37 / 163
サーメイヤ王国
しおりを挟む
カイトやエルが、ノトスで賑やかにも穏やかな日々を過ごしていた時、サーメイヤ王国の王城の一室で、4人の男が密談を交わしていた。
「俄かに信じられんが、バスターク卿がくだらん嘘の報告をする訳がないか……」
そう金髪に髭をたくわえた40前後の引き締まった体躯の男が呟く。
威厳に満ちた雰囲気を醸し出すこの男は、バージェス・サーメイヤ。この国の王だった。
「陛下、諜報部からの報告とも符合しています。バスターク卿の報告に間違いはないかと」
そう言ったのは、サーメイヤ王国宰相 メルコム。王の右腕として、常にこの国と王を支え続けている。
「しかし、昔話しに出て来る英雄のようですな」
王の側に控え、常に王の身を守る白銀の騎士鎧を身に纏った男。年齢は王と同じ40前後か、鍛え抜かれた肉体がと、そこから醸し出す気配は武人のものであった。
サーメイヤ王国騎士団団長、ランクス・リッター・フレイバードも現実感を持てずに、その報告を聞いていた。
それはそうだろう。矢や魔法を魔法障壁で防ぎきり、長柄武器を振り回し、同時に魔法を使ったと言う。魔法も武器にも長けた、お伽話の英雄を思い浮かべるのも無理はなかった。
「それでゴドウィンよ、その少年を王都に招喚出来ぬのか?」
バージェス王に聞かれたゴドウィンが苦い顔をする。
「陛下、かの少年は、我が娘が哀しむと言う理由だけで帝国の軍勢を蹴散らし、敵軍が撤退すると我が領都バンスにも寄らずに帰った様な男です。褒美では釣られぬと思います」
「何とも、厄介な男の様だな」
バージェスは、この手の人間には権力が武器にならない事を知っている。かと言って、金にも不自由していない様だ。
「女はどうだ。ゴドウィンの娘と暮らしていると聞くが、どうしてそうなった?」
そこで、ゴドウィンは家の恥だとは思いつつ、王に聞かれれば話さない訳にもいかず、エルレインが家を飛び出した経緯を説明した。
「クックックッ、王国の盾と呼ばれるバスターク卿も娘には弱いか」
「オース伯爵は余り評判が良くない様ですな。ゴドウィン殿も少し調べれば分かった筈ですが」
「バスターク辺境伯の長女を、伯爵の何番目か分からない側室などと、バスターク卿もはっきりと跳ね除けるべきでしたな」
ゴドウィンがその場の3人から責められる。
「オース伯爵の先代に、若い頃お世話になったもので、あまり強く断れなかったのです」
ゴドウィンも自身の失態を自覚しているので、甘んじて諫言を受ける。
「まぁ、そのお陰で我が国の危機は去ったのだから、オース伯爵もある意味良い仕事したという事だろう」
「そうですな、それで陛下、如何されますか?」
宰相のメルコムがバージェス王に、今後の対応を聞く。
「……やはり指名依頼を出すか……」
バージェス王の言葉に、3人が反応する。
「毒蛇王の森ですな」
「あの森を開拓出来れば、我が国も海を得る事が出来ますな」
「そうですな、塩という戦略物資を輸入に頼る現状を、変える切っ掛けになれば良いのですが」
毒蛇王の森は、サーメイヤ王国南東に位置する魔物の領域だ。
サーメイヤ王国南東の地は、バスターク辺境伯領に匹敵する広大な未開地が広がり、広い海岸線や良港になりそうな場所も多い。
この地は、ゴンドワナ帝国とガウン王国と隣接するが、他国からの侵略にさらされる事はなかった。
他国に隣接しながら侵略されず、海に面していながら、サーメイヤ王国が開発が出来なかった理由が、毒蛇王の森と呼ばれる森林地帯にある。
実際、ゴンドワナ帝国は、過去にこの地を侵略するべく軍勢を侵攻させた事があった。結果は、二千人の侵攻した帝国軍の一割も戻って来なかった。
それ以来、帝国はこの地を狙う事はなくなった。
冒険者ギルドの推奨ランクが、Sランクという深淵の森に次いで、推奨ランクAランクという高難度の地が毒蛇王の森だ。
この大陸に、現在Sランクの冒険者は、3人しかいない。Aランク冒険者も30人に届かない。
各国の騎士団の精鋭が、冒険者ランクで測るならば、Cランク相当で、Aランクに届く者はほぼ居ない。
推奨ランクAとは、ランクAの6人パーティーで探索する事が可能だという事だ。
この広い大陸には、人の力の及ばない地は他にも何ヶ所かあるが、サーメイヤ王国にとって、この森を開拓して海を得る事が、長年の夢になっている。
「それでは、毒蛇王の森の探索依頼を、かの少年に指名依頼するという事でよろしいですな」
宰相のメルコムが確認するように聞く。
それにバージェス王が頷く。
「では、早速王国からの指名依頼として、冒険者ギルドに依頼を出します」
メルコムが一礼して退出して行った。
「ゴドウィンよ、何とかその少年を手の内に入れるように。間違っても敵対するなよ」
「御意、探索が成功した後、何とかして王都に呼び寄せる策を練ってみます」
ゴドウィンも一礼して退出するが、策も何も、妻と息子が少年の家に居候状態なのだから、王都に呼ぶくらいは出来るだろうと考えていた。
「しかし、レイラとクリストフは何時になったら帰って来るのだ。フレデリックも、家宰が何時までも家を空けて、儂の仕事が増えていかん」
レイラからは、最初こそ手紙が届いていたが、最近はほとんど連絡が来ない事に、我が妻ながら自由過ぎるレイラに頭を痛めていた。
「俄かに信じられんが、バスターク卿がくだらん嘘の報告をする訳がないか……」
そう金髪に髭をたくわえた40前後の引き締まった体躯の男が呟く。
威厳に満ちた雰囲気を醸し出すこの男は、バージェス・サーメイヤ。この国の王だった。
「陛下、諜報部からの報告とも符合しています。バスターク卿の報告に間違いはないかと」
そう言ったのは、サーメイヤ王国宰相 メルコム。王の右腕として、常にこの国と王を支え続けている。
「しかし、昔話しに出て来る英雄のようですな」
王の側に控え、常に王の身を守る白銀の騎士鎧を身に纏った男。年齢は王と同じ40前後か、鍛え抜かれた肉体がと、そこから醸し出す気配は武人のものであった。
サーメイヤ王国騎士団団長、ランクス・リッター・フレイバードも現実感を持てずに、その報告を聞いていた。
それはそうだろう。矢や魔法を魔法障壁で防ぎきり、長柄武器を振り回し、同時に魔法を使ったと言う。魔法も武器にも長けた、お伽話の英雄を思い浮かべるのも無理はなかった。
「それでゴドウィンよ、その少年を王都に招喚出来ぬのか?」
バージェス王に聞かれたゴドウィンが苦い顔をする。
「陛下、かの少年は、我が娘が哀しむと言う理由だけで帝国の軍勢を蹴散らし、敵軍が撤退すると我が領都バンスにも寄らずに帰った様な男です。褒美では釣られぬと思います」
「何とも、厄介な男の様だな」
バージェスは、この手の人間には権力が武器にならない事を知っている。かと言って、金にも不自由していない様だ。
「女はどうだ。ゴドウィンの娘と暮らしていると聞くが、どうしてそうなった?」
そこで、ゴドウィンは家の恥だとは思いつつ、王に聞かれれば話さない訳にもいかず、エルレインが家を飛び出した経緯を説明した。
「クックックッ、王国の盾と呼ばれるバスターク卿も娘には弱いか」
「オース伯爵は余り評判が良くない様ですな。ゴドウィン殿も少し調べれば分かった筈ですが」
「バスターク辺境伯の長女を、伯爵の何番目か分からない側室などと、バスターク卿もはっきりと跳ね除けるべきでしたな」
ゴドウィンがその場の3人から責められる。
「オース伯爵の先代に、若い頃お世話になったもので、あまり強く断れなかったのです」
ゴドウィンも自身の失態を自覚しているので、甘んじて諫言を受ける。
「まぁ、そのお陰で我が国の危機は去ったのだから、オース伯爵もある意味良い仕事したという事だろう」
「そうですな、それで陛下、如何されますか?」
宰相のメルコムがバージェス王に、今後の対応を聞く。
「……やはり指名依頼を出すか……」
バージェス王の言葉に、3人が反応する。
「毒蛇王の森ですな」
「あの森を開拓出来れば、我が国も海を得る事が出来ますな」
「そうですな、塩という戦略物資を輸入に頼る現状を、変える切っ掛けになれば良いのですが」
毒蛇王の森は、サーメイヤ王国南東に位置する魔物の領域だ。
サーメイヤ王国南東の地は、バスターク辺境伯領に匹敵する広大な未開地が広がり、広い海岸線や良港になりそうな場所も多い。
この地は、ゴンドワナ帝国とガウン王国と隣接するが、他国からの侵略にさらされる事はなかった。
他国に隣接しながら侵略されず、海に面していながら、サーメイヤ王国が開発が出来なかった理由が、毒蛇王の森と呼ばれる森林地帯にある。
実際、ゴンドワナ帝国は、過去にこの地を侵略するべく軍勢を侵攻させた事があった。結果は、二千人の侵攻した帝国軍の一割も戻って来なかった。
それ以来、帝国はこの地を狙う事はなくなった。
冒険者ギルドの推奨ランクが、Sランクという深淵の森に次いで、推奨ランクAランクという高難度の地が毒蛇王の森だ。
この大陸に、現在Sランクの冒険者は、3人しかいない。Aランク冒険者も30人に届かない。
各国の騎士団の精鋭が、冒険者ランクで測るならば、Cランク相当で、Aランクに届く者はほぼ居ない。
推奨ランクAとは、ランクAの6人パーティーで探索する事が可能だという事だ。
この広い大陸には、人の力の及ばない地は他にも何ヶ所かあるが、サーメイヤ王国にとって、この森を開拓して海を得る事が、長年の夢になっている。
「それでは、毒蛇王の森の探索依頼を、かの少年に指名依頼するという事でよろしいですな」
宰相のメルコムが確認するように聞く。
それにバージェス王が頷く。
「では、早速王国からの指名依頼として、冒険者ギルドに依頼を出します」
メルコムが一礼して退出して行った。
「ゴドウィンよ、何とかその少年を手の内に入れるように。間違っても敵対するなよ」
「御意、探索が成功した後、何とかして王都に呼び寄せる策を練ってみます」
ゴドウィンも一礼して退出するが、策も何も、妻と息子が少年の家に居候状態なのだから、王都に呼ぶくらいは出来るだろうと考えていた。
「しかし、レイラとクリストフは何時になったら帰って来るのだ。フレデリックも、家宰が何時までも家を空けて、儂の仕事が増えていかん」
レイラからは、最初こそ手紙が届いていたが、最近はほとんど連絡が来ない事に、我が妻ながら自由過ぎるレイラに頭を痛めていた。
84
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです
竹桜
ファンタジー
無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。
だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。
その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる