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第五十話 王都の休日
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夏季休暇も残りあと僅かとなったある日、ガンツの工房へ通い詰めていたホクトも今日は家でゆっくりしていた。
最近、鍛治に熱中していた為に、魔導具の研究や製作にあてる時間が取れなかった。
夏季休暇が明けると、学園は武闘大会が始まるのだが、ホクトは訳あって参加資格がなかった。
入学試験でAランク冒険者を相手に圧倒したのだから、当然こうなる事は予想出来た。
サクヤも同じく大会参加資格はない。
お陰でカジムは一人張り切っている。
カジムは実技試験で対戦相手と拮抗した良い勝負をしたらしいが、ホクトやサクヤの様に騎士や高ランク冒険者相手に圧倒した訳ではなかったので、大会参加資格を取り上げられる事はなかった。
実は今のカジムなら、ホクトが試験で対戦した炎剣のジード相手に圧倒出来る実力を付けている。
一人家で引きこもるのも勿体無いので、今日は王立の図書館へ行く事にする。
学園の図書館も膨大な蔵書を誇るが、王立図書館も貴重な本、所謂禁書の類も充実している。
禁書と言うからには、簡単に閲覧出来ないのだが、閲覧資格が男爵位以上で事前申請が必要だと聞いて、ホクトは初めて男爵に叙爵されて良かったと思える事だった。
早速、ホクトは禁書の閲覧申請を出したのだが、さすがに禁書と呼ばれるだけあって、未だに閲覧許可は出ていない。
一人図書館で魔法書を読むホクト。
彼が調べているのは二学年から受講出来る召喚魔法について記されたもの。他には最新の魔導具と古代文明の遺跡より発掘された魔導具について記されたもの。何冊も積み重ねて黙々と読み込み、気になった箇所を書き出して行く。
召喚魔法については触りだけサラッと読むに留めている。何故なら召喚魔法については、禁書庫の方に重要な情報が得られると確信しているから。
召喚魔法、様々な召喚魔法が存在するが、中には禁忌とされるモノもある。
魔物を契約で縛る召喚魔法。これは、目的の魔物へ召喚魔法を発動し契約する。術者と魔物の力量差が大きいと契約出来ない。勿論、術者側の力が魔物に及ばない場合という事だ。
一角ウサギなどの弱い魔物を愛玩用に召喚契約する者も居る。
同じく魔物を従わせる手段として、魔物使いが使うテイムがあるが、決定的に違うのは、召喚魔法はその時の如く、魔法で契約対象を呼び出したり返したり出来る(召喚・送還)。この場合の返すと言うのは、術者の魔力エリアと呼ばれる場所である。これに対して魔物使いのテイムした魔物は、従魔契約での繋がりはあるが、召喚や送還は出来ない。
しかも従魔契約は非常に縛りが緩い契約で、ペットに毛の生えた程度の制御しか出来ない。
もう一つの召喚魔法は、禁書に記された危険な召喚魔法。
儀式場に召喚魔法陣を描き発動する、この召喚魔法は、精霊界、魔界、神界と魔力のパスを繋ぎ、術者の魔力と地脈の力を使い、依代へと憑依させることで、顕現させる方法で、術者の魔力の量と質、依代になる媒体により召喚される神霊、精霊、悪魔の能力が変化する。
アストラル界の存在に実体を与えるこの召喚魔法は、非常に強力な存在を召喚してしまう危険性と隣り合わせだ。
術者が召喚対象に殺されるばかりか、周辺を含め大災害となる事故も珍しくない。
当然、学園で教えるのは前者の方だ。
禁書となっているのは、この召喚魔法に使われる魔法陣の部分。魔法陣の記述で、どこのアストラル界から召喚するのかを指定する記述や、契約対象を縛る契約の記述など、重要な情報が禁書には記されている。
ただ、これにも例外はあって、ゴーレムの核に心霊や動物霊を召喚して宿す事は、難易度はグッと下がり、研究者も一定数存在する。だが心霊を宿すのは倫理的に問題があるだろうが。
ゴーレムはこの方法以外にも、コンピューターのプログラミングのようにゴーレムコアに簡単な命令を書き込み使役する方法がある。
ホクト自身は召喚魔法にそれ程興味がある訳ではないのだが、後衛職のサクヤの護衛や斥候に使えないかと調べている。
ホクトが読書に集中していると、ふと良く知る気配が近付いて来る。
本から目を離して気配のした方を見ると、サクヤがニコニコしながら向かい側に座った。
「如何したの?今日は部屋の片付けをするって言ってたよね」
「もう、何時だと思ってるのよ。とっくに終わったわよ」
サクヤに言われて随分時間が経っていた事に気がつく。
「そろそろ帰ろうか」
サクヤに手伝って貰い、本をもとの場所に戻して図書館をあとにする。
「何を調べていたの?」
「召喚魔法についての本を何冊かね」
二人で屋敷までの帰り道を手を繋いで歩くホクトとサクヤ。
ホクトはサクヤに、来年度の授業で選択可能な召喚魔法を調べていたと説明する。
召喚魔法と聞いて、ホクトらしくないと思ったのか、サクヤが首をかしげる。
「まあね、僕がって言うよりサクヤ用かな」
ホクトがそう言うと、サクヤが嬉しそうに笑う。
「フフッ、相変わらず優しいわね」
機嫌の良くなったサクヤとテレるホクトは、陽が傾き始めた王都を歩く。
長く伸ばした影を繋げながら。
最近、鍛治に熱中していた為に、魔導具の研究や製作にあてる時間が取れなかった。
夏季休暇が明けると、学園は武闘大会が始まるのだが、ホクトは訳あって参加資格がなかった。
入学試験でAランク冒険者を相手に圧倒したのだから、当然こうなる事は予想出来た。
サクヤも同じく大会参加資格はない。
お陰でカジムは一人張り切っている。
カジムは実技試験で対戦相手と拮抗した良い勝負をしたらしいが、ホクトやサクヤの様に騎士や高ランク冒険者相手に圧倒した訳ではなかったので、大会参加資格を取り上げられる事はなかった。
実は今のカジムなら、ホクトが試験で対戦した炎剣のジード相手に圧倒出来る実力を付けている。
一人家で引きこもるのも勿体無いので、今日は王立の図書館へ行く事にする。
学園の図書館も膨大な蔵書を誇るが、王立図書館も貴重な本、所謂禁書の類も充実している。
禁書と言うからには、簡単に閲覧出来ないのだが、閲覧資格が男爵位以上で事前申請が必要だと聞いて、ホクトは初めて男爵に叙爵されて良かったと思える事だった。
早速、ホクトは禁書の閲覧申請を出したのだが、さすがに禁書と呼ばれるだけあって、未だに閲覧許可は出ていない。
一人図書館で魔法書を読むホクト。
彼が調べているのは二学年から受講出来る召喚魔法について記されたもの。他には最新の魔導具と古代文明の遺跡より発掘された魔導具について記されたもの。何冊も積み重ねて黙々と読み込み、気になった箇所を書き出して行く。
召喚魔法については触りだけサラッと読むに留めている。何故なら召喚魔法については、禁書庫の方に重要な情報が得られると確信しているから。
召喚魔法、様々な召喚魔法が存在するが、中には禁忌とされるモノもある。
魔物を契約で縛る召喚魔法。これは、目的の魔物へ召喚魔法を発動し契約する。術者と魔物の力量差が大きいと契約出来ない。勿論、術者側の力が魔物に及ばない場合という事だ。
一角ウサギなどの弱い魔物を愛玩用に召喚契約する者も居る。
同じく魔物を従わせる手段として、魔物使いが使うテイムがあるが、決定的に違うのは、召喚魔法はその時の如く、魔法で契約対象を呼び出したり返したり出来る(召喚・送還)。この場合の返すと言うのは、術者の魔力エリアと呼ばれる場所である。これに対して魔物使いのテイムした魔物は、従魔契約での繋がりはあるが、召喚や送還は出来ない。
しかも従魔契約は非常に縛りが緩い契約で、ペットに毛の生えた程度の制御しか出来ない。
もう一つの召喚魔法は、禁書に記された危険な召喚魔法。
儀式場に召喚魔法陣を描き発動する、この召喚魔法は、精霊界、魔界、神界と魔力のパスを繋ぎ、術者の魔力と地脈の力を使い、依代へと憑依させることで、顕現させる方法で、術者の魔力の量と質、依代になる媒体により召喚される神霊、精霊、悪魔の能力が変化する。
アストラル界の存在に実体を与えるこの召喚魔法は、非常に強力な存在を召喚してしまう危険性と隣り合わせだ。
術者が召喚対象に殺されるばかりか、周辺を含め大災害となる事故も珍しくない。
当然、学園で教えるのは前者の方だ。
禁書となっているのは、この召喚魔法に使われる魔法陣の部分。魔法陣の記述で、どこのアストラル界から召喚するのかを指定する記述や、契約対象を縛る契約の記述など、重要な情報が禁書には記されている。
ただ、これにも例外はあって、ゴーレムの核に心霊や動物霊を召喚して宿す事は、難易度はグッと下がり、研究者も一定数存在する。だが心霊を宿すのは倫理的に問題があるだろうが。
ゴーレムはこの方法以外にも、コンピューターのプログラミングのようにゴーレムコアに簡単な命令を書き込み使役する方法がある。
ホクト自身は召喚魔法にそれ程興味がある訳ではないのだが、後衛職のサクヤの護衛や斥候に使えないかと調べている。
ホクトが読書に集中していると、ふと良く知る気配が近付いて来る。
本から目を離して気配のした方を見ると、サクヤがニコニコしながら向かい側に座った。
「如何したの?今日は部屋の片付けをするって言ってたよね」
「もう、何時だと思ってるのよ。とっくに終わったわよ」
サクヤに言われて随分時間が経っていた事に気がつく。
「そろそろ帰ろうか」
サクヤに手伝って貰い、本をもとの場所に戻して図書館をあとにする。
「何を調べていたの?」
「召喚魔法についての本を何冊かね」
二人で屋敷までの帰り道を手を繋いで歩くホクトとサクヤ。
ホクトはサクヤに、来年度の授業で選択可能な召喚魔法を調べていたと説明する。
召喚魔法と聞いて、ホクトらしくないと思ったのか、サクヤが首をかしげる。
「まあね、僕がって言うよりサクヤ用かな」
ホクトがそう言うと、サクヤが嬉しそうに笑う。
「フフッ、相変わらず優しいわね」
機嫌の良くなったサクヤとテレるホクトは、陽が傾き始めた王都を歩く。
長く伸ばした影を繋げながら。
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