不死王はスローライフを希望します

小狐丸

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二百六十一話 格の違い

 グランツ支部長が拡声器の魔道具を手に取り声を張り上げる。

「先鋒戦! 挑戦者、獣王国チームのレーバー!」

 ウォォォォーー!!

 ミル達の試合はプラチナチケットだからか、今日は観客の熱気が凄いな。

「挑戦を受ける絶対王者! 森の妖精、ジル!」

 ウォォォォォォーーーー!!

 ジルチャーーン!!

 ジルの名が呼ばれ、手を振りながら舞台に上がると、闘技場が揺れてるんじゃないかと思うくらいの歓声が上がる。

「しかし、ジルにも熱心なファンがついてるんだな」
「ミル嬢達五人は、全員大人気ですから。それぞれファンも多いようです」

 野太いジルコールに吹き出しそうになるが、いつの間にあんな熱心なファンが出来たんだか。感心していると、セブールが五人には全員熱心なファンが居ると教えてくれた。

 最初、草原地帯の孤児院に来た時には、妹と二人で馴染めるか心配なくらいのジルも、今じゃ闘技場の人気者か。毎日が楽しそうでよかった。



「あの黒豹の獣人は、双剣使いだったか」
「はい。レーバー殿は、スピードを活かした手数が売りの双剣使いですな」
「だからジルも付き合って短めの棒を二本か」
「そのようですな。彼女達とすれば、訓練の延長に過ぎないのでしょう」
「ま、そりゃそうか」

 ジルは五十センチくらいの棒を二本持ち、自然体で立っている。

「あの棒って、イモータルトレントがくれたヤツだろう?」
「はい。ですから生半可な剣では、キズ一つ付かないでしょうな」

 あの棒は、草原地帯入り口付近に在る竜人族の集落を護るイモータルトレントが、子供達にプレゼントしてくれたものだ。レーバーの双剣もそれなりの業物なんだろうけど、武器としての格が違うんだよな。


「間に合ったようじゃな」
「ああオオ爺サマ。好きな席に座ってください」
『喉が渇いたぞ』
「すぐに用意しますね」

 試合開始間際、オオ爺サマがギータやグラース、メールを連れやって来た。

 来るなり飲み物を要求しているのはチビ竜だ。見た目じゃ信じられないけど、上下関係はしっかりしているらしく、ギータが飲み物を用意する。

「勝敗は揺るがんじゃろうが、子供達の晴れ舞台じゃからな」
「ギータやグラース、メールは一緒に訓練もしたから見たくなるさ」
「はい。対人戦の経験は、私達とあの子達とはそれ程変わりませんから」
「同門の仲間だな」

 オオ爺サマは、孫の発表会を見に来た保護者のような視線で、ギータやグラース、メールは、同門の弟子同士として応援する感覚らしい。






「始め!」

 グランツ支部長の合図と共に、黒豹の獣人レーバーがジルへと間合いを詰める。それをジルは自然体で待ち受ける。

 レーバーの双剣による暴風雨のような連撃がジルを襲う。

「上手くなったな」
「はい。受け止めるのではなく、受け流し崩す事を徹底して教え込みましたから」

 そう。ジルはレーバーの双剣による攻撃を、まともに受けるのではなく、柔らかく受け流し、それと同時に崩すよう二本の棒を振るっている。

「レーバーのリズムが崩れてきたな」
「その気になれば、ただ躱すだけで反撃し終わらせる事も可能なのでしょうが、グラディエーターとは魅せる闘いも大事だと子供達は言ってましたから」
「お陰で大盛り上がりだな」

 子供達のレベルなら、相手に何もさせずに勝つのも簡単だが、それでは応援してくれている観客に申し訳ないって子供達が言うんだから。笑っちゃうよな。

「足も使い始めたな」
「そろそろ終わらせるつもりでしょう」

 開始位置から動かずレーバーに攻めさせていたジルが、セブールやリーファに仕込まれた歩法を使い始めた。これはそろそろ戦いを終わらせるって合図だ。



 ジルが大きく受け流し、レーバーの体勢が崩れ体が流れる。そこに横に回り込み膝裏への蹴りを放つジル。

 ドガッ!

「グッ!」

 体勢が崩れたところへの蹴りで、レーバーは両膝を突いてしまう。

 バシッ! バシッ! ガガンッ!

 ジルの追撃はレーバーの手の甲へ。双剣を取り落としたレーバーの顎をジルの両手の棒が時間差で振り抜かれた。


 次の瞬間、レーバーの体が舞台の外へと消える。

「結界が発動したみたいだな」
「ジル嬢、お見事でしたね」
「ああ、手加減も上手かった」

 最後は致命の攻撃だったから、結界によりレーバーは舞台外に転移したが、それまでの魅せる闘いは上手かった。

 大歓声が闘技場を包む。その歓声に応え手を振るジルは笑顔だ。

「ジル嬢が、こんな笑顔を見せてくれるようになっただけでも、旦那様のなされた事は間違いではなかったのでしょうな」
「まぁ、子供には笑って暮らして欲しいからな」

 一方的なワンサイドゲームだったが、観客は大満足なようだな。獣王国チームは驚きの表情なのは仕方ないか。ここまで差があるとは思ってなかったのかな。


 グランツ支部長が勝者を告げる。

「勝者! 森の妖精、ジル!」

 ウォォォォーー!!

 ジルちゃーーん!!

「女の子にむさ苦しい野郎の野太い声援って」
「ジル嬢は、五人の中で一番の年長ですが、それでもアウトですな」

 観客席の奴らも、ジルやミル達を恋愛対象には見ていないだろうけどな。





「次鋒戦! 挑戦者、獣王国チームのマグヌス!」

 ウォォォォーー!!

 グランツ支部長が次の対戦の呼び出しをする。

「挑戦を受ける絶対王者! 森の妖精、ベル!」

 ウォォォォォォーーーー!!

 ベルチャーーン!!

 相変わらずの熱狂的な声援にニコニコと手を振りながらベルが舞台に立つ。その手には、自分の身長よりも長い棒を持っている。

「ベルは長めの棒なんだ」
「森の狩りでは長物は扱いずらいので教えていませんでしたが、対人戦を学ぶに辺り、色々と一通り教えてみますと、ベル嬢は長柄の武器が気に入ったようです」
「あのくらいの長さなら森でも使えなくはないな。今度何か作ってやるか」
「喜ぶと思いますよ」

 ベルが持つ棒も当然、普通の木じゃない。ジルのと同じくイモータルトレントの贈り物だ。

 ただ固いだけじゃなく粘りもある。しかも最高級の魔法杖の素材に出来るくらい、魔力の通りもいい。

 まぁ、下手に魔力を纏わせると、勝負にもならないけどな。

 そして最近になってベルが習い始めた槍や棒術。本人の好みに合っていたみたいで、このところセブールやリーファとだけでなく、ギータやグラース、メールとも訓練しているようだ。ゲイル? 相変わらずふらふらしてるよ。


「マグヌスって子は、レオニダスの息子か?」
「はい。強者が君臨する獣王国では、王子という身分は軽いのですが、それでも獅子の獣人。受け継ぐ素質はあるのでしょう」

 ベルの対戦相手、マグヌスという獅子の獣人。よく似ていると思ったら、国王であるレオニダスの息子だとセブールが教えてくれた。

「さぁ、いよいよ始まりますよ」
「ベルも楽しんでくれるだろう」


 グランツ支部長が片手を上げると、観客席が静まりかえる。

「始め!」

 上げた手を振り下ろし、開始の合図がかかると同時に、若い獅子の獣人マグヌスが駆け出す。

「オラァ!」

 マグヌスが振るうのは片手半剣。バスタードソードともいう片手でも両手持ちでも使える長めの剣。

 そのバスタードソードをベルへと叩きつけるように振り下ろす。ベルは落ち着いて、その振り下ろしの剣を絡めとるように巻き上げた。

「ウォッ!?」

 まるで万歳したような格好になったマグヌスに、ニヤリと微笑んだベルが、嵐のような突きの連撃を放った。

 ズガガガガッ!!

「グッ! ガッ! ウッ!」

 両方の肩、手の甲、みぞおち、両方の膝、トドメとばかりに眉間に鋭く撚りの効いた突きが襲う。

 結果、マグヌスは何もさせてもらえず結界が発動。舞台の外へと転移で飛ばされた。


 グランツ支部長が勝者を告げる。

「勝者! 森の妖精、ベル!」

 ウォォォォーー!!

 ベルちゃーーん!!

 観客席からの声援に嬉しそうに手を振るベル。俺達のボックスシートも盛り上がる。

「……ベル、容赦ないな」
「一撃一撃は手加減しているようですが、ジル嬢のように、相手の力を引き出すなどという気持ちはないようですな」
「ホッホッホッ。楽しそうでいいの」
「はい。子供達の上達速度には驚かされます」

 俺が相手の良い所を引き出す前に仕留めたベルの容赦のなさを言うと、セブールも苦笑いしながら同意する。

 そんな俺達とは違い、オオ爺サマやギータは、子供達の活躍が純粋に嬉しいみたいだな。



 舞台の下でマグヌスの治療が行われる中、グランツ支部長が拡声器の魔道具で次の試合のアナウンスをする。

 グランツ支部長が拡声器の魔道具を手に取り声を張り上げる。

「中堅戦! 挑戦者、獣王国チームのグズル!」

 ウォォォォーー!!

 ミル達の試合はプラチナチケットだからか、今日は観客の熱気が凄いな。

「挑戦を受ける絶対王者! 森の妖精、ポーラ!」

 ウォォォォォォーーーー!!

 ポーラちゃーーん!!


 名前を呼ばれた両者が舞台に立つと、その体格の差に笑えてくる。

「凄い体格差だな」
「グズル殿は、獣王国チームの中でも一番の巨体ですから」
「まぁ、体格の差はともかく、ポーラちゃん、無手で戦うんだな」
「旦那様が作られた特別製のグローブですな」

 獣人族でも巨体の熊獣人のグズルと、人族の子供のポーラちゃんとでは、体格差が笑えるくらいなのはいいとして、ポーラちゃんは俺が作った拳打用でありながら、掴んだりする時に指の動きを阻害しない特別製のグローブを装備していた。

 対するグズルの得物は、小さな相手に対応する為なのか、長柄のハルバードを手にしている。

「まあ、何の問題もないな」
「ええ。結果は変わらないかと」

 グズルがどんな武器を使おうが、最終的な結果は変わらない。

「始め!!」

 グランツ支部長の開始の合図で、スピードはないが、魔法で一方的にやられるのを避ける為か、グズルがポーラちゃんに突撃をかました。

 グズルの体に合わせた普通の物より大振りなハルバードがポーラちゃんを襲う。

「グッ!?」

 そこでポーラちゃんは、振り押されたハルバードの上に飛び乗り、さらにグズルへと後ろ回し蹴りした。

 ドタドタと数歩後ずさるグズルは、信じられないといった表情だ。

 そこでポーラちゃんは掌を上に向け、クイックイッと、掛かって来いとジェスチャーで煽る。

「楽しんでるなぁ。あの後ろ回し蹴りも、軽くしか蹴っていないしな」
「チャンピオンたる者、魅せる闘いをしないといけないそうですぞ」
「ハハッ、獣王国チームの奴らが聞いたから、心折れそうだな」
「むしろ折りきいっているのでわ?」

 案の定、グズルは頭を振るって気を取り直すと雄叫びを上げハルバードを振るう。

「ドリャァ!!」

 ブゥゥゥゥーーン!!

 横薙ぎに振るわれたハルバードを軽く躱すポーラちゃん。その余裕溢れる姿に更に熱くなるグズル。

 大上段に振り上げたハルバードを、渾身の力でポーラちゃんに振り下ろす。

 次の瞬間、闘技場中が驚きに包まれる。

 パシッ!

「なぁっ!?」

 そこには、避ける訳でもなく真正面から何でもないように片手で受け止めるポーラちゃんの姿。

「まぁ、驚くわな」
「レベルの差が大きいですから」

 この闘技場で驚いていないのは、この俺達のボックスシートに居るメンバーくらいだろう。

「グッ……う、動かせねぇ!」

 ハルバードを押し込もうとしたり、逆に引いたりと必死なグズルだが、ピクリとも動かせない事に、ますます困惑は深くなる。

 ポーラちゃんがグイッとハルバードを引っ張り、グズルの大きな体が前へとつんのめる。

 そしてポーラちゃん最近のお気に入り。猛虎硬爬山だ。

 今回は、冲捶(肘打ち)から入り、虎爪掌で決める連撃だった。

 ドガッ! バシッ! バンッ!

「グフッ!!」

 当然、グズルに耐え切れる訳もなく、結界が発動し舞台外へと消えるグズルの巨体。


「勝者! 緑の妖精、ポーラ!」

 ウォォォォォォーーーー!!

 ポーラちゃーーん!!

 闘技場が揺れるような歓声が上がって、それに応えてポーラちゃんが手を振る。

「シグムンド殿。あれは普通なら連撃の一撃目で終わってたのではないかの?」
「さすがオオ爺サマ。ポーラちゃんもその辺は分かってるから、手加減してたんだろうな」
「なる程。あれはギータ達クラスでないと、受け止めるのは無理じゃろうな」

 オオ爺サマは、あの技がポーラちゃんが手加減しなければ、最初の冲捶で勝負が決まっていた事に気付いた。実際、あの連撃の一つ一つが必殺の一撃になりうる。

 魔力を纏い、それを撃ち込む事で、浸透勁と同じような効果を得られるからな。

「意外とポーラちゃんは、体術が合ってるかもな」
「この先の成長が楽しみじゃの」

 可愛らしい見た目のポーラちゃんだけど、格闘技が合っているかもしれない。オオ爺サマも目を細めて先が楽しみだとニコニコしている。

 このまま成長すれば、ポーラちゃんは人族で初めて進化を経験するかもしれないな。





 ここでグランツ支部長が、獣王国チームの所へと近付いていく。

「レオニダス陛下。一応、団体戦としては、三勝した「森の妖精」の勝ちが決まったが、どうします?」
「勿論、挑ませていただく」
「承知した」

 どうやらこのまままだ続けるかを確認しに行ったみたいだ。忘れてたけど、団体戦だから三勝した時点で勝ちなんだよな。

 当然、レオニダスは続けると即答した。例え全敗しようとも、戦わずに負けるなんて己の矜持が許さないんだろうな。



 獣王国チームの意思を確認したグランツ支部長が、副将戦の戦士を呼び込む。

「副将戦! 挑戦者、獣王国チームのディーガ!」

 ウォォォォーー!!

 獅子王レオニダスの右腕と呼ばれるホワイトタイガーの獣人。なる程、歴戦の戦士といった風貌だな。

「挑戦を受ける絶対王者! 森の妖精、ララーナ!」

 ウォォォォォォーーーー!!

 ララちゃーーん!!

 今までにも増して観客席からの声援が上がる。種族もあるんだろうが、やっぱりエルフのミルとララは容姿が整っている。この草原地帯でも不動の人気を誇っているんだ。

 ララが俺達のボックスシートに向かって手を振っている。

 ここには認識阻害の魔法を掛けてあるが、俺の眷属であるミルやララは含まれていない。だからルノーラさんも観ているのを知っているララは、満面の笑みでブンブンと手を振っているって訳だ。

 ララ、もう少し視線を動かしてあげなさい。君のお父さんであるボルクスさんが、顎が外れそうなくらいあんぐりと口を開けて見ているよ。



 そこで何を思ったのか、ララが対戦相手、ディーガに声を掛けた。

「虎のおじちゃん。少しはいいところ見せたい?」
「どういう意味だ。童」
「だってわたしが本気出すと、あっという間に終わるよ」
「グッ、……望むところよ。手加減など不用!」
「わかった!」

 ジルやベル、ポーラちゃんが、相手に攻めさせてから勝ったのを、ディーガも望むのかと無邪気な笑顔で聞いている。

「あれ、煽ってる気はないから始末が悪いよな」
「はい。ディーガ殿は、瞬殺される未来が確定致しました」

 ほら、いつの間にかララの腰に俺があげた刀がある。そう、ララは今居合にハマっているんだ。

 対人戦の延長で、ちょっと教えたのが面白かったらしく、わざわざ刀を造ったからな。



 ほら、開始の合図はまだなのに、ララはもう腰を低くして居合の準備は出来ている。

 そこにグランツ支部長の片手が上がる。

「始め!」

 開始の合図と共に、疾る銀閃。

 チンッ。

 観客はルルが振るった刀を目視出来ただろうか? 静まり返った闘技場に鞘に刀を収める音が響き、ディーガの姿は舞台外へと消えていた。

「フッ。また、つまらぬものを斬ってしまったなのです」

 ウォォォォォォーーーー!!

 ララちゃーーん、凄ぇーー!!

 ララが、どこで覚えたのか、芝居がかったセリフを呟くと、ドッと闘技場が沸いた。

「勝者! 緑の妖精、ララーナ!」

 遅れてグランツ支部長の勝者を告げる声が、歓声に紛れて聞こえた。

「なんか、対戦相手がかわいそうになるな」
「はい。完全に旦那様から教わったサムライでしたか。それをロールプレイしていますな」

 一見、手加減せず初手から全力で戦ったように見えるけど、あれでも十分手加減はしている。そうじゃなきゃ観客が、何が起こったのか分からないからな。





 そしていよいよ最後の試合。大将戦の時間がきた。

「さあラストマッチだ! 大将戦! 挑戦者、獣王国チーム獅子王レオニダス!」

 ウォォォォーー!!

 自身の右腕であるディーガの瞬殺にも動揺した様子は見られない。さすが歴戦の戦士だな。

「挑戦を受ける絶対王者! 森の妖精、ミルーラ!」

 ウォォォォォォーーーー!!

 ミルちゃーーん!!


 観客からの歓声に手を振りながら舞台に立つミル。

「ミルは無手なのか?」
「そのようですな」

 ミル達には、アイテムボックスの魔法が付与された腕輪を渡してあるので、武器の換装は自由自在なんだけど、どうやら今日は無手で戦うつもりらしい。

「それでは、始め!」

 グランツ支部長の合図で、挑戦者であるレオニダスが前に出る。

「レオニダスは大剣か。普通なら間合いの不利なんてものじゃないんだけどな」
「はい。ですがスルッと懐に入るのでしょうな」

 ズダァーーン!!

「グッフッ!」

 セブールが言うように、ミルはレオニダスが大剣を斬りつけるのに合わせて、スルリと懐に入ると、大剣を持つレオニダスの指を取り、闘技場の舞台に叩きつけた。

「シグムンド殿。あれば合気というやつかね?」
「ええ、その様なものですね」

 オオ爺サマがミルの技に感心して聞いてくる。その間に、レオニダスは何とか跳ね起きるが、その手には大剣は失われている。

 ミルが、レオニダスの手首ではなく、わざわざ指を取って投げたのは、次いでに大剣を奪う目的もあったからだ。

 ただレオニダスも大剣が無くなったくらいで動揺は少ない。武器は無ければ、己が身体を武器とすればいいと、ミルへと襲いかかる。

 ズダァーーン!

 再び舞台に叩きつけられるレオニダス。

「受け身を取れないように投げてるから、ダメージはかなりのものだと思うけどな」
「さすが獣人族、タフですな」

 レオニダスのタフさに感心してしまう。

 だけどミルは、ここで容赦のカケラもない。

 ズダァーーン! ズダァーーン! ズダァーーン!

「ああっ、あれは酷い」
「強制連続投げ落とし地獄ですな。あれでは脱出も難しいでしょう」

 ミルは、レオニダスを舞台に叩きつけると、体がバウンドしたのを利用し再び投げを放つ。それを延々と続けるという鬼の所業。

「もう意識はないんじゃないか?」
「グランツ支部長も途中で止めれないでしょう」

 止め時を悩むだろうなとセブールと話していたが、それから間も無く戦いは終わる。

 ズダァーーン! ズダァーーン! ズダァーーン!

 フッ!?

 結界が発動し、レオニダスはミルによる地獄の床への激突と回転によるシェイクから唐突に解き放たれ、舞台の外へと転移させられた。


「勝ーー者っ!! 緑の妖精、ミルーナ!! チャンピオン、緑の妖精の勝ちだぁ!!」

 少し溜めたグランツ支部長の勝者を告げる声が、闘技場に響き渡る。

 ウォォォォォォーーーー!!

 ウォォォォォォーーーー!!


 ミルの元に、ララ達が笑顔で駆け寄り、輪になってぴょんぴょん飛び跳ね喜びあっている。

「まぁ、そうなるわな」
「チリ程の驚きもありません」
「子供達は強いのう」
「はい。練習相手になった甲斐もあります」

 この結果に、俺やセブールは一ミリの驚きもない。当然の結果だな。それ程、この世界ではステータスの差は大きい。

 オオ爺サマやギータ達も嬉しそうだ。ギータ達は、練習相手になってくれているから余計なのかな。

「お祝いですね」
「ご馳走たくさん作らないとですね」

 リーファとルーミアさんは、お祝いの料理の相談を始めた。アウロラの孤児院でパーティーかな。







 お祝い気分のシグムンド達のボックスシートとは違い、驚愕に目を見開き言葉を無くしていたのは、ボルクス達パーティーだった。

 勿論、負けた獣王国の面々もショックは受けていたが、ミル達の強さをその身で実際に体験しただけあり、ショックと同時に納得もしていた。

 その中でもボルクスのショックは大きく、色々な気持ちがごちゃごちゃになり、パニック寸前と言っていいだろう。

「ハハッ、完勝って……」
「手加減する余裕もあったようです」
「とんでもない子供達ニャ」
「……草原地帯の子供はバケモノ?」

 アンナはもう乾いた笑い声しか出てこない。セレナも子供達がまだまだ余裕があった事に驚き、ミルケは恐怖すら感じていた。マールはストレートにバケモノだと口にしている。

 そんなパーティーメンバーの驚きなど、ボルクスの内心の驚きに比べれば小さなものだった。

(ど、どういう事なんだよ。それは深淵の森に住んでいるんだから、多少の訓練はしているかもって思ってたさ。何だよ。俺よりも遥かに強いって聞いてないよ)

 ボルクスは悩む。この後、アウロラでヤタと繋ぎをつけ、ルノーラやミル、ララと会うつもりだったのだが、妻や子供達に会うのが怖くなったのだ。

(どうしよう。ミルとララが、あれだけ強いんだ。ルノーラも同じと思った方がいいよな)

 ボルクスはそう推測するが、残念ながらアタリである。

 子供達は、森での訓練を兼ねた狩りにも出るが、孤児院の子供達と遊ぶ時間も多い。

 それに比べてルノーラは、シグムンドに助けられた恩を強く感じているからか、貢献しようと頻繁に狩りに出掛けるし、かつての邪神を封印したダンジョン跡に出来た新しいダンジョンにもよく潜っている。

 結果、ルノーラはハイエルフへと進化している。ボルクスとは、文字通り格が違う存在となっていた。

 ボルクス頑張れ。




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