異世界立志伝

小狐丸

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王都ソレイユ2

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 宿を確保して一泊だけなので、奮発して高級ホテルのスイートルームに泊まることにした。

「エル、良かったの?お母さんと弟なんだろう」

 豪華な部屋のリビングでくつろぎながら、俺とエルは紅茶をルキナはジュースを飲んでいた。

「気にしなくても良いのよ。私はもう家を出たのだし、私がバスターク家に近付くと、オーク伯爵が何を言ってくるか分からないもの」

 俺の膝の上で座っているルキナが、うつらうつらしだした。

「うん、ルキナ眠くなったか?じゃあ歯を磨いて寝ようか」
「うん」

 その時、アンナが戻って来た。

「遅くなりました」
「「おかえり」」
「それでお願いがあるのですが」

 帰って早々、アンナさんが切り出した。

「お母様のことね」

 俺はルキナを連れて洗面に向かう。

「今更あまり話すこともないのよね。バスターク領都のバンスにさえ行かない積もりなんだから」

「ヘルムートとハンスの馬鹿も最悪でしたしね」
「ルキナを怖がらせるなんて万死に値するわ」
「馬鹿はほっといて、明日の朝奥様に会って頂けませんか?」

 エルが深く息を吐く。

「分かったわ。どうせアンナは了承したんでしょう」

 アンナが頷く。

「まあ奥様に、婚姻をどうこうする事も出来ませんし、余り虐めては可哀想ですから」
「じゃあ私はもう寝るわね。アンナもお風呂に入って寝たら」

 エルはそう言ってカイトとルキナが寝ている部屋に入って行った。




 翌朝、朝食を済ませ、リビングでゆっくりとしていると、ホテルから来客を告げて来た。

 コン  コン

 アンナさんが対応に出て、昨日のエルの母親と弟、それに今日は、壮年の多分家宰らしき男性を連れて来た。

「どうぞ」

 ソファーに座るよう促す。
 ルキナは俺にギュとしがみついている。
 アンナさんがお茶を淹れていく。

 暫し沈黙が場を支配する。


「お母様、それでお話とは?」

 エルが話のきっかけを作る。

「エルレイン、帰って来ないの?あなたが嫌ならオース伯爵との婚姻も、お父様に断って貰います」

 プッ、オークに似たオースだって。

「今更、オークだかオースだか知らないけど、関係ないのですお母様。それに私はもうカイトの物だから」

 エルはバスターク領を飛び出した後、冒険者になって悪い冒険者に騙され、盗賊に売られそうになった時、俺に救われた事を話した。
 その後、俺の稼ぎで家を買い、一緒に暮らしている事を説明した。

「私はカイトのお陰で強くなれたの。今なら騎士団長と戦っても勝てる自信があるわ」

 いや、それはどうなんだ?

「それに私達もう王都を出るから、お母様もクリストフも元気でね」

 エルが対話を終わらせようとする。

「エルレイン、あなたはどこに行くの?」

 エルのお母さんが縋る様な目でエルを見ている。さすがにこれは可哀想かな。悪いのはオークじゃなくてオースとかいう貴族だし。

「エルのお母様ですね。私はカイトと申します。俺達はノトスの街に住んで居ますから、一度訪ねて来て下さい。そこでじっくりと話し合えばどうでしょう」

 俺はエルのお母さんが可哀想になり、助け船を出す。お母さんが悪い訳じゃないからな。

「奥様、それがよろしいかと。それとカイト様でしたかな、出来ればで構いませんが、この後何処へ行かれるのか教えて頂けませんか?奥様も心配なさっていますので」

 家宰らしき壮年の男性が、上手く話をまとめてくれた。今はその辺が落としどころだろう。

「ちょっと南で悪者退治に」

 俺が軽い感じで冗談まじりに言うと。

「カイトおにいちゃん、悪者退治するの~。じゃあルキナも悪者退治手伝う」

 白い兎耳をピョコピョコさせながら、ルキナがまるで遠足にでも行くかのように言う。

「……南とは、バンスへ?」

 エルのお母さんが顔色を青くして聞いて来た。

「いえ、バンスには寄りませんよ」
「僕を一緒に連れて行って下さい!」

 そこにエルの弟がとんでもない事を言いだした。

「へっ?」

 思わず変な声が出るくらい驚いた。

「それでは私もご一緒させて下さい」
「「えっ?」」

 続けてエルのお母さんから飛びでた言葉に、俺もエルも驚く以外の反応が出来なかった。

「いや、僕達の後を追うのは無理ですよ。馬車じゃ付いてこれないですから」

 再起動を果たした俺は直ぐにお断りをいれる。

「そうよ私達のゴーレム馬車は六人乗りだもの。お母様達を乗せても行けないし」

 エルも同行は無理だと告げる。

「あら、六人乗りなら私とクリストフは乗れるわね」
「いや、さすがに辺境伯家のご婦人とご子息が護衛もなしに無理でしょう」
「そちらの小さなお嬢様を、エルレインお嬢様の膝の上に乗せれば私も同行出来ますね」

 家宰の男まで、おかしなことを言いだした。

「フレデリック!貴方までどうしたのよ」
「エルレインお嬢様、レイラ奥様とクリストフ坊っちゃまの護衛は私が務めます。ではその旨、ヘルムートとハンスに伝えましょう。ホテルの前で待たせていますので」

 そう言うとフレデリックと呼ばれた男は部屋を出て行った。

「「………………」」
「……なあ」
「私に聞かないでよ」

 言いたい事だけ一方的に言って去っていった、フレデリックを見て、アンナといいフレデリックといい、バスターク家は大丈夫か?と思ってしまった。

「そうだわ!荷物を持って来なきゃ!」

 エルのお母さんが急に立ち上がり、部屋を出て行った。

「あっ、お母様!」

 その後をクリストフが追い掛けて行った。

「「…………」」
「……ごめんなさい」
「変な人達ですね」

 いやアンナさんも十分変だから。

「待たなきゃ駄目だよな~」
「本当にごめんなさい」




 結局、2時間後にエルのお母さん達は戻って来た。ホテルを出るとバスターク辺境伯軍の騎士達が20人ほどと馬車が一台停まっていた。
 その中には、カイトに失禁させられた二人もいた。

「彼等は我々の後を追う形になります」

 我々なんて言ってるよ、もう決定事項なの?
 俺は深く溜息を吐くと、ルキナを抱き上げ、エルの手を取り、南門へ向かって歩きだした。

「門まで馬車で行かれてはどうですか?」
「いえ、結構です」

 フレデリックさんの誘いを断り門を目指した。

「バスターク家の人って変わった人多いね」
「違うわよ、お母様とフレデリックにアンナは変わってるけど」
「お嬢様、私はもうバスターク家のものではありません」

 うん、変わった人が多いのが分かったよ。


 王都ソレイユの南門を出た所に、バスターク家の馬車と騎士20騎が並んでいた。
 エルのお母さん、クリストフ君、フレデリックの三人が近付いてくる。

「それで、どこにゴーレム馬車があるの?」

 エルのお母さんが、キョロキョロと周りを探している。

 はぁ~、もう一度深く溜息を吐くと、アイテムボックスから装甲軍事車両を取り出した。

 ドォーン!

「「「「「「「えっ!!」」」」」」」

 その場にいる俺達以外の人達が、俺が出した装甲軍事車両を見て絶句している。
 どこから取り出したのかという驚きと、取り出した物への驚きで、全員言葉をなくしている。

 ガチャ

 アンナさんがそんな空気を読む訳もなく、サッサと乗り込んで行った。

「……乗ろうか」

 俺も運転席に座る。
 ようやく再起動したエルのお母さんとクリストフが乗り込み、フレデリックさんも騎士達に何かの指示を出してから乗り込んだ。

「じゃあ、出発します」

 俺はアクセルを踏み込み発車させた。

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