67 / 82
第六十五話 鬼の蠢動
しおりを挟む
何時もはのどかな風景が広がっているべき田園風景が一晩で様変わりしていた。
空気が澱み、血の匂いが漂い、瘴気が渦巻き死臭が辺りに蔓延している。
グチャ、グチャ、グチャ
屍肉を食む音が、誰もいなくなった村に響く。
ここはロマリア王国の南西にあるトリアリア王国の小さな村、国土面積は、ロマリア王国の二倍以上広いが、その大部分は砂漠で、人口はロマリア王国とほぼ同じ水準だった。
のどかな村の一画に住む一人の男。
その性根の所為か、醜い見た目の所為か、その男は村で酷く冷たい目で見られていた。それも男の被害妄想かもしれないが…………。
やがて精神に異常をきたした男は、畑を耕す以外は家に閉じこもるようになる。そんな男のもとを、一人の怪しい魔導士風の男が訪ねる。
その日から、男は畑仕事に出る事もなく、家に閉じこもる。寝台の上でボロボロの毛布を被り、うずくまる男へと、黒い霧のようなモノが集まってくる。
その地面には光り輝く六芒星の魔法陣。
やがて男の目がカッと開き、紅く変質した瞳が妖しく光る。
『グゥアーーーーー!!』
雄叫びを上げた男の口には長い犬歯が伸び、頭には二本の角が生えていた。皮膚が赤く染まり身体がふた回りは肥大化する。
その姿は、まぎれもなく鬼のものだった。
ただこの世界で見る鬼(オーガ)とは明らかに違うモノだった。
やがて男は村人へと牙を剥く。
「なっ?!」
腕の一振りで村人の首が折れる。
「きゃーー!!」
生きたまま内臓に喰らいつく。
『ガァーーーーー!!』
大人も子供も、男も女も手当たり次第に村人へと襲いかかり、ある者は首筋から咬みちぎられ、人を超えた腕力で叩き潰される。
グチャ、グチャ、グチャ。
村人だったモノを貪り食う鬼と化した男を、離れた場所から観察する視線があった。
「う~ん、元の素材がいまいちだったかのう。かの大江山の王とは比べ物にならんな。
頭の出来も良くないみたいじゃし、まだまだ完成には程遠いのう。
まあ、あっちの世界と同じように、人間が鬼と変化しただけでも成功とするか。
次は魔物を実験台にしてみるか…………」
そう言い残すと、魔導士風の男は姿を消した。
人口、僅か200人程度の小さな村は、その半数が鬼と化した男に殺され喰われた。
逃げた村人達からの訴えで駆けつけたトリアリア王国騎士団が見たのは、死体の山の上に座り、屍肉をむさぼり食べる異形の鬼だった。
赤い体は怨嗟により赤黒く染まり、その身体もさらに肥大していた。
騎士団を気にもせず、ただひたすら屍肉をむさぼり食べ続けている。
騎士団を率いる隊長が魔法師部隊で包囲する。
「放てーー!!」
騎士団の魔法師部隊から一斉に放たれた火魔法によって、鬼は抵抗する間も無く焼き尽くされた。
アンデッドが湧かぬよう念入りに焼き尽くされた、数日前までのどかな風景を見せていた小さな村は、立ち入りが禁止となり廃村となった。
このトリアリア王国の小さな村で起きた悲劇が、後に大陸全土で巻き起こる悲劇の始まりだった事は、誰も知る事なく忘れ去られていく。
空気が澱み、血の匂いが漂い、瘴気が渦巻き死臭が辺りに蔓延している。
グチャ、グチャ、グチャ
屍肉を食む音が、誰もいなくなった村に響く。
ここはロマリア王国の南西にあるトリアリア王国の小さな村、国土面積は、ロマリア王国の二倍以上広いが、その大部分は砂漠で、人口はロマリア王国とほぼ同じ水準だった。
のどかな村の一画に住む一人の男。
その性根の所為か、醜い見た目の所為か、その男は村で酷く冷たい目で見られていた。それも男の被害妄想かもしれないが…………。
やがて精神に異常をきたした男は、畑を耕す以外は家に閉じこもるようになる。そんな男のもとを、一人の怪しい魔導士風の男が訪ねる。
その日から、男は畑仕事に出る事もなく、家に閉じこもる。寝台の上でボロボロの毛布を被り、うずくまる男へと、黒い霧のようなモノが集まってくる。
その地面には光り輝く六芒星の魔法陣。
やがて男の目がカッと開き、紅く変質した瞳が妖しく光る。
『グゥアーーーーー!!』
雄叫びを上げた男の口には長い犬歯が伸び、頭には二本の角が生えていた。皮膚が赤く染まり身体がふた回りは肥大化する。
その姿は、まぎれもなく鬼のものだった。
ただこの世界で見る鬼(オーガ)とは明らかに違うモノだった。
やがて男は村人へと牙を剥く。
「なっ?!」
腕の一振りで村人の首が折れる。
「きゃーー!!」
生きたまま内臓に喰らいつく。
『ガァーーーーー!!』
大人も子供も、男も女も手当たり次第に村人へと襲いかかり、ある者は首筋から咬みちぎられ、人を超えた腕力で叩き潰される。
グチャ、グチャ、グチャ。
村人だったモノを貪り食う鬼と化した男を、離れた場所から観察する視線があった。
「う~ん、元の素材がいまいちだったかのう。かの大江山の王とは比べ物にならんな。
頭の出来も良くないみたいじゃし、まだまだ完成には程遠いのう。
まあ、あっちの世界と同じように、人間が鬼と変化しただけでも成功とするか。
次は魔物を実験台にしてみるか…………」
そう言い残すと、魔導士風の男は姿を消した。
人口、僅か200人程度の小さな村は、その半数が鬼と化した男に殺され喰われた。
逃げた村人達からの訴えで駆けつけたトリアリア王国騎士団が見たのは、死体の山の上に座り、屍肉をむさぼり食べる異形の鬼だった。
赤い体は怨嗟により赤黒く染まり、その身体もさらに肥大していた。
騎士団を気にもせず、ただひたすら屍肉をむさぼり食べ続けている。
騎士団を率いる隊長が魔法師部隊で包囲する。
「放てーー!!」
騎士団の魔法師部隊から一斉に放たれた火魔法によって、鬼は抵抗する間も無く焼き尽くされた。
アンデッドが湧かぬよう念入りに焼き尽くされた、数日前までのどかな風景を見せていた小さな村は、立ち入りが禁止となり廃村となった。
このトリアリア王国の小さな村で起きた悲劇が、後に大陸全土で巻き起こる悲劇の始まりだった事は、誰も知る事なく忘れ去られていく。
10
あなたにおすすめの小説
過程をすっ飛ばすことにしました
こうやさい
ファンタジー
ある日、前世の乙女ゲームの中に悪役令嬢として転生したことに気づいたけど、ここどう考えても生活しづらい。
どうせざまぁされて追放されるわけだし、過程すっ飛ばしてもよくね?
そのいろいろが重要なんだろうと思いつつそれもすっ飛ばしました(爆)。
深く考えないでください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
- - - - - - - - - - - - -
ただいま後日談の加筆を計画中です。
2025/06/22
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で
重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。
魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。
案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる