いずれ最強の錬金術師?

小狐丸

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12巻

12-3

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 6 光の剣


 治療院を建てて、役所でロザリー夫人とルーミア様、そしてエリザベス様が文官として働き始めたお陰で、僕の仕事は随分と楽になった。
 でも油断していると、いつまた山ほどの仕事がおそいかかってくるか分からない。
 だから今のうちにかねてから考えていた剣を打とうと思う。
 僕は既にソフィアの持つ聖剣アマテラスと対をなす絶剣ツクヨミを持っている。
 だけど以前ダンジョンでアンデッドを相手にした時、かみなり属性も同時に付与してあるとはいえやみ属性のツクヨミは使い所が難しかった。
 僕のメイン武器である槍、アイスブリンガーでは戦いづらい乱戦の場合など、剣を使いたい場面もあるだろう。そこで僕はもう一振りか二振り剣を打つ事を決めた。
 ここで考えられるのは、単純にソフィアのアマテラスのように光属性の剣にするか、それとも属性は戦闘時にその都度付与するかだ。あらかじめ属性が付与された剣なら、魔力を流し込むだけでいい。シンプルで使いやすいし、僕が造ってきた武具は基本的にこのタイプだ。
 その都度付与する方法なら、相手の弱点に合わせて武器を変える必要がない。
 ただ、どちらにも欠点があって、あらかじめ属性が付与された武具は、魔力を流し込む量により威力いりょくが増減するので、調子がいい時は大量の魔力で攻撃力を高められるものの、魔力がない時はかなり厳しい。
 相手に合わせてその都度付与する方は、相手を選ばない万能性があるが、その分攻撃力は落ちる。
 攻撃力のある特化型をとるか、一振りであらゆる属性に対応出来る汎用はんよう性をとるか。
 僕の場合に限っては、光属性を付与した特化型一択だ。
 何故かと言うと、僕にはアイテムボックスがある。戦闘中に武器の交換も可能だし、これまでも相手に合わせてその都度武器を変えてきた。あとはベースの金属をどうするかが重要になってくる。
 アマテラスやツクヨミは、吸魔きゅうまの剣にオリハルコンを合成して造った。今回もオリハルコンを使う事は決定として、どの金属と合わせるか考えないといけないな。

「ノームに相談してみるか」

 オリハルコンも土の大精霊であるノームからもらわないと手持ちじゃ足りないからね。
 そうと決まれば早速ノームに相談に行こう。


 僕が向かったのは酒造所だ。
 基本的にノームと火の大精霊サラマンダーはここにいる事が多い。

「あっ、やっぱりここにいたんだね、ノーム」
「うん、何じゃタクミか。何の用じゃ」
「実は……」

 そこで僕はノームに新しい剣を打とうと思っている事を話し、オリハルコンを二振り分欲しい事と、合金にする場合にどの金属を使えばいいのか相談しに来た事を話した。

「ふむ、オリハルコンか、二振り分と言わずもっと持っていってもいいぞ。ここのドワーフ共は扱うのはアダマンタイトどまりじゃからな。量は心配ない」
「おっ、オリハルコンを合金にするのか」
「そうなんだよ、サラマンダー」

 サラマンダーも興味があるのか近づいてきた。
 すると、ノームがぽつりと言う。

「……オリハルコンをメインにヒヒイロカネを合成するか」
「ヒヒイロカネ?」
「うむ、ヒヒイロカネは靭性じんせいはあるが硬度こうどはミスリルに少し負ける程度。じゃが、この金属は特別での、エンチャントをかけなくても自動修復するのじゃ」
「へぇー、だけど硬度に問題があるのなら、剣に向かないんじゃないのか?」

 刃の部分はどうしても硬度が必要になる。高い靭性と硬度を両立させるのが一番難しいのだ。

「それが問題ないんじゃ。実はこのヒヒイロカネという金属はのぉ、ある金属と合金にすると、その金属の硬度と靭性を何ランクも引き上げる、ある意味神の金属なのじゃ」
「ひょっとしなくても、それがオリハルコンなんだね」

 ノームが頷く。オリハルコンを合金にする話をしているんだから当たり前だよね。

「よし、タクミの工房に行こうかの」
「えっ? ノームが工房に来るの?」
「うむ、このヒヒイロカネは神の金属と言われるだけあって少々特殊でのう、錬金術と鍛冶魔法だけでは上手くいかんのじゃ」
「へぇ、そうなんだ」

 僕が感心していると、サラマンダーが口を開く。

「よし! 俺も行くぞ!」
「サラマンダーまで?」
「タクミ、儂達もいいか?」

 そこにゴランさんとドガンボさんが一緒に工房へ行くと言い出した。

「我らドワーフの職人でもオリハルコンやヒヒイロカネを扱った者などおらん。雑用でも何でもするから見学させてくれ」
「ふむ、お前達もついでじゃ、ついてくるがいい」

 僕がオーケーを出す前にノームが了承した。多分、何か理由があるんだろう。
 そうして僕達五人は、鍛冶工房へ向かった。


 鍛冶工房に着くと、ノームがオリハルコンのインゴットとヒヒイロカネの塊を出してくれた。

「あれ? ヒヒイロカネはインゴットじゃないんだ」
「そう、そこが問題なのじゃ」

 ノームいわく、ミスリルやアダマンタイトをはじめとする魔法金属全般は精錬や鍛錬の段階で魔力を必要とする。
 ドガンボさんやゴランさんは、つちに魔力を込めながら叩いて鍛錬するのだが、その時に必要な魔力がバカにならない。
 僕は鍛冶魔法と錬金術で成形、精錬、鍛錬をしているのだけど、それは僕の魔力量が人外レベルなのと、鍛冶スキルや錬金術スキルが高いからだ。

「ヒヒイロカネは、錬金術での精錬を受け付けないのじゃ」

 ノームがそう言うと、ゴランさんとドガンボさんが頷いて言う。

「しかも鎚に込める魔力もハンパじゃねぇんだ」
「ゴランの兄貴の言う通りじゃ。儂とゴランの兄貴が来たのもタクミを手伝うためじゃ」
「しかも温度の管理もシビアだからな。だから俺がいるんだぜ」

 最後にサラマンダーが言った。

「なるほど、そうだったんですね」
「うむ、ヒヒイロカネは言うてみれば生きた金属じゃ。ワガママじゃから、鎚越しの魔力しか受け付けぬのじゃ」

 ノームの話によれば、ヒヒイロカネだけは何故か、金属の組織や分子をイメージしても錬金術では精錬出来ないらしい。これはもうそんなものだと思った方がいいそうだ。
 ノームは続ける。

「ところが一度インゴットに精錬してしまえば、あとは錬金術でも鎚でも打てる素直な金属に変わるんじゃ」
「悪いね、そのために皆んなに手伝ってもらって」
「何、神鋼しんこうの再現に立ち会えるんじゃ。ドワーフとしてこんなに名誉めいよな事はない」
「そうじゃ。儂らドワーフだけでは不可能な技に携われるなんて、タクミと知り合えて良かった」

 ゴランさんとドガンボさんは早くも感動しているみたいだ。
 神鋼というのは、神が創造したとされる神創武器しんそうぶきに使用されているヒヒイロカネとオリハルコンを合わせた金属で、ノムストル王国にナイフが一振りだけ国宝としてのこされているらしい。

「では早速始めるかの」

 ノームが取り出した金属の塊は、銅のように金色ににぶく輝いていた。

「これがヒヒイロカネ……十分綺麗に見えるけどね。これでも精錬されていないんだ」
「ヒヒイロカネの精錬は、他の金属の精錬とは少しだけ意味が違うからの。この塊には不純物はほとんど含まれておらん。これから行うのは、この塊に満遍まんべんなく魔力を浸透させる作業じゃ。ではサラマンダー、頼むぞ」
「おう、任せとけ!」

 サラマンダーがヒヒイロカネの塊を熱していく。
 工房の魔力炉まりょくろを使わずに、サラマンダーのほのおのみで加熱されたヒヒイロカネの塊が赤熱して輝く。
 このヒヒイロカネを熱するのは、サラマンダーじゃないと難しい理由が分かった。それは炎を形成する濃密な魔力だ。鍛錬中だけでなく、加熱の際にも魔力にさらされる事で、ヒヒイロカネは神の鋼の素材と成り得るんだ。
 ドガンボさんが金床かなどこにヒヒイロカネを置き、俺とゴランさんが鎚に魔力を込めながら叩く。
 叩いた箇所が不思議な光を放ち、不純物が火花となって飛ぶ。
 魔力が枯渇こかつしてくると、マナポーションを飲んで交代で休憩をとり、僕とドガンボさんとゴランさんの三人でヒヒイロカネを叩く。
 ヒヒイロカネの塊が形を変え、叩いた箇所がまばゆく光るようになったところで、ノームからストップがかかる。

「うむ、もう十分じゃろう。ヒヒイロカネの精錬と鍛錬は終了じゃ」
「ふぅ~、つ、疲れたぁ」
「……流石に年寄りには応えるのう」
「ゴランの兄貴、まだオリハルコンとの合成が終わっておらんぞ」

 魔力も体力もギリギリまで使った僕達三人がへたり込んで休憩していると、ノームがオリハルコンのインゴットを取り出した。

「二振りの剣なら、これで十分な量じゃろう」
「ありがとう、ノーム」
「それで、どんな剣を打つつもりじゃ」
「ああ、それなんだけどね……」

 僕がノームに構想を話し始めると、ドガンボさんとゴランさんも興味津々で聞き耳を立てる。
 僕が考えている二振りの剣のうち、一振りは今まで使ってきた絶剣ツクヨミと同じ大きさで同じ形の片刃の片手剣にしようと思っている。
 アンデッドや闇属性に近い魔物以外なら、それで戦える。
 もう一振りは、き手と反対側の手に持ち、時にはたてとして、時には攻撃の手段として使える小太刀こだちサイズの剣を考えているとノームに説明した。

「ふむ、大小の光の双剣そうけんか……良いの」
「ああ、面白そうじゃ」
「ふむ、新しい神器の誕生に立ち会えるぞ、ゴランの兄貴」
「ついでだ、温度の管理は俺に任せろ」
「ありがとう。頼むよ」

 ノーム、ゴランさん、ドガンボさん、サラマンダーに礼を言う。
 オリハルコンとの合成と作刀は、日が暮れた後に行う事になった。
 それまで一旦屋敷で休憩がてら食事にしよう。
 僕は皆んなを誘って屋敷へ移動した。


 広いダイニングで家族と仲間と一緒に食事を楽しんで、僕はさっきのメンバーと工房に戻った。
 気持ちがリラックスすると魔力の回復量も増える気がするね。

「さて、ツクヨミを見せてくれ、タクミ」
「はい、どうぞ」

 ゴランさんがツクヨミを見たいと言うので、アイテムボックスから取り出し渡した。

「ふむ、見事な剣じゃな。二属性の付与とは大したもんじゃ。じゃがこしらえが無骨ぶこつに過ぎるな」
「どれ、ゴランの兄貴、儂にも見せてくれ」

 ドガンボさんがゴランさんからツクヨミを受け取り隅々すみずみまで検分する。

「これは以前タクミが手に入れた吸魔の剣を打ち直したモノじゃな。見事なもんじゃ」
「これから打つ剣は、付与せずとも自動修復の特性を持つ剣になる。その分、違うエンチャントをかける事が出来るんじゃ。完成が楽しみじゃ」

 ゴランさんとドガンボさんはひと通り検分したあとさやに収めて返してくれた。

「では始めます」

 僕はいつものように、硬度を変えた合金を作る。
 心鉄しんがねには靭性に富んだもの。
 刃金はがねにはヒヒイロカネの量を減らした硬いもの。
 皮鉄かわがねはその中間のものを造る。
 ノームにオリハルコンとヒヒイロカネの合金にする割合は教えてもらっている。
 知らなくても一パーセント刻みで何度も合成を繰り返せばいい話なんだけど、時間と魔力の無駄だからね。
 オリハルコンに五パーセントのヒヒイロカネを合成し、満遍まんべんなく混ざり合うよう強くイメージする。
 青白いオリハルコン特有の色に黄金色のヒヒイロカネを少量合わせていく。

「錬成!」

 そう唱えると、オリハルコンのインゴットとヒヒイロカネのインゴットが混ざり合い、エメラルドグリーンに染まった合金が出来上がった。

「ふぅ、魔力がめちゃくちゃ持っていかれるね」
「それはそうじゃ、神鋼など簡単に造れるわけがなかろう」

 しかし、僕は刃に使う硬さと靭性を兼ね備えた究極の合金の錬成に成功したと確信した。
 普通、はがねは硬くなればもろくなる。だけどそこは神鋼と呼ばれる究極のオリハルコン合金。これはそんな常識を超えたものらしい。

「……これは、凄いのう」
「……あ、ああ、儂らはドワーフの職人の夢をこの目で見ているんじゃな」

 ゴランさんとドガンボさんは感動に震えている。
 大袈裟おおげさだと思うんだけど、僕も魔力が枯渇気味なのでツッコむ余裕もない。
 一つ目のオリハルコン合金をめるように検分する二人をよそに、マナポーションを飲んで休憩した。
 魔力が回復して万全になったところで、今度はヒヒイロカネを七パーセント合成した合金を錬成する。

「錬成!」

 またもや大量の魔力を持っていかれ、さっきよりも黄色が少し強めの薄いエメラルドグリーンに染まった合金が出来上がった。

「はぁ、あとはこれを分割してっと、これでいいかな」

 完成した二つのオリハルコン合金を一つはツクヨミと同じサイズの剣用に、もう一つは小太刀サイズに分ける。
 そこまで終えて、マナポーションをもう一本飲み干しまた休憩する。

「左手用の剣はどのような形にするのじゃ?」
「片刃で刀身の厚い蛤刃はまぐりばのショートソードを考えています」

 休憩しているとドガンボさんがもう一本の剣の形を聞いてきたので、今のところ考えている事を話した。

「ふむ、切れ味よりも頑丈がんじょうさを求めるか」
「ゴランよ、オリハルコン合金で打たれた剣は何もせずとも頑丈じゃ。並大抵なみたいていの事では刃こぼれは起こらず、刃こぼれしたとしても直ぐに修復されるからの」

 厚重ねの蛤刃と聞いて、切れ味よりも頑丈さを求めたと、僕の考えを正確に推測したゴランさんに、ノームがこの神鋼で造られた剣なら工夫せずとも頑丈に仕上がると言った。
 なら身幅を広く厚重ねにして重くすれば、攻防一体の剣になるかもしれない。

「しかしタクミの剣術は、太刀たちらずのいきに入っていたのではないのか?」

 僕の剣を知っているドガンボさんが、防御を強化する剣を打つ事に疑問をもったみたいだ。

受太刀うけだちすきになる事があるので、可能な時は一撃で倒す事を意識していますが、強敵相手の乱戦を想定した場合、準備は必要だと思って」
「ふーむ、確かに備えておく事は大事じゃのぅ」

 二振り共同じ形の剣でも同じような戦い方は出来るだろうけど、極限の戦いの中で相手の攻撃をさばきやすい短めの剣が勝敗を決める事もあるかもしれない。
 それに攻撃特化のスタイルにする時は、ツクヨミとの双剣にすればいいからね。


 マナポーションを飲んで休憩した事で、魔力が回復してきたので、作業の続きをしよう。
 まずはメインのツクヨミと対になる剣を造る。
 最初に心鉄用の合金を鍛冶魔法で成形する。

「クッ、魔力の通りが良いのに、とんでもない量の魔力を持ってかれますね」
「当たり前じゃ、神鋼じゃぞ。それに簡単に成形出来るようなやわらかいものが最高の剣になるわけなかろう」

 思っていた以上の魔力消費に少し愚痴ぐちると、ノームは当然だろうと呆れた。
 確かに道理だ。魔力をまとわせやすいからって、成形しやすいはずがない。
 マナポーションを飲みながら休憩を挟み、皮鉄用のパーツを二つ成形し、その後は刃金用の成形を始める。
 何とかパーツが完成したので、心鉄・刃金・皮鉄を組み合わせていく。
 ここで普通の鍛冶なら熱して鍛錬なのだろうけど、僕は基本的に魔法鍛冶師だ。極稀ごくまれに鎚を打つ事もあるけどね。
 それぞれのパーツが自然に融合するように合成し、剣の形に成形する。
 魔力がゴリゴリと消費され、ひたいからあせが流れる。
 休み休み魔力を回復させながら作業していくと、やがて形だけはツクヨミとそっくりの剣が出来上がった。
 ノームが言う。

「ふむ、良いようじゃな。サラマンダー、九百度で加熱じゃ」
「おう、満遍なくで良いのか?」
「あ、少し待ってください。土置きしますから」

 土置きとは刃文を出すための工程だ。僕は用意してあったどろを刀身にりつけていく。

(刃文があった方が綺麗だしな)

 土置きは刃文だけが目的じゃないけど、見栄えは大事だ。

「よし、サラマンダーお願い」
「おう、任せとけ」

 オリハルコン合金で出来た片刃の剣が赤熱して光る。
 この頃には鍛冶工房の外はとっぷりと暮れていて、暗い工房をオレンジ色の灯りが照らす。

「今じゃ!」

 ノームの合図で僕は、精霊の泉からんできた清らかな水に、赤く光る刀身を一気にける。
 ジュワァァーー‼
 その後、焼入れをした刀身を確認する。
 形を修正し鍛冶魔法で刀身をぐと、僕とドワーフと大精霊が力を合わせて打った剣がついに完成した。
 薄いエメラルドグリーンに染まった白銀の刀身に、波打つ刃文が息をむほど美しい。

「ほぅ、言葉が出ないのぅ……」
「うむ、これをドワーフ以外が打ったのが悔しいが、今の儂らには無理じゃな」

 ゴランさんとドガンボさんが食い入るように刀身を見つめている。

「なあタクミ、この剣の拵えを儂とゴランの兄貴に任せてくれんか?」
「えっ、いいんですか? 僕としてはありがたいお話ですが」

 ドガンボさんから拵えを作らせてくれと言われた。僕はもう一振り造らないといけないので、手伝ってくれるならありがたい。

「ふむ、エンチャントは拵えを作った後でも構わんだろう。ドガンボ、儂の工房に行くぞ」
「おう兄貴、儂もつかや鞘の素材を持って直ぐに行く」
「欲しい素材があれば言ってくださいね」

 僕が二人に言うと、ゴランさんが答える。

「おう、ならとりあえず竜種の骨ときばつめ、あとは皮膜ひまくがあれば頼む」
「分かりました」

 ゴランさんのリクエストに応え、アイテムボックスから竜種の中でも上位種の骨や牙、爪と皮膜を取り出して渡す。

「よし、行くぞドガンボ」
「おう!」

 二人はいそいそと鍛冶工房から出ていった。

「今日はここまでじゃな。時間も遅い、続きは明日にしよう」
「そうだな。俺は焼入れの時だけだから、明日の日が暮れてから来るからな」
「ありがとうノーム、サラマンダー。明日もよろしく頼むよ」
「うむ、何を付与するのかよく考えておくんじゃな」

 そうして、ノームとサラマンダーは大精霊らしくその場で姿を消した。


 屋敷に戻るとメリーベルに叱られた。

「遅くなるなら一言お願いします。皆さまが食事を始められません」
「悪かったよ、メリーベル。少し夢中になってしまったんだ。明日も一日中鍛冶工房だと思うから、僕の事は気にしないで」
「はぁ、分かりました。昼食と夕食はお届けします」
「うん、そうしてくれるとうれしいよ」

 普段使う工房は屋敷の中にあるけど、鍛冶工房は住居スペースから離して造られている。しかも遮音しゃおんの結界を張っていたので、メイド達も近寄れなかったらしい。
 食事を持ってきた時に、りんを鳴らせるようにしておくとメリーベルに伝え、今日はもう寝る事にする。
 体力的にはまだまだ大丈夫だけど、魔力が何度も枯渇しかけただけあり、精神的に疲れた。
 明日もあるので、その日はベッドに入ると一分もかからず眠りについた。


 ◇


 翌朝、気持ち良く目覚めた僕は、顔を洗って歯をみがいてから食堂に行くと、メリーベルが直ぐに朝食の配膳はいぜんをしてくれた。
 ソフィアやマリア、マーニやレーヴァ、アカネとルルちゃん、カエデが食堂に集まってくる。うちは使用人も一緒に食事をとるんだけど、シャルロット達はもう少し時間が遅い。
 ソフィアが昨日の事を聞いてきた。

「昨日はずっと鍛冶工房にこもっていたのですね」
「うん、熱中すると時間を忘れてしまうね」
「食事はちゃんととってくださいね」
「分かったよ」

 ソフィア達にも心配をかけたみたいだな。気を付けよう。
 今度はレーヴァが言う。

「それで剣はどんな感じでありますか?」
「エンチャントはまだだけど、一振りは完成したよ」
「ほぉ、是非見たいであります」
「拵えをゴランさんとドガンボさんにお願いしたから手元にはないんだ」
「そうでありますか。ならゴランさんの工房に見に行くであります」

 レーヴァは剣の出来に興味があるらしい。


 手早く朝食を食べ、鍛冶工房へ向かう。
 まだノームは来ていない。サラマンダーは午後からだろう。ドガンボさんとゴランさんも拵えを造るはずなので、僕一人だった。
 昨日に引き続き魔力炉は使用しない。作業台の上にオリハルコン合金のインゴット三種類を並べ、いつでも飲めるようにマナポーションのびんを出しておく。
 準備を終えるとインゴットを並べた作業台の前に立ち、これから打つ片刃の剣を頭の中でイメージする。
 僕がイメージするのは、十手の一種である兜割かぶとわりのような役割を持つ剣。
 兜割は刃がないので斬る事は出来ないけど、重ねが極端に厚い。
 そんなイメージでインゴットを変形させ成形する。
 それから心鉄・皮鉄・刃金と組み合わせ、重ねは厚く身幅も広い剣の形へ鍛冶魔法と合成を使い仕上げていく。
 途中、ソフィア、マリア、マーニが昼食を持ってきてくれた。
 何故三人なのかと言うと、エトワール・春香はるか・フローラの三人を連れていたからだ。
 流石に二日も工房にこもっていると、娘の顔が見たくなるからね。嬉しい限りだ。


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