酒呑童子 遥かなる転生の果てに

小狐丸

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第五十六話 秋のキャンプその二

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 街道から外れた場所を目的地へ向けパーティー毎に移動する。

 途中まで街道を馬車に分乗して進み、そこからは徒歩で移動する。

 野営道具を担いでの移動なので、貴族の子息息女には過酷なイベントで、脱落者が多く出ては、随伴の騎士や護衛依頼で来ている冒険者に、後方へと送られる。

「皆様、疲れないのですか?」

 必死にホクト達について来るフランソワが、汗一つ掻かず涼しい顔で歩く三人に聞く。

「姫さん、忘れてるかもしれないけどよ。俺達はベルンまでの往復をずっと走って移動してたんだぜ」

「そ、そうですわね」

「フランソワ様も剣の稽古をされているのでしょう」

「自信がなくなりましたわ」

「そろそろ休憩しましょうか」

 四人で周囲を警戒しながら、目的地へと歩き続けるが、フランソワが限界だと判断したホクトが休憩を告げる。

 手早くサクヤがお茶を淹れる準備をしていく。

 ホクトも本当はテーブルと椅子を出したい所だが、フランソワの前でアイテムボックスを使うのは不味いと思い自重した。

「フランソワ様は実戦経験はあるのですか?」

 フランソワにお茶を渡しながらサクヤが聞く。

「実は騎士を相手に訓練は積んでいるのですが、魔物を相手にするのは初めてです」

 それを聴いていたホクトがジッと考えている。

「では、この際ですから積極的に魔物との戦闘経験を積みましょうか」

 ホクトは、付かず離れずの距離に、フランソワを警護する人員が相当数いる事を把握していた。
 授業の一環とはいえ、王族を何の警護も無く行軍訓練に送り出す訳がないと理解している。

 もしも突発的なアクシデントがあっても、ホクト達三人と、影警護の人員でカバー出来るだろう。

「え、戦闘経験ですか?」

「はい、ただ目的地を目指すだけでなく、積極的に魔物を狩っていきます」

「サーチアンドデストロイだなアニキ」

 カジムが俄然張り切り始める。

「じゃあ、私がフランソワ様を護るわ」

「頼むよサクヤ。僕は索敵と良い頃合いに魔物を半殺しにするから。カジムも仕留めちゃダメだぞ」

「分かってるよアニキ」

 ホクト達が打ち合わせを始め、その内容について行けないフランソワは戸惑う。

「さて、片付けて出発しましょう」

 休憩を終えて目的地へと歩き出す四人。
 ただ、ホクトは索敵魔法で魔物を察知して、その方向へとフランソワを誘導する。

 影警護の人員が戸惑うのが伝わって来る。
 それを無視して魔物の反応があった方向へ進む。

「丁度良い、ゴブリンが三匹だ」

「じゃあアニキ、俺が二匹貰って良いか?」

「やり過ぎるなよ。フランソワ様に戦闘経験させるのが目的なんだから」

「利き腕一本って所か?」

「状況次第だけど、そんな所かな」

 ホクトとカジムが二人で話す内容に、どんどん顔が青くなるフランソワ。

「あの、サクヤ様。ホクト様のお話では、この先にゴブリンが居るのですか?」

「はい、三匹居るようですね」

 恐る恐る聞いたフランソワの問いに、当然ですと普通に答えるサクヤ。

「何故わざわざ、魔物に近付くのですか?」

「あら、フランソワ様、実戦経験を積むための行軍訓練じゃないですか。盗賊が相手ならさすがに私達だけで始末しますけど、ゴブリンですから、初陣には丁度良い相手です」

 浮世離れした美しさのサクヤから発せられる言葉は、とても過激でキビシイものだった。

 今思えば、盗賊から助けられた時、ホクト達三人は盗賊を討伐する事に一切の戸惑いは無かったように感じた。とてもフランソワと同じ歳の子供とは思えない。

「サクヤ様は怖くないのですか?」

「そうですね、どう足掻いても勝てない程の絶望は感じた事はまだないからでしょうか?いえ、違いますね、ホクトと一緒なら何も怖くないのかもしれませんね」

 微笑んでそう言うサクヤの顔を見て、同性のフランソワが思わず見惚れていた。

「フランソワ様、見えてきましたよ。
 僕とカジムで腕を斬り落としますから、無理せず相手して下さい」

 ホクトの言葉通り、視線の先に緑色の醜悪な姿、三匹のゴブリンがいた。
 ゴブリンもこちらを見つけたようで、三匹が叫びながらこっちに向けて走りだした。

 ホクトとカジムがゴブリンへ向け、ゆっくりと歩き出す。
 ホクト達との間合いが急速に近付き、ホクトは斧槍を軽く振るう。それだけで、先頭を走っていたゴブリンの棍棒を持った腕が宙を舞う。

 カジムも背中から大剣を抜くと、後続のゴブリンに向け大剣をふた振り、それでゴブリンの二本の腕が跳んだ。

「フランソワ様、剣を抜いて、落ち着けば大丈夫ですよ」

「……はっ!」

 サクヤから声を掛けられて剣を抜き、先頭のゴブリンへ細剣で刺突を放つ。

 ギャァ!繰り出された細剣がゴブリンの喉を突き刺し、一突きでその命を刈り取る。

 残った二匹のゴブリンも難なく仕留めたフランソワだが、細剣を固く握ったまま立ち尽くしていた。

「フランソワ様、上出来です」

 サクヤから声を掛けられ我にかえる。
 その間、ホクトとカジムがゴブリンの魔石だけを回収する。

「魔石以外は埋めて置きますね」

 ホクトが土魔法で穴を開け、ゴブリンを埋めて、また歩き出す。

「次は一匹をそのまま相手しましょうか」

 先を歩くホクトが話す声が聞こえるが、先程のゴブリンから向けられた生々しい殺気と、鉄くさい血の臭いが鼻の中に残っていて、ただ後をついて行くしか出来なかった。


 その後、目的地の野営場所へたどり着くまでに、三度の戦闘を経験したフランソワは、目的地へ着いた瞬間へたり込んでしまう。

 ホクト達三人にはヌルイ戦闘だったが、王族にとっては衝撃の一日だったのだろう。結局、テントの設営から夕食の準備まで、何も出来なかった。



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