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第五十四話 実習
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多くの授業が免除になっているホクトとサクヤが、受ける数少ない授業の一つ、薬学の実習に取り組んでいた。
薬学の授業で作る基本の薬は、
HP回復ポーション(微)
MP回復ポーション(微)
の二種類で、回復量は文字通り微妙だが、ポーション作成の基本となる。
効果の高いポーションを作るためには、錬金術も必要になってくるので、二学年になってから本格的なポーション作成が始まる。
一年生が作成するポーションは、乳鉢を使い薬草をゴリゴリとすり潰し、蒸留水と混ぜ合わせる。
そこでホクト達がする事は、ひたすら細かく薬草をすり潰す。
この微ポーションは、分量通りに混ぜ合わせるだけの作業だ。
ゴリゴリ、ゴリゴリゴリゴリ、ゴリゴリ。
「これ、一年生でする必要あるかな?」
薬草をひたすら丁寧にすり潰しながらホクトが愚痴る。
「そうね、座学だけで十分だと思うわ」
サクヤは分量を正確に測りながら首を横に振る。
微ポーションは、HP.MPどちらにしても、応急処置に使えない、気休め程度の効き目なので、わざわざ実習で作る必要性を感じなかった。
これが、熱冷ましや腹痛薬、毒消し薬や痛み止めの作成になると、少しはやる気が出るのだが、それは三学期に入ってかららしい。
この世界の治癒魔法は、大怪我を治す事は出来るのだが、病気を直接癒す魔法は無いらしい。
これは、それぞれの病気に対する知識が圧倒的に足りない為に、病気を癒す治癒魔法を開発出来ていないのだろう。それ故、現状病気を癒すのは薬師の作成した薬のみだ。
ただ、ホクトとサクヤには現代日本人としての病気に対する知識がある。そこでホクトとサクヤで、先ず開発したのが、【診察】という魔法。身体の状態をチェックする魔法で、状態異常を調べる為の魔法。
もう一つの身体の状態を調べる魔法が、【スキャン】という魔法。これは魔力を用いてCTスキャンの様に、身体の異常を探す魔法。
この二つの魔法で診察して、病気の原因となるモノを取り除く。
この病気を癒す治癒魔法は大陸広しと言えど、ホクトとサクヤの二人だけしか使えないオリジナル魔法だった。
ゴリゴリと薬草をすり潰し、精神もすり潰した次の授業は魔導具製作の実習だった。
魔導具製作には、魔法文字科の授業がある程度進まないと意味をなさないので、魔導具製作の実習は夏季休暇明けから始まった。
最初に出された課題は、灯りの魔導具。
スイッチのオンオフで灯りが点くだけの単純な魔導具を作る。
簡単でシンプルな魔法陣。
極少ない魔力量で、灯りを点けたり消したりを、オンオフで制御するだけの構造。使われる魔石もクズ魔石で長時間使用可能な、一般家庭まで普及している魔導具。
既に独学でトイレの魔導具を製作して、父カインが商会を立ち上げる程に魔導具の開発している。
だから単純な灯りの魔導具製作程度なら、片手間でも出来てしまう。
実習が始まり、早々に課題を仕上げたホクトのもとにシェスター教授が近付いてきた。
「ふむ、ホクト君には初歩の魔導具は簡単過ぎたようだね。
そう言えば、あのトイレの魔導具は君が開発したんだったね。いや、アレは素晴らしい。当然、私もお世話になっているよ。
そうだな、ホクト君は実習の間好きなものを作っても構わないよ。もし、わからない事があれば聞きに来てくれたまえ」
シェスター教授は、一方的に話すと離れて行った。
「喋りたいこと喋ったら行っちゃったね」
「……エルフが変わり者って言われるのは、あの人の所為だな多分」
シェスター教授のお陰で、魔導具の実習時間も自由に出来るようになったホクトは、かねてから構想していた魔導具を開発し始めた。
ホクトは早速、羊皮紙に思い付くだけアイデアを書き出していく。
高価な羊皮紙をメモ代わりに使うのも勿体無いが、紙の生産は現在ヴァルハイム領で始まったばかりで、開発者のホクトにまでまだ回ってこない。
ホクトが作ろうと考えているのはモーターだ。
モーターがあれば、スクリュープロペラと合わせて船舶の動力にもなる。この国には海は無いが、湖や川はある。他にもポンプで水を汲み上げたり、クレーンの動力にも使える。
ここでホクトは、無属性魔法の念動力でモーターを回転させる方法と、ガスタービンエンジンのように、火魔法と風魔法で高温のガスでタービンを回す方法の二種類のモーターを造る事にする。
細かな出力制御は、無属性魔法の念動力を使ったモーターが良いだろう。タービンエンジンは、大出力を得られるかもしれない。たしか航空機や護衛艦の動力はガスタービンエンジンだった筈だと記憶していた。
それに、タービンを回すだけなら高温高圧のガスは必要ない。この世界には魔法があるのだから。
モーターの開発が成功すると、バイクを造れるかもしれない。バイクのギアは、詳しくは憶えていないが、そこはトライアンドエラーで創り上げるしかないと決意する。
思い付いた事を片っ端から書きとめていく。
ホクトとサクヤ以外には読めない文字を使って、そう日本語で書かれた羊皮紙は、この世界の人間には判読出来ない。
魔導具開発をする際に、ホクトはアイデアや思い付いた事を書きとめる場合、秘密漏洩を警戒して、自分とサクヤ以外には読めない日本語を使っていた。
時々、シェスター教授が興味深げに見ていたが、深く突っ込んで聞いてくる事はなかった。
薬学の授業で作る基本の薬は、
HP回復ポーション(微)
MP回復ポーション(微)
の二種類で、回復量は文字通り微妙だが、ポーション作成の基本となる。
効果の高いポーションを作るためには、錬金術も必要になってくるので、二学年になってから本格的なポーション作成が始まる。
一年生が作成するポーションは、乳鉢を使い薬草をゴリゴリとすり潰し、蒸留水と混ぜ合わせる。
そこでホクト達がする事は、ひたすら細かく薬草をすり潰す。
この微ポーションは、分量通りに混ぜ合わせるだけの作業だ。
ゴリゴリ、ゴリゴリゴリゴリ、ゴリゴリ。
「これ、一年生でする必要あるかな?」
薬草をひたすら丁寧にすり潰しながらホクトが愚痴る。
「そうね、座学だけで十分だと思うわ」
サクヤは分量を正確に測りながら首を横に振る。
微ポーションは、HP.MPどちらにしても、応急処置に使えない、気休め程度の効き目なので、わざわざ実習で作る必要性を感じなかった。
これが、熱冷ましや腹痛薬、毒消し薬や痛み止めの作成になると、少しはやる気が出るのだが、それは三学期に入ってかららしい。
この世界の治癒魔法は、大怪我を治す事は出来るのだが、病気を直接癒す魔法は無いらしい。
これは、それぞれの病気に対する知識が圧倒的に足りない為に、病気を癒す治癒魔法を開発出来ていないのだろう。それ故、現状病気を癒すのは薬師の作成した薬のみだ。
ただ、ホクトとサクヤには現代日本人としての病気に対する知識がある。そこでホクトとサクヤで、先ず開発したのが、【診察】という魔法。身体の状態をチェックする魔法で、状態異常を調べる為の魔法。
もう一つの身体の状態を調べる魔法が、【スキャン】という魔法。これは魔力を用いてCTスキャンの様に、身体の異常を探す魔法。
この二つの魔法で診察して、病気の原因となるモノを取り除く。
この病気を癒す治癒魔法は大陸広しと言えど、ホクトとサクヤの二人だけしか使えないオリジナル魔法だった。
ゴリゴリと薬草をすり潰し、精神もすり潰した次の授業は魔導具製作の実習だった。
魔導具製作には、魔法文字科の授業がある程度進まないと意味をなさないので、魔導具製作の実習は夏季休暇明けから始まった。
最初に出された課題は、灯りの魔導具。
スイッチのオンオフで灯りが点くだけの単純な魔導具を作る。
簡単でシンプルな魔法陣。
極少ない魔力量で、灯りを点けたり消したりを、オンオフで制御するだけの構造。使われる魔石もクズ魔石で長時間使用可能な、一般家庭まで普及している魔導具。
既に独学でトイレの魔導具を製作して、父カインが商会を立ち上げる程に魔導具の開発している。
だから単純な灯りの魔導具製作程度なら、片手間でも出来てしまう。
実習が始まり、早々に課題を仕上げたホクトのもとにシェスター教授が近付いてきた。
「ふむ、ホクト君には初歩の魔導具は簡単過ぎたようだね。
そう言えば、あのトイレの魔導具は君が開発したんだったね。いや、アレは素晴らしい。当然、私もお世話になっているよ。
そうだな、ホクト君は実習の間好きなものを作っても構わないよ。もし、わからない事があれば聞きに来てくれたまえ」
シェスター教授は、一方的に話すと離れて行った。
「喋りたいこと喋ったら行っちゃったね」
「……エルフが変わり者って言われるのは、あの人の所為だな多分」
シェスター教授のお陰で、魔導具の実習時間も自由に出来るようになったホクトは、かねてから構想していた魔導具を開発し始めた。
ホクトは早速、羊皮紙に思い付くだけアイデアを書き出していく。
高価な羊皮紙をメモ代わりに使うのも勿体無いが、紙の生産は現在ヴァルハイム領で始まったばかりで、開発者のホクトにまでまだ回ってこない。
ホクトが作ろうと考えているのはモーターだ。
モーターがあれば、スクリュープロペラと合わせて船舶の動力にもなる。この国には海は無いが、湖や川はある。他にもポンプで水を汲み上げたり、クレーンの動力にも使える。
ここでホクトは、無属性魔法の念動力でモーターを回転させる方法と、ガスタービンエンジンのように、火魔法と風魔法で高温のガスでタービンを回す方法の二種類のモーターを造る事にする。
細かな出力制御は、無属性魔法の念動力を使ったモーターが良いだろう。タービンエンジンは、大出力を得られるかもしれない。たしか航空機や護衛艦の動力はガスタービンエンジンだった筈だと記憶していた。
それに、タービンを回すだけなら高温高圧のガスは必要ない。この世界には魔法があるのだから。
モーターの開発が成功すると、バイクを造れるかもしれない。バイクのギアは、詳しくは憶えていないが、そこはトライアンドエラーで創り上げるしかないと決意する。
思い付いた事を片っ端から書きとめていく。
ホクトとサクヤ以外には読めない文字を使って、そう日本語で書かれた羊皮紙は、この世界の人間には判読出来ない。
魔導具開発をする際に、ホクトはアイデアや思い付いた事を書きとめる場合、秘密漏洩を警戒して、自分とサクヤ以外には読めない日本語を使っていた。
時々、シェスター教授が興味深げに見ていたが、深く突っ込んで聞いてくる事はなかった。
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