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第五十五話 秋のキャンプその一
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学園生にとって、一年で最大のイベントが行われる季節がやって来た。
それは王都近郊で一泊の野営を含む行軍訓練。
学園には、将来的に騎士や冒険者を目指す者も一定数存在する。貴族の子息にしても、領地持ちの貴族家では軍事行動とは無縁ではいられない。
そこで行われるのが、学年ごとに難易度と場所を変え、魔物相手の実戦訓練を行う秋のキャンプだ。
随分殺伐としたキャンプだが、魔物が身近に跳梁跋扈するこの世界において、必要な訓練には違いない。
実戦と言っても、相手はゴブリンかフォレストウルフ程度の魔物になるが、それでも毎年怪我人が出る。幸い死者がでた事はないが、それでも重傷者を出す事は珍しくない。
ホクト達一年生は、王都の西門で集合していた。
西門には、学園の生徒が各々行軍訓練の準備をして集合していた。
そこに、巨大な大剣を背負ったカジム、反りを持つ片刃の剣【ライキリ】を左腰に佩て、白銀の斧槍【ミカヅチ】を担いだホクト、その傍にサクヤの姿があった。
「楽しみだなアニキ」
「いや、実戦訓練と言っても、せいぜいゴブリンかコボルトだぞ」
大剣が完成してからのカジムは、新しいオモチャを与えられた子供のように、はしゃいでいた。
ホクトやサクヤは、アイテムボックスをごまかすためにダミーの背嚢を背負っている。
護衛の騎士と学園の教師が生徒にパーティーを組ませて行く。
カジムはクラスが違うのだが、当たり前のようにホクトとサクヤの側に居る。
そこに耳障りな声が聞こえた。
「おい!そこの耳長!」
そこには、幾度となくホクトとサクヤにからむ、肥った贅肉を揺らしているバカ貴族の典型、マグス・フォン・ペドロハイムが、取り巻きを連れて立っていた。
「お前には勿体無い槍を持ってるじゃないか!俺が金貨5枚で買ってやろう。直ぐによこせ!」
「…………クスッ」
ホクトだけでなく、サクヤとカジムが鼻で笑う。
「なっ!何を笑ってやがる!サッサとよこせ!」
教師や騎士が周りにいるなか、この男は脳みそが有るのか?と頭を割って確かめたくなるホクト達だったが、剣もまともに振れなさそうなマグスに、ミカヅチが振るえる訳がない。
「また貴方ですか、いい加減にしないとお父様に報告しなけれなりませんよ」
そこに可憐な少女の声が聞こえた。
「あんっ、何だ!」
マグスが振り返ると、そこには白銀の胸当てとガントレットにグリーブ、見事な細工が施された細剣を佩た第四王女フランソワが護衛の騎士とともに立っていた。
「あ、ふ、フランソワ陛下」
「本当に貴方は懲りるという事がありませんね」
見る見るうちに、マグスの顔が青くなる。
「い、いや、そこのエルフが分不相応な槍を持っているので、私の方が相応しいかと思い……」
「「「プッ!」」」
ホクト達三人が思わず吹き出す。
「お、お前達!何がおかしい!」
「マグス殿がこの斧槍を振るえるなら、譲っても構いませんが、クスッ、とてもじゃないが無理なようですから、クスッ」
ホクトが笑いを堪えながら言うと、青かったマグスの顔が真っ赤になる。
「使えるものなら使ってみればわかりますよ」
ホクトがミカヅチをマグスに投げ渡した。
「グヘッ!」
ミカヅチを受け取ろうとしたマグスが、ミカヅチの重さにそのまま倒れる。
ホクトはミカヅチに押し潰されたカエルのようなマグスからミカヅチを片手で軽く持ち上げ取り戻す。
「だから言ったでしょう。使えるものならって」
「た、タダで済むと思うなよ!」
マグスは顔を真っ赤にして捨てゼリフを放つと逃げるように走り去った。
「フランソワ陛下、度々申し訳ありません」
「いえ、私は命を助けて頂いたのですから、ご恩の十分の一も返せていません。
それと、学園ではフランソワで構いません。同じ生徒なのですから」
「それではフランソワ様、ありがとうございます」
まだ様付けなのが微妙に不満そうだが、これ以上はさすがに無理だとお互い分かっている。
「失礼、ヴァルハイム卿、もし宜しければ、その斧槍を見せて頂けませんか」
ベルンへ向かう途中で出会った、フランソワの護衛の騎士、第三騎士団ウルド・ドレクスタが話し掛けてきた。
「ウルド殿でしたね。
どうぞ、少々重いかもしれませんが」
ホクトがミカヅチを手渡す。
「っ!?」
片手で手渡されたウルドは、ミカヅチの重さに驚き、慌てて両手で持ち直す。
両手で槍を構えて何とか振るう。
「……こ、これは魔槍、……私ではとてもじゃないが、この槍は振るえませんな。
ありがとうございます」
ミカヅチを受け取り、軽く片手で扱うのを見て、ウルドが尊敬の眼差しでホクトを見る。
「あ、あの、ホクト様、お願いがあるのですが」
側で見ていたフランソワがホクトにおずおずと話し掛ける。
「はい、何でしょうフランソワ様」
「出来れば私と臨時パーティーを組んで頂けませんか」
「おお、それは良い。是非、フランソワ陛下と臨時パーティーを組んで頂けませんか」
ウルドもそれは良いと後押しする。
フランソワからの申し出は、想像出来た事だった。行軍訓練中は、騎士団がフランソワにベッタリと護衛に付く訳ではない。ホクト達が護衛を兼ねてパーティーを組めば安心だろう。
「分かりました。よろしくお願いします」
「フランソワ様、よろしくお願いします」
「おう、よろしく」
「ありがとうございます」
行軍訓練は、四人パーティーで活動する事が決まり、お互いの役割を決める話し合いをした。
秋の行軍訓練は、パーティー単位で出発するのだった。
それは王都近郊で一泊の野営を含む行軍訓練。
学園には、将来的に騎士や冒険者を目指す者も一定数存在する。貴族の子息にしても、領地持ちの貴族家では軍事行動とは無縁ではいられない。
そこで行われるのが、学年ごとに難易度と場所を変え、魔物相手の実戦訓練を行う秋のキャンプだ。
随分殺伐としたキャンプだが、魔物が身近に跳梁跋扈するこの世界において、必要な訓練には違いない。
実戦と言っても、相手はゴブリンかフォレストウルフ程度の魔物になるが、それでも毎年怪我人が出る。幸い死者がでた事はないが、それでも重傷者を出す事は珍しくない。
ホクト達一年生は、王都の西門で集合していた。
西門には、学園の生徒が各々行軍訓練の準備をして集合していた。
そこに、巨大な大剣を背負ったカジム、反りを持つ片刃の剣【ライキリ】を左腰に佩て、白銀の斧槍【ミカヅチ】を担いだホクト、その傍にサクヤの姿があった。
「楽しみだなアニキ」
「いや、実戦訓練と言っても、せいぜいゴブリンかコボルトだぞ」
大剣が完成してからのカジムは、新しいオモチャを与えられた子供のように、はしゃいでいた。
ホクトやサクヤは、アイテムボックスをごまかすためにダミーの背嚢を背負っている。
護衛の騎士と学園の教師が生徒にパーティーを組ませて行く。
カジムはクラスが違うのだが、当たり前のようにホクトとサクヤの側に居る。
そこに耳障りな声が聞こえた。
「おい!そこの耳長!」
そこには、幾度となくホクトとサクヤにからむ、肥った贅肉を揺らしているバカ貴族の典型、マグス・フォン・ペドロハイムが、取り巻きを連れて立っていた。
「お前には勿体無い槍を持ってるじゃないか!俺が金貨5枚で買ってやろう。直ぐによこせ!」
「…………クスッ」
ホクトだけでなく、サクヤとカジムが鼻で笑う。
「なっ!何を笑ってやがる!サッサとよこせ!」
教師や騎士が周りにいるなか、この男は脳みそが有るのか?と頭を割って確かめたくなるホクト達だったが、剣もまともに振れなさそうなマグスに、ミカヅチが振るえる訳がない。
「また貴方ですか、いい加減にしないとお父様に報告しなけれなりませんよ」
そこに可憐な少女の声が聞こえた。
「あんっ、何だ!」
マグスが振り返ると、そこには白銀の胸当てとガントレットにグリーブ、見事な細工が施された細剣を佩た第四王女フランソワが護衛の騎士とともに立っていた。
「あ、ふ、フランソワ陛下」
「本当に貴方は懲りるという事がありませんね」
見る見るうちに、マグスの顔が青くなる。
「い、いや、そこのエルフが分不相応な槍を持っているので、私の方が相応しいかと思い……」
「「「プッ!」」」
ホクト達三人が思わず吹き出す。
「お、お前達!何がおかしい!」
「マグス殿がこの斧槍を振るえるなら、譲っても構いませんが、クスッ、とてもじゃないが無理なようですから、クスッ」
ホクトが笑いを堪えながら言うと、青かったマグスの顔が真っ赤になる。
「使えるものなら使ってみればわかりますよ」
ホクトがミカヅチをマグスに投げ渡した。
「グヘッ!」
ミカヅチを受け取ろうとしたマグスが、ミカヅチの重さにそのまま倒れる。
ホクトはミカヅチに押し潰されたカエルのようなマグスからミカヅチを片手で軽く持ち上げ取り戻す。
「だから言ったでしょう。使えるものならって」
「た、タダで済むと思うなよ!」
マグスは顔を真っ赤にして捨てゼリフを放つと逃げるように走り去った。
「フランソワ陛下、度々申し訳ありません」
「いえ、私は命を助けて頂いたのですから、ご恩の十分の一も返せていません。
それと、学園ではフランソワで構いません。同じ生徒なのですから」
「それではフランソワ様、ありがとうございます」
まだ様付けなのが微妙に不満そうだが、これ以上はさすがに無理だとお互い分かっている。
「失礼、ヴァルハイム卿、もし宜しければ、その斧槍を見せて頂けませんか」
ベルンへ向かう途中で出会った、フランソワの護衛の騎士、第三騎士団ウルド・ドレクスタが話し掛けてきた。
「ウルド殿でしたね。
どうぞ、少々重いかもしれませんが」
ホクトがミカヅチを手渡す。
「っ!?」
片手で手渡されたウルドは、ミカヅチの重さに驚き、慌てて両手で持ち直す。
両手で槍を構えて何とか振るう。
「……こ、これは魔槍、……私ではとてもじゃないが、この槍は振るえませんな。
ありがとうございます」
ミカヅチを受け取り、軽く片手で扱うのを見て、ウルドが尊敬の眼差しでホクトを見る。
「あ、あの、ホクト様、お願いがあるのですが」
側で見ていたフランソワがホクトにおずおずと話し掛ける。
「はい、何でしょうフランソワ様」
「出来れば私と臨時パーティーを組んで頂けませんか」
「おお、それは良い。是非、フランソワ陛下と臨時パーティーを組んで頂けませんか」
ウルドもそれは良いと後押しする。
フランソワからの申し出は、想像出来た事だった。行軍訓練中は、騎士団がフランソワにベッタリと護衛に付く訳ではない。ホクト達が護衛を兼ねてパーティーを組めば安心だろう。
「分かりました。よろしくお願いします」
「フランソワ様、よろしくお願いします」
「おう、よろしく」
「ありがとうございます」
行軍訓練は、四人パーティーで活動する事が決まり、お互いの役割を決める話し合いをした。
秋の行軍訓練は、パーティー単位で出発するのだった。
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