異世界立志伝

小狐丸

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サーメイヤ王国

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 カイトやエルが、ノトスで賑やかにも穏やかな日々を過ごしていた時、サーメイヤ王国の王城の一室で、4人の男が密談を交わしていた。


「俄かに信じられんが、バスターク卿がくだらん嘘の報告をする訳がないか……」

 そう金髪に髭をたくわえた40前後の引き締まった体躯の男が呟く。
 威厳に満ちた雰囲気を醸し出すこの男は、バージェス・サーメイヤ。この国の王だった。

「陛下、諜報部からの報告とも符合しています。バスターク卿の報告に間違いはないかと」

 そう言ったのは、サーメイヤ王国宰相  メルコム。王の右腕として、常にこの国と王を支え続けている。

「しかし、昔話しに出て来る英雄のようですな」

 王の側に控え、常に王の身を守る白銀の騎士鎧を身に纏った男。年齢は王と同じ40前後か、鍛え抜かれた肉体がと、そこから醸し出す気配は武人のものであった。
 サーメイヤ王国騎士団団長、ランクス・リッター・フレイバードも現実感を持てずに、その報告を聞いていた。

 それはそうだろう。矢や魔法を魔法障壁で防ぎきり、長柄武器を振り回し、同時に魔法を使ったと言う。魔法も武器にも長けた、お伽話の英雄を思い浮かべるのも無理はなかった。

「それでゴドウィンよ、その少年を王都に招喚出来ぬのか?」

 バージェス王に聞かれたゴドウィンが苦い顔をする。

「陛下、かの少年は、我が娘が哀しむと言う理由だけで帝国の軍勢を蹴散らし、敵軍が撤退すると我が領都バンスにも寄らずに帰った様な男です。褒美では釣られぬと思います」
「何とも、厄介な男の様だな」

 バージェスは、この手の人間には権力が武器にならない事を知っている。かと言って、金にも不自由していない様だ。

「女はどうだ。ゴドウィンの娘と暮らしていると聞くが、どうしてそうなった?」

 そこで、ゴドウィンは家の恥だとは思いつつ、王に聞かれれば話さない訳にもいかず、エルレインが家を飛び出した経緯を説明した。

「クックックッ、王国の盾と呼ばれるバスターク卿も娘には弱いか」
「オース伯爵は余り評判が良くない様ですな。ゴドウィン殿も少し調べれば分かった筈ですが」
「バスターク辺境伯の長女を、伯爵の何番目か分からない側室などと、バスターク卿もはっきりと跳ね除けるべきでしたな」

 ゴドウィンがその場の3人から責められる。

「オース伯爵の先代に、若い頃お世話になったもので、あまり強く断れなかったのです」

 ゴドウィンも自身の失態を自覚しているので、甘んじて諫言を受ける。

「まぁ、そのお陰で我が国の危機は去ったのだから、オース伯爵もある意味良い仕事したという事だろう」
「そうですな、それで陛下、如何されますか?」

 宰相のメルコムがバージェス王に、今後の対応を聞く。

「……やはり指名依頼を出すか……」

 バージェス王の言葉に、3人が反応する。

「毒蛇王の森ですな」
「あの森を開拓出来れば、我が国も海を得る事が出来ますな」
「そうですな、塩という戦略物資を輸入に頼る現状を、変える切っ掛けになれば良いのですが」

 毒蛇王の森は、サーメイヤ王国南東に位置する魔物の領域だ。
 サーメイヤ王国南東の地は、バスターク辺境伯領に匹敵する広大な未開地が広がり、広い海岸線や良港になりそうな場所も多い。
 この地は、ゴンドワナ帝国とガウン王国と隣接するが、他国からの侵略にさらされる事はなかった。
 他国に隣接しながら侵略されず、海に面していながら、サーメイヤ王国が開発が出来なかった理由が、毒蛇王の森と呼ばれる森林地帯にある。
 実際、ゴンドワナ帝国は、過去にこの地を侵略するべく軍勢を侵攻させた事があった。結果は、二千人の侵攻した帝国軍の一割も戻って来なかった。
 それ以来、帝国はこの地を狙う事はなくなった。

 冒険者ギルドの推奨ランクが、Sランクという深淵の森に次いで、推奨ランクAランクという高難度の地が毒蛇王の森だ。
 この大陸に、現在Sランクの冒険者は、3人しかいない。Aランク冒険者も30人に届かない。
 各国の騎士団の精鋭が、冒険者ランクで測るならば、Cランク相当で、Aランクに届く者はほぼ居ない。
 推奨ランクAとは、ランクAの6人パーティーで探索する事が可能だという事だ。

 この広い大陸には、人の力の及ばない地は他にも何ヶ所かあるが、サーメイヤ王国にとって、この森を開拓して海を得る事が、長年の夢になっている。

「それでは、毒蛇王の森の探索依頼を、かの少年に指名依頼するという事でよろしいですな」

 宰相のメルコムが確認するように聞く。
 それにバージェス王が頷く。

「では、早速王国からの指名依頼として、冒険者ギルドに依頼を出します」

 メルコムが一礼して退出して行った。

「ゴドウィンよ、何とかその少年を手の内に入れるように。間違っても敵対するなよ」
「御意、探索が成功した後、何とかして王都に呼び寄せる策を練ってみます」

 ゴドウィンも一礼して退出するが、策も何も、妻と息子が少年の家に居候状態なのだから、王都に呼ぶくらいは出来るだろうと考えていた。

「しかし、レイラとクリストフは何時になったら帰って来るのだ。フレデリックも、家宰が何時までも家を空けて、儂の仕事が増えていかん」

 レイラからは、最初こそ手紙が届いていたが、最近はほとんど連絡が来ない事に、我が妻ながら自由過ぎるレイラに頭を痛めていた。

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