異世界立志伝

小狐丸

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この世界はやっぱり厳しかった

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 エルのジョブレベルとスキルレベルを上げながら、ギルドの依頼を受けて過ごす日々が続き、エルも随分成長したと思う。
 泊まりがけで、深淵の森へも遠征へ出掛けた。


 NAME エルレイン・フォン・バスターク 人族(1/4エルフ)

 AGE 15
 JOB 魔法使いLv.10  
 HP  275/275
 MP  700/700

 JOB 戦士Lv.10 狩人Lv.5 盗賊Lv.5
     魔法使いLv.20 僧侶Lv.1
     

 魔導銃だけじゃなく、属性魔法も風魔法と水魔法は、かなり使える様になってきた。
 だけど、攻撃には魔導銃を使う事が多く、風魔法と水魔法は主に支援系の魔法を使っている。

 さすがに深淵の森は俺も戦ったので、剣士と魔導士のジョブレベルが少し上がった。

 ギルドランクもエルはEランクに上がった。
 俺は試験を受けるつもりがないので、暫くはDランクのままだろう。


 冒険者ギルドの依頼と訓練以外にも、各種ポーション作成や鍛治、木工細工、魔道具作成などの生産系スキルの訓練も続けている。
 生産系のスキルを訓練すると、生産系ジョブのレベルも上がる。魔物等との戦闘に比べごく僅かだけど。



 今俺達は馬車に乗り、サーメイヤ王国の西に位置する、マドゥークの街まで護衛依頼中である。

 ノトスの街から馬車で三日、今日の夕方にはマドゥークに着く予定だ。
 途中、何度か魔物の襲撃があったが、俺もエルも危なげなく討伐出来ている。
 だいたい、深淵の森の外縁部とはいえ、あの場所で狩が出来る現状、サーメイヤ王国内で遅れを取る事はない。
 


「おお、デカイな。これがマドゥークの街か」
「おや、マドゥークは初めてですか?」

 思わず漏れた俺の言葉に、今回の依頼人の商人が聞いてきた。

「はい、僕は物凄い田舎で育ったもので……」
「このマドゥークは、王都の次に大きな街ですからな。帰る前に色々観て周ってはいかがです」
「ええ、ぜひそうさせて貰います」



 長い列に並んで、やっとマドゥークの街に入る。
 そこでギルドの依頼書に商人からサインを貰うと依頼完了だ。

「どうもありがとうございました。またお願いします」

 そう言って商人が去ったあと、改めてマドゥークの街を見渡す。
 ノトスもそうだったが、様々な種族の人々が歩いている。これがサーメイヤ王国の特徴でもある。

 エルフとドワーフの国を除くと、サーメイヤ王国、ローラシア王国、ゴンドワナ帝国の三国の中で、種族間の差別を禁じているのは、サーメイヤ王国だけである。ローラシア王国もゴンドワナ帝国も、人族至上主義の国だ。ローラシア王国はまだ多少マシだが、ゴンドワナ帝国で人族以外は、基本的に奴隷しかいない。
 それをエルから聞いた時、遣る瀬ない気持ちになった。


 ギルドで依頼達成の報酬を受け取った後、エルと二人で街をぶらつく。
 色々な食材を買ったり、屋台で買い食いしながら、街を見て回る。

 そうして街を歩いていると、街の雰囲気が変わったのに気づいた。
 感じる気配も刺々しい感じがする。

「スラム街ね。どうしても大きな街になると、こういった貧民街が出来てしまうの。治安も良くないから引き返しましょうか」

 スラム街の嫌な雰囲気と臭いに、エルが引き返そうと提案した。

「そうだな、引き返そう、うん?」

 その時、俺の気配察知が弱々しい人の気配を捉える。弱々しく今にも消えてしまいそうな気配に、どうしても無視することが出来なかった。

「エル、ちょっと待って」

 俺はエルの手を引き、気配のする路地裏へ急ぐ。

「あっ!」

 そこには獣人の男がうずくまっていた。
 急いで駆け寄り男を見ると、男は既に亡くなって時間が経っているようだった。
 男はボロボロのローブの中に、何かを護るような体勢のまま息を引き取っていた。微弱な気配がローブの中から感じられる。
 そのローブをそっとめくってみる。

「…………!」

 男が護るように抱いていたのは、3歳位の小さな獣人の子供だった。ただ、兎の獣人らしきその耳は、片方が千切れ、身体のあちこちに傷や痣があり、やせ細っていた。

 俺は直ぐに【ハイヒール】をかける。

 身体から傷と痣が消え、呼吸が少し力強くなったような気がした。

 エルにその場を任せ、俺は衛兵を呼びに行った。



「多分、ローラシア王国から流れて来たんでしょう。奴隷紋がないので帝国ではないでしょう。帝国は全ての獣人が奴隷だから、ローラシアで奴隷狩りから逃げて来たんだと思うわ」

 衛兵が、亡くなった父親やしき男と子供を見てそう言った。

「それでこの子はどうなります?」
「孤児院に入るしかないでしょうが、その様子では長く生きれるかどうか……」

 衛兵も辛そうに子供を見る。

「私達が引き取る事は出来ますか?」

 突然エルがそう言いだした。

「役所で手続きをすれば大丈夫です。こちらとしてもそうして頂けるとありがたいです」

 そう言うと部下に、亡くなった父親を共同墓地への埋葬を指示すると、役所に案内してくれた。
 役所で手続きを済ませ、宿を取りベッドの上に子供を横たえた。

 よく見るとその子の身体は、耳が千切れているだけじゃなく、手の指や足も欠損していた。

「逃げて来るあいだに、魔物に襲われたみたいね。可哀想に……」

 俺はベッドに横たわる子供に、【浄化】の魔法を使う。直ぐに子供の汚れがキレイになる。

「女の子だったのか」

 俺は続けて【エクストラヒール】を使う。

 女の子の耳や手足の欠損が元に戻る。

「!!  カイト!あなたエクストラヒールなんて使えたの!」
「師匠との訓練じゃ、回復魔法は最優先で鍛えないと死んじゃうから」


 NAME ルキナ 兎人族

 AGE 5
 JOB 
 HP  20/20
 MP  10/10


 鑑定でこの子の年齢を見て驚く。どう見ても3歳くらいにしか見えない。

「この子5歳だって。栄養状態が悪かったんだな」

 浄化で汚れが落ち、綺麗になった薄いピンクがかった銀の髪の毛を撫でながらエルに言うと、エルが謝って来た。

「ごめんなさいカイト。勝手にこの子を引き取るなんて決めちゃって……」

 エルが俯いて、落ち込んでいるのがわかる。自分でもこれが偽善だと思ったんだろう。でも目の前のこの子に、手を差し伸べずにはいられなかったみたいだ。

「大丈夫だよ。俺もここでこの子を孤児院に預けて帰ったら、寝覚めが悪かったからな。
 俺達に小さな妹が出来たんだ。それを喜ぼうよ」
「ありがとうカイト」


 その後、ルキナちゃんに食べさせるスープを、宿の厨房を借りて作った。いきなり固形物を食べるのは難しいだろうから、野菜をトロトロに煮込んだスープにした。

 意識を取り戻したルキナちゃんは、父親が亡くなった事に泣き続けたけど、泣き止んだタイミングでスープを飲ませ、落ち着いたらまた泣いてを繰り返して、ルキナちゃんは泣き疲れて眠った。

「フフフッ、随分と懐かれたじゃないカイト」
「やっぱり食事は大事なんだよ。エルも少しくらい料理が出来るように練習すれば」

 ルキナちゃんは泣き疲れて寝ているけど、俺にしがみついて離れなかった。

「私だって、その気になれば料理だって出来るわよ」

 エルが膨れてそう言うが、きっとエルがキッチンに立つ事はないだろう。

「ルキナちゃんの服や下着を買わなきゃね」
「あゝ、服はボロボロだし靴も履いてないしな」

 過酷な環境に居たのが想像できた。

「今日はもう遅いから寝ましょう」
「あゝ、おやすみエル」
「おやすみカイト」


 その日は宿のベッドで、三人で川の字になって眠った。

 自分達の無力さを噛みしめながら。

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