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第七十八話 ヴァルハイム領
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盗賊のアジトを潰す事なくスルーして、ヴァルハイム領への帰省を優先したホクト達。
「途中通り過ぎた村や町もそうでしたが、此処は凄く綺麗な街ですね」
馬車がヴァルハイム領に入ると、ジルがその町や村の清潔な様を見て驚いていた。
「ふふっ、ヴァルハイム領は衛生環境が整備されているのよ」
サクヤは、ホクトが開発したトイレや下水浄化、お風呂の普及等のヴァルハイム領内の状況をジルに説明した。
「どうりで、……王都でも最近下水浄化の魔導具が普及し始めた様ですが、ホクト様が考えたモノでしたか」
ジルがキラキラした目でホクトを見る。
「いや、ヴァルハイム領が清潔で治安が良いのは、僕の魔導具も少しは関係あるけど、父上や兄上達の力が大きいんだよ。
僕は、ただ造りたい物を造ってただけだよ」
少し照れたように話すホクトだが、謙遜でもなく本当にそう思っていた。
確かにホクトは魔導具の開発をしたが、工房を立ち上げて量産体制を整え、スラムの住民に職を与え、ヴァルハイム領の治安を安定させ、経済を発展させたのは父であり兄達だと思っていた。
やがて馬車はヴァルハイム家の屋敷前にたどり着く。そこは一年前より大きく豪華に増築された本館と、倉庫と工房を備えた別館が出来ていた。
門を潜った馬車から降りたホクト達を、父や母を始め、二人の兄とサクヤの両親と兄、従士や使用人達が出迎えていた。
「父上、母上、アルバン兄上、ジョシュア兄上、マリー義姉上、バグスさん、エヴァさん、バジルさん、出迎えありがとうございます。
ただいま帰りました。」
父のカイン、母のフローラを始め、王都の屋敷を守る第一夫人のジェシカを除くた。
「おかえりホクト、サクヤちゃん。それとジルさんだったね、歓迎するよ」
「ホクト、大きくなったわね」
カインの出迎えの挨拶をすると、我慢出来ないフローラがホクトに抱きつき頭を撫でる。
「は、母上、ただいま帰りました」
照れながらフローラに帰郷の挨拶をするホクト。
この一年でホクトとサクヤの身長は、5センチ程伸びている。まだ、カインや兄のアルバン達より少し小さいが、エルフの特徴なのか、背は二人とも学園でも高い部類に入る。
「フローラ、こんな所で立ち話もなんだし、中へ入ってからで良いんじゃないかな」
「あらっ、ごめんなさい。
サクヤちゃんもジルさんも中に入って」
カインにたしなめられ、フローラはホクトの手を取り屋敷へと入って行った。
リビングで久しぶりの家族でくつろいでお茶を飲んでいた。
「それでどうだ学園の様子は」
「はい、この調子なら、あと一年で卒業出来そうです」
「ははっ、……そんなに急いで卒業しなくても大丈夫なんだぞ」
久しぶりの実家でリラックスして談笑するホクト達。
その後、カインと長兄のアルバン、ホクトの3人がカインの執務室で集まっていた。
「これがこの一年のヴァルハイム領の税収の増加と人口の推移だ」
カインから書類を受け取り目を通すホクト。
「…………人口の増加が目立ちますね。これは注意すべきでしょうね」
「間者の問題だね」
ホクトが急激な人口の増加に懸念を示すと、アルバンが頷く。
基本的に、国内では領民の移動は自由には出来ない。領地持ち貴族にとって、領民も財産のうちなのだから、自由に住居を移動する事は出来ないのだ。
ただ、そこにも例外があり、スラムに住む様な、税金を納めていない者達などはその限りではない。
他国からの移民も少数いるのだが、これは受け入れるのに慎重にならざるをえず、全体の割合から言えば極少数だ。
「農作物の収穫量も順調ですね」
「あゝ、ホクトとサクヤちゃんが魔法で開墾してくれた農地のお陰だな」
「それなんだが、ヴァルハイム家が経営する農地をもう少し拡げたいんだが頼めるか」
「わかりました。
ため池や用水路、農道を含めて整備すれば大丈夫ですね」
「助かる」
農地の話になって、カインから仕事を頼まれたホクトだが、二つ返事で引き受ける。
ホクトとしても、ヴァルハイム家の経営する農地を拡げ、そろそろ酒造に手を出したいと思っていたのだ。
(ホップも栽培し始めたし、上面発酵のエールなら何とかなるか。ウィスキーにも挑戦したいしな)
ホクトとしては、知識としてエールやウィスキーを知っているが、永い転生の間で、実際に飲んだ事があるのは日本酒だけだ。
この世界にもエールやワインは、一部の貴族や教会でその製法を秘匿されて造られている。それだけに酒造りは特産品になるだろう。
「あと治安関係は、我がヴァルハイム領は問題ない」
「?……ヴァルハイム領以外で何かありました?」
兄の言い方にホクトは引っかかる。
「トリアリア王国で、ゴブリンの集団を騎士団が討伐が行われたらしいんだが、…………たった200程度のゴブリンの集団に、騎士団側に大きな損害が出たらしい。
何とか討伐は成功したそうだが、集団を率いていたゴブリンは、その知能や実力はオークを超えていたと聴いている」
「…………情報が少ないですから、今は警戒しておく以外方法がありませんね」
「我が領の騎士団や兵士の訓練は抜かりない」
「次は、街道整備なんだが…………」
その日、遅くまで執務室の明かりは消える事はなかった。
「途中通り過ぎた村や町もそうでしたが、此処は凄く綺麗な街ですね」
馬車がヴァルハイム領に入ると、ジルがその町や村の清潔な様を見て驚いていた。
「ふふっ、ヴァルハイム領は衛生環境が整備されているのよ」
サクヤは、ホクトが開発したトイレや下水浄化、お風呂の普及等のヴァルハイム領内の状況をジルに説明した。
「どうりで、……王都でも最近下水浄化の魔導具が普及し始めた様ですが、ホクト様が考えたモノでしたか」
ジルがキラキラした目でホクトを見る。
「いや、ヴァルハイム領が清潔で治安が良いのは、僕の魔導具も少しは関係あるけど、父上や兄上達の力が大きいんだよ。
僕は、ただ造りたい物を造ってただけだよ」
少し照れたように話すホクトだが、謙遜でもなく本当にそう思っていた。
確かにホクトは魔導具の開発をしたが、工房を立ち上げて量産体制を整え、スラムの住民に職を与え、ヴァルハイム領の治安を安定させ、経済を発展させたのは父であり兄達だと思っていた。
やがて馬車はヴァルハイム家の屋敷前にたどり着く。そこは一年前より大きく豪華に増築された本館と、倉庫と工房を備えた別館が出来ていた。
門を潜った馬車から降りたホクト達を、父や母を始め、二人の兄とサクヤの両親と兄、従士や使用人達が出迎えていた。
「父上、母上、アルバン兄上、ジョシュア兄上、マリー義姉上、バグスさん、エヴァさん、バジルさん、出迎えありがとうございます。
ただいま帰りました。」
父のカイン、母のフローラを始め、王都の屋敷を守る第一夫人のジェシカを除くた。
「おかえりホクト、サクヤちゃん。それとジルさんだったね、歓迎するよ」
「ホクト、大きくなったわね」
カインの出迎えの挨拶をすると、我慢出来ないフローラがホクトに抱きつき頭を撫でる。
「は、母上、ただいま帰りました」
照れながらフローラに帰郷の挨拶をするホクト。
この一年でホクトとサクヤの身長は、5センチ程伸びている。まだ、カインや兄のアルバン達より少し小さいが、エルフの特徴なのか、背は二人とも学園でも高い部類に入る。
「フローラ、こんな所で立ち話もなんだし、中へ入ってからで良いんじゃないかな」
「あらっ、ごめんなさい。
サクヤちゃんもジルさんも中に入って」
カインにたしなめられ、フローラはホクトの手を取り屋敷へと入って行った。
リビングで久しぶりの家族でくつろいでお茶を飲んでいた。
「それでどうだ学園の様子は」
「はい、この調子なら、あと一年で卒業出来そうです」
「ははっ、……そんなに急いで卒業しなくても大丈夫なんだぞ」
久しぶりの実家でリラックスして談笑するホクト達。
その後、カインと長兄のアルバン、ホクトの3人がカインの執務室で集まっていた。
「これがこの一年のヴァルハイム領の税収の増加と人口の推移だ」
カインから書類を受け取り目を通すホクト。
「…………人口の増加が目立ちますね。これは注意すべきでしょうね」
「間者の問題だね」
ホクトが急激な人口の増加に懸念を示すと、アルバンが頷く。
基本的に、国内では領民の移動は自由には出来ない。領地持ち貴族にとって、領民も財産のうちなのだから、自由に住居を移動する事は出来ないのだ。
ただ、そこにも例外があり、スラムに住む様な、税金を納めていない者達などはその限りではない。
他国からの移民も少数いるのだが、これは受け入れるのに慎重にならざるをえず、全体の割合から言えば極少数だ。
「農作物の収穫量も順調ですね」
「あゝ、ホクトとサクヤちゃんが魔法で開墾してくれた農地のお陰だな」
「それなんだが、ヴァルハイム家が経営する農地をもう少し拡げたいんだが頼めるか」
「わかりました。
ため池や用水路、農道を含めて整備すれば大丈夫ですね」
「助かる」
農地の話になって、カインから仕事を頼まれたホクトだが、二つ返事で引き受ける。
ホクトとしても、ヴァルハイム家の経営する農地を拡げ、そろそろ酒造に手を出したいと思っていたのだ。
(ホップも栽培し始めたし、上面発酵のエールなら何とかなるか。ウィスキーにも挑戦したいしな)
ホクトとしては、知識としてエールやウィスキーを知っているが、永い転生の間で、実際に飲んだ事があるのは日本酒だけだ。
この世界にもエールやワインは、一部の貴族や教会でその製法を秘匿されて造られている。それだけに酒造りは特産品になるだろう。
「あと治安関係は、我がヴァルハイム領は問題ない」
「?……ヴァルハイム領以外で何かありました?」
兄の言い方にホクトは引っかかる。
「トリアリア王国で、ゴブリンの集団を騎士団が討伐が行われたらしいんだが、…………たった200程度のゴブリンの集団に、騎士団側に大きな損害が出たらしい。
何とか討伐は成功したそうだが、集団を率いていたゴブリンは、その知能や実力はオークを超えていたと聴いている」
「…………情報が少ないですから、今は警戒しておく以外方法がありませんね」
「我が領の騎士団や兵士の訓練は抜かりない」
「次は、街道整備なんだが…………」
その日、遅くまで執務室の明かりは消える事はなかった。
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