酒呑童子 遥かなる転生の果てに

小狐丸

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第五十二話 ホクトの剣

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 ホクト達が通う学園は、週に五日通い二日休むスケジュールだ。

 休みの日に頻繁に出掛けるホクトに、母のフローラは、可愛い息子にかまえずに不満を言ったが、ホクトもガンツの工房で作業が楽しくて、ついつい連日出掛けてしまう。


 ガンツの工房で現在取り組んでいるのは、ホクトの剣の作刀である。

 防御力に特化しているとはいえ、下位竜である地竜を斬るために、剣を一振りダメにしている。
 今、ホクトが求めているのは、魔法剣に耐えれる剣だった。
 この剣には、刻印は行わない方針が決められた。刻印で属性を付与すると、決まった属性の魔法剣になってしまうからだ。
 相手の弱点によって魔法属性を変えて使いたいホクトの希望にそって、強化系と耐性系のエンチャントにとどめる事が決まった。

 ホクトは、この一振りの為に錬金術の研究にも取り組んだ。
 錬金術で精錬したオリハルコンやミスリルのインゴットに、極少量の炭素、クロム、ニッケル、チタン、竜の鱗、竜の牙などを混ぜてみて、性質の変化を調べて行った。

 そしてオリハルコンをベースにした合金で、靭性を高めた心鉄と棟鉄、硬度を高めた皮鉄と刃鉄の四種類を四方詰めで作刀する事が決まる。

 オリハルコン合金は魔力伝導性が極めて高く、同時に硬度もミスリルを遥かに凌駕する。ホクトの剣に相応しい剣になるだろう。

 ガンツとホクトが魔力を込めながら槌を振るう。

「さすがオリハルコンじゃ、エンチャントを掛けれる容量が多いのう」

「その分、大量の魔力が持っていかれましたけどね」

 膨大な魔力量を誇るホクトをして、このエンチャントには大量の魔力を消費した。
 エンチャントは、その素材によって幾つ掛けれるのか差が出てくる。ホクトの剣に掛けられたエンチャントは、【硬化・靭性強化・斬撃強化・腐食耐性・自動修復】だ。
 この剣は、ホクトの膨大な魔力を前提とした剣。
 他者が使っても名剣となり得る剣だが、ホクトが使ってこそその力を発揮する。



「不思議なもんじゃな、土を厚く盛った部分がゆっくりと冷えるのは分かるが、薄く塗った方が土を盛らないよりも冷却速度が速くなるのか」

 棟側と刃側の焼刃土を盛る厚さの違いによる冷却速度の違いで、日本刀特有の反りが生じる。
 この焼入れによる刃側と棟側の体積膨張の差によって反りが生じるのだが、同時に刃部に圧縮応力、棟部に引張応力が生じることで力学的バランスが保たれる。この応力を残留応力といい、素材のオリハルコンを超える強さに剣を強化する。

 焼入れの温度も何度となく試行錯誤したが、火魔法で均一に金属の温度を上げる事が出来るので、この期間で最適な焼入れ温度が見つけられた。



「ふむ、良い出来じゃと思うぞ」

 カジムが焼き戻し、荒砥した刀身を見つめて満足気に頷く。


 刃長86センチ、反り2センチ、鋒両刃造り、庵棟、身幅広く(5センチ)、重ね厚く(1センチ)、小乱れの刃文がこの世界では見る事のない剣の姿を見せていた。
 その姿は、身幅が日本刀の倍程になり、その分重ねも厚くなっている。その重量も3キロを超え、ホクトの身体能力と魔力による身体強化のお陰で自在に操れる。

 拵えもガンツとホクトが協力して造り、鞘は地竜の骨から造られ、柄はトレント素材にワイバーンレザーを巻き付け、アラクネの糸を撚り柄巻き糸とした。拵えにも強化と防汚のエンチャントを掛けてある。

「……………………」

 白銀に輝く刀身は、見るものを引きつける美しさと凄みを感じ、見つめるホクトも声がでなかった。

 その場で剣に魔力を流す。

 刀身は、青白い炎を纏い、次の瞬間、黄色く光る雷を纏う、風、氷、聖なる光を纏う。

「ふむ、魔法剣は発動しているようじゃな。使い勝手はどうじゃ?」

「……魔力の馴染みがとんでもなく良いよ」

 剣に魔力を流していたのを止めて、ホクトが感動した声で言う。

「次は試し切りじゃ」

 ガンツの後に続き、工房の裏庭へ行くと、ガンツは木の杭を打ち込み、そこに壊れた金属鎧を被せる。

「先ずは魔力を纏わせず試し斬りしてくれ」

 金属鎧の前に立ったホクトは、気負う事なく袈裟懸けに斬りつける。

 風を斬る音が聞こえ、その後ホクトが剣を鞘に収める音が裏庭に響く。

 一拍あって金属鎧が斜めにズレて落ちた。

「……怖ろしい斬れ味じゃな」

 斬られた断面を確認して、ガンツがニヤリと笑う。

 ホクトも刀身に異常は無いか確認するが、刃こぼれどころか、キズや曇り一つない。

「次は属性なしの魔力を流して試し斬りしてくれるか」

 ガンツが鎧を取り替える。

「この鎧はミスリル合金の鎧じゃ。これが斬れれば古代竜でも斬れるじゃろう」

 ホクトは鞘に収めた剣の柄を握り魔力を流す。

 チンッ、と鞘に収めた音だけが響き、鎧がズレて落ちる。

「凄いよガンツさん。手に衝撃もない」

 剣を抜いて刀身を確認してもキズ一つない。

「流す魔力量を増やせば、斬れんモノは無いかもしれんのう。

 名は【雷斬りライキリ】でええか」

 立花道雪の刀の名前だと思ったが、雷に由来する名前ならそれも良いかとホクトは思う。




「この調子でサクヤの剣と、カジムの大剣も造ろうか」

 サクヤのロングソードは、心鉄を刃鉄で包み込む構造で造られ、【硬化・靭性強化・斬撃強化・腐食耐性・自動修復】のエンチャントはホクトの剣と同じだが、その刀身には倶利伽羅紋様が刻み込まれた。
 倶利伽羅紋様は不動明王を表し、剣に聖なる炎を宿した。


 カジムの大剣はアダマンタイト合金で、とにかく硬く大きな金属の塊だった。
 刃長150センチ、30センチの柄を入れると、180センチにもなる。身幅は30センチ、重ねが3センチ、その重量は20キロ、刀身に降三世明王の梵字を刻印し、聖炎を纏う。



「カジムの大剣は、鈍器ですね」

 出来上がった大剣を振りながらホクトが呆れた表情をする。

「いや、それを簡単に振るうお前が言ってもな」

 凄まじい風切り音を立てるホクトを、ガンツがあきれ顔で見ている。

「お前の槍は来週だな」

「そうだね、来週の休みにまたくるよ」

「あゝ、斧刃と槍刃はその剣と同じオリハルコンで用意しておくぞ」

「ありがとう。
 サクヤの剣とカジムの大剣の拵えはお願いするね」

 ガンツに来週また来ると言ってホクトは工房を後にした。
 その手にはしっかり完成した剣が握られていた。




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