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10巻
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しおりを挟む ショッピングを始めて少し経った時、マーニが小さな声でマリアに話しかける。
「……二十人くらいでしょうか、実力は大した事ないと思います」
「流石、兎人族の五感ですね。マーニさんは子供達の安全第一でお願いします」
「わかりました」
アカネが小声で話し合う二人に問う。
「なになに、また悪者なの?」
「クンクン、何か臭いがするニャ」
ルルも、周囲の臭いの変化を感じていたらしい。
「ゴランの兄貴」
「ああ、やっと儂らの出番じゃ。せっかくじゃ、鬱憤を晴らさせてもらおうか」
ゴランとドガンボが嬉しそうに腰の槌を握る。よほどストレスが溜まっていたに違いないが、ストレス発散に使われる相手もいい迷惑だろう。
マーニが、怯えるポポロとメルティー、そして子供達に声をかける。
「ポポロさん、ミリとララと手を繋いでいてください。ワッパはサラと手を繋いでね。コレットはシロナの手を繋いで離さないように。メルティーさんもメラニーとマロリーをお願いね」
「「はい」」
「うん」
続いて、マリアがみんなを安心させるように言う。
「カエデちゃんに任せてもいいんだけど、ゴミは私とドガンボさん、ゴランさんもいるし心配しなくても大丈夫だからね」
緊張した表情を見せていたポポロ、メルティー、子供達が周囲を見回す。すると、ドワーフの二人は暴れる気まんまんで、マリアは普段と変わらない。
そんな様子にみんなの緊張もほぐれていく。
先頭にマリア、真ん中に子供達とポポロとメルティー、左右をマーニとアカネ、後ろをルルが警戒するフォーメーションを取る。
そして次の瞬間、前方と後方から闇ギルドの構成員が襲いかかってきた。
◆
闇ギルドの構成員達には、ただの女子供の集団という認識しかなかった。
場所は、貴族街に近い高級店が並ぶ区画。人の通りは少ない。まさに襲撃するのにうってつけのスポットだ。
また彼らは万全を期すため、複数の組織で協力して襲撃に当たる事にしていた。これには一つの組織だけ利益を得て、他の組織から恨みを買うのを防ぐという理由もある。
これだけ用意周到な彼らであったが、一つ致命的な勘違いをしていた。
それは、マリア達をただのカモだと見誤っていた事。
だからだろう、最後尾にいた猫人族の少女が立ち止まり振り返っても、何の危機感も持たなかった。もちろん、猫人族の少女、ルルの口角が上がっていた事にも気づいていない。
襲撃者の男はルルが掻き消えた瞬間――くぐもった男の声を聞いた。そして、それが自分が殴られた時に発した声だと知る前に意識を手放す。
「ニャ!」
「グウゥボォッ!」
襲撃者の一人が突然崩れ落ちたかと思えば、次の瞬間にはその横の男がルルの回し蹴りで、くの字に弾け飛ぶ。
「運動にもならないニャ。少しは抵抗してみるニャ!」
ルルが高速で動き回り、襲撃者を蹂躙していく。
そんなルルの横では、ストレス発散のために嬉々として拳を振るう男がいた。
「ふんっ!」
「ギャァァァァ!」
丸太のような太い腕が振るわれ、襲撃者の首が刈られる。
「何じゃ、手ごたえのない。もう少し気張らんか!」
そんな理不尽な事を襲撃者に言いながら暴れるのは、買い物に付き合わされ、ストレスが極限まで溜まっていたドガンボだ。
ドガンボは、ルルが暴れ始めたのを見てすぐに、後方から襲撃してきた闇ギルドの構成員に突撃していたのだ。
後方でルルとドガンボが大暴れする中、前方ではさらに圧倒的な蹂躙劇が繰り広げられていた。
その中心にいるのが、マリアである。
タクミと最初期から行動し、常にタクミの側に立てるようにと努力し続けたマリア。そんな彼女が、中小の闇ギルドの戦闘員ごときに後れを取るはずもなかった。
襲撃者達は、マリアのスピードを目で捉える事はおろか、自分達が倒されたのを認識する事すら出来なかった。
「ふっ!」
「はっ!」
赤い影が煌めくたびに、何が起こったのかわからぬまま、無数の男達が倒れていく。
マリアが高速で動き回る中、儂にも残しておけと、ゴランも槌を振り回して大暴れしていた。
前方後方で激しい戦闘が行われている最中、側面から隙を突いて襲撃しようとしていた男達に、逆に襲いかかる影があった。
目に見えない糸による拘束だった。
「なっ!?」
「か、身体が動かねぇ!」
突然、身体の自由が奪われてパニックになる男達。
その集団の中を、カエデが駆け抜けていく。
マリアと同様に、カエデの姿を見た者はいなかった。完全な隠密状態での戦闘で、姿を見せる事なく敵を狩る。カエデにとってそれは難しいものでもない。
子供達を左右から護るアカネとマーニが、退屈そうに話す。
「私達、暇ね」
「この程度の人数で、しかもあんなクズどもの実力なら、こんなものじゃないですか」
二人の様子はとてもじゃないが、襲撃を受けている最中には見えない。そのおかげか、子供達も怖がる事なく落ち着いていた。
子供達は知っているのだ。マリア、アカネ、マーニ、ルルの強さが尋常ではないという事を。
そこに、騎士団や衛兵が雪崩れ込んできて、闇ギルドの襲撃者全員はあっという間に拘束されていくのだった。
「さて、お買い物の続きをしましょうか」
「そうね。あとは騎士や兵隊さんにお任せで大丈夫でしょう」
マリアとアカネが、拘束されて運ばれていく男達に目もくれる事なく、この後の予定を話し合い出した。
拘束されながらも運悪く意識を取り戻した男は、自分達が何を相手にしてしまったのか、今さらながら理解した。それもあとの祭りなのだが……
こうしてマリア達一行のお買い物ツアーは、王都の大掃除のきっかけとなり、バーキラ王やサイモンに感謝される事になるのだった。
5 流行を作り出せ
マリア達一行を転移で迎えに行き、聖域に戻ってきた僕、タクミ。それから僕は、みんなから王都での土産話を聞かされていた。
それはさておき、マリア達が買ってきた服の量が大量だった。
住民に配る用のシンプルな服から、デザインの参考にするための服など、マジックバッグがなければ、持って帰る事など到底無理な量だったね。
服を聖域の住人に配り終えたあと、マリアとアカネが始めたのは服のデザインだった。
僕はそんな二人を横目に、ソフィアに尋ねる。
「ねえ、ソフィア。アレは僕の分もなのかな?」
「はい。タクミ様の服も色々と作ると言ってましたよ」
やっぱりか。マリアとアカネが中心になって、メリーベル達メイドも嬉々として協力しているように見える。
「メリーベル達の分も作るの?」
「はい。彼女達の分は自分達で作るそうですが、カエデの糸から織った生地で作るらしいので、デザインにも気合いが入っているようですね」
いつもよりメイドの人数が多いと思ったら、彼女達の服や下着も作るらしい。
メイド達が仕事の際に着ているクラシックなメイド服は、僕が制服として与えた物なんだけど、普段着や下着はボルトンのお店で買うか、生地を買って自分達で作ってもらうかしていた。それらは流行など関係なく、着られればいいという無難なデザインだったらしい。
それを見たマリアとアカネが、女の子なのにもったいない! と主張して、オシャレを楽しむ事を勧めたのだとか。
この世界では、上流階級の女性じゃないとオシャレを楽しむ余裕なんてない。けれど、聖域は豊かで貧しくもないので、時には着飾る事も必要だ、というのがアカネとマリアの主張なのだ。
まあ、ファッションのファの字もわからない僕には何も言えないけどね。
一通り作業が終えたのか、マリアとアカネが、僕とソフィアがくつろいでいるソファーに近寄ってくる。
「やっぱりこの世界のファッションって、選択肢がなさすぎるのよね」
「仕方ないですよ。オシャレを楽しめるのは、貴族や豪商の家に生まれた女性だけですから」
ポフンッとソファーに座って、メイドが淹れてくれたお茶を飲みながら、ファッションの話が尽きない二人。
僕とソフィアは話についていけない。
「ねえ、ソフィアはファッションってわかる?」
「……いえ、私は子供の頃から騎士になる事しか考えてこなかったので、動きやすい服装しかしてきませんでした。今着ている服も、マリアとアカネが与えてくれるのを、そのまま着ているだけですね」
「……僕と一緒か」
僕もソフィアと同じで、マリアから渡される服を着るだけだ。動きやすい服にしてほしいとはリクエストしてるけど、あとはお任せだしね。
それはさておき、貴族家の子女は別にして、一般の女性が着る服がオシャレじゃないのは仕方ないと思うんだよね。
この世界の服屋は、基本的には高級品しか扱っていない。普通の庶民は、布を買って服を自作するのが当たり前という認識だ。もしくは古着を買うかの二択かな。
今回は庶民用の服もあったみたいだけど、これは王都だからあっただけで、他の街には既製品を売る服屋はないだろう。
生地を買って自作となると、使える色や素材も限られてくるし、複雑なデザインなんて作れない。そりゃオシャレとか考える余裕なんてなくなるよな。
そんな事を考えていたら、アカネが面倒な事を言い出した。
「服を作るのは、商売になるかしら」
「え、難しいと思うよ。そもそも服作りは凄く手間がかかるでしょ。縫製を魔導具で機械化でもしないと安くならないし」
僕がそう話すと。アカネはさも当然の事のように言う。
「なら、機械化すればいいんじゃないの。タクミも、聖域のみんなにオシャレを楽しんでほしいでしょう?」
「いや、まあ、そうだけど……」
手縫いだから高価になる。ならば、機械化するしかコストを下げる方法はない。それはわかるんだけど、だからといって僕達がする必要はないと思うんだけどなぁ。
「ミシンを作ってよ。魔導具なら出来るでしょ。それで工場を造ってオシャレで安い服を大量に作るのよ」
「そんなに簡単に……出来なくもないけど。せめて僕らがやるのは、ミシンの魔導具開発だけに留めて、服作りはパペックさんに任せればいいんじゃないの」
「ダメよ。貴族の着るドレスじゃないのよ。庶民の着るオシャレな服をパペックさんに任せられるわけないじゃないの」
「ええ……でも、ミシンがあったところでどうせアカネは裁縫出来ないでしょ。ならデザインだけ関わるって事でどう?」
聖域に縫製工場を造るのも何だかね。そう思って提案してみたら、デザインっていう仕事に惹かれたのか、アカネの目が光った。
「そうね! なら私はデザイナーって事ね! いいじゃない。タクミ、すぐにミシンを作りなさい!」
「はぁ、ちょっと仕組みから考えないとダメだからすぐには無理だよ」
「お手伝いするであります!」
仕方ないなとソファーから立ち上がると、早速レーヴァが手伝いを申し出てくれた。
魔石動力の魔導具としてのミシンと、日本でも昔使われていた足漕ぎペダルのミシンの二通り考えてみるかな。
ミシンがあれば、マリアが僕達の服を縫うのも楽になるしね。
◇
リビングから工房に移動した僕とレーヴァは、ミシンの設計に取りかかった。
「ミシンの構造自体は単純なんだよな。凄くよく出来ているけど」
「タクミ様はみしんを知ってるのでありますか?」
「まあ、簡単な構造だけはね」
それから僕は、レーヴァにミシンについてざっくりと説明した。
「……へぇ~、縫う魔導具でありますか。それで服を作るのが速くなるのでありますな」
「ミシンを使いこなす技術も必要だけどね」
ミシンがあるからって服を簡単に縫えるわけじゃないと思う。確か、ミシンを使うのもなかなか難しかったと思うしね。
「それでも、手で縫うよりも速く出来るようになると」
「裁縫スキルの高いマリアやカエデなら、あまり変わらないかもしれないけどね」
「……それは言えてるでありますな」
レーヴァの裁縫スキルは高い方だけど、マリアとカエデはさらに上をいく。この世界のスキルシステムは不思議だ。
「とりあえず設計図を描いてみるから、そこから色々考えてみようか」
「そうでありますな。とりあえず作ってみて、あれこれ試す方が早いかもしれないであります」
「だな。聖域のみんなにも配ってから改良していく方が良いかもね」
聖域には様々な種族が暮らしているので、種族によって求める服が違う。
人魚族は足が人型と魚の形に変化するので、ワンピースのような服を着ている事が多い。
獣人族は、その種族ごとの特徴である尻尾の穴が必要だったりする。
ドワーフならそのビア樽体型に合わせ、なおかつ頑丈で火に強い服が必要だ。
人族とエルフは体型に差異は少ない。
この大陸に生きる種族で大多数を占めるのが人族という事もあり、服の既製品店はすべて人族用だ。
「貴族のドレスなんかを扱う高級店はどうかわからないけど、既製品を扱うお店はミシンを喜ぶかもしれないね。同じデザインを大量に作る必要があるだろうし」
「貴族様は、人と同じドレスなんて嫌がるであります。贅沢な話でありますが」
「厳選された生地を一針一針丁寧に縫うんだから、ある程度高価になってしまうのは仕方ないからね。となると、ミシン導入が歓迎されるか微妙だな」
貴族の女性達は、人と同じドレスを着る事は考えられない。パーティーでドレスが被るなんて、僕でもまずいのがわかるくらいだ。
「貴族が手縫いである事に価値を見出しているとしたら、ミシンのターゲットは、少しだけ裕福な人達用の服だね」
「パペックさんが飛びつきそうなお話であります」
「だね」
ベルト駆動の足踏みミシンをサクッと錬成して、上糸と下糸をセットする。
「おお! なるほど! 仕組みは見ればわかるであります」
「不具合がないか、テストしてみようか」
「はいであります!」
レーヴァと二人で動作試験を繰り返し、問題がなさそうなので、レーヴァに同じ物を複製してもらった。
その間、僕はペダルを踏む加減で回転する速度が変わるようにした、魔石動力の魔導具のミシンを錬成する。
縫い目は何種類も変えられないけど、簡単なミシンが二種類完成した。
「マリアにも試してもらおうか」
「そうでありますな。実際に服を作るマリアさんの意見を聞きたいであります」
工房からリビングに戻ると、まだアカネとマリアが中心になって、マーニ、ソフィア、ルルちゃんまで加わって、服のデザインを相談している。その中に、メリーベルやマーベル達メイドも一緒にいて、ワイワイとみんなで楽しそうにしていた。
僕は、アカネとマリアに話しかける。
「一応足踏みミシンと魔導具のミシンを作ってみたんだけど、マリア達に試してもらおうと思って」
「そうね。ミシンがあっても、使いこなせないなら意味がないものね」
「わかりました。使い方を教えてください」
「じゃあ、工房で説明するね」
アカネはリビングで待ってもらい、マリアだけを連れて工房に戻ろうとすると、何故かメリーベルとマーベルもついてきた。
「私達も使えれば便利ですから」
「うん、確かにそうだね」
工房に並べてあった二種類のミシンを三人に試してもらい、不具合がないか調べる。
マリア、マーベル、メリーベルが順に感想を伝えてくれる。
「う~ん、これは練習が必要ですね。でも、慣れれば凄く使えると思いますよ」
「次は私ですね……難しいですね。とはいえ、簡単な物を縫うのには便利だと思います」
「では、次は私が試させてもらいます……いいですね。これは使えます」
マリアは裁縫スキルが最高レベルなので、手縫いの方が早いみたいだ。こういうタイプはミシンに慣れるのに逆に苦労するかもな。
一方、マーベルとメリーベルからは、概ね便利そうだという評価だった。
再びリビングに戻った僕達を、セバスチャンが迎える。
「旦那様、パペック殿がご用はないか、ボルトンの屋敷に見られましたが……」
「えっ、パペックさんがわざわざ?」
「あの人、本当に鋭い嗅覚してるわね」
アカネが呆れた感じで言う。まあ、アカネの言う通り、僕らがまた新しい発明をしたのを察知したのかもしれない。
セバスチャンがさらに続ける。
「パペック殿から、明日と明後日はボルトンの商会にいるとの言付けを預かっております」
「そうなんだ。いずれ声をかけるつもりだったけど……」
「タクミ、明日は私も行くわよ」
アカネは、パペックさんに直でデザインを売り込むつもりなんだろう。
それにしてもパペックさん、タイミングが良すぎだよ。
◇
翌日、早速ボルトンのパペック商会に連絡を入れると、パペックさんが今からうちの屋敷に来ると言った。
「パペックさんの商人としての嗅覚にも驚くけど、フットワークの軽さにも感心するよ」
「そりゃタクミのおかげで、今じゃ大陸一の大商会だもの。自ら足くらい運ぶわよ」
「パペック殿は、午後一に来られるとの事です」
ちなみに僕らはもうボルトンの方の屋敷に来ていて、いつものソフィアとマリアに加えて、アカネが一緒にいる。
お昼ご飯を食べて少し経った頃、セバスチャンがパペックさんが到着したと報せてきた。
「パペック殿が到着されました」
「うん、通してください」
そして、パペック商会の番頭であるトーマスさんとパペックさんが、セバスチャンに先導されて部屋に入ってくる。
「ご無沙汰してます、イルマ殿」
「お久しぶりです、パペックさん、トーマスさん。わざわざすみません」
「いえいえ、こちらからお会いしたいとお願いしたのです。私達が足を運ぶのは当然です」
簡単に世間話をしたあと、パペックさんが僕に探りを入れてくる。
「ところでイルマ殿、どうですか、最近は? 何か新しい物を発明したりしていませんか? もし何かあるのでしたら、ぜひともパペック商会で扱わせてください」
おそらく、こういった商談の席に普段はいないアカネの姿があるので、何かあると思っているんだろうね。
ただ、パペックさんがあまりにもストレートに聞いてきたので苦笑いしてしまった。でもこれは、腹芸をしたくない僕の事を考えてくれてるんだろう。
「随分と僕を高く買ってくれているようですね」
「当たり前でございます。イルマ殿のおかげで、パペック商会は大陸でも有数の商会となったのですから」
「ナイスタイミングよ! パペックさん!」
そこに、アカネが変なテンションで割って入った。
「ミサト様?」
「今日は、私とマリアからの提案があるの!」
不思議がるパペックさんを尻目に、珍しくミサトと名字で呼ばれたアカネが自分の言いたい事を一方的に話していった。
一通り聞き終え、パペックさんは感心したように声を漏らす。
「……ほうほう、少しだけ裕福な層をターゲットにした既製品の服ですか」
アカネをアシストするように僕も言う。
「服屋といえば、高級なオーダーメイドか、古着を売るお店かの両極端ですからね」
「一応、王都では高級な既製品の服を販売するお店がいくつかありますが……トーマス、どう思う?」
「価格次第ですかね」
実は、マリア達がお世話になった王都の高級既製品店は、パペック商会系列の店だったそうだ。パペックさんによると、他にも何軒か出店しているが、儲けはそれほど出てないらしい。
「先日、各店舗で大量に売れたと連絡がありましたが、ひょっとして……」
パペックさんがそう口にしたところで、アカネが打ち明ける。
「それは私達ね。さっきの話だと、パペックさんのお店だったようね。子供服なんかはいい品揃えだったわ」
パペックさんは溜息混じりに言う。
「どうしても生地を買って、自分で作る人が多いので、値段が高いせいもあり苦戦している次第です」
「要するに、コストを安く抑えられれば商売になるのよね」
アカネの言葉に、パペックさんは目を見開く。
「……二十人くらいでしょうか、実力は大した事ないと思います」
「流石、兎人族の五感ですね。マーニさんは子供達の安全第一でお願いします」
「わかりました」
アカネが小声で話し合う二人に問う。
「なになに、また悪者なの?」
「クンクン、何か臭いがするニャ」
ルルも、周囲の臭いの変化を感じていたらしい。
「ゴランの兄貴」
「ああ、やっと儂らの出番じゃ。せっかくじゃ、鬱憤を晴らさせてもらおうか」
ゴランとドガンボが嬉しそうに腰の槌を握る。よほどストレスが溜まっていたに違いないが、ストレス発散に使われる相手もいい迷惑だろう。
マーニが、怯えるポポロとメルティー、そして子供達に声をかける。
「ポポロさん、ミリとララと手を繋いでいてください。ワッパはサラと手を繋いでね。コレットはシロナの手を繋いで離さないように。メルティーさんもメラニーとマロリーをお願いね」
「「はい」」
「うん」
続いて、マリアがみんなを安心させるように言う。
「カエデちゃんに任せてもいいんだけど、ゴミは私とドガンボさん、ゴランさんもいるし心配しなくても大丈夫だからね」
緊張した表情を見せていたポポロ、メルティー、子供達が周囲を見回す。すると、ドワーフの二人は暴れる気まんまんで、マリアは普段と変わらない。
そんな様子にみんなの緊張もほぐれていく。
先頭にマリア、真ん中に子供達とポポロとメルティー、左右をマーニとアカネ、後ろをルルが警戒するフォーメーションを取る。
そして次の瞬間、前方と後方から闇ギルドの構成員が襲いかかってきた。
◆
闇ギルドの構成員達には、ただの女子供の集団という認識しかなかった。
場所は、貴族街に近い高級店が並ぶ区画。人の通りは少ない。まさに襲撃するのにうってつけのスポットだ。
また彼らは万全を期すため、複数の組織で協力して襲撃に当たる事にしていた。これには一つの組織だけ利益を得て、他の組織から恨みを買うのを防ぐという理由もある。
これだけ用意周到な彼らであったが、一つ致命的な勘違いをしていた。
それは、マリア達をただのカモだと見誤っていた事。
だからだろう、最後尾にいた猫人族の少女が立ち止まり振り返っても、何の危機感も持たなかった。もちろん、猫人族の少女、ルルの口角が上がっていた事にも気づいていない。
襲撃者の男はルルが掻き消えた瞬間――くぐもった男の声を聞いた。そして、それが自分が殴られた時に発した声だと知る前に意識を手放す。
「ニャ!」
「グウゥボォッ!」
襲撃者の一人が突然崩れ落ちたかと思えば、次の瞬間にはその横の男がルルの回し蹴りで、くの字に弾け飛ぶ。
「運動にもならないニャ。少しは抵抗してみるニャ!」
ルルが高速で動き回り、襲撃者を蹂躙していく。
そんなルルの横では、ストレス発散のために嬉々として拳を振るう男がいた。
「ふんっ!」
「ギャァァァァ!」
丸太のような太い腕が振るわれ、襲撃者の首が刈られる。
「何じゃ、手ごたえのない。もう少し気張らんか!」
そんな理不尽な事を襲撃者に言いながら暴れるのは、買い物に付き合わされ、ストレスが極限まで溜まっていたドガンボだ。
ドガンボは、ルルが暴れ始めたのを見てすぐに、後方から襲撃してきた闇ギルドの構成員に突撃していたのだ。
後方でルルとドガンボが大暴れする中、前方ではさらに圧倒的な蹂躙劇が繰り広げられていた。
その中心にいるのが、マリアである。
タクミと最初期から行動し、常にタクミの側に立てるようにと努力し続けたマリア。そんな彼女が、中小の闇ギルドの戦闘員ごときに後れを取るはずもなかった。
襲撃者達は、マリアのスピードを目で捉える事はおろか、自分達が倒されたのを認識する事すら出来なかった。
「ふっ!」
「はっ!」
赤い影が煌めくたびに、何が起こったのかわからぬまま、無数の男達が倒れていく。
マリアが高速で動き回る中、儂にも残しておけと、ゴランも槌を振り回して大暴れしていた。
前方後方で激しい戦闘が行われている最中、側面から隙を突いて襲撃しようとしていた男達に、逆に襲いかかる影があった。
目に見えない糸による拘束だった。
「なっ!?」
「か、身体が動かねぇ!」
突然、身体の自由が奪われてパニックになる男達。
その集団の中を、カエデが駆け抜けていく。
マリアと同様に、カエデの姿を見た者はいなかった。完全な隠密状態での戦闘で、姿を見せる事なく敵を狩る。カエデにとってそれは難しいものでもない。
子供達を左右から護るアカネとマーニが、退屈そうに話す。
「私達、暇ね」
「この程度の人数で、しかもあんなクズどもの実力なら、こんなものじゃないですか」
二人の様子はとてもじゃないが、襲撃を受けている最中には見えない。そのおかげか、子供達も怖がる事なく落ち着いていた。
子供達は知っているのだ。マリア、アカネ、マーニ、ルルの強さが尋常ではないという事を。
そこに、騎士団や衛兵が雪崩れ込んできて、闇ギルドの襲撃者全員はあっという間に拘束されていくのだった。
「さて、お買い物の続きをしましょうか」
「そうね。あとは騎士や兵隊さんにお任せで大丈夫でしょう」
マリアとアカネが、拘束されて運ばれていく男達に目もくれる事なく、この後の予定を話し合い出した。
拘束されながらも運悪く意識を取り戻した男は、自分達が何を相手にしてしまったのか、今さらながら理解した。それもあとの祭りなのだが……
こうしてマリア達一行のお買い物ツアーは、王都の大掃除のきっかけとなり、バーキラ王やサイモンに感謝される事になるのだった。
5 流行を作り出せ
マリア達一行を転移で迎えに行き、聖域に戻ってきた僕、タクミ。それから僕は、みんなから王都での土産話を聞かされていた。
それはさておき、マリア達が買ってきた服の量が大量だった。
住民に配る用のシンプルな服から、デザインの参考にするための服など、マジックバッグがなければ、持って帰る事など到底無理な量だったね。
服を聖域の住人に配り終えたあと、マリアとアカネが始めたのは服のデザインだった。
僕はそんな二人を横目に、ソフィアに尋ねる。
「ねえ、ソフィア。アレは僕の分もなのかな?」
「はい。タクミ様の服も色々と作ると言ってましたよ」
やっぱりか。マリアとアカネが中心になって、メリーベル達メイドも嬉々として協力しているように見える。
「メリーベル達の分も作るの?」
「はい。彼女達の分は自分達で作るそうですが、カエデの糸から織った生地で作るらしいので、デザインにも気合いが入っているようですね」
いつもよりメイドの人数が多いと思ったら、彼女達の服や下着も作るらしい。
メイド達が仕事の際に着ているクラシックなメイド服は、僕が制服として与えた物なんだけど、普段着や下着はボルトンのお店で買うか、生地を買って自分達で作ってもらうかしていた。それらは流行など関係なく、着られればいいという無難なデザインだったらしい。
それを見たマリアとアカネが、女の子なのにもったいない! と主張して、オシャレを楽しむ事を勧めたのだとか。
この世界では、上流階級の女性じゃないとオシャレを楽しむ余裕なんてない。けれど、聖域は豊かで貧しくもないので、時には着飾る事も必要だ、というのがアカネとマリアの主張なのだ。
まあ、ファッションのファの字もわからない僕には何も言えないけどね。
一通り作業が終えたのか、マリアとアカネが、僕とソフィアがくつろいでいるソファーに近寄ってくる。
「やっぱりこの世界のファッションって、選択肢がなさすぎるのよね」
「仕方ないですよ。オシャレを楽しめるのは、貴族や豪商の家に生まれた女性だけですから」
ポフンッとソファーに座って、メイドが淹れてくれたお茶を飲みながら、ファッションの話が尽きない二人。
僕とソフィアは話についていけない。
「ねえ、ソフィアはファッションってわかる?」
「……いえ、私は子供の頃から騎士になる事しか考えてこなかったので、動きやすい服装しかしてきませんでした。今着ている服も、マリアとアカネが与えてくれるのを、そのまま着ているだけですね」
「……僕と一緒か」
僕もソフィアと同じで、マリアから渡される服を着るだけだ。動きやすい服にしてほしいとはリクエストしてるけど、あとはお任せだしね。
それはさておき、貴族家の子女は別にして、一般の女性が着る服がオシャレじゃないのは仕方ないと思うんだよね。
この世界の服屋は、基本的には高級品しか扱っていない。普通の庶民は、布を買って服を自作するのが当たり前という認識だ。もしくは古着を買うかの二択かな。
今回は庶民用の服もあったみたいだけど、これは王都だからあっただけで、他の街には既製品を売る服屋はないだろう。
生地を買って自作となると、使える色や素材も限られてくるし、複雑なデザインなんて作れない。そりゃオシャレとか考える余裕なんてなくなるよな。
そんな事を考えていたら、アカネが面倒な事を言い出した。
「服を作るのは、商売になるかしら」
「え、難しいと思うよ。そもそも服作りは凄く手間がかかるでしょ。縫製を魔導具で機械化でもしないと安くならないし」
僕がそう話すと。アカネはさも当然の事のように言う。
「なら、機械化すればいいんじゃないの。タクミも、聖域のみんなにオシャレを楽しんでほしいでしょう?」
「いや、まあ、そうだけど……」
手縫いだから高価になる。ならば、機械化するしかコストを下げる方法はない。それはわかるんだけど、だからといって僕達がする必要はないと思うんだけどなぁ。
「ミシンを作ってよ。魔導具なら出来るでしょ。それで工場を造ってオシャレで安い服を大量に作るのよ」
「そんなに簡単に……出来なくもないけど。せめて僕らがやるのは、ミシンの魔導具開発だけに留めて、服作りはパペックさんに任せればいいんじゃないの」
「ダメよ。貴族の着るドレスじゃないのよ。庶民の着るオシャレな服をパペックさんに任せられるわけないじゃないの」
「ええ……でも、ミシンがあったところでどうせアカネは裁縫出来ないでしょ。ならデザインだけ関わるって事でどう?」
聖域に縫製工場を造るのも何だかね。そう思って提案してみたら、デザインっていう仕事に惹かれたのか、アカネの目が光った。
「そうね! なら私はデザイナーって事ね! いいじゃない。タクミ、すぐにミシンを作りなさい!」
「はぁ、ちょっと仕組みから考えないとダメだからすぐには無理だよ」
「お手伝いするであります!」
仕方ないなとソファーから立ち上がると、早速レーヴァが手伝いを申し出てくれた。
魔石動力の魔導具としてのミシンと、日本でも昔使われていた足漕ぎペダルのミシンの二通り考えてみるかな。
ミシンがあれば、マリアが僕達の服を縫うのも楽になるしね。
◇
リビングから工房に移動した僕とレーヴァは、ミシンの設計に取りかかった。
「ミシンの構造自体は単純なんだよな。凄くよく出来ているけど」
「タクミ様はみしんを知ってるのでありますか?」
「まあ、簡単な構造だけはね」
それから僕は、レーヴァにミシンについてざっくりと説明した。
「……へぇ~、縫う魔導具でありますか。それで服を作るのが速くなるのでありますな」
「ミシンを使いこなす技術も必要だけどね」
ミシンがあるからって服を簡単に縫えるわけじゃないと思う。確か、ミシンを使うのもなかなか難しかったと思うしね。
「それでも、手で縫うよりも速く出来るようになると」
「裁縫スキルの高いマリアやカエデなら、あまり変わらないかもしれないけどね」
「……それは言えてるでありますな」
レーヴァの裁縫スキルは高い方だけど、マリアとカエデはさらに上をいく。この世界のスキルシステムは不思議だ。
「とりあえず設計図を描いてみるから、そこから色々考えてみようか」
「そうでありますな。とりあえず作ってみて、あれこれ試す方が早いかもしれないであります」
「だな。聖域のみんなにも配ってから改良していく方が良いかもね」
聖域には様々な種族が暮らしているので、種族によって求める服が違う。
人魚族は足が人型と魚の形に変化するので、ワンピースのような服を着ている事が多い。
獣人族は、その種族ごとの特徴である尻尾の穴が必要だったりする。
ドワーフならそのビア樽体型に合わせ、なおかつ頑丈で火に強い服が必要だ。
人族とエルフは体型に差異は少ない。
この大陸に生きる種族で大多数を占めるのが人族という事もあり、服の既製品店はすべて人族用だ。
「貴族のドレスなんかを扱う高級店はどうかわからないけど、既製品を扱うお店はミシンを喜ぶかもしれないね。同じデザインを大量に作る必要があるだろうし」
「貴族様は、人と同じドレスなんて嫌がるであります。贅沢な話でありますが」
「厳選された生地を一針一針丁寧に縫うんだから、ある程度高価になってしまうのは仕方ないからね。となると、ミシン導入が歓迎されるか微妙だな」
貴族の女性達は、人と同じドレスを着る事は考えられない。パーティーでドレスが被るなんて、僕でもまずいのがわかるくらいだ。
「貴族が手縫いである事に価値を見出しているとしたら、ミシンのターゲットは、少しだけ裕福な人達用の服だね」
「パペックさんが飛びつきそうなお話であります」
「だね」
ベルト駆動の足踏みミシンをサクッと錬成して、上糸と下糸をセットする。
「おお! なるほど! 仕組みは見ればわかるであります」
「不具合がないか、テストしてみようか」
「はいであります!」
レーヴァと二人で動作試験を繰り返し、問題がなさそうなので、レーヴァに同じ物を複製してもらった。
その間、僕はペダルを踏む加減で回転する速度が変わるようにした、魔石動力の魔導具のミシンを錬成する。
縫い目は何種類も変えられないけど、簡単なミシンが二種類完成した。
「マリアにも試してもらおうか」
「そうでありますな。実際に服を作るマリアさんの意見を聞きたいであります」
工房からリビングに戻ると、まだアカネとマリアが中心になって、マーニ、ソフィア、ルルちゃんまで加わって、服のデザインを相談している。その中に、メリーベルやマーベル達メイドも一緒にいて、ワイワイとみんなで楽しそうにしていた。
僕は、アカネとマリアに話しかける。
「一応足踏みミシンと魔導具のミシンを作ってみたんだけど、マリア達に試してもらおうと思って」
「そうね。ミシンがあっても、使いこなせないなら意味がないものね」
「わかりました。使い方を教えてください」
「じゃあ、工房で説明するね」
アカネはリビングで待ってもらい、マリアだけを連れて工房に戻ろうとすると、何故かメリーベルとマーベルもついてきた。
「私達も使えれば便利ですから」
「うん、確かにそうだね」
工房に並べてあった二種類のミシンを三人に試してもらい、不具合がないか調べる。
マリア、マーベル、メリーベルが順に感想を伝えてくれる。
「う~ん、これは練習が必要ですね。でも、慣れれば凄く使えると思いますよ」
「次は私ですね……難しいですね。とはいえ、簡単な物を縫うのには便利だと思います」
「では、次は私が試させてもらいます……いいですね。これは使えます」
マリアは裁縫スキルが最高レベルなので、手縫いの方が早いみたいだ。こういうタイプはミシンに慣れるのに逆に苦労するかもな。
一方、マーベルとメリーベルからは、概ね便利そうだという評価だった。
再びリビングに戻った僕達を、セバスチャンが迎える。
「旦那様、パペック殿がご用はないか、ボルトンの屋敷に見られましたが……」
「えっ、パペックさんがわざわざ?」
「あの人、本当に鋭い嗅覚してるわね」
アカネが呆れた感じで言う。まあ、アカネの言う通り、僕らがまた新しい発明をしたのを察知したのかもしれない。
セバスチャンがさらに続ける。
「パペック殿から、明日と明後日はボルトンの商会にいるとの言付けを預かっております」
「そうなんだ。いずれ声をかけるつもりだったけど……」
「タクミ、明日は私も行くわよ」
アカネは、パペックさんに直でデザインを売り込むつもりなんだろう。
それにしてもパペックさん、タイミングが良すぎだよ。
◇
翌日、早速ボルトンのパペック商会に連絡を入れると、パペックさんが今からうちの屋敷に来ると言った。
「パペックさんの商人としての嗅覚にも驚くけど、フットワークの軽さにも感心するよ」
「そりゃタクミのおかげで、今じゃ大陸一の大商会だもの。自ら足くらい運ぶわよ」
「パペック殿は、午後一に来られるとの事です」
ちなみに僕らはもうボルトンの方の屋敷に来ていて、いつものソフィアとマリアに加えて、アカネが一緒にいる。
お昼ご飯を食べて少し経った頃、セバスチャンがパペックさんが到着したと報せてきた。
「パペック殿が到着されました」
「うん、通してください」
そして、パペック商会の番頭であるトーマスさんとパペックさんが、セバスチャンに先導されて部屋に入ってくる。
「ご無沙汰してます、イルマ殿」
「お久しぶりです、パペックさん、トーマスさん。わざわざすみません」
「いえいえ、こちらからお会いしたいとお願いしたのです。私達が足を運ぶのは当然です」
簡単に世間話をしたあと、パペックさんが僕に探りを入れてくる。
「ところでイルマ殿、どうですか、最近は? 何か新しい物を発明したりしていませんか? もし何かあるのでしたら、ぜひともパペック商会で扱わせてください」
おそらく、こういった商談の席に普段はいないアカネの姿があるので、何かあると思っているんだろうね。
ただ、パペックさんがあまりにもストレートに聞いてきたので苦笑いしてしまった。でもこれは、腹芸をしたくない僕の事を考えてくれてるんだろう。
「随分と僕を高く買ってくれているようですね」
「当たり前でございます。イルマ殿のおかげで、パペック商会は大陸でも有数の商会となったのですから」
「ナイスタイミングよ! パペックさん!」
そこに、アカネが変なテンションで割って入った。
「ミサト様?」
「今日は、私とマリアからの提案があるの!」
不思議がるパペックさんを尻目に、珍しくミサトと名字で呼ばれたアカネが自分の言いたい事を一方的に話していった。
一通り聞き終え、パペックさんは感心したように声を漏らす。
「……ほうほう、少しだけ裕福な層をターゲットにした既製品の服ですか」
アカネをアシストするように僕も言う。
「服屋といえば、高級なオーダーメイドか、古着を売るお店かの両極端ですからね」
「一応、王都では高級な既製品の服を販売するお店がいくつかありますが……トーマス、どう思う?」
「価格次第ですかね」
実は、マリア達がお世話になった王都の高級既製品店は、パペック商会系列の店だったそうだ。パペックさんによると、他にも何軒か出店しているが、儲けはそれほど出てないらしい。
「先日、各店舗で大量に売れたと連絡がありましたが、ひょっとして……」
パペックさんがそう口にしたところで、アカネが打ち明ける。
「それは私達ね。さっきの話だと、パペックさんのお店だったようね。子供服なんかはいい品揃えだったわ」
パペックさんは溜息混じりに言う。
「どうしても生地を買って、自分で作る人が多いので、値段が高いせいもあり苦戦している次第です」
「要するに、コストを安く抑えられれば商売になるのよね」
アカネの言葉に、パペックさんは目を見開く。
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