣を振り被る獣人族の少年が、馬車を囲む盗賊に襲いかかった。
「な?! オメェら迎え討て!!」
そこからは魔法が降り注ぎ盗賊達は大混乱に陥った。
「オラッ!」
獣人族の男が大剣を横薙ぎに振るい、盗賊を三人まとめて吹き飛ばした。
フードを被った二人はあきらかに大人の体格ではなかったが、少年の舞うような剣捌き、少女が使う不思議な魔導具による結界と法撃。
五十人以上居た盗賊は何時の間にか全て倒されていた。
少女らしき人物は戦いながら、倒れた騎士達へ治癒魔法を掛けていた。
やがて三人が近寄って来る。助けて貰った事は分かっているが、自然と私達は剣を持つ手に力が入る。
「あ~、見た事ある紋章だな~」
「そうね、多分ホクトの正解よ」
「??」
盗賊に襲われていた豪華な馬車には、ホクトとサクヤが見知った、いや、ロマリア王国の貴族なら知っていて当然の紋章が刻まれていた。
「助太刀感謝致す。私はロマリア王国第三騎士団ウルド・ドレクスタ、貴方達は?」
馬車を護る騎士の一人がホクト達を誰何して来た。
ホクトとサクヤが被っていたフードを外す。
騎士達が息を呑むのが分かった。
「カイン・フォン・ヴァルハイム子爵の三男、ホクト・フォン・ヴァルハイム男爵です」
「エルビス・フォン・アーレンベルク辺境伯の義娘、サクヤ・アーレンベルクです」
「俺はホクトアニキの弟子、バーキラ王国のバルガ氏族のカジムだ」
ホクトとサクヤが顔を見せた瞬間に驚いた騎士達の顔は、その後ホクト達が自己紹介した途端に愕然とした顔に変わる。
「ヴァルハイム男爵に、アーレンベルク辺境伯の義娘殿?!」
その時、馬車から一人の少女が降りて来た。
「ホクト様、サクヤ様、カジム様、この度は助けていただきありがとうございます」
馬車から降りて来たのは、王立ロマリア学園一学年Aクラスのクラスメートであり、ロマリア王国第四王女フランソワ・ロマリアだった。
「フランソワ様、ご無事でなによりです」
「お怪我はございませんか?」
ホクトとサクヤがフランソワの前で跪く。
「どうぞお立ち下さい。
私達はクラスメートなのですから。何時もの様に接して下さい。それにホクト様達は私の命の恩人なのですから」
盗賊に襲われて余程怖かったのだろう。青い顔をしていたフランソワだが、ホクト達を見て少し安心したのか、ホッとした様子をみせる。
「それで、ホクト様達はどうして此処に?」
「僕達はベルンへ行く途中です。そこで偶然盗賊に襲われている馬車を見つけたもので……」
「フランソワ様、この場は早く離れた方が良いと思われます。血の匂いで魔物が集まって来るかもしれません」
ホクトがフランソワに説明していると、護衛の騎士がこの場を早く離れるべきと進言して来た。
「私達もベルンへ行く途中なのですから、それならホクト様達もご一緒にいかがですか?」
そこでホクトが首を横に振る。
「フランソワ様、僕達は盗賊達の後始末をしますので、フランソワ様はお先にどうぞ」
「ヴァルハイム卿、かたじけない」
フランソワは残念な様子だったが、さすがに盗賊の死体が散乱するこの場を一刻も早く離れたい気持ちも大きかったのだろう。馬車に乗り込み離れて行った。
「さて、何人生き残ってる?」
「アニキ、五人息があるぞ。こいつらどうするんだ?」
カジムが息がある気絶した盗賊を集めて来る。
「アジトを聞き出して潰しておかないと、街道を利用する商人達が、また襲われるかもしれないからね」
ホクトは、カジムが縛りあげた盗賊に近付き尋問する。
「お前達のアジトは何処にある」
「クソッ!ガキどもが、離しやがれ!」
「俺達にこんな事してどうなるか分かってんのか!」
悪態を吐く縛られた盗賊達を苦笑するホクト。
「バカはお前達だろ。周りをよく見てみろ」
そこで漸く事態が飲み込めた盗賊達の顔が青くなる。
「尋問するのも面倒だな」
ホクトはそう言うと闇魔法のヒュプノスを使う。
騒いでいた盗賊達が眠りにおちる。
闇魔法ヒュプノス、それは眠りの中で自在に操る魔法。それを使いアジトの場所を聞き出すホクト。
「めぼしい物は回収したぜアニキ!」
盗賊の死体を集め、カジムがステータスプレートと金目の物を回収していた。生き残っていた五人も二度と目覚める事はない。ここが街から遠かった事が盗賊の運命を決めた。
「じゃあアジトへ行くか」
幸いにしてアジトに盗賊の被害者は居ない事は確認出来た。アジトに残るのは10人の留守番役だけだ。
サクヤが積み上げられた盗賊の死体を、骨が灰になるまで燃やし尽くす。
その後、アジトを急襲したホクト達は、盗賊がアジトに貯め込んだ金目の物を回収する。
「主要な街道沿いを縄張りにしていただけあって、なかなか稼いでいたみたいだな」
「現金と宝石に魔導具か、儲けたなアニキ」
「食料やお酒は焼いちゃうわね」
サクヤが盗賊のアジトで不必要な物を焼却する。
「さて、遅れた分ペースを上げるぞ」
「げっ!マジで!」
アジトを潰したあと、ホクトが爽やかに言い放った言葉にカジムの顔が凍りつく。
再び人外の速度で疾走し始めたホクト達は、馬車で十日かかるベルンへ四日でたどり着いた。
それは突然の事だった。
見通しの悪い曲がり道に差し掛かった時、突然左右から矢の雨が降り注いだのだ。
盗賊の襲撃だ。
こんな場所でと歯噛みする。何故ならこの場所は何処の街へも距離がある。助けを求める事は難しい。
我等護衛の騎士二十名はすぐさま盾を掲げ馬車を護る。
時間が経つにつれ、護衛の騎士が倒れていく。
個の力では負けはしないが、倍以上の人数差がある私達はジリ貧に陥りつつあった。
もうこれまでかと思ったその時、盗賊に魔法を降り注いだ。
「助太刀します!」
その場にそぐわない少年の声が響く。
次の瞬間、濃い灰色のローブのフードを被った二人と大剣を振り被る獣人族の少年が、馬車を囲む盗賊に襲いかかった。
「な?! オメェら迎え討て!!」
そこからは魔法が降り注ぎ盗賊達は大混乱に陥った。
「オラッ!」
獣人族の男が大剣を横薙ぎに振るい、盗賊を三人まとめて吹き飛ばした。
フードを被った二人はあきらかに大人の体格ではなかったが、少年の舞うような剣捌き、少女が使う不思議な魔導具による結界と法撃。
五十人以上居た盗賊は何時の間にか全て倒されていた。
少女らしき人物は戦いながら、倒れた騎士達へ治癒魔法を掛けていた。
やがて三人が近寄って来る。助けて貰った事は分かっているが、自然と私達は剣を持つ手に力が入る。
「あ~、見た事ある紋章だな~」
「そうね、多分ホクトの正解よ」
「??」
盗賊に襲われていた豪華な馬車には、ホクトとサクヤが見知った、いや、ロマリア王国の貴族なら知っていて当然の紋章が刻まれていた。
「助太刀感謝致す。私はロマリア王国第三騎士団ウルド・ドレクスタ、貴方達は?」
馬車を護る騎士の一人がホクト達を誰何して来た。
ホクトとサクヤが被っていたフードを外す。
騎士達が息を呑むのが分かった。
「カイン・フォン・ヴァルハイム子爵の三男、ホクト・フォン・ヴァルハイム男爵です」
「エルビス・フォン・アーレンベルク辺境伯の義娘、サクヤ・アーレンベルクです」
「俺はホクトアニキの弟子、バーキラ王国のバルガ氏族のカジムだ」
ホクトとサクヤが顔を見せた瞬間に驚いた騎士達の顔は、その後ホクト達が自己紹介した途端に愕然とした顔に変わる。
「ヴァルハイム男爵に、アーレンベルク辺境伯の義娘殿?!」
その時、馬車から一人の少女が降りて来た。
「ホクト様、サクヤ様、カジム様、この度は助けていただきありがとうございます」
馬車から降りて来たのは、王立ロマリア学園一学年Aクラスのクラスメートであり、ロマリア王国第四王女フランソワ・ロマリアだった。
「フランソワ様、ご無事でなによりです」
「お怪我はございませんか?」
ホクトとサクヤがフランソワの前で跪く。
「どうぞお立ち下さい。
私達はクラスメートなのですから。何時もの様に接して下さい。それにホクト様達は私の命の恩人なのですから」
盗賊に襲われて余程怖かったのだろう。青い顔をしていたフランソワだが、ホクト達を見て少し安心したのか、ホッとした様子をみせる。
「それで、ホクト様達はどうして此処に?」
「僕達はベルンへ行く途中です。そこで偶然盗賊に襲われている馬車を見つけたもので……」
「フランソワ様、この場は早く離れた方が良いと思われます。血の匂いで魔物が集まって来るかもしれません」
ホクトがフランソワに説明していると、護衛の騎士がこの場を早く離れるべきと進言して来た。
「私達もベルンへ行く途中なのですから、それならホクト様達もご一緒にいかがですか?」
そこでホクトが首を横に振る。
「フランソワ様、僕達は盗賊達の後始末をしますので、フランソワ様はお先にどうぞ」
「ヴァルハイム卿、かたじけない」
フランソワは残念な様子だったが、さすがに盗賊の死体が散乱するこの場を一刻も早く離れたい気持ちも大きかったのだろう。馬車に乗り込み離れて行った。
「さて、何人生き残ってる?」
「アニキ、五人息があるぞ。こいつらどうするんだ?」
カジムが息がある気絶した盗賊を集めて来る。
「アジトを聞き出して潰しておかないと、街道を利用する商人達が、また襲われるかもしれないからね」
ホクトは、カジムが縛りあげた盗賊に近付き尋問する。
「お前達のアジトは何処にある」
「クソッ!ガキどもが、離しやがれ!」
「俺達にこんな事してどうなるか分かってんのか!」
悪態を吐く縛られた盗賊達を苦笑するホクト。
「バカはお前達だろ。周りをよく見てみろ」
そこで漸く事態が飲み込めた盗賊達の顔が青くなる。
「尋問するのも面倒だな」
ホクトはそう言うと闇魔法のヒュプノスを使う。
騒いでいた盗賊達が眠りにおちる。
闇魔法ヒュプノス、それは眠りの中で自在に操る魔法。それを使いアジトの場所を聞き出すホクト。
「めぼしい物は回収したぜアニキ!」
盗賊の死体を集め、カジムがステータスプレートと金目の物を回収していた。生き残っていた五人も二度と目覚める事はない。ここが街から遠かった事が盗賊の運命を決めた。
「じゃあアジトへ行くか」
幸いにしてアジトに盗賊の被害者は居ない事は確認出来た。アジトに残るのは10人の留守番役だけだ。
サクヤが積み上げられた盗賊の死体を、骨が灰になるまで燃やし尽くす。
その後、アジトを急襲したホクト達は、盗賊がアジトに貯め込んだ金目の物を回収する。
「主要な街道沿いを縄張りにしていただけあって、なかなか稼いでいたみたいだな」
「現金と宝石に魔導具か、儲けたなアニキ」
「食料やお酒は焼いちゃうわね」
サクヤが盗賊のアジトで不必要な物を焼却する。
「さて、遅れた分ペースを上げるぞ」
「げっ!マジで!」
アジトを潰したあと、ホクトが爽やかに言い放った言葉にカジムの顔が凍りつく。
再び人外の速度で疾走し始めたホクト達は、馬車で十日かかるベルンへ四日でたどり着いた。
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