酒呑童子 遥かなる転生の果てに

小狐丸

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閑話 衝撃 ホクト・フォン・ヴァルハイム

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 馬車が盗賊に襲われてから五日目、フランソワはベルンへとたどり着いた。

 フランソワはベルバッハ伯爵の出迎えを受ける。
 ロムレス・フォン・ベルバッハ伯爵はフランソワの祖父にあたる。

 現王妃のシルビアの父がベルバッハ伯爵だった。

「盗賊に襲われたと聞いたが、大事なかったかフランソワ」

「はい、お祖父様」

 フランソワは盗賊に襲われ、ホクトに助けられた経緯を話す。

「ウルド、詳しく聞かせてくれるか」

 場所をベルンの領主館へ移し、警護担当の責任者、ロマリア王国第三騎士団ウルド・ドレクスタは、盗賊に襲われてからの事を詳細に報告する。




 ロマリア王国の第三騎士団を預かる私ウルドは、ホクト・フォン・ヴァルハイムという少年と邂逅を果たす。

 騎士団長として、それなりに剣の腕には自信も誇りもあった。しかし彼の流れる様に舞う剣捌きを見た時、どれ程の差があるのかさえ、わからなかった。

 獣人族の少年の大剣も豪快で力強くマネできないモノだろう。
 アーレンベルク辺境伯の養女、サクヤ殿の戦闘しながら味方を治癒する技量も驚くべきモノだろう。

 だが、騎士たる私はホクト殿の姿が目に焼き付いてしまった。

「それ程までか、ヴァルハイム子爵の三男だったか……」

「畏れながら、ホクト殿は多分実力の1/10も出していなかったと思われます」

 ロムレスが唸るが、ウルドはホクトはまだまだ力を見せていないと言う。

「何故そう思う」

「ホクト殿は、魔力による身体強化を使っている気配がありませんでした。それに彼は入学試験でAランク冒険者、炎剣のジード殿を圧倒したと聞きます」

「其奴は本当にエルフなのか?
 エルフらしからぬ武人ではないか」

 ロムレスのイメージにあるエルフは、弓を使う森の住人。しかし、よく誤解されるのだが、実際のエルフという種族は、人族と比べても身体能力は高い。その美男美女が多い容姿と、精霊魔法を始めとする魔法を得意とする種族というイメージから、屈強な戦士のイメージと結びつかないのだろう。

 ウルドがそれを説明する。

「何と、それではエルフよりも人族が優れているのは数だけか」

「ですが、ホクト殿の武は、種族がどうとかと言うレベルを超えています。学園に入学したばかりの十二歳の少年が、どうしてあの様な力を身につけたのか…………、大戦の英雄の息子というだけでは説明出来ません」

「アーレンベルク卿は上手くやったのう」

 ホクトが男爵に叙爵され、アーレンベルク辺境伯がサクヤを養女にして婚約を発表した事は、当然ロムレスも知っている。
 領地は北の端と南の端で離れているが、ホクト達の婚約自体は、大々的にお披露目されたので、ベルバッハ伯爵としては知っていて当然だった。
 だが、北の端と南の端に離れた距離故に、ヴァルハイム家の三男が麒麟児だったという事実を、婚約発表後の調査で漸く知る事になる。

「それで、そのホクト殿達はどうしたのだ?」

「盗賊の後始末を引き受けられ、その後ベルンを目指すと仰っていました。
 ただ、今回は貴族の男爵としてではなく、冒険者のホクト殿として活動しているようです」

「どうしてそう言い切れる?」

 ロムレスが疑問をウルドに問うが、答えは簡単だった。

「ホクト殿もサクヤ殿も革鎧を装備していましたし、何より…………」

「何より何じゃ?」

 その先を言い淀むウルドにロムレスが問いただす。

「信じられない事に、あの三人は走って移動していたのです」

「…………………………」

「えっ、…………ウルド、本当に?」

 ロムレスは絶句し、フランソワも信じられない様だった。

「これは他の騎士達の証言もあります。
 私は盗賊に魔法が撃ち込まれて気が付きましたが、たまたま見ていた騎士がいました。
 その後、獣人族の少年に聞いたそうです」 

「カジム様が走って移動していると言ったの?」

 フランソワには、王都から走ってベルンへ向かう人間がいる事を信じられない。

「ええ、どうやらそのカジムという獣人族の少年は、ホクト殿に弟子入りしている様で、その修行の一環だそうです」

 そこまでウルドが言うと、ロムレスもフランソワも呆気に取られる。

「何だかもう訳がわからんのう」

「ホクト様達がベルンに来られてからお話を聞きたいですわね」

「いえ、フランソワ様。ホクト殿達は三日前にベルンに到着している様です。門の通行記録と、冒険者ギルドに確認しています」

「……えっと、いつ追い抜かれたの?」

 頭の追いつかないフランソワが聞く。

「修行ですから、街道以外を走っていたのでしょうね。
 一応、冒険者ギルドへフランソワ様から面会希望を出して置きます」

「…………お願いします」

 フランソワとしてはそうしか言えなかった。
 王宮で育ったフランソワにとって、ホクト達は異次元の存在だった。
 盗賊に襲われた衝撃が、ホクトというさらなる衝撃のお陰で、トラウマに怯える事がなかったのは幸いと言えるだろう。



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