酒呑童子 遥かなる転生の果てに

小狐丸

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第七十九話 実家の休日1

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 カン!ブンッ!ガキッ!

 ヴァルハイム領へと帰省しても、ホクトとサクヤの日常は変わらない。

 朝日が昇るよりも少し早い時間に起きたホクト達は、軽くストレッチするとホクト、サクヤ、ジルは家の周辺を走り込む。
 周囲の森や林から山の中を、スタミナの向上と気と魔力を身体に纏う魔闘気術の訓練をかねて駆け回る。

 その後、実家の庭へ移り木剣での素振りから模擬戦へと移る。

 サクヤが二本の木剣でホクトへ連撃を仕掛け、それをホクトが木剣で受け流し、回避する。

 立ち位置を目まぐるしく入れ変えながら、高速で動くホクトとサクヤ。それをジルが見取り稽古していた。

 激しい攻防を繰り広げるホクトとサクヤ。

 続けてサクヤに替わり、ホクトとジルが模擬戦を始める。

 日が昇り少しすると、父のカイン、長男のアルバン、次男のジョシュアも剣の鍛錬に合流する。

「ホクト、朝早くから熱心だな。
 久しぶりに一本どうだ」

「はい、お願いします」

 少し距離をおいて構えるホクトとカイン。
 騎士でもあるカインは、中型の木の盾とロングソードサイズの木剣を構える。対するホクトは、木刀を正眼に構えて対峙する。

 先に動いたのはホクト。
 予備動作無しの無拍子で、いきなり間合いを詰め袈裟懸けの一撃をカインへと繰り出す。

 ガンッ!

「クッ!」

 辛うじて対応出来たカインの盾が、ホクトの木刀を防ぐ事に成功する。

 すぐにカインは反撃に横薙ぎの一撃をホクトへと返すが、その時にはホクトは既に間合いの外に居た。

 カインの背中を冷たい汗が吹き出る。

 盾を装備して護りを重視したカインと、木刀一本を縦横無尽に扱うホクトの模擬戦を、アルバンとジョシュアが呆然として見ていた。
 それはそうだろう。まだ13歳になって間もないホクトと、英雄と呼ばれている父のカインが、互角の勝負をしている様に見えたからだ。

 重厚で堅実なカインの剣術と、自由自在なホクトの剣。
 末弟の剣の技量に驚きながら、一挙手一投足を見逃さぬ様に見入るアルバンとジョシュア。

 その後、共に決定的な一撃を入れる事なく模擬戦を終えるカインとホクト。だが、カインにはホクトが随分と手加減をしている事が分かっていた。それは決してカインを馬鹿にしている訳ではなく、純粋に約束稽古に近いモノだとカインも理解していた。

「ハァ、ハァ、もう、私じゃホクトの相手にはならない様だな」

「ありがとうございます父上」

「凄いなホクト。
 次は俺と頼む」

「その後は俺も相手してくれ」

「はい、お願いします兄上」

 アルバンとジョシュアに頼まれ、その後二人と立て続けに模擬戦をこなす。

 その後、サクヤやジルを含めて模擬戦を繰り返し、汗を流したホクト達は、井戸で水を汲み汗を拭き朝の鍛錬を終えた。



 食堂に全員が集まり、少し遅い朝食を食べる。

 ヴァルハイム家の朝食は、朝からボリュームたっぷりだ。これはホクトの意向が大きい。
 狩で得た肉、畑で採れた野菜、鶏の卵。
 鍛錬の後は特にタンパク質の摂取を重要視していた。さすがに母のフローラはホクト達の様に食べないのだが。

 ヴァルハイム家の料理長が作った朝食をサクヤとバグスにエヴァ、それにジルを含めた全員で賑やかな食卓になった。

「それで、王都の学園生活はどうなの?」

「順調過ぎる位、順調ですよ」

 フローラが王都での学生生活を聞くと、ホクトは現状を説明する。

「実は、基本教科と専門教科を含めた座学だけで言うと、後一年あれば卒業出来ると思います」

「まぁ、凄いじゃないホクト」

「ほぅ、それで二年で卒業するのか?」

「それはまだ決めていないのですが、研究したい事があれば三年通うかもしれません」

 実際、後一年で卒業する事も視野に入れているホクトだが、成人が15歳なので、その間は学園に通っても良いかなと思っている。

「まぁその辺はホクトの好きにすれば良い」

 今のヴァルハイム領躍進の立役者は、紛う事なくホクトだ。それにホクトは、アーレンベルク辺境伯の養女となったサクヤと将来結婚する。間違いなく騎士爵以上になるだろう。
 兄達を手伝うのも良し、若いうちは諸国を周り経験を積むのも良し、ホクトには自分のしたい事をさせてあげたいカインだった。




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