いずれ最強の錬金術師?

小狐丸

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12巻

12-2

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 ◆


 バーキラ王国の王城のあてがわれた執務室しつむしつで、頭を抱える男がいた。
 バーキラ王国宰相のサイモンだ。
 妻のロザリーが置き手紙を残して聖域へと旅立ってしまった。
 置き手紙には、バーキラ王国から離れ、聖域の民として政務の手助けをするとある。
 確かにロザリーは、結婚前は女だてらにバリバリと仕事をこなす才媛さいえんだった。
 これは貴族の子女しじょとしては珍しい。何故なら貴族家に女として生まれたならば、政略結婚のこまとなるのが普通で、そこに仕事が出来る事など求められない。
 そんな中、幸いにもロザリーとサイモンは仕事場で知り合い、恋愛関係となり結婚した。これはとても珍しいケースだと言える。
 そのロザリーが聖域へ移住するという。
 現在、サイモンも聖域の運営を任せられる文官を探している。
 これが当初想定していた以上に難航なんこうしていた。
 もともとこの世界で教養の高い人間は、貴族の子息子女か、商人の子供がほとんどだ。そして教養があり人格的にも優秀な人材は、バーキラ王国としても貴重。ゆえに本来数が限られるはずなのだが、なかなか候補を絞り込むのが大変だった。
 そう、候補を絞り込むのが大変なのだ。
 聖域で文官を募集しているとのうわさが何処からか広がると、我こそはと応募が殺到したのだ。
 中には現役で王国の政務をこなしている者までいた事に、サイモンは頭を痛めていた。

「……うん? 悪い話じゃないのか?」

 そこでふと、妻のロザリーならサイモンが文官の候補者を探す間を十分にめる事が出来るのではないかと思い立つ。
 王都の屋敷を維持するのは、家宰かさいやメイド達がいれば大丈夫だろう。ロザリーが担当していた他貴族の婦人方とのお茶会やサロンでの情報収集や派閥はばつの結束力を高める仕事も、今となってはさほど重要じゃないとサイモンは考える。

「うむ、イルマ殿には申し訳ないが、ロザリーの受け入れを頼んでおこう」

 早速タクミ宛に手紙を書き始めた。
 重要な事柄ことがらなので、通信の魔導具ではなく、ポートフォート家の紋章もんしょう刻印こくいんされた上質の紙に自筆で書き、サインを記す。

わしもそろそろ引退して、ロザリーのように聖域に移住するか……悪くないな」

 近い未来、バーキラ王国の宰相が引退する事が決まった瞬間だった。


 ◆


 バーキラ王国の宰相、サイモンが妻のロザリーの行動に疲弊ひへいしていた頃、遠く離れたユグル王国の王城でも、胃の痛みを感じてゲッソリしている男がいた。

「ルーミア、姿が見えんと思っていたら……」

 ユグル王国の国王フォルセルティは、娘からの手紙を読んで肩を落としていた。
 聖域にいるはずのミーミルから、わざわざ鳥の従魔を使って届けられた手紙。早馬はやうまよりも格段に早く届くのだが、それだけ重要な案件だと、手紙を読む前から分かる。
 そしてあんじょう、フォルセルティは脱力した。

「儂が聖域まで出向いて連れ帰ったばかりだというのに……」

 王妃のルーミアが聖域に移住すると言っているが、ユグル王国としては大丈夫なのかと娘のミーミルが問い合わせてきたのだ。
 フォルセルティは、そこでようやくここのところルーミアと顔を合わせていなかったと気付く。
 ルーミアを連れ帰るために、フォルセルティが聖域へ出向いた事で仕事はまりに溜まっていた。
 おかげで、執務室にこもりっぱなしだったので、ルーミアがいなくなっているのに気が付かなかった。
 そこに従者がけ込んできた。

陛下へいか! 王妃様の身の回りの荷物が消えています!」
「……うむ、ご苦労、下がってよい」
「はっ!」

 従者が下がるとフォルセルティは深いため息を吐く。
 そしてこれまで一言も口を開かず影のように立っていた宰相バルザに言う。

「なあバルザ、ルーミアを説得して連れ帰ってくれないか?」
勘弁かんべんしてくだされ。儂がルーミア様にしかられるではないですか。あの方がそう言い出したらあきらめるしかござらん」
「……であるな。アレは、もっとも優れた精霊の性質を持っておる。自由気ままなのは変わらぬか」

 年経としへたエルフ二人の深いため息が広い部屋に響く。
 フォルセルティとバルザが連名で署名した手紙を書き終えるのは、あっという間だった。


 ◇


 王都のお店経由で、サイモン様から僕――タクミのところに連絡が来た。
 超特急で手紙が届くなんて、嫌な予感しかしないのは僕だけだろうか。
 恐る恐る手紙を開くと、たった一言「よろしく頼む」と書かれ、サイモン様の署名が記されていた。

「頼むって……」

 その後、ユグル王国からもまったく同じ内容の手紙が、ユグル王とバルザ宰相の連名の署名入りで届き、これってドッキリ? と現実逃避とうひする僕がいた。



 4 結果オーライ


 ロザリー夫人の聖域移住についてサイモン様から了解する手紙が届いた事で、家を一軒建てないといけないハメになった。
 ルーミア様はとりあえずミーミル様の屋敷で一緒に暮らすので、問題はないようだ。


 ロザリー夫人の要望で、中央区画の東側に一軒の屋敷を建てた。
 一緒に連れてきた従者や侍女と暮らすそうなので、うちほどではないけど、そこそこ大きな屋敷だ。
 ロザリー夫人は「大きさは関係ない」と言っていたが、子爵夫人だからね。あまり粗末そまつな屋敷じゃダメだろう。
 また、東側の端に建てたのは、反対側にあるユグル王国やロマリア王国に対する政治的な配慮はいりょだ。
 まぁ、それを言ったらミーミル様の屋敷は、僕らの屋敷のお隣で中央区画のど真ん中の一等地だけどね。その辺りはミーミル様と大精霊達との関係や、最初期からの付き合いって事で大丈夫らしい。
 東側で中央から少し外れているとはいえ、中央区画なのには変わりなく、新しく建てられ今もドワーフやエルフの職人達が彫刻や内装工事を行っている役所まで、徒歩でも十分に通える距離だ。
 そして早速、ロザリー夫人とルーミア様は、シャルロット達と一緒に仕事を始めていた。
 シャルロット達は、聖域全体の政務にはつかず、あくまでもイルマ家が立ち上げた商会の事務作業がメインの仕事となる。
 ロザリー夫人とルーミア様が国を離れ、聖域の政務を手伝ってくれるのは、僕的にはラッキーだったのかもしれない。
 お二人はとても自由気ままだけど、それに目をつぶればとても優秀だったんだ。

「戸籍の作成を急ぎましょう」
「基本的に聖域の土地は全部タクミ君のもの。大精霊様方のお力添えはありますが、住居や田畑や果樹園はタクミ君達が与えたものですね。これで年間にわずかな税を徴収するだけなんて、外の人達にバレたら大変ね」
「ルーミア様には、聖域内の事を中心にお願いしてもいいですか?」
「分かりました。ロザリー様は、圧倒的な黒字貿易にある三ヶ国との関係改善に取り組むのですね」
「はい。貿易の不均衡ふきんこうは夫も悩んでいましたから。まぁ、三ヶ国に聖域に売れるような魅力的な物がないのが悪いのですけどね」

 ロザリー夫人とルーミア様が文官娘や自分達が連れてきた侍女を集めて、出来たばかりの役所の会議室で、今後の大まかな方針を話し合っていた。

「すみません。貿易の不均衡に関しては僕も気にはなっていて、現状無理して三ヶ国から色々買ってますが、焼け石に水で」
「聖域でしか買えない物が多すぎるのは仕方ないわ。三ヶ国からは綿めんや木材をもっと買いましょう」
「他に何かないかしら」

 思案するロザリー夫人とルーミア様に僕は言う。

「小麦や大麦はどうですか。最近、エールやウイスキーの生産量を増やしたんですが、まだまだお酒の需要は伸びるだろうと思いまして」

 主食のパンに使う小麦は聖域産の物を使いたい。不思議なくらい味が違うからね。
 その点、エールやウイスキーなんかのお酒の原料になら、三ヶ国から輸入した物を使っても大丈夫なんじゃないかな。
 ドガンボさんやゴランさん達ドワーフに言うと怒られそうだけどね。

「タクミ君、お酒の原料にこそ聖域産の物を使わないとダメよ。良いお酒が造れないわ」
「ルーミア様、そこは輸出用の二級酒と割り切ればいいのでは?」
「それはアリですね、ロザリー様」

 お酒の味があまり分からない僕には理解出来ないけど、ウイスキーやエールも原料の質は大事らしい。

「一度聖域産のお酒を飲んだら、今まで飲んでいたお酒が泥水どろみずのように感じたものです」
「そうですね。ユグル王国は高級ワインが有名でしたが、ここでワインを飲んだら……」
「そんなものなんですね」

 ロザリー夫人が言うには、聖域の中で造られると、輸入した原料で造ったお酒でも、美味おいしいらしい。

「えっと、どうしてそれをロザリー夫人が知ってるのですか?」
「フフッ、ドガンボ殿が試しに造ったものを試飲させていただきました」
「いつの間に……」
「タクミさんはお酒にあまり熱心じゃなくて、ドガンボ殿やゴラン殿に任せっきりと聞いていますわよ」
「そう言えばそうだった」

 聖域では安全で美味しい水がいくらでも飲めるので、お水の代わりにワインを飲む必要はない。だから完全に嗜好品しこうひんの扱いなんだけど、ドワーフだけじゃなくて、エルフや獣人族もお酒を飲むのが好きみたい。
 その二種族にはまずしくてお酒なんて飲めない暮らしをしてきた人が多いらしいので、その反動なのかなと思う。

「聖域産の原料で造られた一級酒。輸入した原料で造られた二級酒。聖域産の原料で造られた中でも、特に出来の良いお酒を特級酒とランク分けして、販売数を調節しましょうか」
「それは良いアイデアですね。二級酒をメインの輸出用としましょう」

 お酒の話になるとロザリー夫人もルーミア様も熱心だな。

「では、酒造所のドワーフとエルフには、私から話を通しておきますわ」
「お願いします、ロザリー様」

 その後、サイモン様が募集している文官の応募経過を聞いたり、何人の文官が必要かを話し合い、今後は週に一度、会議を開催する事を決めたりした。
 基本、僕も参加するけど、僕が参加出来ない場合、ロザリー夫人とルーミア様、シャルロットの三人が主体となって会議を進める事が決まった。



 5 整いつつある聖域


 戸籍作りはロザリー夫人とルーミア様が主導して、進められている。
 何よりありがたかったのは、僕の仕事量が減って、武具の開発を再開出来た事だ。
 途中で手を止められていたからね。

「学校があって、教会があって、立派な役所が建てられて、もう聖域は立派な国ね」
「ええ、あとは税制を整えればね」

 僕はロザリー夫人、ルーミア様、エリザベス様、ミーミル様と役所までの道を、会話しながら歩いている。
 かたや宰相夫人、かたや王妃が徒歩で街中を歩く機会など、聖域じゃなければありえなかっただろう。僅かな距離でも馬車を利用するのが貴族だ。
 まあ、それは防犯上の理由なのだろうが。
 流石に彼女達が一人で出歩く事はないが、従者を一人連れて散歩なんて、よく見かける光景だ。
 これは聖域の中が安全だというのが一番の理由だけど、もう一つ、聖域の素晴らしい景色の中を歩く事が楽しいというのも大きな理由の一つになっている。

「道幅が広く綺麗きれいなのが素晴らしいわね」
「そうですね。バーキラ王国の王都でもここまで広く綺麗じゃないものね。ねえ、エリザベス様」
「ええ、ロザリー様」

 聖域の中央区画の道は、道幅を広くとり石畳いしだたみにしてある。馬車の交通量はバーキラ王国の王都やユグル王国の街と比べて極端に少ないから、必要ないんだけどね。

「公園というのですか? この広場も良いですね」
「ユグル王国には、このようにわざわざ緑を整えたスペースを造る発想はなかったわ」
「住民のいこいの場になって良いですわね」

 聖域の公園の横を歩くルーミア様達が、それぞれ感想を言い合っている。
 聖域の公園には、この世界ではここにしかないだろう、遊具も設置されている。まあ、この世界には公園がないからここにしかないのは当然なんだけど。
 そして公園といえば桜の木という事で、春にはお花見が出来るように何本か、品種を変えて植えてある。あとは花壇かだんに色とりどりの花が四季ごとに咲いて、聖域の住民のいやしの場になっている。

「綺麗なお花が咲いていますが、管理はどうされているのですか、タクミ君?」

 御婦人方の後ろから付いて歩いている僕に、ルーミア様が質問してきた。

「中央区画の植物に関しては、ドリュアスが担当しています」
「まあ、ドリュアス様が」
「直接ドリュアスが花や木々の管理をする場合もありますし、眷属けんぞくの精霊や住民が手伝う場合もありますよ」
「そうなのね。でも良いわね、こういうの。貴族の屋敷にある庭園は見栄みえみたいなものだけど、誰でも楽しめるなんて素敵すてきだわ」

 ルーミア様の感想にロザリー夫人とエリザベス様も頷いている。
 貴族の屋敷ではった庭園を造っている事が多い。
 バラ園だったり、迷路のようにり込んだ生垣いけがきだったり。
 でも皆んなが楽しめるようにはなっていない。貴族の屋敷に誰でも入れるわけないから当たり前だけどね。

「中央区画はまだ空きスペースが多いですから、そこがお花畑みたいになっている場合も多いですね」

 僕がそう言うと、ロザリー夫人が聞いてくる。

「でも居住区にも公園はあるのでしょう?」
「はい。そっちは子供が多いので遊具の数が多いです」
「いい試みね。うちの人にも……ってダメね。王都には空きスペースがないわ」
「うちの王都なら……フォルセルティに言ってみようかしら」

 ユグル王国の王都は土地に余裕があるので、ルーミア様は前向きだ。
 役所に到着した時、ドワーフのドガンボさんが声をかけてきた。

「おう! タクミ!」
「おはようございます、ドガンボさん」
「外回りの彫刻は一応完成したぞ。あとは内装にもりたい場所が何ヶ所かあるが、そう時間はかからんじゃろう」
「ありがとうございます。調度品ちょうどひんの方はどうですか?」
「おう、そっちはエルフの職人が中心になって頑張っておるし、もう直ぐ終わりそうじゃ」
「じゃあ引き続きお願いします」
「おう! 任せとけ!」

 ドガンボさんは酒造に鍛冶かじ、大工や石細工いしざいくと、やりたい仕事を楽しんでいる。メインは酒造らしいけどね。


 ドガンボさんと別れ、役所の中にある会議室に入ると、早速今日のミーティングを始める。

「本格的に動き出すのは、うちの夫が文官の人選を終えて戦力が整ってからですね」
「そうなりますね。ですからそれまでは、僕達で出来る事をコツコツとするしかないですね」

 ロザリー夫人と僕が話していると、ルーミア様が手を挙げる。

「ちょっとよろしいかしら」
「ルーミア様、どうしました?」
「聖域の施設で治療院ちりょういんを見かけなかったの。まだないのかしら」
「治療院ですか……真っ先に造るべきでしたね」

 ルーミア様から治療院、いわゆる病院がないと指摘された。
 今まで僕、アカネ、ミーミル様、教会の神官が聖域の住民の病気や怪我を治していたんだけど、ちゃんとした病院は必要だろうな。
 僕はふと思いついて提案する。

「この際、住民に欲しい施設のアンケートでも取ってみます?」
「うーん、どうなのかしら。治療院以外は娯楽ごらくを含めて充実していると思うわよ」
「その辺りは文官がそろってから考えてもいいんじゃない?」

 住民へのアンケートは、そう急ぐ必要はないとエリザベス様やロザリー夫人は言う。
 その後もロザリー夫人やルーミア様が中心になって、片付けるべき仕事の優先順位を決めていった。
 頼りになるなぁ。


 ◇


 会議の後、僕はロザリー夫人やルーミア様達から出た治療院の話を、ソフィア達に相談した。

「今までは教会かミーミル様、あとは僕かアカネが病気や怪我をした住民に対処していたけど、治療院を造った方がいいかな?」
「それはちゃんとした場所があった方がいいに決まってるじゃない」
「やっぱりか」

 何を当たり前の事を言ってるのとアカネに言われ、改めてもっと早くに造るべきだったと反省する。
 ただ言い訳するわけじゃないけど、聖域の空気が良いのか、水や食べ物が関係しているのか、聖域の住民達はあまり病気にかからない。
 勿論、怪我はするだろうけど、聖域には希少で貴重な薬草が豊富にあるので、ちょっとした怪我なら住民が自分達でなんとでも出来る。
 だから僕やアカネ、ミーミル様の魔法が必要な場面は少なかったんだ。

「ちゃんとした治療院の建物を建てて、そこに交代で神官さんにいてもらおうか」
薬師くすしもいれば良いのでしょうけどね。ああ、私は治療院の仕事をメインにしてもいいわよ」
「アカネが引き受けてくれるのならありがたいよ」

 ミーミル様は教会の仕事も手伝っているので、アカネが治療院をメインで運営してくれると言うなら願ってもない。

「薬師ならルーミア様とミーミル様にお願いしてみますか?」

 ソフィアが言った。彼女の話では、ユグル王国には薬草の扱いにけた薬師が多いらしい。流石森と共に生きるエルフだ。
 様々な病気に合わせた薬を長い歴史の中で数多く生み出し、研究を重ねてきたらしい。

「魔法に頼らない治療も確立しないといけないから、是非ともお願いしたいけどやってくれるかな……」
「大丈夫じゃないですか。何ならセレネー様にお願いすれば、断るエルフはいないと思います」
「へぇ、そうなんだ」

 光属性魔法に適性のあるエルフは、そのほとんどが神官として働いているらしい。彼らはノルン様は勿論、光の大精霊セレネーも信仰しているそうで、セレネーから話せば確実だと言う。

「いや、でもそれは流石に悪いよ。エルフでも光属性魔法に適性のある人は少ないんだろう? なら、断れない状況で誘うのは違うと思うんだよね」
「確かにそれもそうですね。でもユグル王国の薬師の中には、是非とも聖域に移住したいって人の方が多いと思いますよ」
「そうなの? いや、それもそうか。薬草の宝庫だもんな」
「そういう事です」

 考えてみれば、薬師にとって聖域は夢の場所だった。
 流石に秘薬エリクサーの素材はないけど、それ以外の希少な薬草は普通にあるからね。木の大精霊ドリュアス様々だ。

「でも治療院を造るなら、薬草専用の畑を作った方がいいかもね」
「それならお姉ちゃんにお任せよ~!」
「うわぁ! びっくりした! 驚かすなよ、ドリュアス」

 僕が薬草専用の畑の話をした途端、その場にドリュアスが現れた。

「まあまあタクミちゃん、怒らない怒らない」
「怒ったわけじゃないけどさ。いきなり出没するのはやめてほしいよ」

 大精霊全員に当てはまるんだけど、彼女達は神出鬼没しんしゅつきぼつだから困る。

「タクミちゃん、早速治療院と薬草畑を造りに行きましょう」
「ちょ、ちょっと、引っ張らないでも行くから!」


 ドリュアスに手を引かれてしばらく歩くと、彼女はある場所で立ち止まった。

「タクミちゃん、ここでいいんじゃなーい」
「教会の近くか。神官の人達と協力する事を考えれば悪くないね」

 ドリュアスが指定した場所は、教会の直ぐ側だった。
 中央区画には、僕の屋敷やミーミル様の屋敷、大精霊達用の屋敷、最近建てたロザリー夫人の屋敷以外は公共の施設が主なので、土地は余っている。
 地下室は一階分あれば大丈夫だろう。建物もそれほど大きなものでなくてもいいと思う。
 診察室と待合室、薬草の調合をする部屋と倉庫に入院患者用の病室が何部屋かあればいいかな。
 石材や木材、ガラス素材を必要数アイテムボックスから取り出し、頭の中で完成図を強くイメージする。

「錬成!」

 僕がそう唱えると、錬金術が発動して魔力光が素材をおおう。
 次の瞬間、地下一階、地上三階の石造りの治療院が完成した。

「うんうん、良い出来だと思うわ~」
「まぁ、器が出来ても薬師や医者がいないと意味ないけどね」
「それもタクミちゃんに任せれば大丈夫でしょう~」
「はぁ、分かってるよ。武具もまだ中途半端なのに……」

 ドリュアスが満足そうに完成した治療院を見ている。聖域で暮らす人が増えて病院は必須だったから僕もホッとしたよ。
 さて、備品を揃えて人を探さないとな。


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