中の御所奮闘記~大賢者が異世界転生

小狐丸

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仲間集め2

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 天文二十四年(1555年)三月

 虎松丸は数え九歳、満年齢で八歳になった。

 名乗りを幼名の虎松丸から源太郎と改めた。

 源太郎の周りには、守役の井上専正、諜報部門を統括する伊賀崎道順がいる。そこに、何時も側に控える神戸小南と、最近、将来の馬廻り候補として、

 北畠家四家老のひとり、大宮含忍斎の子、大宮景連 通称 大之丞。

 大河内城主、大河内具良の子、大河内教通。

 北畠家四家老のひとり、芝山秀定の子、芝山秀時  通称 小次郎。

 大嶋親崇 通称 新左衛門。

 この五人が常に源太郎の周りを固める。


 源太郎は、更に独自の水軍を編成の為、

 鳥羽の海賊衆、小浜景隆 通称 久太郎。

 志摩の海賊衆、九鬼嘉隆 通称 孫次郎。

 の二人を中心に、二艦隊の編成を目指す。

 九鬼嘉隆は、九鬼家当主、浄隆の弟だったが、将来的に兄の子を排除して当主になる程、独立心が強い男だったので、別家を立てさせ、源太郎が建造する南蛮船の運用を任せると、涙をながし忠節を尽くすことを誓った。結構単純で素直な男だった。


 水軍はもう隠しようがないので、父具教に許可を得て、堂々と二艦隊の編成することになった。それはそうだろう、いくら秘密裏に建造が行われても、操舵訓練をすれば、嫌でも目につくのだから。

 小型のコルベット艦から中型のフリゲート艦が三隻づつ六隻に安宅船と関船と小早とで一艦隊とした。
 久太郎と孫次郎は現在、伊勢湾から志摩で訓練に励んでいる。




 源太郎達は、父具教から鹿島新当流を学び、特に源太郎はメキメキと腕を上げていた。

 大賢者時代に、数多の戦場を駆け抜けた経験と、子供らしからぬ冷静な判断力と理解力で、真綿が水を吸う様に吸収していった。

 馬術の訓練も特に時間を割いた。

 デストリアやフリージアンを掛け合わせた軍馬の数も増えている。調教も順調に進んで、鉄砲の音にも動じない、優秀な軍馬が出来あがった。
 フリージアンとデストリアの力強さと耐久性、フリージアンの蹄の頑丈さ、アラブの耐候性、アルハテケのタフさと持久力。様々な試みが行われている。

 特に源太郎の愛馬【飛影】は、まだ二歳の若駒だが、まるであの世紀末覇者が乗っていそうな迫力と美しさがある。

 蹄鉄職人と装蹄師の育成にも力を入れ、鞍や鎧も改良している。

 源太郎達が飛影を駆って騎馬突撃の訓練をすると、当然の事ながら目立つ為、直ぐに父具教の知る所となったが、具教は、デストリア等の後に輸入された黄金に輝く馬、アルハテケをいたく気に入り、一頭譲ることになった。その辺りは公家趣味なのかもしれない。



 久太郎と孫次郎が配下に加わってくれたお陰で、真珠養殖にトライする事が出来るようになった。養殖筏の警備に、第一艦隊と第二艦隊が訓練を兼ねて交代で見回っている。


 軍事面での変化は、源太郎直属の黒鍬衆、いわゆる工兵部隊を編成した。
 源太郎と味兵衛の知行地は、米の収穫が大幅に増え、領民の内職用の石鹸製造により、領民の懐に銭が入ると同時に、衛生環境の向上が乳幼児の死亡率を下げ、人口が増加傾向にある。

 農家や国人の次男三男以降の田畑を継げない者を、銭で扶持を渡すことで常備兵の編成を始めた。まだこの時代、信長も常備兵は編成出来ていないので、一歩先に進んだと思う。

 そこで先ず最初に編成したのが黒鍬衆、いわゆる工兵部隊だ。
 武器としても使用可能な、多目的シャベルを鍛治職人に依頼。材料の鉄は、源太郎の手持ちの鉄を使用した。他にも専用工具を配備し、訓練を兼ね街道整備、河川工事、築城の手伝いで腕を磨いてる。
 その彼等の足には草鞋ではなく、革製のブーツが履かれている。これは源太郎が試作を作り職人を育て、源太郎軍の標準装備としている。ソールには、ゴムが手に入らなかったので、代用ゴムに強化のエンチャントをかけて使っている。



 内政面では、酒造り・醤油造り・椎茸栽培が軌道にのり、特に澄み酒と干し椎茸は、莫大な富をもたらしている。酒蔵と醤油蔵は、増築して増産体制を整えている。

 特に父具教にも秘密裏に製造されている硝石は、漸く量産体制が整った。鉄砲の買付けと職人の引き抜きと育成を通して、鉄砲を多く保有する源太郎を除き、具教を始めとした北畠家の重臣達も鉄砲の価値を認めていないので、硝石の製造を隠し通せたのかもしれない。


 鉄砲も買い付けている従来の火縄銃とは別に、源太郎お抱えの鉄砲鍛治が製作しているのは、前装式施条銃である。
 ミニエー弾を使用しパーカッション式のエンフィールド銃と呼ばれた物だ。この時代の火縄銃が二町(約二百メートル)の射程だったのに比べ、有効射程九百メートルを誇る。
 しかも発射速度が、一分間に二発程度発射出来る。ライフリングのお陰で命中精度が高く、敵の射程外から一方的に攻撃する事も可能だ。
 ただそのライフリングをフックカッター(切除工具)で削るのに時間がかかる為、数を揃えるのが難しい。
 それに加え、クロムモリブデン製の銃身やライフリングを削るフックカッターは、源太郎お手製なので、源太郎工房でしか造れない。
 もともと三百年先の銃なので、簡単に他に出回る事もないだろう。

 あと極少数、源太郎用に後装式施条銃で、ボトルアクション方式で、紙製薬莢センターファイヤーカートリッジを使用する銃を、源太郎自ら土魔法と錬金術を駆使して、鉄砲鍛治職人の手を借り作り上げている。いわゆるグラース銃と呼ばれた物だ。

 火縄銃は、まだしもエンフィールド銃とグラース銃は、まだ使う予定はない。来るべき織田や一向宗との決戦に備える。

 同じ理由で、四斤山砲を再現し榴弾を使用する前装式施条砲もお披露目は、まだまだ先になる予定である。

 これら誰にも見られてはいけない物に関しては、源太郎の空間収納に入れてある。



 そして、今日も鍛錬を終えた源太郎が、屋敷に造った工房で、せっせとある物を作っている。

 前世の大賢者時代の弟子達が、見れば卒倒しかねない素材を使ってせっせと作業している。

「フンフフフンッ」

 鼻歌交じりに、ご機嫌で作業を続けている。


 源太郎が作っているのは馬鎧だ。ただそれは日本風の馬鎧ではなく、どちらかと言うと西洋風。いや、厳密にいえば異世界風になるだろうか。

 その深い濃紅は、赤龍の鱗を成形魔法を使い作られた。重なった鎧の縁取りの銀色は、オリハルコン合金で、装甲の補強をしている。
 兜部分に突き出した角が威圧感を増している。

 ・赤龍の馬鎧
  サイズ自動調整
  温度調節
  硬化
  耐靭性強化
  重量軽減

 素材的にまだエンチャントをかける余裕があるが、必要ないだろう。至近距離で火縄銃が当たっても傷すら付けることは出来ないだろう。

「おお、カッコイイ!」

 自画自賛である。

 そこに伊賀崎道順が現れる。

「……これは、……また、歌舞伎ましたな……」

 並べられた馬鎧を見て、道順が呆然とする。

「あゝ、道順か。良いだろう」

 源太郎は嬉しそうに聞くが、道順は引き気味だ。

「……まぁ、戦場での威圧感はあるでしょうな」

「で?何かありました?」

「はっ、大御所様が本所様に、長野工藤家の攻略を指示なさいました」

 道順の報告に、源太郎が眉を上げる。
 祖父北畠晴具が父具教に、長野氏を攻めるように指示したらしい。

「で、私は初陣ということですか」

 道順が頷く。

「働き次第ですが、草生城より南側、周辺の砦を含む二子城、安濃城の三城と安濃津湊をくださるそうです」

「おぉ!やっと安濃津湊が我がものに出来るか!」

 安濃津湊を整備して、交易基地と水軍基地にする計画が、やっと現実になる。

 ここで多少無理してでも武功をあげる事を決意して、評定が行われる場に急ぐ。
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