いずれ最強の錬金術師?

小狐丸

文字の大きさ
上 下
292 / 327
連載

後日談百七十六話 勝負にもなっていない

しおりを挟む
 予定外のサメの魔物を釣り上げてから、お昼ごはんを食べ休憩した後、午後からのファイトに向け、ポイントを変更した僕とダン君は、聖域の結界ギリギリを走っていた。

 結界のギリギリを攻めると、午前中のように魔物がかかる可能性もあるけれど、カジキマグロの大物が釣れるかもしれないからね。

「いやぁ~、いい一日でござったな!」
「本当にね」

 ダン君が空を見上げて満足気に言う。確かに一日お天気が良く、波も静かで海も荒れなかった。気持ちのいい海風を浴びてのクルージング。最高の休日だったと言えるだろう。

「あとはバーベキューでござるな!」
「その前に釣り勝負の結果だけどね」
「ま、まぁ、それはそれでござるよ。ハ、ハハッ」

 クルーザーを係留してチラッと周囲を見渡すと、先に三隻のクルーザーが係留されていた。もう子供達は戻って来ているみたいだ。どうやら僕達が最後みたいだな。ギリギリまで粘ったから仕方ないか。

「僕達が最後みたいだね」
「タクミ殿、粘ったでござるからな」
「終わり掛けに大物がヒットするかもしれなかったじゃないか。それにまだまだ明るいから許容範囲だよ。子供達も帰って来たばかりなんじゃないかな」
「まあ、そういう事にしておくでござるよ」

 ダン君に、遅くなったのは僕が粘ったからだと言われたけど、それは仕方ない。時間ギリギリで大物が釣れるかもしれなかったしね。



「あっ、パパー!」
「パパだ!」
「パパー!」

 フローラが僕を見つけ手を振ってぴょんぴょん飛び跳ねている。春香とエトワールもニコニコ顔で手を振っている。

「みんな楽しかったみたいだね」
「「「うん!」」」

 フローラが先頭に三人の子供達が僕に飛び付いて、僕はそれを受け止める。

 このハイテンションとニコニコ顔で、子供達の釣果が想像できてしまう。


 そんな三人の子供達を抱き上げていた僕に、ライルさんが声を掛けてにた。

「よぉ、タクミ。バーベキュー会場に行くぞ」
「えっ!? あの、釣り対決は?」

 さっさとバーベキュー会場に行くぞと言われ、僕は困惑して思わず釣り対決はどうなったのか聞き返す。

「んっ? ああ、ほれ、アレよりデカいの釣ったんならタクミの優勝だ」
「へっ!?」

 ライルさんが指差す先には、巨大なカジキマグロ(ブルーマーリン)が三本吊るされていた。

 一番大きなサイズのブルーマーリンは五メートルは余裕であるんじゃないか。小さなものでも三メートル半はある。

「あの一番大きなサイズを釣り上げたのは春香ちゃんだ」
「春香が一番大きなお魚釣ったの!」
「フローラは数が一番だったよ!」
「二番目に大きなお魚を釣ったのはわたし。数も二番目だったの」
「……そ、そうなんだ。ハ、ハハッ、凄いじゃないか。よ、よかったね」

 頬がピクピクしそうなのを我慢して、春香、フローラ、エトワールの頭を順番に撫でて褒めて労う。

 なに。三人ともブルーマーリンが釣れたの? 数が一番ってなに? 何匹も釣ったの? あのサイズ……よく釣り上げたよね。いや~、聞いてくるよなぁ。聞かれたくないなぁ~。

「パパ! パパ! パパは、どうだった?」
「パパもお魚釣れた?」
「パパ! おっきなの釣れた?」
「ウッ、ハ、ハハッ、どうだったかなぁ」

 ほら、聞いてきた。しかも三人とも、まったく悪気がないからつらい。

「おぅ、タクミ、さっさと見せやがれ」
「はぁ。ちょっと下がってください。エトワール、春香、フローラも、少し離れててね」

 僕と子供達のやり取りを見ていたライルさんが、にやにやして急かしてきた。完全に分かって言ってるのがイラッとする。ライルさん。こんなところだぞ。結婚できないの。

 仕方ないので、僕は皆んなから少し離れてアイテムボックスに容れていたモノを取り出した。

 ズドォォーーンッ!!

「わぁーー!! おっきなお魚ー!!」
「ほんとうだ! パパのお魚おっきい!」
「すごいね、パパ!」

 僕がアイテムボックスから取り出すと、フローラが純粋にびっくりして喜んでいる。春香も同じく大きさに尊敬の眼差しを僕に向ける。エトワールは、何となく分かっているんだろうな。慰める感じがあるもん。

「なぁ、タクミ」
「いや、言わないでください」
「そうは言うがよ」

 ライルさんが残念な人を見る眼で僕を見る。分かっているさ。僕が釣り上げたのがカジキマグロ(ブルーマーリン)じゃないくらい。

「そうだぞ。まさか結界の中じゃないよな」
「ギリ結界の外ですね」
「某、大物を狙ってポイントのギリギリを攻めたでござるよ。多分、少し失敗して結界の外に出てたんでござろう」
「なら大丈夫か」

 呆れた表情のライルさんとは違い、僕が釣り上げたモノが結界の中にいる筈がないとヒースさんが確認してきた。僕とダン君で説明すると一応安心してくれた。


 そう。結局、僕の竿にはブルーマーリンはヒットしなかった。最初にかかったサメの魔物一匹だけだ。

 子供達は、純粋に驚き喜んでくれるけれど、カジキマグロ釣りにサメを釣っているんだから、外道もいいところだ。しかも魔物だからね。

「まぁ、海の魔物だからデカいわな」
「ハ、ハハッ、寧ろ小さい部類ですね」

 海の魔物は大きくなる傾向が強いので、僕が釣り上げたサメも子供達が釣り上げたブルーマーリンと比べても少し大きい。だけどサメの魔物としては小ぶりな方になる。

「パパ、これおいしいの?」
「う~ん。確か美味しくなかった筈だよね」
「はい。皮や骨、歯、あとは魔石くらいですね」
「だよね。フローラ、美味しくないって」
「ちぇ、ざんねーん」

 僕が釣ったサメの魔物に興味を示したのはフローラだった。姉妹でも食いしん坊なフローラは、このサメの魔物が美味しいのかどうかが気になったみたいだ。

 ただ、僕の記憶では、このサメの魔物は美味しくなかったと思う。そう思って水精騎士団の団員に聞くと、やっぱり肉は美味しくないらしい。それをフローラに言うと、残念そうにしている。魔物は美味しく食べれる種類も多いから期待したんだな。

「タクミ様、これ解体に回しておきますね」
「うん。必要な素材は水精騎士団で使っていいよ」
「ありがとうございます」

 もうサメの魔物は水精騎士団に丸投げしてしまおう。

「パパ! バーベキューは?」
「パパ! おなかすいた!」
「パパ、早く行こう!」
「う、うん。行こうか」

 春香が我慢できなくなったみたいで、バーベキューはまだかと急かす。フローラもお腹が限界みたい。エトワールにまで早くバーベキューに行こうと言われてしまう。

 まぁ、釣り勝負は同じ土俵にすら上がれなかった僕の一人負けだな。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

悪役令嬢が処刑されたあとの世界で

重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。 魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。 案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

【 完結 】「平民上がりの庶子」と言っただなんて誰が言ったんですか?悪い冗談はやめて下さい!

しずもり
恋愛
 ここはチェン王国の貴族子息子女が通う王立学園の食堂だ。確かにこの時期は夜会や学園行事など無い。でもだからってこの国の第二王子が側近候補たちと男爵令嬢を右腕にぶら下げていきなり婚約破棄を宣言しちゃいますか。そうですか。 お昼休憩って案外と短いのですけど、私、まだお昼食べていませんのよ?  突然、婚約破棄を宣言されたのはチェン王国第二王子ヴィンセントの婚約者マリア・べルージュ公爵令嬢だ。彼女はいつも一緒に行動をしているカミラ・ワトソン伯爵令嬢、グレイシー・テネート子爵令嬢、エリザベス・トルーヤ伯爵令嬢たちと昼食を取る為食堂の席に座った所だった。 そこへ現れたのが側近候補と男爵令嬢を連れた第二王子ヴィンセントでマリアを見つけるなり書類のような物をテーブルに叩きつけたのだった。 よくある婚約破棄モノになりますが「ざまぁ」は微ざまぁ程度です。 *なんちゃって異世界モノの緩い設定です。 *登場人物の言葉遣い等(特に心の中での言葉)は現代風になっている事が多いです。 *ざまぁ、は微ざまぁ、になるかなぁ?ぐらいの要素しかありません。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

ギフト争奪戦に乗り遅れたら、ラストワン賞で最強スキルを手に入れた

みももも
ファンタジー
異世界召喚に巻き込まれたイツキは異空間でギフトの争奪戦に巻き込まれてしまう。 争奪戦に積極的に参加できなかったイツキは最後に残された余り物の最弱ギフトを選ぶことになってしまうが、イツキがギフトを手にしたその瞬間、イツキ一人が残された異空間に謎のファンファーレが鳴り響く。 イツキが手にしたのは誰にも選ばれることのなかった最弱ギフト。 そしてそれと、もう一つ……。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。