中の御所奮闘記~大賢者が異世界転生

小狐丸

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 天文二十一年(1552年)三月

 虎松丸は数え六歳、満年齢で五歳になった。

 去年、五歳になった時から、簡単な剣術の鍛錬を始めた。とはいえまだ五歳の子供の身体で無理は出来ない。素振りと新当流の型をなぞる程度だ。
 本当は、身体に魔力を纏えば、身体能力は爆発的に向上するので、大人と打ちあう事も出来る。さすがに、周囲の目があるので自重しているが。

 井上専正と虎松丸の知行地で、試験的に実施された育苗や正条植えは、米の収穫量を増やすことに成功している。ただ農業に特別詳しい訳ではないので、結果に対しての判断がつかなかった。

 鉛・クロム・鉄・銅・銀・金の収集も続けており、虎松丸の空間収納の中には、大量にストックされている。
 元々持っていた、異世界の金貨や銀貨も必要とあれば分解抽出出来るので、誰にも言えないが、虎松丸は、北畠家全体と比べても、遥かに資金力がある。時々、鉄、銅、鉛等を売って、そのお金を運用して更に増やしている。

 干し椎茸・澄み酒・醤油の売り上げも順調で、これは父具教も薄々気づいていると思われる。だが武士が商人のように金儲けをすることに否定的らしく、最低限黙認という形をとってくれている。
 どうも具教は、脳筋みたいだ。公家大名だけあって、連歌や和歌などの教養もあるのだが、何かにつけ剣術などの武芸を重視する傾向がある。お陰でなのか北畠家臣は、武芸に秀でた者が多いのも事実だ。




 虎松丸は今年、五歳になって、増えた知行地に造った馬房に来ている。角屋に依頼して三年やっと目的の物が手に入った。

 ブルルルッ

 現在、この馬房では四種類の馬が繁殖用に飼われている。

 先ず、大枚を叩いてやっと四頭手に入れた。

 デストリア・・中世ヨーロッパでも高価な軍馬として知られている重種。体高は、150~160cm位力強く、グレートホースと呼ばれた。

 もう一種類も重種で、古代ヨーロッパの森林馬の子孫。

 フリージアンホース・・体高、150~160cm位、パワフルで脚や蹄が丈夫で、美しく均整の取れた体で毛色は青毛しかなく、長いたてがみと尾が特長。

 アラブ種・・およそ2000年にも渡りアラブ系遊牧民達の手によって改良を続けられた馬種で、体高は約140cm~150cm、体重約400kg。耐久性や耐候性に優れている。

 アハルテケ・・「黄金の馬」と呼ばれるトルクメニスタンが原産の馬種で、現存する馬種のうち最も古い歴史がある馬種のひとつ。
 体高、約147cm~163cm。
 トルクメニスタン地方の過酷さに適応し、非常にタフで丈夫で持久力に優れる。


 戦国時代の馬は、平均130cm程なのに対しデストリアは、フルプレートを装備した騎士の競技試合によく使われただけに大変パワフルだ。日本馬にも稀に150cm位の大きい馬もいたらしいが、戦国時代の武士の平均身長が、160cm程度だった事を考えれば、大型馬を必要としなかったのかもしれない。

 ただ、日本馬が悪いかと言えばそうではなく、粗食に耐え斜面に強く蹄も頑丈である。逆にその事で蹄鉄の発明に至らなかったという背景もある。

 しかし見た目は、フリージアンやアラブなどに比べるとロバなどと南蛮人に馬鹿にされるのも仕方ないかもしれない。

(迫力がハンパないな。これなら俺がどれだけ体が大きくなっても大丈夫だな)

 そう結局、この重種を輸入した一番の目的は、虎松丸が将来的に体が大きく重くなっても、問題なく乗せることが出来る馬が欲しかったのだ。
 同時に、自分の周りの人間(将来の馬廻り)の体格を、大きくする為の食事なども取り組んでいる。


 馬房を出た所で僅かな気配を感じる。

「私に何か用か?」

 気配のする場所に虎松丸が声をかけると、二十歳位の青年が出て来た。

「ほう、よう分かりもうしたな」

「父上から、私を探れと言われたか」

 虎松丸がそう聞くと、その男は首を横に振る。

「いえ、純粋に興味があったからです」

「興味?」

「それはそうでしょう。名門村上源氏の北畠家嫡男、母は宇多源氏佐々木氏の流れを汲む名門六角定頼の娘、そんな高貴な若様が河原者と親しく付き合っているという。興味が湧かぬ筈がない」

 それを聞いても虎松丸は首を傾げる。虎松丸にとって与八郎達と仲良くなるのは当たり前の事だ。そこに差別意識は存在しない。立場の違いがあるだけだ。しかし与八郎達の所に出入りしているのを知っているという事は、随分前から監視されていたのか?

「フフフッ、正にそういう所でしょうな。若様程の身分の者が、河原者と親しく付き合う事の特異さを気にしておられない」

 男は片膝をついてかしこまる。

「若様。某は伊賀の中忍、伊賀崎道順と申します。どうか某達を雇って下され」

 そう言うと頭を下げる。

「ふむ、道順。直ぐに知行地は与えられんが、取りあえず銭での知行で構わんか?まずは年二百貫からでどうだ」

 虎松丸の言葉に道順が驚きの顔を見せる。

「何と!某を家臣に加えて下されると?」

「うん?五百貫では少ないか?」

「いえ若様、仕事を請け負うのではなく、家臣に加えて下されるというのですか!」

「無論のこと、そうでなくては信頼関係は築けまい。それと忍び働きを卑下することはないぞ、戦においても、領地を富ませる事においても、お主達がもたらす正確な情報が必須だからな。それと某達という事は、もう一人そこに潜んでいる者も一緒にと言うことか?」

 道順はニヤリと嬉しそうに笑うと頷く。

「小南!」

 道順が呼ぶと、まだ十代半ばに届くかどうかと思われる年頃の少年が姿を見せた。

「小南、聞いていたな。お前は若様のお側で警護と繋ぎの役目を果たせ」

「はっ!神戸小南、若様の盾となりましょう」

 虎松丸と道順のやり取りを、間近で聞いていた小南は感動に震えていた。虎松丸の言動からは、忍びを蔑む様な気配はまったくなく、自然体で接していることがうかがえた。それだけに虎松丸を失う訳にはいかないと強く思った。

「いや、自分の命が一番で、私は二番以下で構わないからね。それで小南も同じ条件で良いのかな?」

 会ったばかりの小南の、命をかけて自分を守るという態度に、若干引き気味になる虎松丸。

「いえ若様。小南には五十貫で良いでしょう。小南はまだ年若いですから」

「ふむ、道順がそう言うならそうしよう。それと確認しておくが、伊賀の上忍三家に私の情報は流すのか?」

 虎松丸には、秘密にしたい事が多過ぎた。総ての情報が漏れるのは余り有り難くない。

「いえ、それはありません。間違った情報へ誘導することはあるでしょうが、若様の不利益になる事は致しません」

「まだ六角や三好の耳目を集めるのは面白くないからな。いずれは上忍三家のうち二家でも配下になって貰いたいが、まだ時期尚早だな」

 道順はこの幼い主が、自分が思ったよりも遥か先を見据えている事に、驚くと同時に嬉しく思った。

「では若様、先ずは若様と井上殿の知行地に、間諜が入れぬように二人、中伊勢から北勢の情報収集に二人信頼出来る部下を使う事をお許し下さい。この地に入れる二人に付いては、後で若様と繋ぎを取らせます」

「知行については道順が決めてくれ。百貫でも五百貫でも構わない。廃嫡されなければ、十年以内には家督を継ぐことになるだろう。その時の為に今から少しずつ準備を進める。手伝ってくれるか道順、小南」

「「はっ!」」

 道順と小南が片膝をついてこうべを垂れる。


 後日、道順が高山太郎次朗、高山太郎左衛門の二人を連れて来た。この高山兄弟が、虎松丸の周囲の警護と情報収集の取りまとめをする事になる。

 二人には、それぞれ年百貫と仕事にかかる経費は別途支払う事で、彼等は虎松丸の配下となった。


(早い段階で、道順達と知り合えたことは幸運だったな。父上達も伊賀者を使っているようだが、情報の大切さをどこまで分かっておられるか、結局は北畠家が滅ぼされることになった、信長の侵攻に対しても少ない兵を更に分散し、各個撃破される一因となった筈だよな。父上が織田軍の兵数やどこを最初に、どのくらいの兵数で攻めるのかという情報を掴んでいれば……。面倒だな、一門衆から重臣衆や国人の扱いも厄介だし、信長の様に伊勢を総て滅ぼしてからの方がやり易いだろうな……)

 伊勢街道に多くの関所があるという事は、それだけの国人領主が居るという事だ。少しずつ国人領主に利を説いて、伊勢統一を成し遂げなければならない。虎松丸は改めて、その難しさに溜息をついた。
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