異世界立志伝

小狐丸

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爆走する鉄塊

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 王都ソレイユを出発した俺達は、一路南の国境へと向かっていた。

「……ねえ、エル、これはなに?」

 エルのお母さんが、時速80キロで街道を走る車から窓の外を眺め、呆然として聞いた。

「ゴーレム馬車って言わなかった?」
「いや、姉上。僕の知ってるゴーレム馬車はこんなに速く走らないと思います」

 まあそりゃそうだよな。この世界の馬車にはサスペンションすらないんだから。ゴーレム馬車でもそれは同じだもんな。

「ねえエル、これはお幾らなの?」

 お母さんの興味は尽きないようだ。

「お母様、これは買えないと思うわよ。使っている魔石だけでも、Aランクの物を複数使っているし、それに素材だけで白金貨何百枚になるか分からないもの」
「……えっと、カイト様ってバスターク家よりもおお金持ちなの?」
「平民の私に様は要りませんよ」

 カイトにそう言われても、レイラは素直に受け取る事が出来なかった。エルレインやルキナと話すときは砕けた口調だが、レイラやクリストフへの対応は丁寧で、世間で聞く冒険者とはかけ離れていた。
 また、カイトを含めエルレインやルキナの着ている服が、デザインこそシンプルだが、その素材が尋常な物ではない事が分かった。

 そこで、ふと今更ながらルキナの事が気になった。

「ルキナちゃんって言ったかしら。この子はどういう関係なの?随分とあなたとカイトさんに懐いている様だけど」

 レイラはエルレインの膝の上に、チョコンと座る小さなルキナを見て聞く。

「……今更なの、もう随分時間が経つのに。ルキナは私達の妹だし子供でもあるわ」
「えっ!エルったら、いつ産んだの?」
「いや、母上、それは有りえませんから」

 レイラの天然なボケに、クリストフが間髪入れずにツッコミを入れる。
 
「私がいつ産むのよ」

 そこで簡単に、ルキナを引き取った経緯を説明した。
 それを聞いたレイラが、おかしな事を言いだした。

「エルの妹と言うことは、私の娘と言うことね」
「いきなりおかしな事言わないでよ。ルキナが混乱するでしょ!」
「ルキナちゃん、お母様と呼んで良いのよ」

 ルキナは怖がってエルにしがみつく。

「誰がお母様よ!ルキナが混乱するでしょ!」
「相変わらず残念な奥様ですね」

 アンナさんが、元雇用主への言葉とは思えない毒を吐く。
 俺からすれば、アンナさんも相当残念なんだけど。

 ドンッ!

 時折、魔物を轢きながら爆走する車。

「フレデリック、今オークを轢き殺したよ、このゴーレム馬車」
「その様で御座いますな。この速さ、オークを轢き殺してビクともしない破壊力と頑丈さ。是非ともバスターク家にも一台欲しいですな」

 暫く走り、俺は街道を少し外れた場所で、トイレ休憩を取った。
 アイテムボックスから、簡易トイレを取り出す。
 汚物と使用者の浄化システムを組み込んだ簡易トイレは、用を足すと自動で浄化して、トイレットペーパー要らずの優れものだ。

「……王宮にもこんなトイレは有りませんわ」

 トイレを使用したレイラが、驚愕の表情で出て来た。
 俺達はテーブルを出して、その場で昼食を取る。
 時間がないので、作ってあったサンドイッチでお昼ご飯にした。

「「……美味しい!」」

 レイラとクリストフが夢中になって食べている。

「まるで旅に出ている事を忘れそうですな」

 フレデリックさんが優雅にお茶を飲みながら呟く。

 休憩を終えると片付けをして、再び車に乗り込み先を急ぐ。

 途中、車内ではレイラさんが、何とかルキナに懐いて貰おうと必死にあれこれ構っていた。


 やがて王都程ではないが、立派な城壁に囲まれた大きな街が観えて来た。バスターク辺境伯領の領都バンスだろう。
 確かに、あの城塞都市なら籠城すれば、二倍の兵力だとしても守りきれるだろう。
 そこで俺は街道を外れ、バンスの街を通り過ぎる進路をとる。

「えっ!バンスへ行かないのですか!?」

 クリストフ君が驚きの声をあげる。

「いや、バンスに行くとは一度も言ってないですよ」
「カイト様、そろそろ目的地と何を成されようとしているか、お聞かせ下さいませんか?」

 フレデリックさんが真剣な表情で聞いて来た。
 レイラさんとクリストフ君も運転中の俺を見ている。

「ギルドで帝国が攻めて来た事は聞きました。バスターク辺境伯様は、バンスでの籠城を選択されたと噂を聞きつけました。それは俺も正しい選択だと思います。
 だけどバンスで籠城すると言う事は、そこに至るまでの村や町が蹂躙されるのは確実なワケです。
 エルも家を出たものの、バスターク辺境伯領に愛着がない訳じゃない。むしろ村や町が蹂躙されるのを我慢出来ない位には故郷への想いがあるなら、エルが哀しむ元を断てば良いと思ったんです」

 フレデリックさんを始め、レイラさんとクリストフ君もぽかんとしている。

「……えっと、それはつまりどう言う事ですの?」

 レイラさんも理解が追い付かないようだ。

「国境付近で撃退しようと思ってます」
「「「!?」」」
「なっ!それならバスターク辺境伯軍と協力して撃退すれば良いんじゃないですか!それ以前に無茶苦茶です!死にに行く様なものです!」

 クリストフ君が叫ぶ。
 それはそうだ。同行したは良いが、行き先が戦場なんて思ってもみなかっただろう。

「ルキナちゃんをそんな危険な場所へ連れて行くのですか!」

 レイラさんが批難する。まぁそう思うよな。

「あなたそれでも「ルキナはカイトおにいちゃんとエルおねえちゃんと一緒に行くの!ずっと一緒なの!」」

 続けて何か言いかけたレイラさんは、ルキナがそう叫んでエルにしがみついたのを見て、何も言えなくなる。

「心配しなくても俺はエルとルキナを護りますから」


 やがて俺が運転する装甲軍事車両は、遠くにゴンドワナ帝国の一万の軍が見える位置に着いた。

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