酒呑童子 遥かなる転生の果てに

小狐丸

文字の大きさ
82 / 82

第八十話 実家の休日2

しおりを挟む
 ヴァルハイム領の実家へと帰省しているホクトとサクヤ。今日はジルを連れて3人と使い魔達で領内の魔物駆除をしていた。
 冒険者達の食い扶持を奪わぬ様に、儲けにならないゴブリンやコボルトを狩って行く。

「流石にヴァルハイム領ですね。魔物の駆除がされています」
「父上や兄上が聞いたら喜ぶよ」

 ホクトの父であるカインとサクヤの父バグスは、共に優れた戦士だ。

 アルバンとジョシュアの兄二人も一般的な基準で言えば、優れていると言っていいだろう。

 そこにホクトの誕生だ。

 ホクトの魅せた武の才に、カインは息子の前に少しでも長く立てるよう己を鍛え直した。

 バグスも娘のサクヤに負けたくない一心で、カインと共に必死に鍛錬に励んだ。

 その影響はヴァルハイム家の従士たちにも波及し、お陰でヴァルハイム家の戦力は少数ながら非常に高かった。

 そのためヴァルハイム領は治安が良く、領民も増加傾向だ。



 順調に成長するヴァルハイム領だが、それだけにトリアリア王国でのゴブリンの話を聞いてホクトは考える。

 このヴァルハイム領では感じていないが、最近オーガやゴブリンなど、この世界で小鬼や鬼と呼ばれる魔物に関する不穏な噂をよく聞く。

 嘗て鬼の王であり、その後鬼狩りだったホクトだけに気になっていた。



 ヴァルハイム領を一望できる高台に立ち、ホクトは領内全土の防衛を考える。

「街や村単位での防衛はもちろんだけど、いち早く察知して領界で迎え撃つのが理想かな」
「そうね」

 ホクトがそう言うと、サクヤは何がと聞くまでもなく、そうねと頷く。

 現状、どれだけ強力なゴブリンが群れて襲いかかろうが、カインとバグスたちなら跳ね除けるとホクトは考えている。

 だけど、それは犠牲を無しにという訳にはいかないだろうとも思っている。

 さらにヴァルハイム家の戦力は少数精鋭だ。

 少数精鋭だけに、同時に多発的に魔物が襲って来ると、対応しきれないだろう。

「……領内全土をまんべんなく護るなんて無理だな」
「防壁のある街なら兎も角、村は無理ね」
「ああ、村によっては簡単な柵程度しかないからな」

 魔物が想定を超える大きな群で襲って来た時、街なら防衛を利用しての撃退も考えられるだろうが、辺境の小領でしかないヴァルハイム領には有効ではない。

「理想は領外での撃退だけど……」
「他領や他国での戦闘なんてあり得ないものね」
「ああ、だけど魔物が来るなら南だと分かっているんだ。ならやりようはある」

 自慢にはならないがヴァルハイム領は大きくない。

 不穏な噂が流れて来るトリアリア王国と接している距離もそんなに長くない。

 地形を調べ、砦を築き、進行を妨害する防衛を築き、足止めのための堀を張り巡らせば、寡兵でも戦えるとホクトは考えた。

「でも先におじさまに許可を得ないとダメよ」
「分かってる。もちろん父上と兄上に許可はとるさ。実際に戦うのは父上たちなんだから」
「でもホクト様、砦一つで魔物の大群を撃退できますか?」

 ホクトとサクヤがカインやアルバンとの話し合いについて話していると、ジルが砦一つでは魔物の大群を撃退するのは無理なのではと言う。

 ただホクトには何世代にも渡る長い戦闘の歴史がある。

 その何度も転生する度に戦いの中に身を置き続けたホクトは、日本の多くの堅城をその目で見て来た。

 仮に統率する個体が居たとしても、戦場をコントロールすることができると思っていた。

「砦には連射式のバリスタを複数設置したいな」
「ホクトが作るの?」
「ああ、一応仕組みは分かってるからね」
「連射式のバリスタですか。確かにバリスタならシロウトでも扱えますね。」

 ジルも連弩やバリスタは知っている。ジルが言うように、普通の弓は熟練の技が必要だが、連弩やバリスタは操作にさえ習熟すれば、あとは狙って撃つだけだ。

 城塞都市の城壁には大型のバリスタが設置されている場合が多い。

 あれはワイバーンなどの飛行タイプの魔物用だが、ホクトはもっと小型で尚且つ強力な連射式のバリスタを作れると確信していた。

 様々な仕掛けで足止めされた魔物の大群に対して、長射程かつ高威力の矢が大量に降り注ぐ。

「あと簡単に設置できるトラップなんかもあればいいと思うわ」
「サクヤ様、トラップは私にもお手伝いできると思います」
「確かにジルに手伝ってもらうのは正解ね」

 サクヤがトラップに言及すると、ジルが自分も手伝えると言う。

 元裏稼業のジルは、その手のトラップにも詳しかった。

 三男のホクトが、将来的にヴァルハイム領の運営に関わる事はないだろう。

 だけど今世の故郷であり、父や母、兄たちや義父や義母となる人たち、それに多くの領民を守るためなら自重などしないと決めていた。

「そうと決まれば、領境を調べようか」
「そうね。でも砦を建てる位置や堀の形と大きさを決めるための正確な地図も必要ね」

 ホクトたちは早速行動を開始する。

 休暇の間にある程度形にしてしまう必要があると、ホクトとサクヤ、ジルはヴァルハイム領を駆け回る。


しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

過程をすっ飛ばすことにしました

こうやさい
ファンタジー
 ある日、前世の乙女ゲームの中に悪役令嬢として転生したことに気づいたけど、ここどう考えても生活しづらい。  どうせざまぁされて追放されるわけだし、過程すっ飛ばしてもよくね?  そのいろいろが重要なんだろうと思いつつそれもすっ飛ばしました(爆)。  深く考えないでください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

悪役令嬢が処刑されたあとの世界で

重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。 魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。 案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...